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常夏の島に響け勝利の打杭 第4章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 「Nileロボットアーツコンテスト」の監視のためにハワイに訪れていた匠海たくみは前日の観光でからと名乗る女性と出会う。
 大会当日、匠海が試合を監視していると、決勝戦でアンソニーの操るロボットが〝裂け目〟を作り瞬間移動を始める。
 その〝裂け目〟が突然大きく広がり、向こう側から管理帝国を名乗るロボットが現れ、人々を襲い始める。
 空が作った〝裂け目〟からハワイ島に逃れた三人は管理帝国の宣戦布告を聞き、侵略を阻止しなければ、と考える。
 その作戦の一環として、アンソニーが趣味で開発していた全高6メートルの大型ロボットが役に立つのではないか、という話になり、一同はロボットのもとに移動、匠海がその改修を開始する。
 改修が終了したタイミングで空が「砂上のハウンド団」というコマンドギア使いの傭兵を連れてくる。
 作戦が始まり、まずはハワイコンベンションセンター外縁部にロボギアと四足歩行ロボットを引き寄せたアレックスが交戦を開始する。

 

アレックスが敵を引き付け、ロボギアの大半を撃破したことで匠海たちも〝裂け目〟のある会場に突入する。

 

〝裂け目〟からロボギアの増援が出現する。絶体絶命のピンチになったその時、上空から一機のティルトジェット機が現れる。

 

 
 

 

カグラ・コントラクターカグコン!?!? 空が言ってた通りに、今回の事態の収拾に来たのか!?!?
《違うよ、事態の収拾に来たなら、ティルトジェット機一機なんておかしいし、特殊第四部隊のエンブレムがついているはず。あれは一般部隊だからこの世界生まれの輸送部隊だよ。一体何しに……》
 匠海の呟きに、空が即座に否定する。
 様々な世界を渡り歩いていた空なら分かる。この事態は特殊第四部隊でないと鎮圧できない、と。
 そう考えるとたった一機で飛来したカグラ・コントラクターの一般部隊は一体何のために。
 そんなやりとりをしている間に、ティルトジェット機の扉が開く。
「そこまでだ! 異世界からの侵略者!」
 しわがれているが、凛とした声が会場に響く。
 誰だ、と匠海がティルトジェット機を注視した。
 そこに、一人の老人が立っていた。
 老人? と匠海が思わず声を上げる。
 見た目だけでは白狼をはるかに上回っている、百歳に届こうかと思われる老人。いや、そもそも白狼も単純な年齢は百歳を超えているのに六十代前後にしか見えないので比較対象にしてはいけないが、それでもごくごく普通の老人が一体こんなところに出張って何を。
 それとも、管理帝国にすら影響を与えるほどの発言力を持った人間だというのか。
 そう考えて、匠海はそんなことがあるかと首を振った。
 管理帝国は先程、何の前触れもなく現れた異世界からの侵略者である。そんな侵略者に影響を与えるほどの発言力を持った人間がいるはずもない。
 だったら何だ。
 見ていると、老人は開かれたドアから飛び降りようとしているようにも見える。
「やめろ! ジジイがどうこうできる相手じゃないだろ、無茶だ!」
 思わず匠海が叫ぶ。
 その声が聞こえたわけではないだろうに、老人はティルトジェット機にショットガンを向けるロボギアたちと、匠海たちが乗るロボットを見た。
「よくここまで耐えたな。あとは任せろ、異世界からの侵略者は、この正義のヒーローが許さない!」
 そう、声高らかに叫び、老人は右腕を胸の前に掲げた。
 その手首に、何らかの機械が出現する。
「あれは――!」
 ロボットのカメラアイによるズームで老人を見ていた匠海が声を上げる。
 老人の手首に現れた機械、それに匠海は見覚えがあった。
「あれは、さっき空が持っていたやつ!?!?
 あの機械は、先ほど空が渡してきたアフロディーネデバイスとかいう代物。匠海は使い方が分からず突き返したが、あの老人は使い方を知っているというのか。
《Please Set Orb.》
 デバイスから機械音声が響く。
 その時になって、ロボギアも危険を感じたのだろうか。
『今すぐ着陸して投降しろ! さもなければ撃つ!』
 ティルトジェット機に向けていたショットガンが、老人に向け直される。
 だが、老人はそれに構うことなく右手首の機械に何かを差し込んだ。
《Warning! Warning! Your device has been fitted with an unknown unit!》
 手首の機械が明滅し、警告を発する。
 それに構わず、老人はティルトジェット機から身を躍らせた。
「な――!」
 匠海が声を上げるが、老人は平然としたまま声高らかに叫ぶ。
「変身!」
 叫んだ直後、老人は機械に鍵のようなものを差し込んだ。
《Chaos key confirm.》
『何だあいつは! 撃て! 黙らせろ!!!!
 隊長の指示と同時に、ロボギアたちが一斉に老人に向けてショットガンを撃つ。
「しまっ――」
 発砲したロボギアたちに、匠海は我に返り、自分の判断のまずさに舌を打つ。
 あの時、ロボギアたちは動きを止めていたし、アンソニーも攻撃が止まったことで動きが止まっていた。
 動作制御システムを落とすには絶好のタイミングを、匠海は乱入者に注意を払ってしまったことで逃してしまった。
 駄目だ、あれを避けることはできない、と匠海が絶望の眼差しでティルトジェット機から落下する老人を見る。
 目を逸らすことはできなかった。何故か、見届けなければいけない、と感じていた。
《convert the data from data space to manifestation space.》
 機械音声がショットガンの発砲音に負けず、響き渡る。
 次の瞬間、匠海は信じられない光景を目の当たりにした。
 老人の前面に展開される無数の赤いオーブ。
 無数のオーブがショットガンから放たれたベアリング弾を全て受け止め、老人には、そしてその背後のティルトジェット機には一発も当たらない。
「今日も頼むぜ、相棒!」
 落下しながら、老人が不敵に笑う。
《ムサシ!》
 展開された無数のオーブのうちの一つが老人に向けて飛翔し、左手に収まる。
 そのオーブを、老人は右手首の機械に装着した。
《属性:切断! 戦いを決断! 外国人でも和の心! ピグマリオン:ムサシ! いざ、一、二、三の太刀!》
 派手な音声と光の演出、それに負けないアナウンスが響きわたり、次の瞬間、老人の姿は全く別のものへと変化していく。
 直後、地面を凹ませながら老人が着地する。
「なんだ……?」
 呆然として呟く匠海。
 着地した老人が、ゆっくりと立ち上がる。
 いや、老人と呼ぶには語弊があるだろう。
 その姿はもはや老人ではなかった。
 二十歳くらいの黒髪の青年が、そこに立っている。
 髪は短めのポニーテール、青い和装束に、左右の腰には刀が刺さっていない鞘が二本。
 それなりの高所から飛び降りたにもかかわらず、老人、いや青年が平然と立ち、ロボギアたちを見据えている。
千晶ちあきと生きていくためにも、あんまり若返りは使いたくないが。戦う時は仕方ないよな」
 そんなことを言いながら、青年は腰に手をやり、抜刀の動きを取る。
 その手に、ネオングリーンに輝く刀が握られる。
 いや、匠海が目を凝らすと、その刀はまるでコンピュータグラフィックス3DCGのワイヤーフレームのように緑色の光のラインが輪郭を形どり、全体が光を放っているように見えた。
 戦場に降り立った謎の人物、しかし明らかに味方に見えるその青年に、頼もしさを覚える。
 青年が刀を構え、次の瞬間、地を蹴ってロボギアの一機に接近した。
 ロボギアもショットガンを撃つが、放たれたベアリング弾を、青年はただ睨む。
千風刃せんぷうじん!」
 青年がその言葉を放ち、一睨みすると同時に、青年の周りに無数の風の刃が出現し、ベアリング弾を弾き飛ばす。
『な――!?!?
 ロボギアのパイロットが声を上げる。
 いきなり現れた老人が若返ったと思ったらただ一睨みしただけでこちらの攻撃を防いだのだ。あまりにもあり得なさすぎる展開に、思考が追い付かない。
 パイロットが呆然とする間に、青年はロボギアに肉薄し、刀を両手でしっかりと握り締めた。
一の太刀いちのたち大太刀おおたち罵棲汰悪怒ばすたーどり!」
 地を蹴り、青年が大きくジャンプした。
 両手で構えた大太刀を最上段に振りかぶり、目の前のロボギアに縦一文字に振り下ろす。
 光のワイヤーフレームでできた大太刀が、ロボギアの頭頂部から足元までを切り裂き、ロボギアが左右に分かれて倒れていった。

 

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