虹の境界線を越えて 第5章

「むむむむむむつ~~~~」
 ひたすら集中して壁を睨む空。しかし、視線に質量があるわけでもなし、いかに集中しようと、壁に変化は訪れない。
「ダメかぁ」
 1時間くらいそんな無駄な時間を繰り返し、五体を大地に投げた。
「手を使えば一瞬なんだけどなぁ」
 寝転んだ状態のまま、二本の指を構え、空中に一本の線を描くように、あるいは、空間を切断するように、すっと振り下ろす。
 するとその場に空間の"裂け目"が出現する。
「おっ、超能力PSIの訓練か」
「ウォルター……」
 空しかいなかった訓練室に一人の老兵が入ってきて、空は慌てて立ち上がる。
「空間跳躍、便利な力だな。試験の時に明かしておいてくれれば、話はもっと早かったんだが?」
「そうは言っても、西側じゃPSIサイなんて眉唾でしょ? 本当の事を言ったとしても作戦に組み入れてくれるとは思えなかったけどな」
「それは確かにな。俺もサイソルジャーなんてものを見たのはお前が初めてだよ」
 PSIサイ。義体技術が発展した西側諸国に対抗し、東側が注目し研究した技術である。そして、そのPSIを操る兵士を超兵、サイソルジャーと呼ぶ。もっとも、空が調べた感じだと、東側のプロパガンダであって実在はしない可能性が高そうだったが、実際には多くの人が、兵士さえも超兵の生き残りを恐れている。
 もちろん、空の能力はPSIではないが、レジスタンスに入るにあたり、自身を超兵と名乗る事にした。レジスタンスには東側の人間も多くいるし、その手の偏見も少ない事がわかったからだ。説明が楽になるに越したことはない。
「そいやよ。お前さん、桜花人だろ? なんで東側の兵士に?」
「あー」
 ――考えてなかった。
 空は一瞬考える。そして思いつく。賭けにはなるが、この世界とそこまで歴史が変わらないなら通るはず。
「えーっと、桜花の言うところの"北の国"に拉致されて、そのまま東側に売られたんだよね」
「"北の国"……、なるほど、北遼西きたりょうせいか。確かに遼西りょうせいが統一される前は、桜花に拉致被害があったと聞くが……、それは随分前だぞ?」
 ――来た!
 泥棒の経験で積み重ねた脳の回転の速さには自信があった。
「あー。実験の結果ね、色々あってさ。私、見た目通りの歳じゃないんだよね」
「そうだったのか……。そりゃ、嬢ちゃんなんて呼んですまんかったな」
「ううん、いいの。若く見られるのは嬉しいから。これからも存分に若者として扱って。そして私聞かれない限りこの話をするつもりはないから、ウォルターさんも言いふらさないでね」
「そう言うもんか? 女性ってのはわかんねぇな。そういうことならわかったよ。じゃ、俺もそろそろやるかな」
 ウォルターは訓練用のライフルを取って射撃演習場に歩いていく。
「ふぅ。っと、訓練の途中だった」
 視線を"裂け目"に向ける。
 今更あえて説明するまでもない、空間に"裂け目"を生成し、短距離を跳躍する。今、空が持っている最大の手札だ。
 しかし、いくつかの欠点がある。
 まず、一つ目に跳躍出来る距離が不透明であること。とりあえず、短距離という事しか分からない。能力を行使し、"裂け目"が生成されるかどうかで試すしかない。これは、緊急時にはかなり致命的だ。
 流石に視線の通る範囲なら確実に生成されるため、戦闘時に問題になることはないが、問題は逃走時だ。出来る限り距離を稼ぎたいが、あまりに遠過ぎれば発動せず、だからといって変に近すぎれば逃走し損ねる。
 次に2つ目。腕を振って直線を描かなければ"裂け目"が生成できない事だ。徒手空拳である必要はなく、武器を握っていても問題はないが、いずれにしても腕を降る必要がある。言うまでもないが、これも緊急時に不便だ。
 例えば腕が使えなくされればそれでアウトだ。戦闘時も腕を自由に使える時だけとは限らない。
 一つ目は、使用可能な距離を掴めばいいが、二つ目は厄介だ。
 ――私の知ってるカラは対処出来てたんだよなぁ
 空は知っている。やがて成長した自分なら、こんな無駄な予備動作を取らなくても"裂け目"を生成できる事を。
 ようやく話が繋がった事と思うが、冒頭で空が壁に向かって唸っていたのは、即ち一切の動き無しで"裂け目"を生成する訓練であった。
「はぁ、夜風を浴びてこよう」
 表向き『アエリアル・フロントライン』というPMCの教習施設ということになっている建物を出る。外にはランニングなどに使えるフィールドがある。
 空を見上げる。
「うーん、あれが……小熊座、かなぁ?」
 空の知る世界とは似ているようで違う異世界なこの世界だが、空の知識の及ぶ範囲だと、夜空はそっくりだ。
 北の空には北極星らしき光が見えるし、砂時計のような形をしたオリオン座らしき並びが見える。夏空になれば天の川も見えるかもしれない。
 空は天体にはさほど詳しくないため、もしかしたら有名どころがたまたま似てるだけの可能性もあるが。しかし、この夜空だけは元の世界のままな気がして、眺めるのが好きだった。
 ――あとは月があれば完璧なんだけどなぁ
 唯一明らかに違うのは、月がない事だった。
「やぁ、星が好きなのかい?」
 誰かが後ろから声をかけてくる。まだ入ったばかりの私には顔と名前が一致しない。
「あぁ、私は天体観測スターゲイズ、と呼ばれている」
 空の気持ちが顔に出てしまっていたのか、男が名乗る。
無線上の呼び名コールサイン?」
「あぁ。レジスタンスでは本名がバレると不味いからね、基本的に偽名で呼び合うんだ。それは知ってるだろう?」
 知っている。だから、カラは偽名だし、ウォルターも偽名だ。厳密には私達三人は偽名のつもりで設定しなかったのでその辺どうなってるのか謎だが。偽名と言うことになっているのだと思う、多分。
「それで、天体観測が好きだから、スターゲイズ? どっちかというと非公式愛称TACネームみたい」
「違いないな。それで、星が好きなのかい?」
「んー、どうだろう。むしろそこまで好きじゃなかったかも。星座とかも詳しくないし。ただ、夜空を見てると故郷を思い出すんだよね」
「ふむ。君の儚げな表情からは、まるでその故郷に帰るのが難しいことのようだ。ホームシックに陥ったのなら、一時的に故郷に戻ることも……」
「あぁ、そういうんじゃないから大丈夫。ところで、いきなりどうしたの。夜に毎日顔だけは合わせてるんだから、今更声かけるなんて不自然でしょ」
「む。そうだったか。いや、声をかけて良いものか悩んでいたという事実はあるんだが。君は、クラッキングも得意だと聞いているが、確かか?」
「相手のパソコンのデータを盗むのが得意か、という意味ならそうだよ。可能か、という意味なら、状況によるとしか言えないけど」
「なら、それで構わない。昨日、試験で物資集積所に忍び込んだ仲間の一人が捕まった。しかも試験監督役だ。救出作戦を実行したいが、現状、この基地には余剰戦力がない。また、試験監督役が捕まったのは、本当に失敗なのか、試験を受けた者の中にスパイがいて仕組まれたのではないか、とも疑われている」
「なるほどね。この基地に動かせる戦力はなく、周囲に要請するにも、この事態が仕組まれたものである可能性を恐れて腰を上げてくれない、と」
「理解が早くて助かる。しかし、彼は私の友人なんだ。そこで、当該集積所、及び、そこから連れて行かれた収容所のコンピュータにクラッキングを仕掛け、背後関係を洗って欲しい。また、収容所内の情報を集め、この基地内のわずかな戦力で可能な救出作戦のプランが立てられればベストだが、また新人の君には重荷だろうから、無理にとは言わない」
「えっと、それはいわゆるこの施設のパソコンからネットワークを経由して、ということですか? あるいは、ソーシャルハッキングなんかの物理的なハッキングも含めますか?」
 戦力を集める、という言葉から、組織内でも目上の人間だと判断し、口調を変更する。
 ハッキング、クラッキングと一言で言うが、その詳細は多岐に渡る。創作でよく見られるパソコンから遠隔地のパソコンにアクセスして情報を見るのはもちろんの事として、極端な話、相手の部屋に押し入ってパスワードの書いた紙を見つけ、相手のパソコンにそのパスワードを入力して中身を見ても、それはハッキングと言える。
「ネットワークを介したクラッキングで頼む。パソコンは用意する。引き受けてくれるかな」
「はい。ただ、私はいわゆるソフトウェア頼みスクリプトキディなので、いつも使っているソフトウェアをパソコンに入れさせてもらう必要がありますが」
 そう言ってUSB式のフラッシュメモリを取り出す。
「構わんよ。来てくれ、こっちだ」

 

 しっかり人払いされた部屋に案内される。ラップトップが一つ置かれている。
 起動してみると、空の持つソフトウェアと互換性がある事を確認済みのOSだった。
「やれそうかね?」
「はい。これなら大丈夫です」
「では、頼んだ。私は出来うる限り戦力を集める」
 スターゲイズが退出する。
「じゃ、やりますか」
 ペロリと唇を舐めて、フラッシュメモリをラップトップに差し込み、ソフトウェアの準備を行う。
「まず、見つからない程度にターゲットのセキュリティを確認しとこうかな」
 ポートスキャン用のソフトを起動しIPアドレスを入力する。
「む、見た事ないシステムが動いてる。ノイマン式コンピュータだったり、SSHやFTPとかは基本変わらないから助かったけど、流石に全部が全部、同じなわけないか。そして、ファイアウォール。ううん、こっちの解析ソフトでアナライズ出来るかな。……プロキシからBOTネットでオーバーフロウを狙うにしても、ファイアウォールは破らないとなぁ」
 とりあえず、目眩しにもBOTネットは使う価値があると考え、適当な民間のセキュリティの弱そうなパソコンを見つけては、ディクショナリ攻撃で侵入し、管理者権限を奪ってBOTネットを仕込んでいく。
 一連の流れをボタン一つでできるように自分で構築してあった空は、アプリケーションが動作し画面上に無数の単語が流れるのを眺める。
「まとめて100個に侵入を試みて成功率は55%ってとこか。半分くらいはディクショナリ攻撃ではどうにもならない程度のパスワードにしてる訳だ。感心感心」
 ディクショナリ攻撃というのはパスワードに使われそうな単語をひたすら試す攻撃の事を言う。その成功率が55%ということは残りの45%はランダムな文字列なりパスフレーズなりを採用している可能性が高い。比較的セキュリティに注意している人達だと推測出来た。なお、特にその事に意味はない。ただ、空がその事実に感心しただけだ。
「よし、やるか。攻撃開始」
 BOTネットに感染した55のパソコンが無駄なパケットをひたすら送信し、プロキシサーバーが正常に動作しなくなる。
「さて、ここからは時間との勝負だ」
 慣れた手つきでいくつかのソフトウェアを起動する。
「やっぱり名前が同じものでも勝手は違うか。HTTPのポートもFTPのポートも奪えないし、ファイアウォールはアナライズ出来てない。とはいえ、SMTPは落とせたなぁ。よし、ウイルス送り込んじゃえ」
 ポート番号25番、電子メールを転送するプロトコルにトロイの木馬型ウイルスを送り込む。
「後は任せたよ。私達は撤収だ」
 BOTネットを制御しているソフトの終了処理を実行する。すると、55のパソコンのログから空の行なった不正な操作の痕跡が消え、BOTも消え去る。
「さてさて、木馬君はどうなったかなー?」
 SMTPに仕掛けたトロイの木馬は電子メール転送プロトコルを利用し、このラップトップにパソコン内の全情報を送ってくれるはずだった。
「お、来てる来てる」
 空の趣味で空の仕掛けたトロイの木馬は、パソコンの情報を全て盗んで、自身のパソコンにそのパソコンと全く同じ仮想マシンを作る仕組みになっていた。
 そんな膨大なデータをやり取りすれば痕跡が残るが、今回、データの転送に用いたSMTPは既に空が掌握済みなのでその問題はない。
「ふむふむ。なるほどね。このパソコンで施設の色々を制御できる。そしてそれは、本当なら、このパソコンでしか出来ない、と」
 しかし、そのパソコンの複製がまさにここにある。
「うーん、ラッキーって感じだね。これ一つで施設全体のことが分かりそうだ」
 早速尋問の音声記録データを見つけた。
「残念だったな。今回試験を受けたウラミカグは俺たちのスパイなのさ。間も無くお前達のアジトへの攻撃も始まる」
「まずい!」
 uramikag→mikaguraというアナグラムか。という感心している場合ではない。
 通常ならスターゲイズに連絡を取り、スターゲイズから上司に伝えてもらい、上司から連絡を入れてもらうべきだが、それでは時間がかかりすぎる。
 即時その音声データを切り取り、レジスタンスネットワークから、当該隠れ家ハイドアウトのコンピュータに接続する。
「あぁ、もうセキュリティ鬱陶しいなぁ」
 レジスタンスの暗号化方式は知っているので機械的に行えるが、それでも時間はかかる。
 ソフトウェアが処理を行なっている間に、スターゲイズに音声データを送り、状況を説明する。
「よし、とった」
 コンピュータから接続されているハイドアウト内のスピーカーの音声再生システムに先の音声データを再生させる。
 これで、ハイドアウトにいるウラミカグがスパイだと言うことも、危機が迫っているということも伝わるはずだ。
 ハイドアウトの避難用の緊急通路が稼働したことを示す表示が出たのを確認し、状況が伝わったと判断して、基地のコンピュータとの接続を解除する。
「つまり、こういうことだな? いまその基地の兵力はこちらのハイドアウト攻撃のために出ていて、少なくなっている、と」
 メールに返信が返ってくる。
「そうなりますね。そしてこちらは基地内の警備システムを一通り掌握できてます。突入部隊に入れてもらえれば、必ず役に立てます」
 返信する。
「なら、そのラップトップを持って以下の地点に合流してくれ」
 すぐに返信が届く。集合場所を示す暗号を最初からラップトップに入っていた解読デコードソフトで解読し、向かう。

 

「来たか。プランを」
「はい。まず、監視カメラにダミー映像を流す準備と、各種ドアのロックを必要に応じて解除する準備は完了しています。緊急基地内放送をジャックしているので誤情報を流すことも可能でしょう。ただ……」
 監視カメラに兵士が移れば、当然居場所がバレる。最悪、外に向いている監視カメラで潜入しようとしていることさえバレるかもしれない。しかし、監視カメラは基本的に定点を映していることから、全く何も映ってない平時の映像をループして流すだけで誤魔化せてしまう。厳密にはカグラ・コントラクターも様々な対策を打ち出してはいるが、未だこの手の手法に対抗するのは難しいのが現実だった。
 そして基地内のゲートや扉はいざと言うとき侵入者のルートを制御するため、遠隔で操作が可能になっている。本来は進入を拒み、防衛するためのシステムだが、今は空の掌の上で全く真逆のものとなっていた。
 最後に、緊急基地内放送は基地内の連絡を警備システムから一本化して行なっていたため、ジャックすることが可能であった。個人携行の無線機が当たり前の時代とはいえ、基地という括りの中では、未だに施設内の放送に頼っている面が多分に存在する。その隙をついて、司令部からの連絡を遮断し、偽の連絡を送ることができるというわけだ。
「義体兵か」
「はい。義体を装備した兵士は基本装備として無線機を所持しています。義体兵のシステムは私の知識では侵入出来ず……」
 しかし、義体兵にはその欺瞞情報は通じない。基地の司令部と直接無線連絡が可能だからである。
「それで基地内の義体兵はどれくらいいるんだ」
「幸いな事に殆どがこちらのハイドアウトへの攻撃に加わっていますので警備に残っているのは二人だけです。基地内という閉所での戦闘を想定した要員なのでしょう、どちらも近接特化のタイプです」
「なるほど、一体ずつ、弾幕を張れば、倒せない相手ではない」
 近接特化型の義体兵は火器を持たず、火器を扱うためのインストールや装備もなく、ただ、脚力とパンチ力が鍛えられた個体だ。ただ、一瞬で距離を詰めて対象をその拳で殺害せしめるその能力は、主に廊下で構成され、遭遇戦を余儀なくされる基地内では脅威である。
「そしてこちらは相手のルートをある程度制御できる」
 それはつまり、致命的な遭遇戦を避けることが出来るという事だ。
「なるほど、捕虜を奪取するだけでない、獲れるな」
 獲れるとは、占拠出来る、そういう事だ。
 もちろん、レジスタンスがカグラ・コントラクターの基地を一つ占拠したところで仕方ない。すぐさま近隣の基地から攻略部隊が繰り出され、良くて二日もしないうちに陥落するだろう。
 だが、ハイドアウトに向けて戦力が進軍中の今、この基地を占拠すれば、ハイドアウト攻撃部隊は帰る場所を失う。基地そのものは近隣に探せばあるにしても、どの基地に入るかだけでも指揮系統は混乱する。そして基地に入るにしてもそこは自分たちの勝手知ったる詰所でも休憩室でもない、ロッカーの私物もない、となれば士気の低下は必至だ。
 ハイドアウトは現在避難が進んでいるはずだが、間に合うとも限らない以上、この基地の占拠はハイドアウトの人員を守るためにも必要な措置だと考えられた。
「そうと決まれば、作戦開始は早い方がいいな。すぐに動けるか?」
「はい。監視カメラにダミー映像流します。正面ゲート開きます。正面入って右の通路に突入してください」
「よし、全員行くぞ!」
 空の指示に従い、自分たちを迎え入れるように開かれた正面ゲートを通って進軍していく。普通正面ゲートには監視員がいるものだが、それすらも監視カメラと機械に一任されていた。空からすれば大助かりである。
「その通路を右に曲がると長い廊下です。そこで近接型を迎え撃ちます」
「よし、全員構え! 姿が見えたら撃て!」
 奥の扉から義体兵が姿を表す、と同時にアサルトライフルの一斉射撃が襲い掛かる。
 いかに反応速度の優れた近接特化義体兵も、気付くより前に放たれた弾幕を回避することは出来ない。
エネミーダウン!」
「基地内通信の妨害を開始します。このまま前進して、まずは捕虜を救出します。そこの扉を開けた先の左右に敵が警備しているので適当に黙らせてください。近くに警備もいるので出来れば音は立てず」
「了解だ、前進!」
 空の指示に従い、敵を昏倒させて捕虜の収容室を確保する。
「無事だったか」
 スターゲイズがボロボロの捕虜に駆け寄る。
「あと5秒で敵。構えて!」
 スターゲイズがこの状況で指揮を取るのは不可能と判断し、空が号令する。
 入ったばかりの空の命令に従ってくれるかは不安だったが、先ほどまでのやり取りで空が実質的な作戦立案者であるということは伝わっていたのか、全員がしっかりと武器を構える。
「撃て!」
 扉が開くと同時に一斉発射される。
 全員が撃ち切る。
「しまった!」
 しかし、敵も馬鹿ではなかった。もう一人がやられたということは弾幕攻撃があったのだろうと見抜き、防弾盾を持った二人の兵士を引き連れていた。そしてアサルトライフルの一斉射撃はその二人の兵士が通路を覆うように展開した防弾盾によって防がれていた。
 二つの防弾盾をかき分け、義体兵が一歩踏み出す。味方がリロードを始めるが、間に合わない。
「リロード続けて、私が時間を稼ぐ」
 単分子ナイフを抜き、空間を切断するように"裂け目"を作り、一気に義体兵に肉薄する。
 近接型と近接戦闘に持ち込んでも勝ち目はない。しかし、生半可に距離を取ったところで即詰められるだけ。なら、リロードが終わるまでのわずかな時間を、稼ぐしかない。
 ――まずは片腕だけでも!
 先手を取って片腕を奪えれば、時間を稼げる目が大きくなる。単分子ナイフなら切断できる目はあるし、まして短距離跳躍による不意打ちだ、予測できるとは思えない。
「うそ」
 が、しかし、そのナイフはがっしりと握られる。
 ――義眼!
 相手の顔を見て気付く、片目が機械の目をしている。その目でこちらの動きを捉え、即座に対応したのだろう。
 このままだと鉄拳を食らう。と判断し、ナイフを手放して、後ろに飛ぶが、敵はナイフを握り直し、投擲してくる。
「うそでしょ、ちょっ」
 とっさに指を振り、"裂け目"を開いてナイフを何処かへ飛ばす。
 ――あ、今の、あいつの背中に飛ばしてやればいけたな。常に冷静にいないと
 直後、近接型の鉄拳が飛ぶ。
 ――一か八か!
 "裂け目"を合わせる。
 見事、鉄拳は"裂け目"に入り、自身の頭部を殴打する。
 動きが止まった隙を逃さず、機械の目に単分子ナイフを突っ込む。
「いけます!」
 後ろから声が聞こえ、半ば近接型を蹴るように空中で宙返りをして、"裂け目"の中に消える。
「撃て!」
 スターゲイズが号令し、近接型が蜂の巣と化してゆく。
「よく時間を稼いでくれた」
「肝が冷えたよ」
「よし、義体兵は倒した。後は各個撃破するぞ。指示を」
「部隊を3つに分ける。一つは司令部を制圧、残り二つの部隊は私の指示通りに」


 それから数分で基地の制圧は完了した。
 こちらの想定通り、ハイドアウトへの攻撃部隊も撤退を開始したらしい。
「よくやった、カラ、君の活躍はしっかりと本部に報告させてもらう。だが、ハイドアウト攻撃部隊がどこかの基地に帰還したのを確認するか、どこかの基地から、この基地の攻略部隊が出撃するのが確認されるまでは、この基地は警戒配置を続ける。協力してくれ」
「それはもちろん」
 その後、皆で警戒しながら、置き土産ブービートラップを基地に仕掛け、攻撃部隊のためと思われるティルトジェット機が航空基地から最寄りの基地へ着陸したという情報が入ると同時に、撤収した。

 

 それから数週間後。
「功績を認められて本部勤務を認める、とか、過去最速だぞってのはまぁいいんだけどさ。本当にこんなところに本部があるの? 竜宮城?」
 漁船に擬装された、というより漁船そのものな船の上で空が呟く。
「まぁ待ってな。おい、まだか?」
「間も無くです」
「なに?」
「上だよ」
 男が真上を指差す。
「空にはカグラ・コントラクターの持つ偵察衛星や宇宙戦艦がゴロゴロしてる。それが全部空にいない僅かな間を突く必要があるんだ」
「10秒後に最後の衛星が通過し、30秒だけ空白になります! 5、4……」
 別の男が漁船のフリをするために海に投げていた網に駆け寄る。よく見ると網の紐の内ひとつが伝声管になっている。
 ――海中の誰かに何かを伝えている?
 と思った次の瞬間。
「1、0!」
「衝撃備え! 何かに捕まれ!」
 直後大きな波が襲う。空と空の乗る漁船の目の前に現れたのは、巨大な潜水艦であった。

 

To Be Continued…

 

第6章へ

 


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