栄光は虚構と成り果て 第5章

 

「そういえば資源武器ってなんなの?」
 ルチャルトラの反応的にあんまり触れないほうがいい気がして一度は聞かないことにしたコトハだったが、移動中のあまりの退屈に耐えかねたので尋ねてみることにした。
「あぁ、資源武器ってのはこの星がこんな砂漠ばっかりになる前に使われてたっていう伝説上の武器だよ」
 地味に大事なことを聞いた気がする。この世界も昔はこんな一面砂漠ではなかったのか。とコトハは考える。
 もしかしてあの超獣が原因だったりするのかな、私がこのままあれを倒していけばいつかは砂漠が緑化したりして。
「あぁ、つまり、貴重な資源を使う武器ってこと? ジオの武器も弾に木を使うもんね」
 正直、事情はコトハにも想像していたとおりだった。この世界の武器は魔術を補助的に使ったものばかりだ。それは資源を消耗品として使う余裕がないからだろう。
 ――そんな中で資源を弾丸として消費する武器を使うなんて、確かに非難されても仕方ない。そうでなくても世の中理不尽なのに。
「そゆこと。本当は連射できる銃か無反動砲が良かったんだけどなぁ」
 そしてジオはなかなか命知らずなようだ。
 理不尽に拘束されて体を弄くり回されても文句は言えないと思うコトハ。
 ――銃はまぁファンタジー作品にも時折あるとしても無反動砲? そんなものある?
「ちなみに資源武器は神秘プライオリティ……古いものほど威力が上がるという法則の恩恵で普通の武器より強いんじゃ。この前の街で大砲……燃える粉で鉄の塊を撃ち出す武器のことじゃが、それが使われてるのもそれが理由じゃ」
 ズンが捕捉する。そう言えば、あの超獣を倒した街の武器は実弾を発射する大砲だったな、と思い出すコトハ。
 そして、魔術と関係ない話なのに神秘プライオリティとは不思議な語幹だ、とも思った。
「ズンさんのそういう知識ってどこで得てくるの?」
「そりゃあ遺跡だろ」
「うむ。遺跡に残された知識か、あるいはそれを見た他の旅人からの伝え聞きか」
「遺跡……? 砂漠化する前のって事?」
 確かジオも遺跡で弓を手に入れたと言っていた、と思い出すコトハ。
「それも知らなかったか、そりゃそうだよな。時々、砂漠の中にぽこっとあるんだよ、変な構造物が。どういう理由かは確かズン達にも分からないって話だったと思うが」
「うむ。この星のほとんどを覆う砂漠……リソースレスデザートとかつての人間は呼んでいたようだが、それに対抗するためになんらかの措置を施したものであるらしい、というくらいだな」
 ――リソースレスデザート資源無しの砂漠とはそのままだな。けど、なんでわざわざ特別な名前をつけたんだろう。砂漠は砂漠だろうに。
「ちなみに僕のこれもそこで見つけたんだ」
 考えを遮るようにジオが弓を掲げて宣言する。
「ワシはそんなことよりその弓の素材が気になる。黒塗りの木材と言うわけではないようだが、金属でもない……」
 恐らく所謂カーボンと呼ばれるものだろう。私の世界でも釣竿とかに使われていたはずだ。と、コトハは考え、
 父は釣りをしている時だけは大人しくて……、というところで元の世界へ思いを馳せるのをやめた。大体、その後に私がどうなるかは釣果次第だったし、と。
「私も遺跡を見てみたいな」
 思考を切り替えるコトハ。
「確かに。コトハの謎の力の正体も遺跡に行けば分かるかもな。次に行くのはターミナル町だし、遺跡の情報も手に入るだろう」
 大地に眠る太古の遺跡から情報を得たりパワーアップしたりというのは定番だ。コトハは想像する。この世界が砂漠に覆われるまでの物語を。

 

 恐らくこの世界はかつては元の世界と変わらないくらい発達した世界だった。
 しかし、突然、その一部が砂漠化する。理由は分からない。あるいはそれは超獣の登場と同時だったかもしれない。いや、砂漠化と超獣に関係があるとしたら、その可能性も高いだろう。
 世界を蹂躙する超獣に人類も兵器で対抗する。
 しかし、人類は消耗線を強いられ、どんどん砂漠化は進んでいく。
 やがて人類は知る。この戦いに勝ち目がないと言う事を。
 そう、多分、人類は知ったのだ、超獣を倒すのでは意味がない、消さなければならない、と。
 だから人類は私を異世界から呼ぶ技術を研究し、たとえ自分達が死に絶えてもその儀式場が残り、そして準備を続け、実行されるように仕組んでいた。多分、人工知能AIのようなものだろう。
 そして、ついにそれが実り、私は超獣を消す力を持ってこの世界に召喚された。
 私が力の使い方を十分に知らないのは召喚者不在で召喚が行われたから。
 私を召喚した遺跡にたどり着けば、何か情報がある。あるいは、遺跡自体が私のパワーアップのために残っている、と言うのは考えすぎだろうか。

 

 やがて、ターミナル町が見えてきた。
「え、ちっさ」
 その町はコトハの想像より遥かに小さかった。
「ターミナル町はこんなもんじゃよ」
「え、だって、色んな町との中継点になって情報も集まる町なんでしょ? 普通に考えたら大きいのが自然なんじゃ……」
「うむ。普通はそうなる。じゃが超獣は大きな町を積極的に襲うのじゃ。じゃから、ターミナル町は意図的に小さい規模になるように設計されておる」
「あ、じゃあもしかして前に超獣の行動を予測出来るって言ってたのは?」
「うむ。最近超獣に襲われた場所に一番近い規模の大きな町はほぼ確実に襲われる。厳密には単純に規模だけを見れば良いだけではないが、その辺はワシの専門ゆえ任せてくれ」
「そういえば、あの街も、入れる資源を制限してたよね? 入場する時に最初は入れなかった」
「うむ。あれも街が襲われないようにするための工夫よ。ワシ考案じゃ」
「そうだったのか。てっきりズンは興味本位に役に立たない研究ばっかり続けてるもんだと」
「なんじゃと、ルチャルトラ、それは酷すぎるぞ。大砲の配置調整や照準器がコリオリりょくに対応出来るように設計したのもワシなんじゃぞ」

 

「地図は売れない?」
 ターミナル町に入り、地図と情報を手に入れようとした矢先、いきなり壁にぶち当たった。
「おいおい、そりゃどう言う事だよ。いや、紙が貴重なのは分かるぜ。だから多少ふっかけられるのは仕方ねぇと思ってる。けど、売れないってのはねーんじゃねぇか? 人間助け合いだろう?」
 ルチャルトラが抗議する。
「違うんですよ、えー、ルチャルトラさん。もちろん、情報も差し上げたいし、最新の地図も対価さえ頂けるなら差し上げたい。ただ、近くの町でお告げがあったらしいんですよ。ターミナル町を訪れる旅人の一人がこの星を根源的に終わらせる災厄をもたらす。何も施すな、と」
「お告げか……、そりゃまいったな」
 この世界の人たちはお告げを信奉している。たとえその内容が一聴しても受け入れがたい内容でも従うのだろう。
 それにしても、この星を根源的に終わらせる災厄をもたらす、だなんて。もしや、ラスボスなのではないだろうか。この町にいる間にラスボスとすれ違い、それが伏線になるのかもしれない。コトハはそう考えて周囲を見渡そうとする。
「失礼、今の話は本当か? 私も地図を所望する予定だったのだが……」
 燃えるような赤い瞳の少年がそこにいた。
「なんだあんた、旅人にしては随分小綺麗な格好だな」
 何故だろう。コトハにはその少年の姿に大きな違和感があった。この世界の人間よりも、どこか自分の世界の人間に近いような……。
 まさか彼も自分と同じで異世界からやってきた人間で、そして彼こそがラスボス? そんな考えが頭をよぎる。
「確かにのう。お主、名前は?」
「……スーマ、だ」
「スーマか。どの町の出身で直近だとどの町から来た?」
「………………プライベートな質問なので回答は差し控えさせてもらおうか」
 怪しすぎる。それがその場での共通した見解となった。
「なぁなぁ、にいちゃん、あのスーマってやつの方が明らかに怪しくないか? なぁ、なんなら手伝いでもするからよ。……っと、そうだ、見たところ肉が不足してるんじゃないか? いい感じの、狩ってこようか?」
 ルチャルトラがまくし立てると、店主はついに交渉に負けた。
「わかったよ。確かに君達が根源的な破滅をもたらすとは思えない。ただし、肉を持ってきたら、だ。狩場の情報だけは共有しておこう、地図を出して」
 ルチャルトラが古い地図を取り出す。店主がペンで狩場の場所を記入する。
「あんな適当でいいの?」
 店主が距離まで厳密に考えて記入しているように見えなかったのでズンさんに尋ねてみる。
「まぁメルカトル図法じゃし、方位さえあっておれば良かろう」
 メルカトル図法ってなんだっけ、と首をかしげるコトハ。一応、それらしい言葉を学校で習ったような記憶はある。
「よし、じゃあ行くぞ。いいところに来てくれてありがとよ、スーマさん」
 一行は店の前を離れる。
「え……。マジか……」
 店の前には困り果てたスーマが残された。

 

「少しスーマの奴には悪いが、あの町に留まるだけでも食料や水を消費するしな」
「うん、それにこんなところで足踏みしていられない」
 ジオはやる気に満ち溢れている。
「まぁ妙な奴なのは確かだな。バックパックの一つどころか武器すらなしにどうやって砂漠を渡ってきたんだ」
 確かに、言われて見ればそうだ、とコトハは気付く。
 服にポケットはあったが、それだけ、他は手ぶらで鞄の類も持っていなければ、武器を下げているということもなかった。
 コトハ一行はルチャルトラとジオがなんとかしてくれるから旅ができているが、至るところに肉食動物ハンターが潜む砂漠は、武器なしに歩き回る事が出来るような場所ではない。
「密集地隊を避けて進めば、運良く小物と出会わなければ可能性があるかもしれんが……」
 これまでの旅路でハンターに襲われなかったことなんてなかったし、ほぼないだろうな。とコトハ。ただ、コトハの妄想はそこから更に発展した。
 魔術だけで相手を倒すというのは無理なのだろうか。体外に放出した魔力を指の先に集中させ弾丸として発射する、とか。火の玉を発射する、とか。
 ジオは超獣と戦う時以外は弓ではなくサンドガンで戦うし、ズンさんは頭脳担当だが、いざと言う時に使える武器を持っている。
 一方で私の力は相手を消すことしか出来ない。今回のような食料目当ての狩りには活躍出来ない。もし、魔術だけで攻撃が出来れば、私の新しい力になるかもしれない。

 

 狩場についた一行を待っていたのは、
「狩場は狩場でも、こっちが狩られるのかな?」
 ジオの率直な意見により全てが表された。
 そこにいたのは砂に潜り、巨大な口で砂上の標的を狙うサンドヒポポとか呼ばれてるらしいハンター、その超巨大な個体だった。コトハの世界の感覚で言うなら、巨大なカバだ。ちなみにコトハはヒポポがカバを意味する英語だと知らなかったらしく「ふざけた名前」と認識している。
「ルチャルトラが面倒な絡みをするもんだから、逆に危険個体注意エリアに案内されたのかもしれんの」
「なるほど」
「逃げるぞ!」
 急いで駆け出す。
 カバが背中を砂上に突き出す。フジツボのようなイボイボがたくさん生えている。次の瞬間、そのイボイボから何かが空中に撃ち出される。
 撃ち出されたそれは一行の進行方向の砂上に着弾し、砂を大きく撒き散らす。
「痛っ」
 撒き散らされた砂は一行に向けて襲いかかる。
 コトハの砂が目に入る。痛い。目を開けていられない。
「散れ!」
 ルチャルトラが指示を飛ばす。コトハは、前後不覚の状態のまま、左の方向へよたよたと走る。
 ――見えないから、走れない。なにが迫ってるの
 誰かが叫んでいる。でもどっちに逃げればいい? わからない。死んでしまう。それは嫌だ
 ——lai zomp
 何か頭に言葉が浮かんでくる。
lai zomp可視化
 唱えると、真っ黒な視界に白い輪郭が映し出される。目の前に迫るこれは……。大きく口を開けたカバだ!
「あぶねぇ!」
 誰かがコトハを持ち上げて走る。声と触感から恐らくルチャルトラだろう。
「これは逃げられない、やるよ! 弓を使う」
 ジオが宣言し、弓の変形する音が聞こえる。コトハが声の方を見ると、白い輪郭の弓を構える人の輪郭が見えた。
「やるしかねぇか!」
 コトハを下ろした人の輪郭が筒の輪郭を口元に寄せる。人の輪郭から白い粒子が飛び出し、筒の中へと入っていき、そして白い針が飛び出した。
「仕方ないのう。ワシもやるぞ」
 ズンの声がしてそちらに視界を向ける。折れた長い棒のようなものを取り出した、なんだ、あれ。
 目を開ける。いつのまにか目を覆っていた右手をどける。
 ズンの持つそれは時折ドラマとかで見るような中折れ式の銃口の二つ付いたショットガンだった。
 しゃがんで砂を手で握り、そして手を開ける。そこには砂で固められた砂色の銃の弾そのものが握られていた。
 ショットガンに装填し、敵に向けると弾丸が飛び出す。
「すげぇだろ。ズンは固める魔術が得意でな、あんな風に資源武器用の弾丸を砂から作って普通の武器みたいに使えるんだ」
 ルチャルトラが説明する。
 資源武器最大のメリットである神秘プライオリティこそないが、ライフリングにより加速されての一撃はサンドガンを大きく上回る火力がある。
 巨太カバは大きく口を開けて前進する動きと、イボから砂塊を飛ばし動きを封じる動きを繰り返すらしい。
 動きの素早いジオが砂塊をサンドガンで撃ち落としながら、囮を務め、その間にズンとルチャルトラが攻撃する。
「だめだ! 皮が硬すぎる!」
「むぅ、仕方ないのう。ジオ、こっちへ引き連れてくれ」
 ズンが赤い円柱状のものを取り出し、ショットガンに装填する。ショットガンの弾、所謂ショットセルというやつだろう。本物の資源武器と言うわけだ。
「分かった! こっちだよ!」
 ズンの精密な弾丸生成の魔術もすごいが、ジオの地面に手を当てるだけで即弾丸にする技術もたいしたものだ。
「よし、私も!」
 魔力の動きの制御はバッチリ、右手を銃の形にして人差し指の先端に魔力を集中。
 したところで気付いた。
 まず第一に魔力は人間の体をすり抜ける、塊になっても同じだ。つまりこれをぶつけても攻撃にはならない。
 第二にサンドガンやズンさんのショットガンを使った砂弾射撃もそうだが、筒の中で風の魔術を解放することで攻撃している。つまり魔力塊はそれだけでは相手には飛んでいかない。
 つまり、指の先端に溜めた魔力だけで攻撃するのは不可能だ。
 やっぱり普通の戦闘では役に立てないのか。
 そうこうしてる間に、巨大カバはズンさんのすぐそばに到達し、ズンがその必殺の一撃を放つ。
 至近距離からの拡散する弾丸の一撃。巨大カバの全身を撃ちつける、おおよそどんな生物も生きていられないような一撃に思えたが。
 巨大カバはそのまま後退し、再び砂塊を放った。
「仕留め切れてない!」
 ジオがルチャルトラとそれを迎撃しつつ、叫ぶ。
「ならもう1発やるしかないのう」
 ズンがショットガンを折ると使い終わった薬莢が飛び出してくる。ズンはそれを素早く回収し、次の弾を詰める。
 ジオはもう一度巨大カバを引きつけるべく弓を番える。
「目を狙え!」
 ジオの放った矢が巨大カバに迫る。
 それに対し、巨大カバは……砂の中に潜った!
「全員、周囲を警戒しろ。足元の砂が少しでも動いた気がしたら回避だ」
 ルチャルトラが号令し、足元を注意する。


「うぉっと、」
 ジオが大きく飛び下がり、その直後にそこに巨大カバの大きな口が現れる。カバというよりワニだ。ワニだったらモササウルスみたいなビジュアルになってたかも。とコトハは思った。
 そしてまた潜る。
「これじゃ戦えない!」
「せめてもっと早く相手の位置がわかれば」
 ――相手の位置が早くわかれば……? 
「行けるかも!」
 目を瞑り、そして唱える。
lai zomp可視化
 ――何も起きない。あれ、なんで?
 もっと暗くないといけないのかも、と考え、両手で左右の目を塞ぐ。
lai zomp可視化
 今度は見えた。どういうわけか、視界の右半分にだけだが。
 そしてお目当ては、いた。地面の下に、白い輪郭がしっかりと見えている。
「ルチャルトラ、そっちに向かってる!」
「なに?」
 ルチャルトラが下をキョロキョロと見下ろす。
「真下に来た!」
 ルチャルトラがその場を離れる。
 それから一拍おいて、巨大カバが地上に現れる。
「やれる! コトハの案内があれば、攻撃できるぞ!」
「移動してる、次はジオの方!」
「よし、やってやるか」
 ズンとジオが資源武器を構える。
「ジオの真下に来た!」
 ジオが自分の居場所にバツをつけて、大きく後ろに下がり、弓を番える。
 ズンは逆にゆっくりとショットガンを構えたまま前進する。
 巨大カバが飛び出す。その隙を逃さず、ジオがその目を矢で貫く。
 堪らずダウンした巨大カバにズンさんはショットガンの追撃を加える。
 流石に耐えきれなかったようで、巨大カバが倒れる。
「はぁ、なんとかなったな」
 ルチャルトラのその言葉をきっかけに全員が息を吐く。
 ルチャルトラが巨大カバの解体を始める。
「流石、超獣退治の英雄! 超獣以外相手に使える特技もバッチリだ!」
 ジオがコトハの背中を叩く。英雄という言葉もまんざらではなさそうだ。
 ――それにしても、今回の透視のような能力みたいに、私にはまだ秘めたる能力があるみたいだ
 遺跡に行く事があるいは新たな能力に目覚めるチャンスなのかもしれない。
 そんなことを無意識に右手を見ながら考える。
「よし、帰るぞ! 地図をもらいに行こう!」
 ルチャルトラが解体を終えて声をかけ、ターミナル町に向けて歩き始める。
 コトハもほかのみんなと一緒にそれに続く。

 

To Be Continued…

第6章へ

 


 

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