常夏の島に響け勝利の打杭 第4章
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「Nileロボットアーツコンテスト」の監視のためにハワイに訪れていた
大会当日、匠海が試合を監視していると、決勝戦でアンソニーの操るロボットが〝裂け目〟を作り瞬間移動を始める。
その〝裂け目〟が突然大きく広がり、向こう側から管理帝国を名乗るロボットが現れ、人々を襲い始める。
空が作った〝裂け目〟からハワイ島に逃れた三人は管理帝国の宣戦布告を聞き、侵略を阻止しなければ、と考える。
その作戦の一環として、アンソニーが趣味で開発していた全高6メートルの大型ロボットが役に立つのではないか、という話になり、一同はロボットのもとに移動、匠海がその改修を開始する。
改修が終了したタイミングで空が「砂上のハウンド団」というコマンドギア使いの傭兵を連れてくる。
作戦が始まり、まずはハワイコンベンションセンター外縁部にロボギアと四足歩行ロボットを引き寄せたアレックスが交戦を開始する。
アレックスがレイACでハワイコンベンションセンターの敵を誘引し、交戦を始めたのを匠海たちも確認する。
指揮車のレーダーのデータを共有してもらった匠海は、ハワイコンベンションセンターを占拠していた敵の大半と、現時点でこちら側に来ているロボギアが一機を除いて全てレイACに向かっていることを確認して、よし、と小さくガッツポーズをとった。
「俺の予想通り、管理帝国は俺たちを完全に舐めているな。レーダーを見る限り――ロボギアは一機だけ動いていないが、これは多分指揮官だろう」
「ほほう」
匠海と同じく、指揮車からデータの共有を受けた空も、視界に映るレーダーの状況にふむふむと頷いている。
「もうちょっと引き寄せたら突入する感じ?」
「そうだな――あまり時間をかけすぎると〝裂け目〟から増援も来るだろうし、ここは多少のリスクを負ってでも突入した方がいい。アンソニー、やれるか?」
匠海が、シートに座り操縦桿を握るアンソニーに声をかける。
「俺はいつでも行ける。そっちも大丈夫か?」
「こっちは大丈夫だ。理論値だが、設定範囲のロボットは全て沈黙できるはずだ」
空中のキーボードに指を走らせ、敵のロボットに送り込むウィルスの調整を行いながら匠海が答えた。
「あとは指揮官がどう出るか、ってのと増援にロボギアが含まれていた場合、どこまでやれるかだな――一応、ロボギア用のウィルスも作ってあるが、向こうも電子戦くらい想定しているだろうからあとは現地で状況に応じてゲリラ戦を仕掛ける」
「ゲリラ戦って……。即席でウィルスを作るのか?」
アンソニーが振り返り、匠海を見る。
そうだが? と匠海が当たり前のように頷いた。
「そのためのタンデムだ。ただウィルスを送り込むだけならここにいるだけでもできる。だが、状況によって即応するには俺も現場にいたほうがいい」
『まぁ、それにわたしの補助がないとこの子まともに動けないし』
アンソニーの目の前、HUDのあたりを陣取った妖精がふふん、と腰に手を当ててドヤる。
『いやー、いいデータがどんどん取れるから面白くなってきた。アンソニーにもデータ共有してあげるからもっといいロボット作りなよ』
「……はは、人型ロボットは懲り懲りだよ」
そんなことを言いながら、アンソニーは操縦桿を握り直し、大きく息を吐いた。
「タクミ、タイミングは任せる」
「了解、空、お前は大丈夫か?」
《こっちはいつでも行けるよ!》
ロボットの肩に取り付いた空も大丈夫、と頷き、〝裂け目〟を作り出す体勢に入る。
「アレックス、そっちの状況はどうだ?」
突入を前に、匠海がアレックスに通信を繋ぐ。
《こちらはほぼ消化試合だ。残りは隊長機だけだろうが――行ってこい!》
アレックスの言葉に、匠海も大きく息を吐き、作戦の開始を宣言した。
「〝裂け目〟撤去作戦、アンソニー班、出撃!」
匠海の宣言と同時に、空が空中に指を走らせて〝裂け目〟を作り出し、アンソニーがペダルを踏み込んでロボットを〝裂け目〟に突入させる。
〝裂け目〟を潜り抜け、空を肩に乗せたロボットがハワイコンベンションセンター、アンソニーが作り出した〝裂け目〟が広がるコンテストの決勝戦会場に出る。
『
スピーカーを通じて、三人に声が投げかけられる。
「敵の大将のお出ましだ。アンソニー、気を引き締めていけよ」
オーグギアの同時通訳機能で相手の言葉を聞き取った匠海がアンソニーに声をかける。
「分かってる。こっちも負けてられないんだよ」
視界に映る敵の隊長機を見据え、アンソニーが武者震いを抑えながら呟く。
敵は〝裂け目〟の前にロボギアが一体、周囲に数機の四足歩行ロボット。
匠海が改修したアンソニーのロボットで戦えない数ではない。
どうする、と匠海の脳裏にそんな言葉がよぎるが、それを考える時間はもう終わっていた。
匠海が素早く空中のキーボードに指を走らせる。
敵のロボギアがこちらに向けて駆け出してくる。
「行け、アンソニー!」
エンターキーを叩きながら、匠海が叫んだ。
「了解!」
アンソニーも操縦桿を倒し、ペダルを踏み込む。
ロボギアに向けて駆け出すロボット。
その周りの四足歩行ロボットもアンソニーのロボットに銃口を向ける。
その瞬間、
「その程度のセキュリティで俺を止められると思うなよ!」
匠海の叫びと同時に、周囲のロボットが、いや、ハワイコンベンションセンターを占拠していたロボットとレイACと交戦していた全てのロボットが停止した。
「データリンクも何もない
そんなことを言いながら、匠海がキーボードを操作し次のコードを呼び出す。
「え、効かない可能性あったの!?!?」
ロボギアに向けて機体を走らせながらアンソニーが声を上げる。
「いいからお前はロボギアに集中しろ!」
コードの微調整を行いながら匠海が叫ぶ。
「電波通信で、なおかつノイマン式使ってるから侵入自体は楽なんだが、やっぱり微調整は必要なんだ。二十秒、時間を稼いでくれ」
「了解!」
アンソニーが操縦桿を横に倒しつつペダルを踏み込む。
ロボットが横にステップし、正面から放たれたショットガンを回避する。
とはいえ、ショットガンの弾は散弾、全てを避けきれずに、拡散した弾のいくつかが被弾してもあまり問題がない箇所を掠めていく。
「うわ、紙装甲!」
妖精からの報告でダメージを確認した匠海が思わず声を上げる。
「しゃーねーだろ! こちとら戦争を前提としてないんだって!」
こっちだって小遣いの範囲で作ってるんだしそりゃー安物の素材になるって、と喚くアンソニーに、匠海はそれなら、と指示を出した。
「だったら全て回避しろ! 当たらなければどうということはない!」
「某赤い彗星かよ!」
『それ、伏せてない!』
そんな会話がコクピット内で繰り広げられる。
「ったく、無茶言うよ!」
「こちとら二年前に死ぬ思いしてんだよ! その時に『当たらなければ大丈夫』と思い知ったんだよ!」
そう言いながらも匠海が再びエンターキーを叩く。
「だが――
匠海が電波に乗せてロボギアに送り込んだウィルスは、通信回線からシステム回路に潜り込み、そのまま動作制御システムを混乱させる。
敵のシステム自体が把握できない以上、匠海はめちゃくちゃなコードを組み込んだシステムファイルを送り込み、動作そのものをバグらせたのだ。
ロボギアの動きが止まり、バランスを崩して地面に膝をつく。
「やった!」
アンソニーが叫び、ロボギアに肉薄する。
「落とし前は、つけてもらう!」
「待て!」
アンソニーが右手の操縦桿を引きつつペダルを踏み込んだ瞬間、匠海がアンソニーを制止した。
同時に妖精を通じて制御システムにキャンセルコマンドを送り込み、ロボットの動きを止め、一歩後ろに下がらせる。
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