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常夏の島に響け勝利の打杭 第2章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 「Nileロボットアーツコンテスト」の監視のためにハワイに訪れていた匠海たくみは前日の観光でからと名乗る女性と出会う。
 大会当日、匠海が試合を監視していると、決勝戦でアンソニーの操るロボットが〝裂け目〟を作り瞬間移動を始める。
 その〝裂け目〟が突然大きく広がり、向こう側から管理帝国を名乗るロボットが現れ、人々を襲い始める。

 

 
 

「お前は!」
 どこからか取り出した二振りの刀を振るい、銃弾を斬り捨てる空に匠海が叫ぶ。
「何か知ってるのか!?!?
「うーん、今の状況は分かってないけど、なんとなく想像がつくんだよね。こんな無茶苦茶な展開考えるのアモルさんくらいだよ」
 空の言葉の意味が理解できない。空の口ぶりは、まるでこの襲撃自体が何かの物語で見知ったかのようなものだったが、そんなことがあるはずがない。
 空が言う「アモル」とやらが今回の黒幕なのか、と考えつつも匠海は注意深く周りに視線を投げる。
 大きな〝裂け目〟から現れる四足歩行ロボットは脅威だが、はじめに出てきた三機の二足歩行ロボットが量子通信ではなく電波通信でやり取りをしていたことを考えると四足歩行ロボットも恐らく電波通信による戦術データリンクを構築しているだろう。
 と、なると妨害電波ECMが有効か。
 そう考えるものの、量子通信が一般的になった今の世の中、ECMがすぐに発生できるほどの設備はあっても軍事施設にしかないだろう。今頃合衆国ステイツのコマンドギア部隊がここに向かっているだろうが、流石にECMを発生させるほどの装備は持ち合わせていないはずだ。
 そこまで考えて、匠海は「俺がやるしかないか」と呟いた。
「ん? 匠海、なんか言った?」
「あのロボットをハッキングしてみる」
 コンソールウェポンパレットを開く匠海。それを見て空がえっと声を上げた。
「やる気? 相手は異世界の兵器だよ!?!?
「だが、やらないよりはマシだ! エスペラント語を使ってるようだが、逆に地球に存在する言語で会話してるならプログラム言語は恐らく――」
 ウェポンパレットから「魔導師の種ソーサラーズシード」を呼び出した匠海の眼前にUSホロキーボードが出現する。
「そもそも無線が傍受できた時点で向こうが使ってるシステムの言語は英語だ。それならいくらプログラム言語が異世界のものでもパターンさえ掴めればシステムは掌握できる」
「マジで言ってる?」
 素早くキーボードに指を走らせる匠海に、空が驚きの声を上げる。
 匠海の判断力と決断力の速さは「Fairy of Yggdrasil妖精戦争」の展開を知っているから理解している。若干詰めが甘いところもあるが決めるところは決める、匠海はそういう男だ。
 しかし、初めて遭遇する異世界からの襲撃者に対してここまで冷静に分析、ハッキングで対抗しようとは自分の腕に余程の自信がないとできないことである。あと、あるとすれば自分の命が脅かされるような経験。
(あーそっか、『光舞う』ね……)
 「木こりのクリスマスランバージャック・クリスマス」の経験も今この状況に立ち向かう力となっているのか。
 いずれにせよ、匠海がこの状況を一人で打開しようとしているのは事実だ。そして、それがあまりにも無謀であることを空は分かっている。
 立ち向かうにしても反撃の準備を整えてからでないと守れるものも守れなくなる。
『タクミ、落ち着いて! 今何の準備もなく対抗したって大した効果にならないよ! ここは一旦退いて、作戦練り直した方がいいって!』
 妖精がそう言って匠海の腕を引く。
 妖精のその言葉に、匠海もはっと我に返った。
「確かに、今ここにいる奴らを何とかしてもどんどん湧いてきてるな」
 全てのロボットを一瞬で全て行動不能にすることができれば一旦は落ち着くことができるだろう。だが、〝裂け目〟からどんどん敵が出現している状態ではこちらの対抗手段もすぐに対策されジリ貧になるだけである。
 分かった、と匠海がさらにキーボードに指を走らせる。
「ここの電源設備を一旦暴走させる。その時に発生する電磁波で一瞬は混乱させられるだろう」
「オーケー! その間に離脱するよ!」
 匠海の提案に、空が頷いた。
 周りの被害と避難状況を見ながら匠海がさらにコマンドを打ち込もうとするが、その手が止まる。
「――あいつ!」
 匠海が思わず声を上げて手を伸ばす。
 空も匠海の視線の先に目をやり、えっと声を上げた。
「あの子、逃げないの!?!?
 匠海が見た場所は匠海からそう遠くない、会場の隅だった。
 そこにボロボロになった人の背丈ほどのロボットと、それを盾にするように一人の少年が立っている。
 両腕にパイルバンカーを装備したロボットと少年、今回の「Nileロボットアーツコンテスト」の決勝戦に出場したアンソニーとそのロボット。
 アンソニーは自分のロボットを使って四足歩行ロボットからの機関銃攻撃から身を守りつつ反撃の隙を窺っているようだった。
 無茶だ、と匠海が叫ぶ。
「逃げろ! 殺されるぞ!」
 匠海の声に、アンソニーが視線を上げて匠海を見る。
「だけど! 俺がアレを使ったから――」
「うるせえ、そのポンコツでこいつら全員伸せると思ってんのか!」
 アンソニーを助けようと、匠海がキーボードを格納しようとする。
 その手を空が止めた。
「匠海は続けて! 空ちゃんがなんとかするから!」
 そう言い、空が空中に指を走らせるとそこに〝裂け目〟が出現する。
 同じような〝裂け目〟がアンソニーの側にも現れ、空が〝裂け目〟に飛び込むと次の瞬間、アンソニーの前に転移する。
「な――」
 俺が作った〝裂け目〟と同じ!?!? と驚くアンソニーに構うことなく、空が刀を振るう。
「ほいっと!」
 アンソニーに迫っていた四足歩行ロボットが空の一振りであっさりと斬り捨てる。
「大丈夫? 空ちゃんが助けてあげるからねー!」
「いや、俺は――」
 アンソニーが拒もうとするものの、空は周りを取り囲む四足歩行ロボットをあっという間に蹴散らし、アンソニーを抱えて〝裂け目〟を通り戻ってくる。
「ほい、連れてきたよー!」
『こっちも準備できたよ! タクミ、やっちゃって!』
 匠海のオーグギア経由でハッキングのサポートをしていた妖精も声をかけてくる。
「OK、瞬断に備えろ!」
 空が自分の横にアンソニーを下ろしたのを確認し、匠海がツールのボタンをタップする。
「とうふ、賠償金の交渉はお前に任せた!」
 次の瞬間、会場内の、いや、ハワイコンベンションセンターの全ての電源設備が暴走した。
 各電源設備が火花を散らし、続いて爆発する。
 その爆発の瞬間に発生した高密度の電磁波がハワイコンベンションセンターを包み込み、それによって全ての四足歩行ロボットと会場内に残っていた二足歩行ロボットが停止する――かと思われたが、ロボットたちは電源設備の爆発と、それに伴う照明の消失に何事か、と反応するだけで停止する様子はない。
「ダメか!」
「見た目明らかに軍用のやつがその程度の電磁波で止まると思ってんのかよ!」
 アンソニーが眼下の自分のロボットを見る。
 流石に何の電磁波対策も行っていない自分のロボットは停止しているようだが、このままでは手も足も出ず蜂の巣になるだけである。
「くっそ、とにかく撤退を……!」
 とはいえ、出口は全部封鎖されているも同然、逃げられる気がしない。
 だが、そこで空が元気よく手を上げた。
「はいはーい! 空ちゃんにお任せー!」
 その、空の言葉に、匠海とアンソニーが「できるのか?」と空を見る。
 確かに、空は四足歩行ロボットを斬り捨てたくらいには戦闘能力がある。ハッキングしかできない匠海とロボットがなければ何もできないアンソニーに比べたら十分戦力になるだろう。
 しかし、相手は〝裂け目〟からどんどん湧き出てくる状態で、自分たち二人を庇って活路を開くことができるのか、と匠海は半信半疑だった。
「んー? 空ちゃんがあの通路をぶち破ると思ってる? 無理無理、流石に多すぎてむーりー!」
 そうは言っているが、空は自信たっぷりの顔で二人を見ている。
「まぁ、見ててって」
 そう言い、空は空中にすっと指を走らせた。
 何もない空中に線が一本入り、それが左右に広がって〝裂け目〟を作る。
「じゃ、避難口はこちらでーす」
「おま、それはあいつらが出てきたのと同じ――」
 匠海が声を上げるが、空は「そんなの気にしない」と匠海の腕を引く。
 空の誘導に、匠海が分かった、と〝裂け目〟に飛び込んだ。
「……ええい!」
 自分が作り出したものと同じ〝裂け目〟を前にしてアンソニーが少し怯むが、すぐに意を決して飛び込んでいく。
 殿を空が務め、周りのロボットたちの射撃を刀で切り払いつつも〝裂け目〟に飛び込む。
 空の開いた〝裂け目〟が閉じ、残されたのは逃げ遅れた観客とロボットたち、そしてロボット達が出てきた巨大な〝裂け目〟のみ。
 電源設備のダウンに少しは反応したものの、それ以上何も起こらないと判断した二足歩行ロボットは、そのまま行動を続行することにした。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

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