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Vanishing Point / ASTRAY #01

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ここまでのあらすじ(クリックタップで展開)

 「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。

 朝起きた辰弥はノインによって身体をいじられていた。どことは言えないが。

 河内池辺に到着した三人はまずご当地名物の餃子を食べよう、と店を選び始める。

 とりぷる本店で三人は餃子を楽しむ。

 餃子を食べた後、辰弥は土産物屋でキーホルダーを手に死んでしまった千歳に想いを馳せる。

 

 三人が乗ったキャンピングカーがRVパーク池辺に到着すると、晃はもう到着していたようで、パークの入り口で「こっちこっち」と手を振っていた。
 鏡介がマニュアル運転に切り替え、晃の誘導に従って車を進めると大型車両専用スペースの一角に一台の大型トレーラーが停車しているのが見えた。
「やあ、みんな無事だね!」
 三人と一匹が車から降りると、晃が嬉しそうに三人を見て頷く。
「メンテ資材はちゃんと揃えてきたから安心してくれ」
「ああ、頼む」
 鏡介が代表してそう言い、トレーラーに視線を投げた。
「……でかいな」
「いいだろー? いやー、いつかは使いたいなと思って買ってた移動ラボなんだが、実際こうやって出番が来ると嬉しいものだね」
 ふふん、と晃がトレーラーに歩み寄る。
「でもね、この移動ラボのすごさはこれだけじゃない。見てて」
 そう言いながら晃がコントロールパネルを展開し、いくつかのスイッチをオンにする。
 最後のスイッチをオンにした瞬間、移動ラボが唸りを上げた。
!?!?
 晃の操作を見守っていた三人が声にならない声を上げる。
 晃が乗ってきたトレーラー――移動ラボの両サイドが拡張し、後部の収納スペースを大きく広げたのだ。
 サイド部分が展開しきると、それを支えるために自動で支柱とアウトリガーが展開、車体を地面に固定する。
「す……すっげえ!」
 一つの研究室となった移動ラボに、日翔が歓声を上げた。
「三人三様の設備が必要だからね、これくらいは用意しないと狭くて何もできないってもんだ。中もすごいよ、入って確認してくれ」
 展開された階段を上り、晃が移動ラボの扉を開く。
 中に入った三人はその内部の広さにただただ驚くしかできなかった。
 移動ラボの四隅のうち、三つの隅にそれぞれ透析用のベッド、生体義体メンテナンス用のベッド、そして調整槽が置かれている。格納中はそれぞれが干渉しないように折りたたまれる仕組みとなっているが、それでもこの移動ラボの規模には圧倒されるしかない。
 三つの設備を設置してもなおラボ内部は余裕があり、三人は余裕を持って中を歩き回ることができた。
「……あれか、カグラ・コントラクターカグコンのレスキュー部隊が持っている特殊救急車スーパーアンビュランスの車体をベースにした移動ラボか」
 ふと気づいた鏡介が声を上げる。
「よく分かったね。特殊救急車スーパーアンビュランス自体は桜花に三台しかないんだけど拡張車体は一応一般販売されてるからね。実際に買ってる人はいるらしいよ?」
 そんな説明をしながら晃は手際よく設備をチェックし、辰弥と日翔を見た。
「まずはエルステと日翔君の調整をしようか。エルステに関してはオートでメンテナンスできるから同時に日翔君の武装オプションとかいじるよ。鏡介君の透析はどうしても時間がかかるし時々チェックしないとトラブルの元になるから後で個別にやるよ」
 晃がそう言っている間に調整槽に薬液が満たされていく。
「分かった」
 調整槽に満たされた薬液と辰弥を見比べ、鏡介が頷いた。
「じゃあ、二人の調整が終わるまで俺はキャンピングカーの方で調べ物をしておく。お前ら、しっかり調整してもらえよ」
 そう言いながらも、鏡介の視線は晃に移動している。
「他にスタッフもいないようだが、一人で大丈夫か? 多少は手伝えないこともないが」
 こんな大型の特殊車両を持ち出しながら、ここにいるのは自分たちと晃のみで他のスタッフがいる気配もない。
 一人で全ての機材を扱えるのかという鏡介の心配をよそに、晃はにっこり笑って親指を立てて見せた。
「大丈夫、ほとんど自動化してるし君が下手に触って設定が変わった方が危険だ。特にエルステの調整槽は薬品濃度のリアルタイム調整とか諸々あるし、私一人で大丈夫だよ」
「そうか、それなら俺は邪魔をしないでおく」
 辰弥と日翔に向かってひらひらと手を振り、鏡介は移動ラボを降りていく。
 それを見送った晃がほらほら、と辰弥と日翔に声をかけた。
「二人とも準備した。カーテンはかけておくから全部脱いで――ああ、日翔君はこの検査着に着替えてね。まぁ前回の調整からそんなに時間も経ってないし一時間もあれば二人とも終わると思うよ」
 二つの設備の間に用意されたカーテンが閉められ、日翔の姿が見えなくなる。
(あのさ晃、)
 日翔には聞かれたくなく、辰弥が目の前の晃に回線を開く。
《おや、通信とは日翔君に聞かれたくないことでも?》
(それ。ちょっと見てよ)
 検査や調整のためなら人前で脱ぐことにためらいはない。
 身に着けていたものをすべて取り払い、辰弥は晃に向き直った。
(これ見てよ)
《見て、って――》
 辰弥に言われて、晃が辰弥の全身に視線を巡らせ――。
「な――」
 「ない!?!?」と言いかけて慌てて口を押えた。
《え、ちょ、どゆこと》
(ノインが撤去した)
『だって邪魔だし、それに困ってないだろ』
《え、ノインが!?!?
 えー、ノインなにやってんのー、とばかりに晃が天を仰ぐ。
《エルステに生殖機能が備わってることに関して調べようと思ってたのにー》
(いやそれを調べてほしいとは思わないけど、まぁとにかくノインにやられたってことで)
《ノイン……。いやぁ相変わらずの気まぐれだなぁ……》
 しみじみと呟く晃に、辰弥はふとノインに声をかけた。
(やっぱり、分離したい?)
『んー……。分離できるなら』
 どことなく諦めたようなその物言いに、辰弥もそうだね、と頷く。
(セパレーターが開発されるまでの我慢、か……)
 とりあえずあまり変なことはしないでよ、と釘を刺し、辰弥は調整槽の中に身を沈めていった。

 

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