Vanishing Point / ASTRAY #01
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「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。
朝起きた辰弥はノインによって身体をいじられていた。どことは言えないが。
河内池辺に到着した三人はまずご当地名物の餃子を食べよう、と店を選び始める。
とりぷる本店で三人は餃子を楽しむ。
餃子を食べた後、辰弥は土産物屋でキーホルダーを手に死んでしまった千歳に想いを馳せる。
RVパーク池辺で晃と合流した辰弥たちはメンテナンスを受ける。
先にメンテナンスを受けた辰弥と日翔は鏡介の透析完了を待つ間に近くを散策するが、そこで「カタストロフ」の追っ手に襲撃される。
「カタストロフ」の追っ手との交戦、それぞれが得た新たな力を駆使し、撃退する。
空の下でカレーを食べる四人。晃は辛みが足りないとナガエシラチャーソースを使い、興味を持った辰弥はその辛さに悶絶する。
「――で、お腹もいっぱいになったことだしこれからについて打ち合わせしておこうか。あと、『カタストロフ』の襲撃についても確認しときたい」
(辰弥の中だけ)大騒ぎだった食事も終わり、晃がいよいよ今後についての本題に入る。
「一応、一般人に知られたくなかったのかな。人気のないところで襲ってきたんだけど」
思い返しながら辰弥が呟く。
あの時、近くにいると分かったから敢えて人気のない森に「カタストロフ」を誘い込んだ。それにまんまと引っかかった「カタストロフ」が襲撃してきたわけだが、そのあとは態勢を立て直すこともなく完全に撤退してしまっていた。
辰弥としては陽が落ちてから再度襲撃してくる可能性も考慮していたので拍子抜けもいいところである。
「まあ、『カタストロフ』も一般人は知らない秘密組織だからね。あの上町支部の解体で組織の名前を知った人間は多いだろうけど、何をやってるかとかは明言されてないから」
「むしろ、名前だけでも知られてしまったからそれ以上何も知られたくない、と」
辰弥の言葉に晃がそうだね、と頷く。
「だから人気の多いところを移動していれば『カタストロフ』も下手に手出しはできないと思う」
「いや、それも無理があるな。向こうもそれは理解しているだろうから大規模な襲撃はせずとも隠密による暗殺を図る可能性もある」
楽観的な晃の言葉を一旦否定し、鏡介がそうだな、と言葉を続ける。
「とはいえ、隠密が得意な暗殺者は重宝される。こちら側の索敵網を考慮してもそう何度も投入できない戦力のはずだ。だから基本的に街中を移動すれば襲撃は減らせるかもしれないが、それはそれでこちら側にも制約は多い」
「そういえば、『カタストロフ』の捜索網ってどんな感じなんだろう。俺が河内池辺にいるって分かってんだからここに長居するのは危険だよね」
辰弥の言葉に鏡介がああ、と頷く。
「だから明巡にはここを発つ。とはいえ、
「じゃー
遠くならまずそこだろ、と言わんばかりに日翔が提案してくる。
「バカか。渡嶋道は自家用車で渡れん。フェリーに乗れば行けるがそんなことすれば密室で襲ってくださいということになるぞ」
「ちぇー」
ご当地海鮮丼食いたかったなーと未練たらたらな日翔に辰弥が苦笑した。
渡嶋道は桜花国を構築する列島のほぼ最北端に位置する最大級の島である。桜花の本州とは橋で接続されておらず、移動するにはフェリーや海底トンネルを通る列車に乗るなど、公共交通機関の利用が必須となる。キャンピングカーに乗って移動するには現実的な選択肢ではなかった。
「
「館県かぁ……りんごもうまいんだよなぁ」
じゅる、と涎を垂らす日翔に鏡介が盛大にため息をつく。
「まあ、館県を逃走先にするのは悪くないな。今の『カタストロフ』の戦力を推測する限りあの辺りまで手を伸ばすのは無理がある。まぁ居着いてしまえばどこでどう察知されるから分からんから長居はできないが、各地の
桜花本州の最北端にある館県。渡嶋道とは海を挟んで最も近い場所にある。「カタストロフ」の桜花戦力が第二首都圏に含まれる上町府を中心としていると仮定した場合、陸続きの中では最も遠い場所になるので逃亡先としてはかなりいい選択肢となる。
「なら決まりだね、第一首都圏を抜けて館県を目指す。その後ゆっくり南下するのもいいんじゃないかな」
鏡介の言葉に、辰弥が楽しそうな顔をした。
桜花各地を巡る、そんな生活は考えたことがなかった。研究所にいた頃は研究所を離れることなど考えたことがなかったし、日翔に拾われてからも一生暗殺者として上町府から離れられないと思っていた。それはカグラ・コントラクターに捕捉されてしまったため武陽都へと逃げ込んだが、それでもここで骨を埋めることになるとばかり思っていた。思いがけず上町府へ戻ることもあったがまさかこうやって桜花各地を旅してまわることになるとは。
自分に何ができるのかは全く分からない。桜花各地を転々としながら進めていくのは辰弥にとって未知の体験だった。
ノインと融合して新たな身体になって、そこから始まる旅が辛いものであるはずがない。そう、辰弥は期待していた。
「カタストロフ」の襲撃はもちろんあるだろう。だが、それが常時起こるとも思えないし運が良ければ遭遇することすらないかもしれない。
逃避行であっても、穏やかな日々を過ごせるかもしれない。
そう考えると、辰弥も日翔に負けず劣らずの期待を持っていた。
「じゃあ、まずは北上するってことで決まりだね。君たちの位置は頻繁に報告しなくていいよ。メンテナンスの時だけどこにいるか、どこで合流するかだけ教えてほしい」
方向性が決まったのならもうこれ以上話し合うことはない。
鏡介も頷き、辰弥を見る。
「というわけでもう寝るぞ。なるべく早いうちに移動したいからな」
「あ、ちょっと待ってよ」
鏡介が見た辰弥はゴソゴソと何かをしていた。
よく見ると大ぶりのマシュマロにバーベキュー用の串を刺している。
「はい、鏡介」
辰弥がマシュマロを刺したバーベキュー串を鏡介に手渡す。
「……焼きマシュマロか」
辰弥の意図を察し、鏡介が苦笑する。
「日翔も」
「やりぃ! 焚き火で焼きマシュマロ、やってみたかったんだよな!」
日翔もノリノリで串を受け取り、焚き火にかざし始める。
「私の分はないのかい?」
「もちろんあるよ」
晃にも串を手渡し、辰弥もマシュマロを焚き火にかざし始めた。
焚き火に炙られ、マシュマロに少しずつ焦げ色が付いていく。
「……とりあえず館県に行くって決めたけどさ」
マシュマロを炙りながら、辰弥がポツリと呟いた。
「この辺りにいられるのってもう最後かもしれないじゃん。だから、もう少し観光したいな」
「具体的には?」
鏡介が辰弥に尋ねる。
第一首都圏は首都圏というだけあって「カタストロフ」の辰弥に対する包囲は密になっているはずである。場所によっては再び襲撃されることも、今後の行き先がバレてしまうこともあり得る。
できればどこにも立ち寄らずに包囲網を抜けてしまいたかったが、辰弥がわがままを言うことが珍しすぎて可能であるなら叶えてやりたい、と考えてしまう。
そうだね、と辰弥が口を開いた。
「
「……いいだろう」
鏡介が小さく頷く。
馬返東照宮と言えば第一首都圏内でも有名な観光名所だ。観光名所だけあって人の動きは激しく、そんなところで襲撃しようものなら多くの一般人を巻き込む上に下手をすれば世界遺産を破損してしまうこともあり得る。「カタストロフ」としては最も近づきたくない施設の一つだろう、と分析する。
辰弥がここに行きたいと言ったのもその意図があってだろう、と考え、鏡介は焼き上がったマシュマロを焚き火から引き上げた。
「……この状況を楽しむのもいいかもしれないな」
「カタストロフ」から逃れることだけを考えていたが、だからと言って肩肘張っていても疲れるだけだ。辰弥や日翔のように「カタストロフ」のことを思考の片隅に残しておいて旅を楽しむのもいいかもしれない。
かつて、
裏社会からは抜けきっていないし逃亡生活ではあるが、今の自分たちは一般人に限りなく近い場所にいる、という感じがした。
気ままに旅をして、旅費を稼ぐためにアライアンスの仕事を受けて、そして次の場所へ向かう。
今までになかった自由が、そこにあった。
いつ、何が起こるかは分からない。何かしらのきっかけで旅が終わることも考えられる。
それでも、今はこの旅を楽しもう、と鏡介は自分に言い聞かせた。
いつか、笑って思い返せるように。
今まであまり作ることができなかった明るい思い出をたくさん作るために。
「じゃあ、さっさと食べてさっさと寝る。明巡は早いぞ」
そう言い、鏡介は焼きたてのマシュマロを口に運んだ。
焼かれてとろりとしたマシュマロが、甘く鏡介の口に広がっていった。
to be continued……
おまけ
ばにしんぐ☆ぽいんと あすとれい
第1章 「みかくが☆あすとれい」
「Vanishing Point / ASTRAY 第1章」のあとがきを
以下で楽しむ(有料)ことができます。
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