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常夏の島に響け勝利の打杭 第2章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 「Nileロボットアーツコンテスト」の監視のためにハワイに訪れていた匠海たくみは前日の観光でからと名乗る女性と出会う。
 大会当日、匠海が試合を監視していると、決勝戦でアンソニーの操るロボットが〝裂け目〟を作り瞬間移動を始める。
 その〝裂け目〟が突然大きく広がり、向こう側から管理帝国を名乗るロボットが現れ、人々を襲い始める。

 大混乱に陥る会場、匠海は電源設備の暴走を利用したECMを試みるが失敗、空の助けによりアンソニーと共に空が作った〝裂け目〟に飛び込む。

 〝裂け目〟を使ってハワイ島に離脱した三人は管理帝国の宣戦布告を聞き、何とかしなければ、と考える。そのためには状況を把握しなければいけない、ということで物知り顔の空に話を聞くことにする。

 空の説明から多世界解釈や並行世界について理解する匠海とアンソニー。
 敵も味方も主力が「コマンドギア」という名称だったため、匠海は管理帝国のコマンドギアを「ロボギア」と命名する。

 時間はかかるが、アンソニーが作った〝裂け目〟は閉じられるという空に、匠海たちは反撃の作戦を立て始める。その際に、アンソニーが「使えるかも」と開発していた大型二足ロボットを二人に見せる。

 

 
 

「おおー、歩いてる!」
 空が感嘆の声を上げる。
 しかし、それを見る匠海の目は厳しいものだった。
「お前、それでロボギアと戦うつもりか?」
「んー? やっぱり匠海もそう思った?」
 険しい匠海の顔を見て、空も言う。
「少なくともロボギアは人間の動きと遜色ない動作をしていた。ただ歩けるだけ、激しい動作を必要とする戦闘での重心移動を不安に思うほどの動作しかできないこいつで前線に飛び込んでみろ、こいつはデカい棺桶になるぞ」
「……やっぱり無理か」
 ロボットのコクピットから聞こえるアンソニーの声は落胆したものだった。
 もしかすると、とは思ったが役に立てそうにない、と気付き、自分の無力さを呪っているのだろう。
 だが、匠海は意外な言葉を口にした。
「アンソニー、こいつのシステムはお前が組んだのか?」
「え? まぁ、そうだけど」
 「こんなものを戦場に出すな」と言われると思っていたアンソニーが驚いたような顔をする。
 匠海は妖精に指示を出しながらロボットの周りをぐるりと歩く。
「動作のための諸元の元データは大会に出したあのロボットから取ったものか?」
 歩きながら何かしらの操作をしているのだろう、匠海が空中に指を走らせ、時々ロボットに視線を投げながら確認する。
「そうだね。そもそも、大会に出したあのロボットはこいつを動かすためのデータ収集のためのやつなんだ。俺の最終目標はこいつを自由に動かせるようにすること。だけどデータが少なすぎて」
「そうか……」
 ぐるりとロボットの周りを歩いた匠海が納得したように頷き、足場に上る。
「アンソニー、そいつに乗っても?」
「え? でも、歩かせるのは俺じゃないと多分バランスを崩す」
「いいから、少し交代しろ」
 やや強めの口調で、匠海がアンソニーに指示を出した。
「……まぁ、いいけど……」
 アンソニーがロボットを操縦し、足場の隣に横付ける。
 慣れた動作でコクピットから降り、匠海を見ると、匠海も驚くほどスムーズにコクピットに滑り込んだ。
「なんでそんなに慣れてんだよ」
「お前の乗り降りの動きを見ていたからな」
 そう言いながらも匠海はモニターを確認し、それから自分のオーグギアを操作し、ロボットのシステムに接続した。
「……ふむ、少しシステムを触れば動作関連はかなり改善しそうだな」
「分かるの!?!?
 匠海が自分のロボットのシステムに接続したらしい、とは気づいたが何をしているかは分からなかったアンソニー。しかし、匠海の言葉に反応したアンソニーの声はほんの少し希望を取り戻したようだった。
 ああ、と匠海が頷く。
「少しシステムを触っていいか? 俺も前職はシス管だったし、それ以外でもプログラミングには心得がある。この規模なら俺でも調整できそうだ」
「マジか、お願いしてもいいか?」
「ああ、具体的には動力伝達系のプログラムの改修と重心制御周りの計算の最適化、あとロボギアの動きは映像データがあるから妖精にモーションデータに変換してもらってそれを利用すればもっとスムーズに動くようになると思う」
 匠海の指が空中を滑る。と、アンソニーの視界にも匠海が展開した各種ウィンドウが共有され、様々なデータが表示された。
「細かいところはお前に聞くことになるが、全体的な改修は俺がやってもいいか?」
「んー? でもあんまり悠長なことは言ってられないよ~? 今こうやってる間もオアフ島はどんどん占領されてっちゃうし、手に負えなくなるのも時間の問題だよ?」
 匠海とアンソニーのやり取りを聞いていた空が口を挟む。
 それに対して、匠海は「大丈夫だ」と即答した。
「これくらいのシステム、十分もあれば改修できる」
「マジでか!」
 思わず空が素っ頓狂な声を上げる。
 『世界樹の妖精』で匠海が常人にあるまじきハッキング能力を有しているのは知っていたが、ここでその能力を発揮する宣言を聞かされるのは頼もしい、の極みである。
 匠海が言うなら間違いないだろう、十分は流石に話を盛っているかも知れないが、それでも匠海のことだから短時間で改修してしまうのだろう。
 アンソニーも、匠海の「十分」という宣言に目を剥きつつも「そ、それなら」と頷く。
「多分俺が改修したら数日はかかるだろうから、あんたに任せた」
「オーケー。それじゃ、時間が惜しいから早速始める。妖精、サポート頼む」
 匠海が空中をスワイプすると、その手元にキーボードが出現する。
 アンソニーの視界にも映り込んだそのキーボードに、匠海は指を走らせ始めた。
 すさまじい勢いで叩かれるキーに、アンソニーが目を剥く。
 このご時世、基本的にオーグギアのモーション操作や音声入力が当たり前となっているのに匠海は昔ながらのUSキーボードを使用している。
 勿論、アンソニーもこのロボットのシステム構築のためにキーボードを使用することはあったが匠海のタイピング速度はアンソニーのそれと比較にならないくらい速い。
 「プログラミングの心得がある」とは言っていたが、幼いころからプログラミングに慣れ親しんでいましたと言わんばかりのその速度に、アンソニーは舌を巻かざるを得なかった。
 時々妖精に指示を出したり音声入力を併用していることも考えるとAIによるコード構築補助もある程度は行っているのだろうが、それでも匠海が宣言した「十分」はハッタリではないと思わせるような速度だった。
「んー……でも、このロボットが使えるようになったとしても一機だけじゃ心許ないよねー」
 手持無沙汰で匠海の様子を眺めていた空が突然呟く。
「そうだな、こいつがあと何機かあればもう少し心強かったかもしれないが……」
 キーボードに指を走らせながら匠海が頷く。
 いくらこのロボットがある程度自由に動けるようになったとしても敵は圧倒的な物量で襲い掛かってくるはず。一機だけではあまりにも心許なさすぎるというのは匠海も感じていることだった。
 せめて味方がいれば、という匠海の呟きに、空がうん、と両手を叩く。
「そうだね、空ちゃん、頼りになりそうな傭兵に心当たりがあるから呼んでくるね」
「え? 傭兵?」
 空の言葉にアンソニーが思わず空を見る。
 うんうん、と空が頷いた。
「どうせ空ちゃん、このロボットの改修には何の力にもなれそうにないからねー。それに味方は多い方がいいんでしょ? だったら連れてくれば一発解決! じゃ、呼んでくるねー」
 二人はロボットの改修、がんばってー! と声援を送った空が空中を切り裂いて〝裂け目〟を作り、飛び込んでいく。
 空の姿が〝裂け目〟の向こうに消え、〝裂け目〟も消えたことを見届けて、匠海は改めてキーボードに指を走らせた。
 

 

To Be Continued…

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