Vanishing Point / ASTRAY #01
分冊版インデックス
1-1 1-2 1-3 1-4 1-5 1-6 1-7 1-8 1-9
「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。
朝起きた辰弥はノインによって身体をいじられていた。どことは言えないが。
河内池辺に到着した三人はまずご当地名物の餃子を食べよう、と店を選び始める。
とりぷる本店で三人は餃子を楽しむ。
餃子を食べた後、辰弥は土産物屋でキーホルダーを手に死んでしまった千歳に想いを馳せる。
RVパーク池辺で晃と合流した辰弥たちはメンテナンスを受ける。
先にメンテナンスを受けた辰弥と日翔は鏡介の透析完了を待つ間に近くを散策するが、そこで「カタストロフ」の追っ手に襲撃される。
「カタストロフ」の追っ手との交戦、それぞれが得た新たな力を駆使し、撃退する。
「エルステの手料理は初めてだなぁ」
焚き火を前に、晃がカレーの入った皿を手にしみじみと呟く。
「日翔君から『エルステの料理はうまい』って散々言われてたんだけど、やっと食べられれるよ」
「おう、めっちゃうまいから!」
そう言う日翔はすでにカレーをがっついており、隣で辰弥が苦笑していた。
「早食いはよくないって」
「そうだぞう、しっかりよく噛んで食べないと健康によくないぞ」
「知るか、うまいもんはうまいんだよ」
おいしそうにカレーを頬張る日翔に、晃もカレーを一口食べる。
「――うん、おいしい」
スパイスからではなく市販のルーを使用したものではあるが、そこに辰弥なりの工夫や隠し味が仕込まれているのか深みのある味が晃の舌を刺激する。
しかし、
「うーん、でも辛味が足りないなぁ……」
晃がそう言った瞬間、三人がげっ、とした顔をする。
それに気づいていないのか、晃はアウトドアチェアの横に置いていた小さなケースから何かを取り出し、おもむろにカレーにかけ始めた。
「うわ、それって……」
晃が手にしていたのは赤いボトルだった。
いかにも辛そうな色のボトルからカレーに注がれる赤色の液体に日翔がドン引きしたような顔をする。
「え? ナガエスペシャルで作ったナガエシラチャーソースだよ。日翔君も使うかい?」
「誰が使うか!」
ナガエスペシャル、と聞いた時点で日翔は「これはダメだ」と本能的に察していた。
ナガエスペシャルといえば晃が開発した新種の唐辛子である。そして、晃は無類の辛い物好き。
そう、この唐辛子はハバネロやジョロキアもびっくりの辛さを誇る。世界一を塗り替えたと言っても過言ではない。
そんな唐辛子を使って作られたシラチャーソースが甘いはずがない。
なんでこんなに辛いのが平気なんだよ、ってか辰弥の料理台無しにすんなよ、と抗議の視線で日翔が晃を睨むが、晃も、料理を台無しにされた辰弥も涼しい顔をしている。
いや、辰弥は興味津々でナガエシラチャーソースのボトルを眺めていた。
「晃、ちょっとちょうだい」
「おお、エルステは気になるか! いいぞ、使ってくれ!」
辰弥が興味を持ったことでいい気になった晃がボトルを手渡す。
『おいエルステ、何やってんだ! やめろ!』
ノインが必死の形相で辰弥の腕を掴むが、幻影であるノインはそれ以上辰弥に干渉することはできない。
そんなノインの抗議を無視し、辰弥はナガエシラチャーソースをほんの少しだけカレーにかけた。
「遠慮しなくていいんだぞう? たっぷり行きなよ」
「いや、こういうのは少しずつ試さないと味のシナジーが分からないから」
そう言いながら、辰弥はカレーを一口、口に運んだ。
「――!?!?」『ぎゃー!!!!』
一瞬にして口内を灼熱の痛み地獄に引き摺り込んだその味に、辰弥とノインが反応する。
辰弥は目を白黒させて痛みを和らげるべくラッシーを手に取るが、ノインは口元を押さえて地面を転げのたうち回っている。
辛い、どころではない。痛い、である。
こんなものを平気で食べているのか、と辰弥はラッシーを飲みながら平然とカレーを食べ続ける晃を見た。
「どうだ? おいしいだろう?」
「味を理解する前に痛みがやばい。ってか、俺、基本的に痛みは平気なんだけどこれはさすがに……」
研究所にいた頃、実験と称して様々な痛みを刻み込まれたがこれはそのどれにも該当しない。完全に未知の痛みに、辰弥は「これにも慣れないと……」と考えていた。
万一拘束されて拷問を受けたとしても痛みに慣れていればどうということはない。だが、未知の痛みは慣れていないだけに無駄に苦痛を味わってしまう。
慣れるため……と、辰弥はもう一口カレーを口に運んだ。
『やめろー! エルステー、やめろー!』
少しは慣れたのか、なんとなくだが味が分かる。
ジョロキア系の味なのか、うっすらと柑橘系の風味を感じ、どのような料理にも合いそうな気がする――辛くさえなければ。
元々のナガエスペシャルの味に追加してニンニクの香りや酢の酸味、若干だが砂糖も入っているのか甘味も感じられる――辛くさえなければ。
『やめろって言ってんだろ! それ以上口に運ぶな!』
辛すぎる以外は市販のシラチャーソースと大差なく、料理の味変にはぴったりの調味料と言えるだろう――辛くさえなければ。
そう、「辛味」が全て台無しにしているのである。
どうしてここまで辛くしてしまったんだよ、このバカと思いながらも辰弥は味の分析をしながらカレーを食べ続ける。
『バカはお前だ! エルステ!!!!』
(ザマァ)
地面を転げまわるノインの姿に、辰弥は溜飲が下がる思いだった。
今まで色々やってくれたお返しとばかりに、辰弥はさらにナガエシラチャーソースを追加し、辛さが倍増したカレーを食べ続けた。
『エルステのアホー!!!!』
ノインの絶叫が、上質なBGMだと言わんばかりに。
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。