常夏の島に響け勝利の打杭 第1章
分冊版インデックス
サンフランシスコ国際空港からダニエル・K・イノウエ国際空港までは約五時間半のフライトである。
散々はしゃいだ妖精と、ワインと機内食は楽しんだものの、いささかげっそりしている匠海がオアフ島に降り立つ。
『わーい、ハワイだー! タクミ、早くチェックインしてご飯食べに行こ! 美味しそうなごはん処は色々チェックしてるから任せて!』
「……一応、聞いておこうか」
ずるずると手荷物受取所に向かう匠海。その匠海に妖精がえーと、と指を折ってチェックした店のデータを転送する。
『ステーキで有名なウルフマフィアでしょー? アサイーボウルがおいしいらしいアイランドアンティークコーヒーも捨てがたいし、コトリーは本格的な和食が食べられるみたいだよ! 日本の企業直営の本格和食とか、食べてみたいんじゃない?』
「……アア、ワルクナイナ」
『なんで棒読み』
妖精の言葉に、匠海は完全に無となっている。
燃え尽きて灰になった様子で手荷物受取所からスーツケースを受け取り、匠海は空港を出た。
『うーん、海風……?』
空港に降り立った瞬間、
「……そうだな」
妖精とは違ってリアルに風を受けた匠海も呟く。
仄かに香る潮の香りと、耳に届く店先のハワイアンミュージックに、「ハワイに来てしまったんだな」と実感する。
「Nileロボットアーツコンテスト」の監視のために来たとはいえ、
妖精が楽しみにしているのに自分一人が燃え尽きているわけにもいかない、と匠海は気分を入れ替えることにした。
「夕飯はウルフマフィアでステーキにしよう。アサイーボウルはどっちかというとおやつみたいなものだろう、だったら今からアイランドアンティークに行ってお茶でもすればいい」
『おお、タクミ分かってるぅ!』
だったら予約しておくねー! と妖精がウィンドウを開き、予約サイトにアクセスする。
それを見ながら、匠海はうーん、と一つ伸びをし、スーツケースを手にバスターミナルへと向かった。
ワイキキ行きの路線バスに乗り、揺られること約一時間。
ワイキキに到着した匠海は潮風を感じながら少し歩き、予約していたホテルのロビーに足を踏み入れた。
『ワイキキリゾートホテル、ワイキキビーチまで徒歩二分。なんだかんだ言ってタクミも泳ぐ気満々じゃない』
フロントに向かう匠海を妖精が茶化す。
「バカ言うな、予約したのはとうふだぞ?」
会場に近くて、値段も手ごろなところと聞いてたが、と反論する匠海だが、普段ワーカーホリック気味の匠海を休ませるにはこれしかない、ととうふが強硬手段に出た可能性は大いにある。
実際のところ、ワイキキビーチまでは徒歩二分とは言われているが、道を一本入ったところにあり、ロビーからビーチが見える、ということはない。
一応は「仕事」が名目なので、「観光目的ではない」と上に納得させるためか、と思いつつも匠海はチェックインを済ませ、予約した部屋に入った。
『うわぁ……』
窓から見える青い海に妖精が声を上げる。
「ほら、明日泳ぐから海なんていくらでも見れるだろ。とりあえずアイランドアンティークに行くぞ」
荷物を確認した匠海が、スーツケースからTシャツとハーフパンツを取り出し、着替える。
着替えて身軽になったところで、匠海は自分に背を向けて顔を覆っている妖精を不思議そうに眺めた。
「? 何やってんだ?」
『いや、タクミが着替えるなら見ない方がいいかと……』
はぁ? と匠海が声を上げる。
「何言ってんだいつも『普通ねー』とか言いながらガン見してるだろお前!!!!」
そう言いながら匠海が妖精の首根っこを摘まみ、ポンと左肩に乗せる。
「ほら、行くぞ」
『食べる前に
わたしも食べたーいと言う妖精に「はいはい分かった」と言いつつ、匠海が部屋を出る。
明日はビーチでくつろぐか、と思いつつ、匠海は
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