Angel Dust 第18章

  

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 白い人影たちが降下していく。
 手元に武器を実体化させ、地上の人々の驚きを受け止める。
 円形のフォーメーション、その中心に立つ白い人型は自分達の力の源、即ち天使達を模して天使の輪ハイロウと、大きな翼を展開して。
 地球上のあらゆる言語で宣言する。
「地球を明け渡せ。我らかつてこの地に住まった者、今一度この地に降り立つ者。我ら、再臨者アドベンターなり」
 この景色が、全ての始まりだった。

 

◆ Third Person Out ◆

 

 あぁ、いまえた光景はまさに、今見えている光景にそっくりだった。
天使の輪ハイロウを頭上で輝かせ、光の翼を広げている。
 唯一の違いはルシフェル特有の赤い三つの光点によって構成される顔。
 そういえばあの顔は何なんだろう。マザデの知る限り月の揺り籠に避難する前の旧人類はもう少し私達人間に近い顔立ちをしていた。
 また、私の知る限り、唯一神関連の伝承に赤い三つ目の伝承はない。
 もちろん、第三の目サードアイというのは神秘主義や形而上学で扱われる神秘的な概念である。様々な地域に唯一神が広がる上で、そういった思想の者達の内心により、第三の目を持つ、という無意識的認識が成立した可能性は否定出来ないが。
 フィラデルフィアの研究所にいる間に誰かに聞いておくべきだったかもしれないが、もはや今更な話だ。
「メジヂ!」
 叫び声一つ気合を入れ、レーヴァテインを構えてメギンギョルズで大きく飛び上がる。
 空中に静止しているメジヂのヴァイスに"私"が、あるいは"私"のレーヴァテインが運動エネルギーでぶつかる。
 メジヂとヴァイスの強い神性が運動エネルギーを減衰させ、"私"を静止させる。
「早速来たね、オーディン!」
 ほぼ腕だけで"私"の突撃を受け止めた形になるメヂジは私を奇妙な名前で呼んだ。いや、このヴァーミリオンで神格が表面化してるのはオーディンではあるのだけど。
「災厄の杖、レーヴァテイン? それはロキの武器だろう? オーディンらしくグングニルを使いなよ!」
 安い挑発だ。ここでグングニルを使うのは危険すぎる。今の位置関係ならまだしも、このままヴァイスと"私"の位置関係が反転すれば、グングニルがロケットを傷つけてしまう恐れがある。
「ランス・オブ・ロンギヌス!」
 ヴァイスの手に赤い一筋の線の入った白い槍が出現する。
「さっさと本気を出さないなら、死ぬよ!」
 ロンギヌスの槍が赤く染まる。
「レーヴァテイン、励起!」
 レーヴァテインが直剣の見た目に変形し、青い炎を吹き出す。
 片目を開けてモニターを見ると五分間のカウントダウンが表示されているのが分かる。
 励起した……いや、スルトモードと呼ぶ事にするこの状態は、レーヴァテインの炎は終末者ターミネーターと呼ばれる因子を持つ状態になり、神性を持つ者に特に有効なダメージを与えられるようになる。極めて強力な神性を持つメヂジとヴァイスと戦うにはこのモードの出力でなければ現状難しい。
 しかし、この炎は自身の身すら焼くと伝承され、今"私"の持つそれも同じ。
 スルトモードを長時間継続使用するとデウスエクスマキナの持つ自己再生の限界を大幅に超えるダメージを受けてしまうため、長期戦が予想される防衛戦においては、スルトモードが5分以上継続しないように設定される事になった。
 もっとも、所詮コックピットブロックを使ったデウスエクスマキナへの干渉に過ぎない以上、ヴァーミリオンと深く深く繋がっている私が全力で継続させようとすれば、その程度のセーフティは無視出来るが。
 赤いロンギヌスの槍とレーヴァテインの青い炎が拮抗する。
 『今そっちに向かってる。最悪拮抗状態を維持できれば良い、無理するなよ』
 イシャンから通信が入る。イシャンのブラフマーストラはヴァイスとメジヂの防御を上回れる貴重な武器だ。それを活用できるのなら、確かにこの拮抗を維持するためにスルトモードを使うのにも意味がある。
 『ありがとう、けどそう上手くは行かないよ』
「あはは! この前の決闘の再演をやるつもりかい、オーディン! 邪を払う剣、《霊の剣》!」
 案の定、ヴァイスの左手に白く輝く剣が出現する。
 魔性に近いエネルギーを持つスルトモードのレーヴァテインはこの霊の剣にとても弱い。
 以前はこれに対しその処理能力を超える出力を持つミョルニムで対抗したが、今回、ミョルニムはグングニルと同じ理由で使えない。
 しかし、この後のことを考えればここで距離を取ったりするのは得策ではない。このまま近距離戦を続けなければ。
 しかし、霊の剣は魔に属するものをなんでも払ってしまう恐ろしい武器だ。メジヂの高い神性により、魔に属さなくても半端な武器ならやはり押し負けてしまう。
 となれば。
「ヴァーミリオン! グングニルを使った時のことを思い出して!」
《な、何?》
「いいから、早く!」
《う、うむ。えーっと、そうじゃなぁ》
 ヴァーミリオンが考え出した。後は、ヴァーミリオンの思考と同調して……。

 

■ Second Person Start (Óðinn) ■

 

 その日は"世界"で初めて戦争が起きた日だった。
 全ての始まりはヴァニル達が我らアーシスの元に送り込んだ恐ろしき"黄金の力"クルヴェイグは、アーシスの領域で魔法セイズを教えて周り、悪しき者達を喜ばせた。
 これに脅威を感じた儂達はクルヴェイグを館に招き、説得したがこれに応じず、やむなく槍で貫き、焼いたが、しかし、三度繰り返しても死ぬ事なく。
 それどころか、これを敵対と見たヴァニル達が侵攻してくる事態となった。
 戦争というものをするのは初めてだが、有効な武器は知っていた。
 過去から未来、果ては並行世界、そしてこの領域の外側までも見通せる第三の視点。
 それが彼に伝えていた。
 私はトネリコの枝を手に待ち、そこから、未来、私が持つことになる槍へと限定的に改竄する。
 私の手中にそれは姿を表した。
 それは白き光の槍。柄にはトネリコを、穂先にはルーン文字を。
 それは決してまとを打ち損なわず、敵を貫いた後には自ら持ち手の元に帰り、この槍を向けた軍勢には必ず勝利をもたらすとされる。
 即ち、グングニル。
 それは速やかにヴァニルの軍勢に向けて放たれる。

 

◆ Second Person Out ◆

 

 それは、『巫女の予言』に語られるアース神族アーシスヴァン神族ヴァニルの戦争の始まりの光景だった。
 グングニルが作られるより前のエピソードのはずだがミーミルの泉により全てを見通す力を得たヴァーミリオン……否、オーディンにとっては、時間軸なんて関係ない、ということか。頭がこんがらがりそうだ。
「必中の神槍、《グングニル・オリジン》!」
 カタログにはない名前。しかし、私は自信を持って叫ぶ。
 直後、"私"の左手に先程に見た光の槍が出現し、霊の剣を受け止めた。
「なっ」
 情報実体化を行う際、神格と乗り手エンジェルのイメージが複合マージされる。ヴァーミリオンの武器にミリタリー風な要素を持つものが多かったのは、最初に見たグレイプニルが二丁拳銃の形を取っていたことと、神秘関係に疎かった影響だろう。
 私が武器を使ったことでカタログに武器が増えると、私が使ったそのままの武器として実体化したのも、私の作った武器を見て「そういう武器だ」と認識した影響だろう。
《レーヴァテインのように元々可変する性質を持った武器の場合、変形して元の姿に戻ることもあるようじゃがの》
 なるほど、あの見た目のレーヴァテインは私がイメージしたレーヴァテインで、スルトモードのレーヴァテインは本当にスルトが使っていた時のもの、ということか。
 まぁ要するにヴァーミリオンに本物のグングニルを見せてもらったことで、グングニル・オリジンという名前で本物のグングニルに近い近接武器を実体化させてもらったわけだ。
「でやぁっ!」
 ここで未知の武器が出てくると思わなかったらしくメジヂが硬直した。やはり、ミョルニムの時と同じ、想定外の事態に弱い!
 グングニルの柄でロンギヌスの槍を受け止め直す。流石は主神の槍、押し勝てないまでも、辛うじて拮抗出来ている。
 自由となった右手のレーヴァテインで翼を切りつける。
「くっ!」
「堕ちろ!!」
 落下を始めるメジヂのヴァイスに向けて、グングニルを投擲する。
 グングニルはヴァイスの落下コースを僅かに変え、事前にビーコンを仕込んでおいたその中央に確実に落下した。
「狙い通り!」
 忘れずにレーヴァテインを通常モードに戻す。
 『今だよ!』
 『了解』
 英語で叫ぶと、シャイヴァが速やかに応じる。
 直後、ヴァイスの四方から光の筋が伸びる。事前に雪の下に仕込んでおいた鏃。
 囲ったものを消滅させる恐るべし武器。メジヂがブラシマシラスと呼び、シャイヴァはパーシュパタアストラと呼ぶ。破壊神シヴァの武器であり、英雄アルジュナが宿敵カルナを倒すのに用いた武器。
 それが今、ヴァイスを覆い尽くした。
 そう、防衛作戦にシャイヴァが加わっていなかったのは最大の懸念点であるメジヂを確実に倒すためだったのだ。
 少しずるいかもしれないが、これで私たちの勝ちだ。
「あはははははは!」
 瞬きしたその一瞬のうちに、確かにヴァイスは消滅した。しかし、その不愉快な笑い声は消えない。
「いや、まさかそんな手で来るとはね。危なかったよ、本当に」
 いた。先程までヴァイスがいた場所に、確かにそこに浮かんでいた。ヴァイスは消せたが、メジヂは消せなかった、ということ?
「いやぁ、悪いね。ブラフマシラスは確かにあまねく一切を消し去るんだけど、それってあくまで自身の世界のあまねく一切に過ぎないんだよね」
 そう言った直後、メジヂの手元の空間が、なんというか……捩れた
 まるで空間そのものが騎乗槍のような円錐状に歪曲していく。
「まずい!」
 その円錐の先端にいるのは、隠れているシャイヴァのアンバーだ!
 慌ててメギンギョルズをはためかせて急降下する。
 円錐状の歪みが先端方向に動き出す。
 間に合わない!
 『シャイヴァ!』
 そこに間に合わせたのは、イシャンだった。パドマで円錐状の歪みを受け止め、自身はアンバーを突き飛ばした。
 が、私に次ぐ神性と、ダンディライオンの盾に次ぐ硬さを誇るその浮遊する盾は、恐ろしいほど一瞬で弾き飛ばされ、アンバーを突き飛ばした結果、アンバーのいた位置にいたパパラチアのコックピットブロックに突き刺さった。
「イシャン!」
 『ぐっ、この、畜生……』
 6ユニットあるパドマ、その全てがブラフマーストラに装填される。
 『せめて、これで……!』
 ブラフマーストラの砲身が伸びる。
「グレイプニル!」
 イシャンは決死で攻撃する気だ。なら私はせめてそれを援護しなくては!
 二丁の拳銃を乱射する。当たれば動けなくなるし、周囲を弾丸が飛ぶだけでもやはり下手に動けなくなる。
 そして、パパラチアの全力ブラフマーストラが放たれる。6ユニットすべての神性を注ぎ込んだその一撃の瞬間出力はヴァイスの出力さえも上回る。流石に今度こそメジヂも助かる術はない!
「ほいっと」
 メジヂがパパラチアに向けて、引っ掻くようなジェスチャーを取る。
 直後、空中に三本爪の亀裂が走り、そこから空間の"裂け目"……そうとしか形容できない現象が発生した。
 何もない場所に、薄さ0の穴が空いている。
 放たれたブラフマーストラは全てその穴に飲み込まれ。
 『きゃぁぁぁぁっっ!』
 『くっっっっ!』
 直後、二人の女性の悲鳴が聞こえた。
「何事!?」

 

■ Third Person Start ■

 

 そこは打ち上げ施設の南側。防衛を担うスカーレットとヴァイオレットが立っている。
 突然、二体のデウスエクスマキナを一直線に結ぶ直線上に先程見た空間の"裂け目"が出現し、ピンク色の極太熱線がその"裂け目"から飛び出した。
 それはヴァイスの神性防御すら打ち砕く恐るべしブラフマーストラの一撃。ピンクの熱線は速やかにスカーレットとヴァイオレットを呑み込み、そして、ごくごく僅かな基礎フレームを残し、消滅した。

 

◆ Third Person Out ◆

 

 なんてこと。辛うじて、コックピットブロックは残っているようだけど、もうあれでは戦闘も出来ないだろう。
 たった一瞬で、パパラチア、スカーレット、ヴァイオレットを失ったのか。
「メジヂ!」
 レーヴァテインを構えて突撃する。
 メジヂが空中を引っ掻き、三本爪の"裂け目"が目の前に広がる。
 直後、"私"達の眼前に広がるのは四本腕のデウスエクスマキナ……ダンディライオン!!
 慌てて足で踏ん張って止まろうとするが、落下によってついた速度はその程度では停止しきれない。
 『危ない!』
 割り込んだラファエルがカーボネック・シールドで私の攻撃を受け止めた。
 『ありがとう、メドラウドさん』
 『気にしないでください、フレイさん、しかし、今のは』
 『うん、多分空間と空間を繋ぎ変える能力だ』
 これは厄介だ。先程の私やさらにその前のイシャンのように、行った攻撃をそのまま自分に、あるいは他の味方に返してくる。防御、どころかカウンターだ。
 ルシフェルが降下に使う転移もあの能力によるものか。アメリカが撮影した月よりルシフェルが出撃する映像はそれ以前にルシフェルが月から出撃した時のものなのだろう。
 『遠距離攻撃はまずいか。近接攻撃主体、しかも防御も張れないくらい接近してじゃないと』
 『かなり厳しいですね。そもそも本体の神性防御もかなりのもののはずです』
 なんてことだ。ここまできて、勝ち目なしで負けるのか?
 『話してる暇はなさそうだ。空を見て』
 『フレイさん、メドラウドさん、チュンダが空を見て、と……!』
 ヒンディー語で何かを言ったチュンダの言葉をスジャータが翻訳し、何かを見て息を呑む。
 空?
 見上げると、それはルシフェルの群れだった。
「あはは! ルシフェルの群れで空が見えない! ルシフェルが七分に空が三分! って?」
 事態に気付いた私たちにメジヂが通信に割り込んできて嗤う。
「あ、この世界だとまだこの映画ないんだっけ。ま、それじゃこの先に作られることもないだろうけど」
「メジヂ……!」
 メギンギョルズを展開し、飛び上がる。
「お、まだやるかい、オーディン。じゃ、僕も応じるとしようか」
 視界の向こうでメジヂが頭上に"裂け目"を開く。
 そして、"裂け目"から落ちてくる。それは。
「ヴァイス!」
「大正解。いやー、念のため持ってきておいて正解だった」
 メジヂがヴァイスに乗り込む。ヴァイスの赤い三つ目が輝気、起動したことを示す。
 手元に赤い槍が出現する。
 "私"がようやくヴァイスまで到達しグングニル・オリジンを振りかぶる。白と赤、二つの槍が交差する。
「どういう事!? なんで、ヴァイスが二つあるの![
「さぁ、なんでかな。もしかしたら二つあったのかも」
 いや、それはありえない。確か、過去に見た。

 

■ Third Person Start ■

 

「頼む、ジユグ。もはや君以外頼める人間がいないんだ」
 マザデが頭を下げる。後ろの原初のデウスエクスマキナは黒いままだから、外来種の神とやらが現れるより前か。
「頭を上げてくれマザデ。君の気持ちはよく分かる。俺だって力になれるなら力になりたい」
「なら!」
「だか、無理なんだ。すぐに擬似神核に封入してエネルギー源に組み込め、かつ量産可能な体系を作るなんて」
 ジユグと呼ばれた男が叫びながら無念そうに首を振る。
「そんな。過去最高の腕を持つと言われる体系技師の君を持ってさえ不可能だと?」
「あぁ。過去最高の腕を持つと言われる神性技師の君を持ってさえ私に頭を下げなければならなかったのと同じようにね」
 そう、マザデは悩んでいた。人類全てを救うにはのても擬似神性の数が足りないことに。
 そこで、マザデは神性そのものを内包するエネルギー原、即ち、体系を形作る体系技師たるジユグに頭を下げてでも神性を量産しようとした。
「な、なら、既存の体系を複製出来ないか? 一つの神性が複数の擬似神性を動かせれば、あるいはそれでも……」
「無理だろうね。知性を持つものは自己と同一の存在が目前にいるという事実には耐えられない。作られたものだとしても神性も同じことだ。同じ神性を持った擬似神性を作るのは間違ってもやめた方がいい。下手をすれば……」
「どちらもダメになってより数が減る事態にもなりかねないか」
「あぁ」
「クソっ、ならどうすればいいんだ!」
 マザデが頭を抱える。
「なぁ、マザデ。悩んでるところ申し訳ないが、気分転換代わりに俺の手伝いをしてくれないか?」
「なに? それはもちろん構わないが、私で力になれることか?」
 二人が連れ立って歩き出す。
「あぁ。この星からの脱出がかなったとして、いつか私達がこの星に戻った時、この星が私達の望む環境と違っては困るだろう? そこで、いつか戻って来た時のための体系を新たに作ったんだ」
「なんだと!? なら、それを……」
「擬似神性にする、とは言わないでくれよ。まだこの体系は未稼働だからエネルギーは取り出せないし、なにより、残ったリソースをほとんど注ぎ込んで作った代物だ、次は作れない。まさか、後の備えをここで食い潰したいとは言わないだろ?」
 ジユグの研究スペースに到着する。そこにはカプセルのような透明なケースに封印された何にもの"何か"が眠っていた。その真ん中にあるケースには「テセリア」と刻印がある。
「……そうだな。だが、私に何をしろと? 見たところ体系は完全に完成しているように見える。調停の神を中心に添えたアニミズム的な神性。シンプルだが目的に完全に合致している」
「あぁ、それはもちろん。ただ、彼らが目覚める時に俺達が必ず星に降りて来ているとは限らないだろ? そこで、彼らをある程度管理するシステムが必要になると思うんだ。それに、そうでないと、俺達に好ましい環境を作ってくれない可能性も出てくるからな」
「なるほど。私に作って欲しいのはその管理システムか。……良いだろう。擬似神性は行き詰まっていてどうせやることはない。気分転換に付き合おうじゃないか」

 

◆ Third Person Out ◆

 

 そう。もし擬似神性を複製出来るなら、マザデは困っていないのだ。
 だから、これが二体目のヴァイスであるはずがない。
「どうしても知りたいなら、その第三の視点を使って見たらどう?」
「狙ってみられるならそうするよ!」
「まだ出来ないんだ、じゃ、大したことないね!」
 ガキン、と槍を跳ね上げられる。
「レーヴァテイン、励起!」
 お互いに生じたこの隙を逃すわけにはいかない。レーヴァテインをスルトモードに切り替えて半ば強引に切り上げる。
「ふっ」
 ヴァイスの動きが不自然に止まり、正面に"裂け目"が出現する。そして、"私"のレーヴァテインが"裂け目"に飲み込まれる。
 『危ない! くっ』
 硬いものを切断した手応えがあった。
 『メドラウドさん、シールドが!』
 『この程度、大したことではありませんよ。ぐっ』
 スジャータさんの悲鳴が聞こえた。それに対してメドラウドさんは余裕ぶったが、直後に苦しそうな声を上げる。

 

■ Second Person Start (Medrawd) ■

 

「剣にエネルギーを集中!」
「はい!」
 防御型ルシフェルの盾を真正面から叩き切る。いかなクラレントと言えど、本来なら防御型の盾を破壊するなど不可能だ。それが可能なのは一重に後席でエネルギー振り分けを行ってくれているソフィアのおかげだけ。他に回すべきエネルギーを……つまり、防御も機動性も捨てて初めて、防御型を打ち破るだけの出力を得られる。
 これまでも理論上は可能だったが、本当に実行すれば、たちまち他のルシフェルの攻撃を喰らって、防御を失った装甲はそれを防ぎ切れず、やられていただろう。
「左、騎士型!」
 騎士型の剣を盾で受け止める。もう盾には元の防御力が戻っていた。
 ソフィアがこちらに合わせて常にエネルギーを調整してくれるから、瞬間的に出力を上げ、瞬間的に元に戻すことが出来る。
 これは通常のDEMには不可能な事だ。不完全な人工DEMでもあるが、私はこれに乗れることを誇りに思う。
「右から高出力砲撃!」
「こちらでは間に合わない!」
「防御壁を展開、2秒!」
 盾で騎士型の剣を押し戻し、剣で切断する。
 右を向くと魔法陣で構成された壁が今にも消滅しそうに明滅していた。
「盾に全エネルギー!」
 砲撃型の熱線を盾で受け止める。本来なら逸らすことすら難しい砲撃型ルシフェルの砲撃を僅か数秒とはいえ防ぐ防御壁の展開。これもまた、ソフィアの強みだ。
 わずか2秒稼げるだけで、戦いの推移は大きく変わる。
「敵の数は圧倒的ですが、ダンディライオンの方も大きな損害なく戦闘出来ています。これを維持できれば……!」
 そう、私はダンディライオンと背中合わせにお互いの死角を補いつつ戦闘していた。
 と、ダンディライオンに視線をつけた時、その背後の空間に亀裂が走ったのを確かに見た。
「まずい!」
 ダンディライオンと"裂け目"の間に割り込み、盾を構える。
「盾にエネル……」
 ガツンと、破壊の力が盾に振るわれる。終末者ターミネーターの力、スルトの剣。
 その前に、私の盾は限界を超え、両断された。
「メドラウドさん、シールドが!」
「この程度、大したことではありませんよ」
 スジャータさんの心配そうな声に安心させるために冷静に応じる。
「ぐっ」
 しかし、盾を失い、隙まで晒したこちらを敵は容赦しなかった。
 前衛のルシフェルが一斉に殺到する。
「まずい!!」
 砲撃型から砲撃が飛んでくる。回避不能!

 

◆ Second Person Out ◆

 

「メドラウドさん!!!!」
 なんてことだ。近接攻撃でもこうなるのか。このままじゃ、味方を攻撃してしまうばかりになってしまう。
 近接攻撃もダメ、遠隔攻撃もダメ、大規模破壊もダメ。
《パドマのように敵の盾を避けて攻撃できればのう》
「……やっぱり、アレしかないのか」
 本当に使えるものなのかは分からない。一か八かの賭けになる。
「……」
 落ち着いて、レーヴァテインを通常モードに戻して構え直す。
「どうした、オーディン。降参かな?」
 メジヂの言葉は無視。目を閉じ、イメージする。さっきのヴァーミリオンのセリフから考えてレーヴァテインの変形に私のイメージは関係ないようにも思えるけど。それでもやはりイメージは成功率を上げる、そんな気がする。
「レーヴァテイン、フレイモード!」
 目を開け、叫ぶ。
 剣が折り畳まれ、柄とハンドガードだけになる。そして、赤白い炎が真っ直ぐな刀身のように燃え上がる。
 直後、レーヴァテインが浮かび上がり、自動的にメジヂのヴァイスに向かって行く。
「なに!?」
 炎の刃は、終末者ターミネーターの力を持つスルトモードほどではないにせよ、確実にヴァイスにダメージを与えた。
「くっ。フレイの名前を冠した剣……独自の武器を編み出した……いや……、そうか、それは……。まさか……!」
「そう。これこそは……」
「フレイの勝利の剣」
 不愉快ながらメジヂと声がハモる。
 そう、北欧神話でフレイといえば、私のことではない。晴天の神にしてヴァニル達の女神ヴァナディース・フレイヤの双子の兄。ユングリングのフレイだ。
 スルトの剣と同一視されるレーヴァテインだが、一方でスルトの剣はもう一つ、フレイの持つ「勝利の剣」とも同一視される事がある。
 これは自動で戦い、持つものに勝利をもたらすと言われる剣で、フレイはこれを失ったが故にスルトに敗れたとされる。
 一か八かだったが、うまくいったらしい。
「だが、その剣じゃボクの神性を十分には抜けない。倒し切る前に、先に君を倒せるよ、オーディン」
 直後、ヴァイスの三つ目が炎のように揺らめく。
 合わせて、ロンギヌスの槍が妖しく蠢く。
 私はグングニル・オリジンを構え直し、防御の姿勢を取る。
 ヴァイスがこちらに走り出す。
 あまりに隙だらけの動き。こちらの攻撃を誘発させて同士討ちさせる気か?
 なら、その手には乗らない。私は確実に防御し、その隙を勝利の剣に突いてもらう。
「はっ!」
 真正面から大振りの突き! こんな攻撃、避けられないわけがない。
 突きの到達地点を槍でカバー……。
「がっ!」
 直後、右肩に激痛が走った。いや、これは幻肢痛だ。実際の右肩ではなく、ヴァーミリオンの右腕が傷ついたのだ。
 なんで?
 差し出されたロンギヌスの槍は、私のグングニル・オリジンに防がれる直前に、"裂け目"に消えていた。
「自分の攻撃を転移させたのか……」
「正解。じゃ、どんどん行くよ!」
 ヴァイスが後ろに飛び下がる。
「待て!」
 慌てて駆け出す。しかし、それが良くなかった。
 十分に距離をとったヴァイスはそれを良いことに、虚空に向けて連続で突きを放った。
 もちろん、その切先は"裂け目"の中へ。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
 四方八方から、"裂け目"が開いては閉じて開いては閉じ、足、肩、膝、胸、頭、貫かれない場所はないと言うほどに、全身を貫かれる。
 綺麗に一分、"私"の全身を突き尽くしたヴァイスは一度攻撃を中止する。
「ぐっ、くっ」
 情けない事に、攻撃が止んで一息付けて安心している自分がいた。
 それにしても、なんで……。
《あぁ、なぜ、コアやコックピットブロックを狙わんのか……》
 それは単にいたぶりたいだけでしょ。さっきから配下のルシフェル達もロケットを攻撃してない。遊びの多い男だ、メジヂは。
 何をするにしてもどうすれば相手を馬鹿に出来るかを考えて緻密に計算する男だろう。それでいてイレギュラーに弱いから、結果的に当初の予定すらこなせなくなるわけだ。相手を馬鹿にするなんて無駄な縛りを入れて挙句失敗する。小物にありがちなミスだ。
 痛ぶられて怒っているのだろう。どこまでも罵詈雑言が浮かんできそうだ。
「違う、そうじゃなくて……、なんで、こんなにダメージがフィードバックするの……」
 確かに直接デウスエクスマキナを操る私は、他の人と違って多少のダメージフィードバックを受けてきた。けど、それは多少の痛みや、違和感、あるいは痒みやしびれ程度だったはずだ。
「あはは、それは君がどんどんオーディンに近づいてるからさ!」
「オーディンに?」
「そう。第三視点で色んなものを覗いてきたろう? フギンとムニンまで使っただろう? 僕にオーディンと呼ばれ、それを受け入れただろう? そして、これは僕も予想外だったけど、本物のグングニルを手に取っただろう? レーヴァテインが近接武器じゃなくなったから、それを自分のメインの武器として認識したよね? 君の認知はどんどんオーディンに近付いてるのさ。そうすると、君の神秘的な存在もまた、オーディンに近くなる。君達の言葉だと、照応とかって言ったかな?」
 つまり、私がオーディンに近付いてるから、オーディンであるこのヴァーミリオンともシンクロも強くなって、フィードバックも強くなった、ということか。
《やたらお主のことをオーディン扱いすると思ったら、そんな狙いがあったとはなぁ》
「いや、あったとはなぁ、って、全てを見渡せるオーディンなら気付いてよ」
《全てを見渡す第三視点ならお主も持っておるだろう? そして、あれは簡単に制御出来るものじゃ無い。あれに目覚めた時点で、もはやこうなるのは決まっておった。より精密にこの体躯を操れるようになると好意的に考えるしか無いと思っておったわ。そうなれば攻撃も喰らわなくなるじゃろうしの》
 ところが、そうはならなくなった、と。あんな攻撃、ちょっと動きが良いくらいじゃ話にならない。
《全盛期なら第三視点で全部避けられたからの》
 私の第三視点じゃ、あの突きのスピードにはついていけない。せめて見ながら体を動かせないと。
「あはは、もう打つ手無しかな? じゃ、終わらせてあげるよ!」
 こちらが何も動かないのをいいことに、メジヂが再びロンギヌスの槍を構える。

 


 

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