常夏の島に響け勝利の打杭 第1章
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5、6メートルほどの高さにまで広がった〝裂け目〟の奥から二つの赤い光がまるで目のように輝き、こちら側を見据える。
そして、その〝裂け目〟をさらに引き裂くかのように巨大な金属の手が〝裂け目〟の縁を掴み、両横に広げた。
なんだ、何が起こっている、とざわめく会場。
引き裂き、広げた〝裂け目〟から、全高六メートルはあろうかという巨大なロボットが三機、姿を現した。
『Fine, la faztransira eksperimento estis sukceso.』
現れた三機のロボット、その先頭の機体のスピーカーからそんな言葉が聞こえる。
明らかに英語ではない言語に、周囲の人間がざわざわと騒ぎ始める。
「何言ってるんだ……」
首を傾げる匠海に、その肩で匠海のサポートをしていた妖精が即座に検索する。
『タクミ、これエスペラント語だよ。ええと……「ついに位相転移実験は成功だ」って言ってる』
「な――」
匠海もエスペラント語の存在は知っている。一応は母語の異なる人々の間で意思伝達ができるように、と開発された人工言語だが、その普及率はお世辞にも高いとは言えない。まだ英語の方が話者は多いくらいだろう。
そんなエスペラント語を口にするとは、一体何者だ? と匠海が通信ログを解析する。
第一声はスピーカーから聞こえたのは、恐らくは会場にいる人間へのアプローチだろう。そう考えるとそのあと何かしらの会話がロボット間でされているはずで、それは通信のはずである。
だが、量子通信のログには何のデータもなく、匠海はまさかと思って電波通信のログも確認した。
『ビンゴ! あのロボット、無線通信してる!』
「了解。妖精、翻訳頼めるか?」
『任せて!』
匠海が指示と同時に
数分も経たずに匠海がロボットたちの無線通信に割り込み、その会話を傍受する。
《ここにはまだ星条旗がはためいている》
《あぁ、管理帝国の名の下に、自由主義は葬り去らねばならない》
匠海が傍受したロボットたちの無線を妖精が同時通訳し、伝えてくる。
「……管理帝国……?」
聞いたことのない名称。一体、どこの勢力だ。それとも、別の経済圏が?
情報が少なすぎる、と情報収集をしようとする匠海だが、管理帝国も突如現れたロボットもどのデータベースにアクセスしても情報がない。
そうしているうちに、先頭のロボットが会場奥に掲揚された星条旗に銃を向けた。
無数の銃弾が撃ち出され、星条旗をズタズタにする。
「なっ」
星条旗を撃ち抜くとは、明らかに
ということはこいつらは敵か、と匠海は周囲が止めるのも構わずに監視センターを飛び出した。
『異世界の民よ。我らはこことは異なる世界よりこの世界にやってきた。我々の目的は諸君らの幸せである。直ちに自由主義を捨て去り、我らが管理主義に恭順すれば、諸君らの幸せを保障しよう』
スピーカーから聞こえる宣戦布告に、匠海がふざけるな、と歯軋りする。
あの〝裂け目〟から現れたということは、「異なる世界から来た」というのは事実だろう。しかし、それであったとしても管理帝国とやらの主張はめちゃくちゃだ。
何が「諸君らの幸せ」だ、と匠海が走りながら吐き捨てる。
そんな押し付けられた幸せなどクソ喰らえだ、と思いながら試合会場に飛び込む。
試合会場に匠海が行くと、ちょうどNile社の所有軍がハワイコンベンションセンターに到着したところだった。
複数の装甲車と戦車が会場にそれぞれの兵装を向けたのがセンター外の監視カメラの映像で確認できる。
『所属不明の敵性勢力に告ぐ! 今すぐ武装を解除し、投降しろ!』
スピーカーから発せられるその声に、匠海は多分無理だな、と悟った。
そもそも、あの未知のロボットは「Nileロボットアーツコンテスト」に参戦したどのロボットよりも精巧、正確に動き、武器も自由に使っていた。
健に以前見せられた侵略者系ロボットアニメの一話を思い出す。
このような状況で、主人公勢力の戦車の類は大抵敵勢力に一掃される。
駄目だ、勝てるわけがない、と匠海が思っていると、三機のロボットのうち二機は会場の壁を撃ち抜き、外に飛び出した。
そのままNile軍に襲いかかり、圧倒的な機動力で装甲車と戦車を破壊してしまう。
通常の車を相手にするのとはわけが違う。いくら装甲が薄い部分があるとは言えども圧倒的な装甲を持つ軍用車両を、二機のロボットが装備したショットガンは容易く撃ち抜いた。
異世界からの来訪者とはいえ、一体どのような技術が使われているのか。
この技術があれば
技術を入手するにしてもまずはこれらのロボットを無力化しなければいけないだろう。しかしNile軍があっさりと打ち破られた時点で自分達に対抗する力など、ない。
突如始まり、あっという間に味方が殲滅されたという事実に恐慌状態に陥る観客たち。
我こそはと会場から逃げ出そうとする観客たちで会場はパニック状態となる。
さらに〝裂け目〟からは戦車の履帯部分が四つ足になったような人間サイズの四足歩行ロボットが次々と飛び出してくる。
「まずい!」
四足歩行のロボットの目とも言えるカメラと目が合った気がした。
銃身が匠海に向けられ、無数の銃弾が放たれる。
「まずい!」
咄嗟に匠海が横に跳ぶ。一瞬前まで匠海が立っていた場所を銃弾が穿つ。
他の四足歩行ロボットも逃げ惑う観客に向けて機関銃を連射し、人々が次々に倒れていく。
これはまずい、と思いながらも銃弾を避けて遮蔽物を探す匠海。
まさか二年前のあのテロでの経験がこんなところで役立つとは思わなかった。
少なくとも、あの時の経験が今回の匠海を生存に導いているのは事実だろう。
とはいえ、多数の四足歩行ロボットを前にいつまでも逃げ切れるわけがない。
見つけた遮蔽物の横から、別の四足歩行ロボットが匠海を狙う。
「っそ!」
万事休す。遮蔽物が邪魔となってこのロボットの攻撃は避けられない。
だが、その匠海の前に躍り出た人影があった。
「異世界からのロボット大侵攻? やりすぎでしょ。プロットは誰、アモルさん?」
空が匠海の前に立ちはだかり、〝裂け目〟を展開して攻撃を防ぐ。
「さぁ、ここからどうするか……。こういう時は……」
空が何かボードのようなものを〝裂け目〟から取り出す。
「次回の空ちゃんに、任せる!」
そこには「To Be continued…」と書かれていた。
To Be Continued…
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