虹の境界線を越えて 第4章

「mirror>つまり、正式に俺たちに加わりたい、と?」
「RE111>そう。不味い?」
「mirror>いいや、我らレジスタンスは常に同志を求めている。ただ、どうした心境の変化かと思ってね」
「RE111>別に。ただ、一人じゃ出来ないこともあるって気付いただけ」
「mirror>なるほど。RE111、君は我々の作戦のために何度か陽動を買って出てくれた。それがどう言う意図だったのかは知らないがね。君の加入を拒む理由は一切ない。私から推薦しよう。だが、申し訳ないがいきなり本部に君を届けるわけにも行かない」
 聞き覚えのあるフレーズに、空はピンと来た。
「RE111>それって、本部は誰にも見つからない場所にあるから、まずは支部に行け、って事? で、支部で戦功を上げる事で信用される?」
「mirror>驚いたな。こっちについてもある程度調べてるってわけか。いいだろう。話は通しておく。この座標の場所に行け」
 思わず聞いてしまった、少し迂闊な事をした。疑われたかもしれない。

 

 レジスタンス。と言うとだいたい、国家に対抗する組織だ。国は国でも帝国が多い。空の感覚だと、チャンバラアクションが魅力のスペースオペラ映画や、ローラーダッシュ系のロボットに乗って戦う仮面の男が主人公のアニメとか、良く主人公側の勢力として良く使われる。
 が、語源である「レジスタンス運動」は権力者や占領軍に対する抵抗運動を指す用語であるとされている。つまり、国でなくても世界を牛耳る相手でも、それはレジスタンスである。空の知るサブカルで言えば、SFとファンタジーが融合してるような「最後」の名前を冠する有名RPGタイトルの七作目は企業に対するレジスタンスが主人公の組織だった。
 これは前置きに過ぎない。まださらに説明が続く。いよいよ、なぜカグラ・コントラクターに争う必要があるのか、というお話だ。
 御神楽財団は世界に多大な影響力を持っている。そこに、カグラ・コントラクターなんていうPMC事業を立ち上げた。
 PMCとは簡単に言えば傭兵達の会社だ。軍隊は維持費が高いし、兵器や補給も決して安くない。そこで、多くの国は最小限の戦力のみを保有し、紛争が発生したときにのみPMCに依頼し、その戦力を使う、というのが常態化しているようだ。
 軍隊は維持費が高い、というのは当然PMCも同じ。だから、PMC達も安定した収入が無いと経営が苦しい。だから出来る限り仕事を得られるようにサービスを良くしたり、戦力を拡充したりする。
 カグラ・コントラクターはそこに財団の財力を惜しみなく投入して作られた最強の軍隊だ。最高の兵器、最高の人材、最高の規模、最高の作戦可能範囲、最高の工場に、最高の科学力。そしてそこからもたらされるほぼ100%の任務遂行率。そして、財団の他事業で赤字を補う事で実現している安い利用料。
 多くのPMCがカグラ・コントラクターによって顧客を奪われ、カグラ・コントラクターの顧客と敵対する勢力と契約したPMCは容赦なく滅ぼされた。
 PMCで働く傭兵の多くは戦い以外の稼ぎ方を知らない。彼らはカグラ・コントラクターに下るか、職を失い野垂れ死ぬかを選ばされる。普通の傭兵はまだ良い。工場勤務とか、職を選ばないならまだ働き口はあるし、最悪、国の福祉を利用する手もある。
 けれど、この世界には義体と呼ばれる人造の四肢を持つ兵士がいる。彼らは人工透析液ホワイトブラッドと通称される血液の代用品を使っている。人造の四肢は血液なんかでは動かないから当然だ。
 だが、この人工透析液は高い。四肢のメンテナンスも高い。だから彼らはPMCと専従契約を結ぶ。要は、メンテナンスや補給は万全にしてやるから、うちで働き続けろよ、って事だ。彼らは文字通り、服従か死かを選ばなければならない。ちなみに、カグラ・コントラクターは独自開発の高性能超伝導透析液ブロッサムブラッドを採用しており、これはカグラ・コントラクターの中にいなければ手に入らないものだ。
 今、カグラ・コントラクターはこうして多くのPMCを廃業させ、多くの失業者を出している。だが、レジスタンスによればこれさえも彼らの第一段階に過ぎないらしい。
 けれど、この辺で空の興味は途絶えてしまったので忘れてしまった。もちろんこの記述は空の認識とは必ずしも一致しないので説明しても良いのだが、空の認識に合わせて割愛することとする。
 ここで止めてしまうと、レジスタンスが単なる企業競争に負けた逆恨み組織みたいになってしまうが、空にとってはどちらに正義があるのかなんで全くどうでもいいのだ。
 空はこの世界の命運には全く興味がない。レジスタンスもただ利用するだけだ。だから、カグラ・コントラクターと御神楽財団が何を企んでいるのかなんて、ただ、どうでもいい。

 

「君が見学希望の虹野君かな。さぁ、こっちに来てくれ、案内しよう」
 「サンズ・オブ・オクトパス」と刻印されたジープに乗った男が声をかけてくる。レジスタンスに裏から物資を提供しているPMCの一つで、今も表向きこの企業の見学希望と言うことになっている。
「タコの息子達……?」
 そんな事より空が気になったのは名前だった。
「知らないかな? 『8つの手を持つ悪魔の息子たる我々が必ずあなたの敵を倒しましょう』、と言うキャッチコピーで売ってるらしいんだが」
「いえ、初めて聞きました」
――というか、この世界でもタコは悪魔なのか。
「そうか、君は桜花人だから、タコが悪魔という考えにはあまり馴染みがないか。食べられる悪魔なんて締まらないものな」
 そして、桜花人はやっぱりタコを食べるのか。もしどうしようもなくなったら、桜花に住もうかな。なんて考える空。
 そうして、案内された基地は光学迷彩技術で入口が隠蔽されている洞窟だった。光学迷彩はこの世界で一般的になりつつある技術で、プロジェクタのような機械でホログラフィを投影し、その場に何もないかのように見せかける技術だ。欠点としてほとんどの機械がそうであるように熱を発するのが特徴で、サーマルゴーグルや暗視ゴーグルのような熱を視覚化する装置を使われると露見してしまうのが欠点だ。


 洞窟の中は宿舎のようになっていた。
「ここはもしかして、ひたすら加入希望者を集める、的な?」
「その通り。そして、ここで本部から仕事が入るまで寝泊まりする事になる。仕事が来たら仕事をしてもらう。そして、無事成功したなら、今度は本部の作戦支援をする支部に移動してもらう」
 要はスパイ対策である。
「ちょうど、物資が不足してきた。いくつかの集積所を同時に襲撃し、物資を頂く。そのためにいくつかチームを作る」
 手をパンパンと叩き、支部のリーダーが宿舎の全員に呼びかける。
「早速だが、この超タイミングよく表れた最新の新入りと行動を共にしたい命知らずはいるか? ほかはいつも通り抽選だが、このチームだけは立候補者がいるならそいつをチームに入れてやる」
――なるほど。確かに私は怪しい。そんな事より、やっぱりだ。私はこの展開に覚えがある。もし私の勘違いでないなら、いや、勘違いに決まっているけれど、ここで名乗りを上げる人間が三人、いるはず。
「あ……、なら、僕、出ます……」
 図体の大きい男が、その図体に似合わぬ小さく物物した声で名乗りを上げる。
――まさか本当に現れるなんて。本当に名前がケインだったりしないだろうか。
「よし、一人目はケイン・C=高山、お前で決まりだ」
――あっていた。
 空は彼を知っている。ケイン・C=高山。格闘術を主として使う変わり者の兵士で、PMCでもその格闘術による近接戦闘を担っていた。ところが腕自慢の格闘技大会で勢い余って人を殺めてしまい、自分と格闘術が怖くなり、PMCから脱退。しかし、自分の戦いたい、殺したい、という衝動からは逃れられず、せめて人の役に立ちたい、とレジスタンスに入ろうと決めた。確か、そんな感じだったはず。
「どうした? 他にいないか?」
「俺に行かせてくれ」
――次はズークか。
 空はフルネームは忘れたが、元少年兵で戦争以外に稼ぎ方を知らなかったが故にカグラ・コントラクターに加入し、カグラ・コントラクター製の優秀な義体を得る。しかし、上官と言い合いになり、そのままカグラ・コントラクターを離脱。他のPMCに一度移り、高性能超伝導透析液ブロッサムブラッドから人工透析液ホワイトブラッドに透析し直してもらい、義体は外して義足で生きることを決めた後、そのPMCがレジスタンスと繋がってることもあり、レジスタンスに加入した。
「より、二人目はズーク・フォン・フィルグルック。次は?」
――なら、俺が行こうかね。老兵一人いなくなっても変わらないだろうし、裏切り者なら後ろから頭を撃ち抜くくらいみょろいもんだ。だっけ?
「なら、俺も行こうかな。老兵一人いなくなっても変わらないだろうし、裏切り者なら後ろから頭を撃ち抜くくらいちょろいもんだ」
「よし、三人目はウォルター・パルム、お前だ」

 

 想像していた以上のショックがあった。ウォルター・パルム。空がTRPGで自分のプレイヤーキャラクターとして演じた人物だ。

 

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 その記録は今も空のスマートフォンの中に残っている。
 作者が自分の作品を舞台にTRPGのセッションを行うと言うので、空は同じファンのTwitterの友人から誘われて参加したのだ。

 

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 TRPGというのは、簡単に言うとルールのあるおままごとだ。コンピュータゲームのように自分のキャラクターのステータスがあり、それを使ってGMと呼ばれる進行役から与えられたシチュエーションをこなしていく。プレイヤーの選択や行為判定と呼ばれる成功失敗を決めるルールの結果によって、ストーリーが進行していく。
 そのTRPGの設定では、空達は異世界に接続し他人の意識を半ば乗っ取って世界に干渉をする存在「AWsの他世界エージェント」であり、これはその作戦である。という事になっていた。
――まさか本当に異世界が実在していたなんて……。というか、『虹の境界線を越えて』の空が本当に私だったなんて……。
――でも、まだ、まだ、偶然かもしれない。例えばこの世界が私の認識から作られている、というだけかも。これはカグラ・コントラクターという名前を聞いた時からずっと抱いていた疑問だった。
 だから、空は聞かないといけない。「あなたはレイエン?」 と。他に人がいる場所で聞いてしまうと、怪しまれてしまうかもしれない。なんとか二人きりにならないと。

 

「で、お目付け役は……よし、オリヴィア、お前が行け」
「了解しました。新入り達、私はオリヴィア・タナカ。あなた達の目付け役をします。私は基本的に皆さんの後ろに隠れて続きます。皆さんに命の危機が迫った場合にのみ介入し、助けます。要は試験が失敗したときの保険役です。そのほか、怪しい挙動がないか見極める役目も追っています。最終的には同志となる仲ではありますが、作戦中に限っては戦力として数えないようによろしくお願いします」
――オリヴィアさんは金髪セミロングの女の人だったのか。TRPGであった時は見た目の描写がなかったので、分からなかった。
 要はスパイがいないかの監視役であり、失格だった場合に命を助ける役だ。彼女の厄介になれば即ち失格、というわけだ。
 それから簡単に自己紹介がされる。改めてまとめると。
 空:電子戦
 ケイン:格闘技
 ズーク:ゲリラ戦
 ウォルター:狙撃
「作戦展開先はこのカードを一枚ずつ引いてもらって決める。そうだな……、ケイン、一枚引いてみろ」
「はい。暁の神よ、導きを……」
 ケインがカードを引く。空の記憶が確かなら、実際のTRPGでは、「主よ」と言っていたはずだが、アカシアには一神教の類が存在しないので、桜花の暁信仰に差し代わったのだろう。GMも「小説化にあたっては表現を一部変更する可能性がある」と言っていたし。
――ここで、主よ、と言ってくれれば確定だったのに。次の問題は結果が第552集積所になるかどうか。
「ふむ。第552物資集積所か」
 なった。

 

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 青い人のシルエットは外からの偵察で確認できている敵。赤い網掛けは高警戒である事が明らかである箇所だ。
 空達の合格目標は、武器、弾薬、防弾チョッキを最低1つずつは持って帰る事。多いほど加点される。また、ボーナスターゲットとして、高性能超伝導透析液ブロッサムブラッドを獲得出来れば大幅加点される。
「トラックに荷物をありったけ詰め込んで、トラックで脱出ってのはありかい?」
 空がかつて喋らせた通りにウォルターが質問する。
「ありだ。ただし、追手を振り切れるなら、だがな」
「トラックヤードは高い警戒が予想されるんでしょ? 正面からドンパチやるんじゃない限り難しいんじゃない?」
 結論から言えば、正面からどんぱちやる分にはトラック強奪も悪い手ではなかったな、と思いながら、空は自分から発言する。
「この施設、何時ごろ動いてるんです?」
「基本的に終日稼働中だ。だが、物資の移動は夜のうちに行うことが多いらしい。物資の移動が激しい間はよりトラックヤードに警備が集中するようだ」
 話が記憶の通りに進む。空は自分を盗みに自信があるとして売り込んでいる。記憶の通りのセリフを言うのもシャクだけど、自己主張しておいた方が良いだろう。
「じゃ、忍び込むのは夜かな?」
「なるほど。警備がトラックヤードに集中している隙に地下火薬庫を経由して侵入し、隣接する部屋から、武器、弾薬、防弾チョッキは得られる、というわけか」
 空の記憶通り、ウォルターが頷く。当時、空に発言を先回りされた気がしたのは気のせいではなかったわけだ。
「夜が良い。闇にまぎれられる……うん……」
「だな。定番だがそれがいい」
 これで基本の作戦は完了だ。実際にはもう一段階あったが、これは空からは言い出せない。
「そ、ボーナスを得られるかは、レーション倉庫が荷捌き室と壁で隔てられてるかどうかによるけどね。壁がないようなら警備を抜けてサイボーグ用装備の場所まで行くのは、リスクが高い」
「あくまでボーナス。リスクが高いならすぐに退くとしようぜ。命あってこそだ」
「だね」
 だから空は話を締めにかかる。ズークが同意してくれる。
「なぁ、この家屋の壁の厚さはどんなもんなんだ?」
 が、そこでは終わらず、ウォルターが質問をする。
「そこまでの情報はないな」
「S4で壁でも壊すつもり? ウォルター」
 ケインが尋ねると、ウォルターはニヤリと笑う。ちなみに、S4はこのアカシアにおけるプラスチック爆弾の名前だ。
「いや、もっといい手がある。なぁ、新入り。お前がその太ももにナイフを仕込んでるだろ。膨らみ方から察しが付く、それ、単分子ナイフだな?」
 覚えている。プレイしている自分達は精神干渉をしていると言う設定だから、本当はそのキャラクターの知らないことも知っている事にできる。それを利用して、空の持つ単分子ナイフの存在を指摘したのだ。しかし、ちゃんと隠してるのに見抜かれてニヤリとされると少しイラッとするな。
「……そうだよ、これは単分子ナイフ。これで、倉庫の壁を壊そうって?」
「以前に戦場で見たことがる。単分子ナイフは最も切れ味が鋭い間なら、鉄でさえバターのように切り裂ける。それで、壁に穴をあけよう」
「良いね。でも、どこを通るの?」
 諦めて空も発言する、と同時にウォルターも答える。
「医薬倉庫だ」「医薬倉庫だね」
――覚えてる。この時も、私の発言と同時にGMによる空の発言が被ったんだった。

 

 こうして話はまとまった。ズークが索敵、ケインと必要ならウォルターが敵兵を排除するのが基本。空がピッキングして裏口から侵入し、地下火薬庫を経由して倉庫に侵入し、銃火器、弾薬、防弾チョッキを取得。装備品倉庫と外の間に穴を開けて、外に脱出し、今度は医療品倉庫に穴を開けて侵入。そこで、ブロッサムブラッドを入手してクリアだ。
 全員が大きめのバックパックを背負う事で、荷物運搬を可能な限り楽にする。


 そして基地に侵入する。空が監視カメラの映像から正確な見取り図と敵の配置を確認し、裏口に移動、ズークが索敵をして、ウォルターが狙撃で見張を倒し、空が鍵を開けて、再びズークが先導していく。
 ところが、ここで問題が起きた。厳密には問題が起きるのは分かっていたので、監視カメラの映像の時点で、
「地下倉庫の入り口は監視小屋からは丸見えだから注意して」
 と言っておいたのに、うっかりと見つかってしまった。これはズークのプレイヤーが索敵の行為判定のサイコロで1を出して大失敗ファンブルしてしまったのが原因だ。と空は知っている。
 ウォルターが素早く反応し接近してくる見張りの一人を狙撃し、ズークも2、3発の撃ち合いの末にもう一人の見張を倒すが、既に増援は呼ばれた後だ。
「……ねぇ、これからどう戦闘しても増援も来るし、不利だよね? 私が今のうちに三種の神器だけでも回収して来ようか?」
「仕方ないが、そうしかねぇな」
「あぁ。不合格は困るからな」
「じゃ、行ってくる。出来る限りかき乱してよね」
――そう、不合格は困る。うう、やっぱり二人きりになるのは無理か
 やむを得ないので、空は地下火薬庫の入り口の鍵を開けて中に入っていく。
「おい、これを火薬庫に頼む」
 ウォルターにプラスチック爆弾を渡される。あぁ、覚えてる。義体兵の狙撃手二人に狙われ、目眩しのために「爆薬を空に託しておいた」事にしたんだった。
 空はウォルターに頷き返し、地下火薬庫への階段を降りていく。
「っと、あぶな」
 階段を駆け上がってくる兵士が見えた。慌てて単分子ナイフを空中で振り、”裂け目”を作り、駆け上がる兵士の後ろに出る。正面で戦う三人が陽動を勤める以上、空が敵に見つかるわけにはいかない。
 幸い、ほとんどがトラックヤードにいたのだろう、このルートを通る敵はいなさそうなので、急いで爆薬を設置する。
「爆薬設置したよ」
「こちらは監視小屋で遮蔽を取りつつ戦闘中だ」
 報告し、すぐに階段を登る。
――確かこの時ウォルターは対車両地雷をフリスビーの要領で投げるっていう無茶を言って、成功させたんだった
 階段を登ると銃火器倉庫に出る。武器の種類って指定なかったな。とりあえずハンドガンとアサルトライフル、そしてショットガンを一つずつバックパックに入れる。
「次は弾薬!」
 すぐに弾薬ブースに向かう。弾薬を発見し、バックパックに入れる。ハンドガン用、ショットガン用、アサルトライフル用。よし、次は。
「なんだ、貴様!」
 相手が腰からナイフを抜く。こちらに突き出されるナイフをなんとか両手で掴む。
――まずい、力押しだと、さすがに軍人には勝てない。転移は片手で空間を切り裂く動きがいるし……
 だが、このまま膠着していれば有利なのは敵の方だ。
「なら、足だ!」
 足を地面を裂くように動かす。すると、”裂け目”が出現し、私は敵の後ろへと”落ちる”。単分子ナイフを抜いて、相手の首をかき切る。
 一瞬、男の過去が見える。空は理解する。男はIoLの貧民の出で、高給が約束されたカグラ・コントラクターに入ったようだ。IoLは空の知るアメリカがそうであるように、貧富の差が激しく。誰でも拒まない高い給料を払うカグラ・コントラクターはそんな貧民達の希望になっている。
「また、頭痛。なんで、こんな」
 かぶりを振って、装備品倉庫に向かう。
 防弾チョッキはすぐに見つかった。
「今、防弾チョッキ確保した。ねぇ、あと少しだけ耐えられる? トラックを盗めばみんなを回収して一気に離脱できる気がする。ジープは私の見込みが間違ってなければ、ウォルターが封じてくれてるでしょ?」
――私の見込み、ね
 ちょっと笑ってしまう。これもTRPG中に出てきた台詞そのままだった。見込みなんてものじゃない。単に過去に自分がウォルターだったから、知っているだけだ。依然、自分の記憶から再現された世界という可能性は否ないが、より確信が強まった気がする空だった。
 全員から了承を得た直後、ズドンと大きな爆発音が響く。地下火薬庫が爆破されたのだ。
 空は覚えている。狙撃仕様の義体兵が三体も展開してきたのだ。狙撃仕様の義体兵は足をアウトリガーに、腕を銃の脚にすることで、どのような場所でも対物ライフルを扱える兵士である。そのまま放置すると、遮蔽を取っている三人全員がその場で撃ち抜かれる恐れがあった。だから、同じ狙撃手であるウォルターがこれに対処する必要があった。ところが、三人を同時には相手にできない。そこで、ズークと先の爆破で敵の注意を逸らす必要があったのである。
 結果、見事ウォルターは二体を撃破し、残り一体は最優先目標が変化したことで一瞬だが混乱状態に陥った。
「いくぞ!!」
 だからあとはこの状況で空がトラックの運転席まで転移して、トラックを始動させれば、私の勝ちだ。

 

 トラックがトラックヤードから飛び出す。
「待たせたねぇ!!」
 まずはヤードの前で揺動していたズークが飛び乗り、近接型義体兵と交戦していたケインが飛び移る。
 最後にウォルターが荷台に飛び乗り、ズークに指示する。
「弾幕を張れ、あそこだ!」
 ズークがその指示に従いアサルトライフルを乱射し、敵スナイパーの狙撃を阻止する。
 ジープがトラックの追撃に発進しようとするが、ウォルターの仕掛けた対車両地雷が爆発し、これも阻止。トラックは誰にも止められることなく、回収地点まで突っ走った。

 

 こうして、全員はその功績を認められ、作戦支部に格上げが認められた。しかし、それは同時に時間切れも意味していた。
 TRPGのシナリオはそこで終わりだったからだ。つまり、三人への精神干渉はここで終わり。カラは真相を聞く機会を失ってしまった。
「…………あれ、そういえば」
 一つ思い出す。セッションが終わってから、Twitterの友人から声をかけられたのを思い出す。

 

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 そう、他の一人には言わず、何故か私にだけそんな話をしてきた。当然のこの話の内容を覚えてる、助けの呼び方も覚えている。
 彼は、自分は後の空だと知って誘ってきたのか? なら何故そもそも、転移しないように助けてくれなかったのだろう。もちろん、助けようともした上で、この判断なのかもしれないけれど。
「いや、考えても仕方ないか」
 相手の意図なんて、どうせ考えてもわからない。元の世界に戻るのに元の世界の人間の助けが必要なようなら、そうする事にしよう。
「空、ブリーフィングの時間だぞ」
 考え事をしていたら、随分時間が経っていたらしい。
「今行く」
 いよいよ、レジスタンスとしての作戦が始まる。
「あ、でもその前に。ねぇ、読者の皆さん。時々、主人公がその世界の問題を何もかも解決するのが当然かのように思ってる人がいるよね。もし、貴方がそうなら、先に言っておきたい。それは大きな勘違い。詰んでる世界ってのはあるし、その中でいかに生きるかを描く作品だってある。あるいは努力するけど志半ばに破れる話とかね。それと同じように、私はこの世界を救う気はない。だから、この物語が、カグラ・コントラクターを倒す物語だと思っているなら、それは勘違い。私が元の世界に戻るために奔走するのが私の目的であって、この物語の中でこの世界が変わることは絶対にない。まぁ分かり切ってる事かもだけど、時々、そんな当たり前のことすらわからないお花畑な人もいるからね、先に言っておくよ」

 

To Be Continued…

 

第5章へ


 

 この物語はフィクションですが、この世界で彼女を救うために動いた人間がいたこと、その人間達によって起きた出来事と変化があること、その事実に一切の嘘はありません

 


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