栄光は虚構と成り果て 第6章

 

「おぉ、うまくいったね!」
 ジオが飛び上がって喜ぶ。それはちょっと大袈裟じゃ……、とコトハは呟きかけるが、
「いや、これでようやく旅人の基本である風除けを使えるようになったんじゃ。砂嵐の時に大きめに風除けを作って皆でコトハを庇わんでも良くなる」
「……ご迷惑をおかけしました」
 続くズンの言葉に思わず謝罪する。そう、コトハはついに風除けの魔術を使えるようになったのだ。
「空中に文字を書く魔術は本来風除けの応用なのにな」
 ルチャルトラが肩を竦める。心なしか嬉しそうだ、とコトハにも分かった。
 そして同時に何も言わない裏でそんなに迷惑をかけていたのか、と少し無念に思った。
「それにしても、右手で壁をイメージして突き出すだけでうまくいくなんて」
「コトハは空中に文字を書く魔術も右手を筆にしておった。コトハの場合右手がそう言ったものの象徴なのかもしれんのう」
 象徴、そうなのだろうか、コトハは考える
「あ」
 そこでコトハは一つ思いついた。
 先日身につけた謎の透視能力。一度目は意図せず発動して状況の記憶もおぼろげだが、二度目は、最初発動せず、両目を両手で覆うと、右目にだけ透視が発動した。これはもしかして、右目を右手で覆っていたから、右目に発動したのではなかろうか? と。
lai zomp可視化
 早速試す。右手を横に、両目を覆う。
「おぉ」
 バッチリだ。しっかりと両目に真っ暗な世界に人間(ルチャルトラ含む)だけが白い光の輪郭を持って表示される。
「あれ?」
 てっきり命を持った存在だけが白く光って見えるのかと思っていたコトハだったが、振り返ることでそれが誤りだと知る。
 振り返った先に見えるのは先ほど正式に地図を更新してもらったターミナル町だ。そしてそれが白い光のドームのように見える。極めて薄くて小さいが。町全体を白い光が覆って見えるのだ。
 コトハは少し不思議に覆ったが、そんなことより重要な発見に浮かれ、そのことはすぐに頭の片隅に放置される運びとなった。
 ――そっか。この右手は私が魔法を使ったりするのをアシストしてくれたり、必要な能力を提供してくれたりするんだ。確かに右手に能力が宿るって、割とよく見るもんね
 とりあえずコトハは自分の右手を「魔法の右手」と呼ぶことにした。

 

 ところがもう一つの基本的な魔術の取得は困難を極めた。
「いちいち右手を足に持っていくわけにもいかんし、両足は触れないからのう」
 そう。もう一つの基本的な魔術、足元の砂を固めての砂丘登りである。
 魔術のコツ(=魔法の右手)を掴んだと大はしゃぎのコトハに容赦無くズンが突きつけたのである。
 まぁ実際、目の前の砂丘を越えるのが目的地である遺跡への最短ルートなのは確かなのだが。

 

 何度目かの砂丘滑りを体感したコトハは既に肩で息をしていた。
「もうこうなったら、砂丘丸ごと固めてしまえ!」
 もはや何十回めになるかわからない惨めな砂すべりを披露したコトハの中にそんな衝動が大幅に溢れる。
 ――fatil zomp引き出せ
fatil zomp引き出せ
 衝動に従い、頭に浮かんだ言葉を叫ぶ。
 直後、コトハの手の先に膨大な熱量が発生し、周囲一帯の砂丘全てが固形化した。
「な、なんという量のサーキュレタリィリソースじゃ……」
 ズンさんが驚愕の声を上げる。
「ご、ごめんなさい、つい衝動的に」
「いや、まぁいいんだけどよ……こりゃすげぇな」
 ルチャルトラも驚愕の声を漏らす。
「コトハ、お主今、どこからそれだけの量のサーキュレタリィリソースを取り出した? 体内にそれだけのリソースを溜め込んではおるまい?」
「え、えーっと……」
 そもそもサーキュレタリィリソースってなんだ、と思うコトハ。文脈から考えて魔力の正式名称か。
「え、えーっと。超獣を消すときと同じ、なんか念じたら、出来た……」
「なんじゃと? ……ふむ……なるほど……」
 コトハの回答に考え込んでしまうズン。
「まぁ、そんな事はあとでいいじゃん。そんなことより、せっかく歩きやすくなってるんだ。今のうちに行こうよ」
 ジオがそう言うと同時、さっさと固まった砂丘を登っていく。
「あ、ズン、考え事はあとにしようぜ、とりあえずさっさと移動しちまおう」
「……そうじゃな」
 ズンとルチャルトラも固まった砂丘を登っていく。

 

 そうしてひときわ大きな砂丘を越えた先、ぽつんと人工物が見えてきた。
「……地下鉄?」
 それは東京メトロとか、そういう地下鉄の入口のように見えた。
「っていうか、駅名だよね、あれ。よろこび……つらなる……うり……はかい?」
 漢字のように見えたのだが、コトハの知識ではどう考えても名詞になりそうになかったので、諦めることにした。
 また、他の三人もこの文字は読めないらしい。
「ここを降りるの?」
「おう。暗いから気をつけるんだぞ」
「いや待てルチャルトラ。コトハよ、今度は光源を作る魔術を練習するとしようか」
「え、もう遺跡が目の前なのにお預け?」
「いや、入っても少し入り組んでおる。明かりを作ることができれば、どうせ中で手こずるぞ」
「う、そう言われると仕方ないか」
 右手に魔力を集める。
 ――光れ!
 右手の魔力が発光を始める。
「出来た!」
「ふぅむ。右手を起点にさえすれば発動は容易というわけか……」
「よっし、行こう!」
 コトハが早速階段を降りていく。
 残りの三人も各々光源魔術を発動させて階段を降りていく。

 

「あんた達か」
 そこにいたのは燃えるような赤い瞳の男、スーマだった。
「なんでここに?」
 スーマはターミナル町で立ち往生していたはずだ。まして遺跡にいる理由は考えにくい。
「それは、ターミナル町にいるはず、ということか? あるいは、なぜ遺跡なんぞに用があるのか、ということか?」
 なんだかやな感じの雰囲気らしくこちらの疑問をわざわざ詳細に言語化を求めてくるやつだ、とコトハ。コトハはスーマに対して完全に毛嫌いモードに入っている。
「……まぁ。袖振り合うのも多生の縁、か」
「ソデ……なんだって?」
 スーマの発言にルチャルトラが聞き返す。コトハは、「インテリぶってことわざなんか使うから通じないんだよー」と心の中でスーマを攻撃する。
「まず、前者からだが。あんたらが肉を確保しに向かった翌日くらいに隣町から連絡があったんだ。またお告げがあった、とな」
 コトハ一行は肉確保のために往復で一泊ずつしてるため、ちょうど巨大カバと戦ってた頃のことになる。
 隣町との行き来はちょうど一日程度だから、まさに町についたか町を出た頃にはそのお告げがされていることになる。
「その内容が。災厄をもたらす者は町を出た。旅人をもてなすべし、とのことでな。前日から打って変わって、大歓迎で色々いただき、町を出た、というわけだ」
「なるほど」
 ってことは災厄とやらをもたらすのは自分でもスーマでもない、ということ? と首をかしげるコトハ。
「それで、遺跡を訪れた理由の方は?」
「あぁ。そっちはまったくシンプルでね。まぁ、ちょっとした調べ物だよ」
「調べ物? あんたも学者か?」
「まぁ似たようなものだが、もっと利己的なものだよ。道楽みたいなものさ」
「ドウラク……?」
「ドウラクかどうかは知らんが、学者なんてものはみんなどこかしら利己的な知的好奇心からやってるんじゃないかね。差し支えなければ、何を調べるつもりだったのか聞かせてほしいがね」
「それは構わないが、とりあえず君たちの調べ物を先に済ませたらどうかね。もし私が答えるまでもなく君たちがその情報を得るようなら共有する時間も無駄だしな」
「ふむ。まあそれもそうかもしれんな。よし、早速中身を見るとしよう」
 確かに、コトハが扉に視線を向けると、一瞬見えたアルファベットらしき記号を塗りつぶすように「研究所」と日本語と上書きされる。いつもの会話と同じおそらく右手の魔法による自動翻訳だ。
「あっ、すこしひんやりする」
「うむ、研究所はなぜか知らんが必ず冷気で溢れている。まぁ一度開けっ放しにしておくと二度と涼しくはないから、何らかの冷やす魔術が使われているわけでもないようだがの」
 そしてコトハはその中を見て思った。
 ――これっていわゆる……サーバールーム?
 実際にはそのコンピュータ郡を使って作業するための空間があるため、サーバールームというわけでもないかもしれないが、コトハの印象はそうだった。
 ――だとしたら冷気があるのも納得かも。アニメとかでもこういう部屋はだいたい冷やされてるもん
 コトハはアニメでコンピュータが得意なキャラクターの部屋を訪れてその寒さに驚く主人公、という構図を何度かみたことを思い出した。
「ってことはデータってのはこのパソコンから見られるのか。どれどれ……」
 中央のデスクに座り、パソコンを起動する。幸い、この世界のパソコンの起動ボタンもおなじみのアイコンであった。
 コトハは知らないことだが、あの電源ボタンは諸説あるが、有力な説によると2進数に由来しているとされるため、この世界のコンピュータも2進数で動いているのだとすれば不自然なことでもないのかもしれない。
「コトハ、お主、それを起動させられるのか!?」
「え、あ……う、うん。そうみたい」
 自身の行動の迂闊さに気付くコトハ。とはいえ、疑われるより、関心している様子だ。こころなしか、スーマからだけは睨まれているような気がするが。
「動いている機械がないからハズレかと思ったが、これはとんだ拾い物じゃわい」
 ほっと息を吐くコトハ。
 ――それにしても、ウブン……なんとか? 聞いたこと無いな。Flagsじゃないんだ。
 コトハは起動時に表示されるOSの表示を見て知らないOSだなと思った。
 コトハの知っているOSといえば、Flags社が作っている基本的にみんなが使っている四色の旗が有名なOS「Flags」と、lemon社が作っている意識が高い人が喫茶店で使うパソコンとOSであるVillafrancaビラフランカ、通称Villaヴィッラか、どっちかくらいだ。
「これは……日記.日記?」
 そういう名前のファイルがデスクトップに置かれていた。マウスでダブルクリックして開いてみる。
 ――ってかなんで日記ってわざわざ二回書いたんだろ。
 おそらく.diaryのような拡張子で自動翻訳されたのだろうが、そこまでの知識のないコトハは首を傾げる。ズンもルチャルトラもジオもコトハ以上の知識はない以上、わからないことである。
 左に日付の列。右側に大きな白い空間。コトハは迷わず最新の日付をクリックする。

 

= = =

 


 もはや万策尽きたという他ない。
 リソースレスデザートの侵食は止まらない。今日、最後の龍穴炉が超獣に破壊され、リソースレスデザートに飲み込まれた。
 まもなくこの世界最後の電力が失われ、このような記録をかけるのももう長くてあと一日というところだろう。
 私達はどこで間違えたのか。

 

 ふと、ヴァランガの主張を思い出す。リソースレスデザートと超獣は龍穴炉の稼働が原因だ、などと。
 もしそうなら、この世界がこうなったのは、私達の先祖のせいなのだろうか。
 くだらない考えだとはわかっている。私が生まれるずっと前、龍穴炉が出来た当時からヴァランガはずっと反対活動を続けてきた。その過程で実際に起きている環境問題と龍穴炉がこじつけられてきた。これもその一環に決まっている。
 こんなことを考えるのはもう詰んでしまったからだろう。あるいは……アイオン博士なら、私達の偉大な先祖が今生きていればこんなことにはなっていなかったのだろうか。


 私はここを離れて旅に出ることにする。いつか。私があの砂漠の謎を解決したら。また日記を書こう。それまではお預けだ。

 

3165/08/21
 ズーワン・コクセー

 

= = =

 

「やっぱり超獣と砂漠化は関係があったんだ」
 けど、それ以外の固有名詞の意味はコトハにはさっぱりだった。
 そこからざっと日記を見たが、ひたすらリソースレスデザートの侵食を止められずにいることを嘆く日記ばかりだ。

 

 最初の日記は「今日から新しい研究所。とはいっても、もう万策は突きている。サカイグループもそれはわかっている上で、私には一人になてる空間が必要だ、と。この研究所を割り当ててくれた」という一節があった。
 もっとまともに研究していた頃の日記はこの研究所にやって来る以前の研究所を見つけなければならないらしい。

 

 結局コトハの望む右手の秘密は解き明かせなかった。
 まったく見つけられなかったので、コトハはこの研究所に残された極めて僅かな情報に目をつけた。それは「コールドスリープ」技術だ。しかも、こうも書いてある。「コールドスリープ前後の記憶を失うという副作用が確認されている」、と。
 そうしてコトハは想像する

 

 旅の途中、このズーワンなる人物は最終的に解決の糸口となる存在を知る。つまりこの私のことだ。
 彼、もしくは彼女は、なんとか私を召喚し、私の協力を取り付けるが、もはや私の生命を維持できるだけの文明は存在しなかった。
 ズーワンは悩んだ末、世界を救いうる存在たるコトハを守るため、私をコールドスリープさせることを選んだ。
 将来的に、私の生命を維持できるだけの文明が復興することを祈って。
 そして目覚めた私は運悪くコールドスリープの副作用で召喚されてからスリープするまでの記憶を失ってしまっていた。

 

「うん、こんなところかな」
 コトハは満足気に頷く。コールドスリープから目覚めた記憶がないのも、「前後の記憶」を失うことから説明がつく。
 つまり、目覚めて歩いて、あそこで倒れて、そこで記憶が壊れたのだろう、多分。

 

「それで、結局お主の目的は何じゃったんじゃ?」
 ズンがスーマに向き直る。
「あぁ。そうだな……」
 ズシン、と大きな地響きが響く。
「こ、この地響きは……」
 全員で慌てて地上に飛び出る。
「まだ遠いみたいだが、超獣だな」
「あぁ。まっすぐこっちに向かっておる。おかしい、超獣の行動指針からするとこっちに向かってくるはずはないんじゃが」
「あぁ。この周辺で最もリソースを貯めている町はもっと北の方だからな」
 ズンの呟きにスーマが頷く。
「……なっ」
 スーマは周囲を見渡して驚愕する。
「織……コトハ、あの辺一帯の地面が固まっているのは、あれはお前か?」
「え、あー、えーっと、そ、そうだけど?」
「………………そうか」
「うん、私、超獣を倒せる魔法使いだからね!」
 ここぞとばかりにアピールするコトハ。
「そうとも、ここであいつを倒そう!」
 ジオがカーボンの弓を構える。
「……いいだろう。なら俺は遺跡の防衛設備を動かせないか確認してくる」
 スーマが一行に背中を向け、階段を降り始める。


「コトハ、気をつけろよ、あいつは、これまでで一番でかいぞ」
「うん」
 こうして、不可思議な遭遇をした最大規模の超獣との戦いが始まろうとしていた。

 

To Be Continued…

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「栄光は虚構と成り果て 第6章」の大したことのないあとがきを
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