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常夏の島に響け勝利の打杭 第2章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 「Nileロボットアーツコンテスト」の監視のためにハワイに訪れていた匠海たくみは前日の観光でからと名乗る女性と出会う。
 大会当日、匠海が試合を監視していると、決勝戦でアンソニーの操るロボットが〝裂け目〟を作り瞬間移動を始める。
 その〝裂け目〟が突然大きく広がり、向こう側から管理帝国を名乗るロボットが現れ、人々を襲い始める。

 大混乱に陥る会場、匠海は電源設備の暴走を利用したECMを試みるが失敗、空の助けによりアンソニーと共に空が作った〝裂け目〟に飛び込む。

 

 
 

 〝裂け目〟に飛び込んだ三人が次に現れたのは目の前に海が広がるビーチだった。
「ここ……は……?」
 周りを見回し、匠海が呟く。
 先ほどまでのハワイコンベンションセンターの惨劇から一転、波の音が響き、それなりに観光客が日光浴を楽しんでいるこのビーチはワイキキビーチとは違う気がする。
 あー、と空が呟いた。
「ここはカイルア・コナだねー」
「カイルア・コナって、ハワイ島の?」
 匠海の質問に空がうんうんと頷く。
「流石にオアフ島内部だったら色々危険かなーって思って、とりあえずハワイ島に逃げてきた。これくらいの距離は空ちゃん、朝飯前だし」
 空の言葉に顔を見合わせる匠海とアンソニー。
 〝裂け目〟を通って、ハワイコンベンションセンターのあるオアフ島からハワイ州最南端のハワイ島まで一瞬で移動するとは一体どういう原理なのか、と匠海は考えるが今はそんなことを考えている場合ではない。
 アンソニーは〝裂け目〟に何かしら思い当たる節があるようだが、それはさておき、匠海は視界に映るUIを操作してニュースチャンネルを呼び出し、他の二人に共有した。
 あれだけの騒ぎ、全く報道されていないはずがない。
 匠海がそう思った通り、ニュースチャンネルはどこもハワイコンベンションセンターに突如現れた謎のロボットについての速報を流していた。
《エスペラント語を使用する、『管理帝国』と名乗るロボットの集団はハワイコンベンションセンターを占拠し、さらにホノルル市内へと侵攻している模様です――》
 映し出される映像は、ハワイコンベンションセンターから溢れ、観光客を襲う四足歩行ロボットたち。
 匠海が見ていると、ハワイコンベンションセンター上空に、合衆国ステイツ軍のエンブレムを付けたティルトジェット機が到達し、そこからパワードスーツを身にまとった兵士たちが降下していく。
合衆国ステイツのコマンドギア部隊か! しかし、太刀打ちできるのか……?」
 合衆国ステイツ経済圏が開発し、配備している装甲パワードスーツこと「コマンドギア」は匠海も知っている。実際に基地の見学ツアーで見ることもできるし料金さえ払えばコマンドギアのシミュレータ体験もできるらしい、とは聞いている。らしい、というのは匠海はそこまで兵器に興味はなく、白狼しろうがまだ子供だった匠海を基地見学ツアーに連れ出して「体験してみるか?」と誘ったものの断ったから詳細を知らないだけである。
 そんなコマンドギアが現在の合衆国ステイツ経済圏の歩兵の主力ではあるが、パワードスーツというだけあってサイズは人間を一回り大きくした程度のもの。対する敵のロボットは全高6メートルほどはあり、太刀打ちできるのか不安がある。
 コマンドギア部隊が手にした20mm機関砲で四足歩行ロボットを破壊しつつ、その指揮を執っている二足歩行ロボットに攻撃を仕掛ける。
 しかし、コマンドギア部隊の20mm機関砲は二足歩行ロボットの装甲を撃ち抜くことはできず、逆に二足歩行ロボットの大口径ショットガンになすすべなく打ち倒されてしまう。
 直後、報道ヘリに向けて、二足歩行ロボットの腕からワイヤー付きの槍のようなものが射出され、映像が一瞬乱れる。
「あちゃ~……。派手にやられたねえ…….。ヘカトンケイルならうまく立ち回れば戦えそうなもんだけど、この世界は平和だから練度も下がってるのかなぁ」
 いずれにせよだめだこりゃと呟く空、「合衆国ステイツの主力が……」と肩を落とすアンソニー。
「見ただろ。お前一人立ち向かったところで死体が一つ増えただけだ」
「でも……」
 それでもまだ俺が戻らないと、と呟くアンソニーに匠海がおい、と肩を掴む。
「思い上がってんじゃねえよ。お前一人でなんとかできると思ってんのか」
「でも、俺があんな瞬間移動させたから、あんなことに……」
 実際、アンソニーが〝裂け目〟を使って瞬間移動させなければあの巨大な〝裂け目〟は出現しなかっただろう。だが、それを今悔んだところでどうすることもできない。
 だから、匠海は自分が冷静にならなければ、と自分に言い聞かせていた。
 映像の乱れが回復したと思ったら、そこには一機の二足歩行ロボットが大写しにされていた。おそらく、カメラを奪われたのだろう。
『我らは異世界より来た管理帝国。人を不幸にする自由主義に反発し、人々を管理により幸福にする国家だ。自由主義諸国よ、我らに降伏し、恭順せよ。さもなければ、これよりこのオアフ島を起点に、侵攻を開始することとなるだろう』
 それは紛れも無い、全世界への宣戦布告だった。
「管理帝国とやらは本気でこの世界を支配する気だな」
 聞こえてくる宣戦布告に、匠海が低い声で呟く。
 自由主義が人を不幸にするという主張も、管理こそが幸福という主張も、匠海には理解できなかったし理解する気もなかった。自由に生きてこそ人々は幸福を感じるだろうし、不幸があるからこそ幸福のありがたみが分かるものだと感じた匠海は、管理帝国の野望は何としても阻止しなければいけない、と考える。
「流石に、俺も管理されて生きるのはなんか嫌だな」
 アンソニーも匠海に同意し、それから「俺があんなことをしたから」と再度呟く。
「済んだことを悔やんでも仕方ない。今はとにかく状況を把握して事態を打開する方法を考えるだけだ」
 冷静にそう言い放ち、匠海は、さて、と腕を組んだ。
「……どう思う?」
「どう思うって?」
 匠海の言葉に首をかしげる空。
 ああ、と匠海が言葉を続けた。
「敵――もう敵と言って差し支えないだろう、あいつらは『管理帝国』とか名乗ってたし異世界から来たとも言ってたな」
 とはいえ、異世界なんて存在するのか? と半信半疑の匠海に、空がなんだそんなこと、と頷いた。
「異世界は存在するよ? なんなら空ちゃん、その異世界から来てるし」
『なんだって!?!?
 空の言葉に匠海とアンソニーの言葉が重なる。
 うんうん、いい反応、と空は機嫌よく頷く。
「まぁ、その点を考えると匠海も反撃の可能性は残ってるってわけ。空ちゃん、色々知ってるよ?」
『なんだって!?!?
 二度目の「なんだって」があたりに響く。
「ふふーん、驚いてるね。まぁ、状況の全部が全部を知ってるわけじゃないけどあのロボットのこととかある程度分かるかなあ」
「マジか」
 アンソニーが唸り、それに合わせて空がもう一度ふふんと笑う。
「まぁ、巻き込まれちゃったし手を貸さないでもないよ? 多分空ちゃん一人ではどうしようもできないし、第一こういう事態を解決するのは元の世界の人間って相場が決まってると思うし」
「……分かった」
 空の言葉に、匠海が頷いた。
「知っているなら教えてくれ。あれは一体何なんだ」
「え、こいつに助けてもらうの?」
 匠海が空に協力を仰いだことで、アンソニーが驚いて匠海と空を交互に見る。
 いくら情報を持っているといってもそれが味方であるとは言い切れない。敵が、作戦の一環として一見重要そうだがどうでもいい情報を提供することで信頼を得て、後ろから攻撃することも考えられる。ましてや空はアンソニーが開いたものと同じような〝裂け目〟を利用して戦っている。どちらかというと敵勢力に近いと考えた方が無難だろう。
 だが、匠海はそんな空を信じるというのか。
 アンソニーが狼狽えたことで、匠海があのなあ、と口を開く。
「まぁこいつはある程度信用できると思う。俺の魔術師マジシャンとしての勘がそう囁いている、ってのもあるが――こいつ、俺のジジイの知り合いなんだよな。ジジイの知り合いなら敵じゃない」
「そんな信用方法が……」
 アンソニーとしては呆れるような内容ではあったが、それで信じられるというのなら信じるしかないだろう。実際のところ、空に助けられたからアンソニーもここにいるわけで、命の恩人を敵だと断じるほどアンソニーも人間不信ではなかった。
 匠海に「教えてくれ」と言われたことで、空がよし、と両手を叩く。
「りょうかーい。空ちゃんの異世界教室、はっじまっるよー!」
 そう言い、空は空中に指を走らせ、〝裂け目〟を開くと、そこから一枚のキャスター付きホワイトボードを取り出した。

 

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