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Angel Dust 第13章

「一番ショックを受けてるのはフレイ、あなただと思う。けど、シュヴァルツをそのままにしておけない。ヴァーミリオンは安曇に転送させるから、シュヴァルツを移動させてもらえるかしら」
 メイヴさんからこちらに対して最大限の気を遣いつつそんな連絡が入る。
「え、シュヴァルツも転送させればいいんじゃ?」
「えぇ、それでもいいんだけど、敵が使った直後だからね。なんらかのトラップが仕掛けられてかもしれないから、一度検査がしたいの。今アメリカ政府に依頼して、私が以前使っていたフィラデルフィアの研究所を使えるようにしておいてくれるらしいから、そっちに運んで欲しいの」
 なるほど。確かにシュヴァルツを本部に転送した瞬間、シュヴァルツに仕掛けられた爆薬が爆発、などされれば洒落にならない。単なる破壊工作ならいくらでもする機会はあったにしても、こちらの想像を超えたなんらかのトラップの可能性は否めない。安曇さんの転送は転送先をなんらかの形で視認する必要があるから、これから稼働を開始するフィラデルフィアの研究所に今から転送は出来ない、私が運ぶのは理にかなっている。
《気を付けての》
「うん」
 ヴァーミリオンに見送られ、私はヴァーミリオンを降りた。
 ミョルニムが作ったクレーターを下り、シュヴァルツに近づく。灰色だった機体色はどこへやら、真っ黒シュヴァルツに染まっている。
「……今気付いたんですけど、これ罠で私が死んだらまずくないですか?」
 自意識過剰ではないと思う。エンジェルオーラというリソースに縛られない私は既にクラン・カラティンにおいて何をするにも手放せない重要な戦力のはずだ。
「確かにね。けど、パツァーンはあなたと再戦を望んでいた。あなたを謀殺するような事はしない気がする」
 確かにそうかもしれない。というかそう考えると、そもそもパツァーンは自分が負けるとは思ってなかった節がある。そもそも罠を仕掛けてるか自体怪しい。
「え、遠隔起動しない……」
 コックピットブロックのある胸部まで登るにはモーターで昇降を行うロープ状の昇降機を使う。普通であれば一度降りた後には昇降機が降りているので登れるが、なんらかの事情に備え、リモコンというデバイスで遠隔でコックピットブロックの開閉と昇降機の起動が出来る、のだが。
 何度押しても反応しない。
「登るしかないわね。確かにシュヴァルツには登攀用のホールドがついてるはずだから、それで登って」
 確認してみると確かにシュヴァルツの左足には不自然な出っ張りがたくさんついている。もしやコックピットブロックが今の形になって昇降機がつく前はこうやって登っていたのだろうか?
 え、30mもの高さのあるDEMに、うっかりミスって落ちたら死ぬよね。
「ねぇ、ヴァーミリオン、ちょっとこっちまで歩いてきて、こいつを横倒しにしてもらっていい?」
 大声でヴァーミリオンに向けて叫ぶ。
《ふむ、仕方ないのう。一人で動くのしんどいんじゃぞ。……いや、そうか。フギン、ムニン、頼んだぞ》
 上空を飛んでいた二羽のカラスが急降下してくる。
 え、高いところ飛んでるから気付いてなかったけど、あれ、デカい……?
 その巨大カラスが足でシュヴァルツを小突いて、シュヴァルツがズシーンという音を立てて地面に倒れた。
「危ない!!」
 衝撃で粉塵が舞う。
「ちょっと、いくらなんでも横着しすぎでしょ!」
 ヴァーミリオンに振り返り抗議の叫びを上げる。ヴァーミリオンの肩についているとんがった突起に二羽のカラスが泊まる。
 ――あれ、止まり木だったんだ
《こりゃすまん。しかし、横着と言うなら、そもそもフレイが自分でワシを動かさなんだのも横着じゃし、そもそも登るのを横着したが故にワシに頼んだのじゃろ?》
 うっ、まったく反論できない。話を逸らそう。
「ところで、そのカラスは? 確かによくカラスを見るなぁとは思ってたけど」
《フギンとムニン、まぁワシの使い魔みたいなもんじゃな。ワシはこやつらの視界を借りることができるんじゃ》
 なるほど。そういえばはじめてあのカラスを見たのはスカーレットを借りて出撃した時だったかも。ずっとあれでこっちを心配してくれていたのか。ところで。
「それってもしかして私もその視界を借りられるの」
《……まぁ、そう言うことになるのう》
 それが最初からできたらグングニルでアウトレンジ出来てきっと楽しい。何故最初から教えてくれなかったんだ。
《今、グングニルと組み合わせることを考えておるじゃろ》
 流石ヴァーミリオンだ。こちらの考える事はお見通しらしい。
《まぁ、今だから良いとは思うが、最初からそれ頼りにされては身につく力も身につかぬ。最初、ミョルニムの使い方を教えなんだのもそれが理由じゃ。じゃからいくつかの機能を封じておった。言っておくが秘密にしておる装備はもうほぼないぞ》
 ほぼ、と言う言葉が引っかかるが、ないと言うならこれ以上追求はできないか。私のことを考えてのことみたいだし。
《フギンとムニンについては、俯瞰した風景を見るのに慣れてしまうと、第三視点に目覚めてしまう恐れもあるでな》
 何か小さく呟いた気がしたが、距離が遠いので聞こえなかった。
 まぁいいや。障害は消えた。登ろう。
 案の定、コックピットブロックのハッチが開かないので、緊急時用強制爆砕ボタンを長押しして、一度シュヴァルツから離れる。
 ドガン、と音がしてコックピットブロックのハッチが弾け飛ぶ。
 改めてコックピットブロックに入り込むと、内部の電源は生きているようだった。
 コックピットを操作して機体を起き上がらせる。
 起き上がったのを確認して、いつものように、シートの背もたれに深くもたれかかり、目を瞑る。
「え、あれ?」
 視界が表示されない。体を動かそうとしても正真正銘、自分の体が動いてしまう。
「なんで?」
「どうしたの? 何か問題でもあった?」
「なんか、動かせないんです。視界も体も繋がらなくて」
「……とりあえずコックピットブロックは使えるのよね?」
「はい。それは出来ます」
「よし。なら、それでまずは北、ピッツバーグに向かってくれる? そこでいまピッツバーグを警備してるイシャンかシャイヴァと交代してくれる?」
「分かりました」
 教本で習ったように、歩行の操作をする。ズシン、ズシン、とモニターの向こう側が揺れる。

 

「フレイ!」
 メイヴからの通信、直後、モニターに上空警戒の表示。慌てて目を瞑り、意味がないことに気付いて、視線を上に向ける操作をする。
 しかし、目を瞑ったそのロスは大きかった、
「ぐあっ」
 騎士型の、片手剣タイプか。しかも、黒い、堕天してる?
「武器は……!」
 騎士型は総じて動きが重い。速やかに立ち上がり武器を構えれば二撃目は防げる。装備一覧を表示する。一つしかない。
「無銘剣、《ネームレス》」
「ジギネゼエ!」
 こちらが武器を構えると同時に、敵が言葉を発する。パツァーンを見た以上、それが可能な事は理解できるが、ルシフェルが言葉を発するなんて。
「ゾホララナナザギゴゲンヂヂハザザアジギネゼエ」
 こちらに剣を振り下ろす。私はそれをネームレスで受け止め……。
 カキーン、という音を立てて、ネームレス
 が真っ二つになる。
「折れたぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ゴエナニマパツァーンノマニザザグ・ヂンヂヂンウギノガアドグヌロイワハギンナナ」
 けど、この拳で!
「ギギドド・ドホニヨヨグチネネヌヌヌズネゼエ」
 騎士型がそれを盾で受け止める。
【警告! 右腕部損傷】
 右側のモニターが、右腕が肘から先を喪失した事を訴えている。
 そういえばメイヴさんが神性防御が使えないからやばいっていってたっけ。パツァーンが乗ってた時は普通に神性防御が有効だったから完全に忘れてた。
「ヤマイゾノママザザヌグヂヂハギザ・ハアゾエネネ! オーディンヒニザヌヌギネギウガハナハアママ」
 剣を手放した騎士型が盾の後ろからビンのようなものを取り出し、シュヴァルツに振りかける。

 

 直後、キーンという頭痛が頭に響いてきた。

 

■ Third Person Start ■

 

 すべては時間の問題であった。あと数ヶ月でこの星は終わる。もはや避けられない運命だった。
 多くの人々が嘆いた。
 人々はこれを黙示録の到来だとか、ともかく様々に嘆いた。
「第一号、完成しましたね、マザデ」
 助手らしき男が博士らしき男、マザデに声をかける。
「あぁ、ヂヨユ、お前の協力のおかげだ。神の力を借りて地球再生までの間、厳しい環境を生き残るための擬似神性、その一号機」
 真っ黒なその機体を見上げながらマザデとヂヨユは満足そうに頷いた。
 地球崩壊の危機にあって。人々は宇宙に逃れることを決めた。やがて地球が元の姿を取り戻した時には、地球に戻って来ようと誓って。
 しかし宇宙空間はとてもではないが人の住める場所ではない。空気もないし、だから、そこで過ごせるようにするために、人類を適応させる必要があった。
 そのために作られたのが擬似神性、擬似神核とそれに追反応する装甲板で作られた鋼鉄の巨人。
 彼らの目の前にそびえ立つ黒い巨人、”私”達がシュヴァルツと呼ぶそれは、そのための試作初号機だった。

 

◆ Third Person Out ◆

 

 今の、は……。ルシフェル達の過去?
 カメラの視線を上げて騎士型を見る。
「フレイ!」
 直後、騎士型の背後にヨグソトス回廊を通り抜けてきたシャイヴァのアンバーが現れ、そのトリシューラがコアを貫いた。
「ゾゾラネネザ・ヌグヂヂナノ・ヂンヂチウドド」
 ルシフェルがばたり、と倒れる。
「ありがとう、シャイヴァ」
「気にしないでください。ピッツバーグまでは私が護衛します」
 シャイヴァにお礼を言ってシャイヴァと共にピッツバーグに向かう。

 

 ピッツバーグでイシャンと合流し、そのまま三人でフィラデルフィアに向かう。
「あれ、私はピッツバーグで休憩していいって話だったような?」
「それが、全エンジェルにフィラデルフィアに集合するようにって通達があってな。だから、フレイの護衛は俺たちに任せてくれ」
「うん」
 しかし、私の頭は先程見えた風景でいっぱいだった。
 このシュヴァルツは、DEMは彼らルシフェルが月に逃げ延びるために作られた。
 確かに、露出していたシュヴァルツの擬似神核とやらは、あのルシフェルのコアと類似している。
 けれど、ルシフェルそのものはDEMとは似ても似つかない。擬似神核だけが採用され、擬似神性デウスエクスマキナは没となったのか?
 だとしたら、今残されてるDEMは全て失敗作? なぜ地球にDEMが残されているかを考えればそれがしっりくる。パツァーンも「試作型」と呼んでいたし。
「フレイ?」
「あ、うん。えっと、なんだっけ」
 ボーッと考え事をしていたせいで適当に相槌を打ってしまっていた。
「いや、だから、フレイは覚えてないか? ロズウェル事件のこと、エリア51のこと」
「ロズウェル事件? エリア51? いや、全く心当たりがないけど」
「そうか、そうだよな……」
 妙な反応だ。そうだ、ちょうどいいから前から聞きたかった事があった。
「あ、そういえば、前にインドは階級社会だって言ってたよね?」
「あぁ。ヴァルナって言って……」
「で、ダンディライオンの二人はイシャンより階級が低いんだったよね。じゃあ、シャイヴァさんはどうなの? イシャンと同等?」
「あー、シャイヴァは、だなぁ、その……」
「僕は本当なら、不可触民ダリットという階級だったんですよ」
「ダリット?」
 階級はシュードラ奴隷ヴァイシャ庶民クシャトリヤ王族・武族バラモン司祭だと聞いていたけれど。
「一般的にはアチュートとか、アウトカーストとかっつーんだ」
外側アウト……カーストの外側? 特権階級的な?」
「むしろ逆でな。シュードラは奴隷階級とよく表現されるが、インドにおいては、それでも人間扱いされてるだけマシ、なんて言うんだ。そのシュードラの下、ヴァルナの分類すら与えられない人間扱いされてないのが不可触民だよ」
「ええっ。じゃあシャイヴァさんも酷い扱いを受けてきたの?」
「子どもの頃はそれなりに。けど、僕らの住んでたところはパキスタンになったんです」
「パキスタン?」
「あぁ。インドはヒンドゥー教の国なのは知ってるだろ?」
 私はカメラ越しに頷く。ヴァルナもヒンドゥー教からの教えだ。より厳密にいえばその前身はバラモン教らしいけど。
「ところがインドには一定数ムスリム……まぁ一神教徒達がいてな。彼らとしてはヒンドゥー教文化のインドにはいられないと言うんだ。独立運動もそのせいで二分してな……。頑張ったが、結局違う国として独立することになっちまった」
 宗教は国をも二つに分離してしまうのか。
「そして、僕の家は改宗を選びました。別にパキスタンにもヒンドゥー教徒はいます。けれど、私の父と母は、ヒンドゥー教の名の下に行われてきた抑圧に耐えかねてきた。パキスタンの国教は神のもとに皆平等です。改宗すれば、ヴァルナから逃れることが出来る。それ以降は普通に人として生きてきました」
 国が変わり教えが変わる事で、救われる人もいるのか。
「あれ、でも乗ってるのはアンバー、ヒンドゥー教系だよね?」
「えぇ。やはり幼い時から学んできたヒンドゥーの神の事を忘れられなくて。今となっては両親の選択を理解出来ますが、当時は国が変わると同時に過去の教えを捨てた両親が理解出来なくて」
 ずっと信じていた神をある1日を境に信じるのをやめて、別の神を信じるようになる。それはどんな心境なのだろう。
「一神教は多神教を否定しますから、私はそれ以降ヒンドゥーの神のことを触れるだけで怒られました。父や母は私にも敬虔な一神教徒ムスリムでいて欲しかったんでしょう。私はなかなかそれが受け入れられず、こっそりと……」
 ヒンドゥー教徒であり続けた、と言う事か。
「本当ならインド憲法17条で不可触民を意味する差別用語は禁止、いや、そもそもカースト全体のカーストによる差別自体禁じられているし、公民権の保護法によって不可触民を理由とした施設利用の拒否も禁じている。それでもいまだに憎悪犯罪ヘイトクライムが絶えないのが現状だ。俺としてはインドをシャイヴァが戻ってきても問題ないくらいの国にしたいが。どうすればいいのか……」
 そう言えばイシャンはインドの王族なんだっけ。やっぱり色々考えてるんだなぁ。
 イシャン達はルシフェルの真実を知ったらどう思うのだろう。ルシフェル達はかつて地球に住んでいた。そこから月に逃れた。今戻ってこようとしたら、支配者気取りの新たな種族が地球の至る所に生息していた。
 実際あの後どうなったのか分からないが、月に住む事ができているのは、環境適応のための研究の成果であって、月に住むのが当たり前の存在では決してない。
 人間に置き換えてみれば、地上に大災害が起きようとしているから、潜水服を着て海底に逃げた。ほとぼりが冷めた頃を確認して地上に顔を出してみたら、そこには新種の知的生命体が住み着いている。
 ルシフェルが地球外生命体、月からの侵略者であると判明してから、イシャンとユピテルが口論というか話していた事があるのを思い出す。

 

■ Third Person Start ■

 

「もし彼奴らがこの宇宙の生命体だと言うのなら、実は儂等には分からぬ方法で会話をしていたりするかもしれんな。だとしたら、それさえ分かれば、講和する事も可能かもしれんぞ」
 ユピテルが突然そんな事を言い出した。
「講和だと? ルシフェルとか? 冗談じゃない。アイツらにどれだけの人間が殺されたと思ってる」
 イシャンがそれを聞いて立ち上がる。
「どれだけ味方が殺されたかどうかが講和の是非に関わるのであれば、今頃人類はもっと滅亡の際におるのではないかな? 第一次世界大戦も、第二次世界大戦も、講和によって終わった。決して敵対する民族を全滅させたわけではない」
 ユピテルはそれに一切動じず、ただ反論する。
「それは……、だが、奴らが宇宙に帰らなかったらどうする? ルシフェルの要求が地球の領土割譲だったら? あいつらを地球市民として迎え入れるのか? それを市民が受け入れるのか? なにより、交渉の余地があるような知的生命体なら、このまま戦力を削っていけばいつかは撤退するだろう。なら、このまま俺達は戦い続ければいい」
 イシャンの指摘はやや感情的ではあるが、しかし一方で多くのルシフェル犠牲者遺族の代弁でもあった。イシャンもルシフェルにより兄クリシュナを亡くしているので、それも当然かもしれない。
「確かにな。彼らと隣人になるのは市民感情的にも難しいかもしれん。戦って奴らを撃退出来るのなら、それも正解なのかもしれん。だが、例えば連中の狙いが何らかの資源だったらどうする? それが我々人類にとって不要のものであったなら? 儂等は無用の争いをしておる事になる。むしろ良い交易相手になるかもしれんぞ」
「それは、交渉してみるまで分からないだろ」
「左様。故に、交渉の余地がないかどうかは、交渉してみなければ分からん。それこそ、これまでの認識通り、単なる敵性生物との生存闘争に過ぎぬかもしれんしの」
 イシャンの言葉に頷くユピテル。

 

◆ Third Person Out ◆

 

 地球を割譲する事はできない、元来た場所に帰らせればいい。それがイシャンの意見だった。
 けれども、彼らの元来た場所、それは地球だ。それを知った時、イシャンはどんな判断をするのだろう。
「おい、フレイ。止まれ、止まれって」
 モニターにパドマが出現する。
【衝突警報!】
【警告! 頭部に損傷】
 ガツンと、音がして、モニターに映る風景が空へと移り変わっていく。……って、転倒する!?
【衝突警報!】
 慌てて操作し、姿勢を戻す。
「何するの、イシャン」
「お前が何する気だ。どれだけ言っても直進を止めないで。あと少しでフィラデルフィアの研究所に衝突するところだったぞ。
「疲れてるんでしょ。フレイ、お疲れ様。もうそこで降りて、入ってきなさい、あなたの休憩のための部屋を用意しておいたわ」
 メイヴさんから通信が入る。私はそれに従って機体から降りる。幸いハッチが壊れただけで昇降機は無事のようだった。
「お疲れ様。部屋は入ってすぐの十字路を右に曲がって、左手三つ目の部屋よ。全員揃ったら、会議室に集合だから。それまでは休んでて」
 メイヴさんがすぐに出迎えて、施設の入り口まで案内してくれる。
 私は指示に従い自分の部屋に入り、そのまま眠りについた。

 

■ Third Person Start ■

 

 銀朱色とその他何色かのDEMが並んでいる。
「マザデ、どうして初号機の疑似神核に神性を封印しなかったんですか?」
 ヂヨユが訪ねる。
「なんだろうな。強いて言うなら、記念、だろうか。初号機はこのまま保存しておきたかったんだ。この鋼鉄なら例え隕石が落ちても地中に埋もれるだけだろうからな。いつか、地球に戻ってきたら掘り起こしたいと思ってな。いや、非合理的なのは分かってる。だが、この状況を見てくれ。一つの体系を潰した。それで得られたのはたったこれだけだ。たったこれだけで何が出来る? この地球上に何億の人類が生活してると思ってる! これでは古典小説の特権階級のみが危機から脱出するSFではないか。いや、たったこれだけでは、特権階級すら逃れられない。SF以下だ」
 途中から端を切ったように早口で捲し立てる。よほどストレスが溜まっていたのだろう。
「落ち着いてください。まだ、まだたった一つ潰しただけです。これから、他により擬似神性と相性の良い体系もあるかもしれない。それならもっともっとたくさんの数を用意できるかもしれません。もっと、もっとたくさん作りましょう」
「あ、あぁ。あんなに罪深いことをまだ、これからも……」

 

◆ Third Person Out ◆

 

 なんだか苦しい夢を見た。いや、あれは夢ではない。きっと、さっきの続きだ。
「シュヴァルツの擬似神核には神性が入ってないんだ。だから、神性を帯びてないし武器もない」
「擬似神核って?」
「うわっ」
 目をゴシゴシしながら呟くと、聞き返された。
「おはよう、フレイ。全員揃ったわよ。身嗜みを整えて会議室に来てね」
 視線を向けるとメイヴさんだった。わざわざ起こしに来てくれたのか。

 

 慌てて身嗜みを整えて会議室に向かう。
 メイヴさん、安曇さん、グラーニアさん、メドラウドさん、スジャータさん、チュンダさん、イシャン、シャイヴァさん、ユピテルさん、全員がこちらを見ていた。
「来たわね、フレイ」
「ぜ、全員集合。安曇さんまで?」
「えぇ。なんでも、今日から、ここがクラン・カラティン第二基地になるそうで」
「え」
「これから、私達はルシフェルの本拠地、月を攻撃する。仮称シュート・ザ・ムーン作戦に注力する事になる。早速会議を始めるわ。フレイ、座って頂戴」
 ついに、ルシフェルとの決戦が始まろうとしているんだ、と私は理解する。緊張しながら、私は自分に与えられた席に座る。

 

To be Continue...

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