Vanishing Point / ASTRAY #01
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「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。
朝起きた辰弥はノインによって身体をいじられていた。どことは言えないが。
河内池辺に到着した三人はまずご当地名物の餃子を食べよう、と店を選び始める。
とりぷる本店で三人は餃子を楽しむ。
餃子を食べた後、辰弥は土産物屋でキーホルダーを手に死んでしまった千歳に想いを馳せる。
RVパーク池辺で晃と合流した辰弥たちはメンテナンスを受ける。
調整槽の中でぼんやりと考え事をしているうちに一時間が経過していたらしい。
調整完了のアラームが鳴り、調整槽から薬液が排出されていく。
体を起こし、槽の脇に置いてあった洗面器に肺に溜まっていた薬液を吐き出し、それからタオルを手に取る。
髪を拭き、身体も拭いていると隣の設備で日翔がはしゃいでいる声が聞こえてきた。
「うおすげえ、こんなこともできるのか!」
「生体義体だからね、色々盛り込んでおいたよ。どうせ日翔君のことだから無茶するだろうと思ってあらかじめ仕込んでおいたんだけど『カタストロフ』に追われてるとなると近々出番があるかもしれないなあ……」
使わないに越したことはないけど、と続ける晃の声を聞きながら辰弥がパーカーのジッパーを上げ、カーテンを開けた。
「晃、調整終わった」
「おお、お疲れさん。データは……うん、しっかり取れてるみたいだね」
調整ついでにデータの収集も行っていたのか、晃がレポートを確認して満足そうに頷く。
「日翔君の調整とか諸々もちょうど終わったところだよ」
「おう、すげえよ!
日翔もガッツポーズを辰弥に見せてくる。
その元気さにほんの少しだけ胸が痛むのは生体義体といってもただの生身ではなく、遺伝子的にも色々調整されているらしい、という事実からだろうか。
できれば日翔にはごく普通の一般人として生きてほしい、という願いが辰弥にはあった。両親が遺したインナースケルトンを導入するための費用を返済するために暗殺者となり、裏社会で生きてきた日翔だったが、借金は治験の権利を売却した金で完済している。生体義体への置換コストも晃が「グリム・リーパー」に参加することと辰弥の身体を自由に調べさせることを条件にチャラとなっている。
そうなると日翔が裏社会に残る理由はどこにもなく、足を洗うことは可能だった。
それなのにそれを選ばず暗殺者として生き続けることを望んだ日翔に、何故か辰弥の心が痛む。
だが、目の前の日翔はそんな辰弥の考えをよそに子供のようにはしゃいでいる。
――考えすぎ、か。
日翔がそれでいいと言っているのならそれでいいのだろう。今更「グリム・リーパーを抜けろ」とも言えないし、第一、日翔と離れ離れになりたくない。
結局これが最善の答えだったのだ、と自分に言い聞かせ、辰弥は晃に視線を投げた。
「鏡介呼んできた方がいい?」
「そうだね、鏡介君の透析もさっさと終わらせてしまおう」
透析だけはどうしても時間がかかる。最低でも
分かった、と辰弥が踵を返すと日翔も慌てて上着を羽織り、辰弥の横に並んだ。
二人で並んで移動ラボを降り、隣に止めたキャンピングカーを見ると鏡介はアウトドアチェアとテーブルを出し、屋根を広げてくつろいでいた。
「鏡介、鏡介の番だって」
辰弥が声をかけると鏡介が空中をスワイプしてウィンドウを閉じ、立ち上がる。
「早かったな」
「まぁ、簡単な調整だけだったし」
そうか、と鏡介が移動ラボに視線を投げる。
「俺の透析は時間がかかるから二人で散歩してきてもいいぞ。そういえば道路の向こう側には道の駅があるみたいだぞ」
「へえ、気になる」
鏡介の言葉に辰弥の目が輝く。
道の駅と言えば地物野菜やちょっとした焼き菓子などが置かれていたり、近くに牧場があったりすると搾りたて生乳のソフトクリームが販売されていたりして見ていて飽きない。
特に辰弥は料理が趣味というだけあって地物野菜には興味があるし、日翔は食べるのが大好きなのでご当地グルメは食べておきたいと思っているところがある。
鏡介を置いていくことに若干の申し訳なさはあるが、それでも鏡介の気遣いに甘えた方がいい。
「行ってみようか」
日翔にそう打診すると、日翔も興味を持ったのかおうよ、と頷いた。
「なんかうまいものあるかな」
「あるんじゃないかな。夕飯はもちろん作るけどちょっとおやつを食べるくらいはいいと思うし」
「じゃ、決まりだな。道の駅行こうぜ」
話が決まれば即行動、とばかりに日翔が歩き出す。
「あ、日翔待ってってば」
辰弥も慌てて日翔を追いかけ、その途中でちら、と鏡介を振り返った。
鏡介は鏡介でさっさと移動ラボに乗り込んでいる。
晃がいるなら問題ないか、と考え直し、辰弥は日翔と並んで歩きだした。
RVパーク池辺を出るとまず目の前に大きめの幹線道路があり、その向こうに温泉施設などが整った大型の道の駅が見えた。
温泉があるならあとで三人で入りに来てもいいな、と思いつつ、それでも自分の身体のことを考えると気安く「温泉に行かない?」とは言いづらい。
温泉施設を横目で見ながら通り過ぎ、辰弥が物販コーナーへと足を向けようとしたとき、うなじの毛がちりちりと焼かれるような、そんな感覚を覚えた。
「!?!?」
思わず立ち止まり、辰弥が辺りを見る。
「……」
日翔も立ち止まり、辰弥と同じように周りを見回している。
「……気が付いた?」
「ああ、見られているな」
辰弥の言葉に日翔が小さく頷き、物販コーナー横の小道に視線を投げた。
「ここで襲われたらやばい。とりあえず森に入ろう」
『エルステ、敵は十人。「かたすとろふ」だね』
ノインの方が感覚が鋭いため、より詳細な敵の戦力を伝えてくる。
「
「そうだな」
早速武装オプションを使う時が来たかー、などと日翔がぼやき、辰弥も頷きながら小道に入り、森へと向かう。
森には散歩コースが作られていたが、道を逸れて奥に入るとうっそうと茂った木々で視界は悪くなる。
それに構わずある程度奥まったところまで入り、二人は立ち止った。
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