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Angel Dust 第18章

 

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 もちろん文章をただ読むだけでも100%物語をお楽しみ頂けますが、iPad以外でご覧いただきますと110%お楽しみ頂けます。もし宜しければ後日でもiPad以外でまた読んでいただければと思います。

 


 

 白い人影たちが降下していく。
 手元に武器を実体化させ、地上の人々の驚きを受け止める。
 円形のフォーメーション、その中心に立つ白い人型は自分達の力の源、即ち天使達を模して天使の輪ハイロウと、大きな翼を展開して。
 地球上のあらゆる言語で宣言する。
「地球を明け渡せ。我らかつてこの地に住まった者、今一度この地に降り立つ者。我ら、再臨者アドベンターなり」
 この景色が、全ての始まりだった。

 

◆ Third Person Out ◆

 

 あぁ、いまえた光景はまさに、今見えている光景にそっくりだった。
天使の輪ハイロウを頭上で輝かせ、光の翼を広げている。
 唯一の違いはルシフェル特有の赤い三つの光点によって構成される顔。
 そういえばあの顔は何なんだろう。マザデの知る限り月の揺り籠に避難する前の旧人類はもう少し私達人間に近い顔立ちをしていた。
 また、私の知る限り、唯一神関連の伝承に赤い三つ目の伝承はない。
 もちろん、第三の目サードアイというのは神秘主義や形而上学で扱われる神秘的な概念である。様々な地域に唯一神が広がる上で、そういった思想の者達の内心により、第三の目を持つ、という無意識的認識が成立した可能性は否定出来ないが。
 フィラデルフィアの研究所にいる間に誰かに聞いておくべきだったかもしれないが、もはや今更な話だ。
「メジヂ!」
 叫び声一つ気合を入れ、レーヴァテインを構えてメギンギョルズで大きく飛び上がる。
 空中に静止しているメジヂのヴァイスに〝私"が、あるいは"私〟のレーヴァテインが運動エネルギーでぶつかる。
 メジヂとヴァイスの強い神性が運動エネルギーを減衰させ、〝私〟を静止させる。
「早速来たね、オーディン!」
 ほぼ腕だけで〝私〟の突撃を受け止めた形になるメヂジは私を奇妙な名前で呼んだ。いや、このヴァーミリオンで神格が表面化してるのはオーディンではあるのだけど。
「災厄の杖、レーヴァテイン? それはロキの武器だろう? オーディンらしくグングニルを使いなよ!」
 安い挑発だ。ここでグングニルを使うのは危険すぎる。今の位置関係ならまだしも、このままヴァイスと〝私〟の位置関係が反転すれば、グングニルがロケットを傷つけてしまう恐れがある。
「ランス・オブ・ロンギヌス!」
 ヴァイスの手に赤い一筋の線の入った白い槍が出現する。
「さっさと本気を出さないなら、死ぬよ!」
 ロンギヌスの槍が赤く染まる。
「レーヴァテイン、励起!」
 レーヴァテインが直剣の見た目に変形し、青い炎を吹き出す。
 片目を開けてモニターを見ると五分間のカウントダウンが表示されているのが分かる。
 励起した……いや、スルトモードと呼ぶ事にするこの状態は、レーヴァテインの炎は終末者ターミネーターと呼ばれる因子を持つ状態になり、神性を持つ者に特に有効なダメージを与えられるようになる。極めて強力な神性を持つメヂジとヴァイスと戦うにはこのモードの出力でなければ現状難しい。
 しかし、この炎は自身の身すら焼くと伝承され、今〝私〟の持つそれも同じ。
 スルトモードを長時間継続使用するとDEMの持つ自己再生の限界を大幅に超えるダメージを受けてしまうため、長期戦が予想される防衛戦においては、スルトモードが5分以上継続しないように設定される事になった。
 もっとも、所詮コックピットブロックを使ったDEMへの干渉に過ぎない以上、ヴァーミリオンと深く深く繋がっている私が全力で継続させようとすれば、その程度のセーフティは無視出来るが。
 赤いロンギヌスの槍とレーヴァテインの青い炎が拮抗する。
『今そっちに向かってる。最悪拮抗状態を維持できれば良い、無理するなよ』
 イシャンから通信が入る。イシャンのブラフマーストラはヴァイスとメジヂの防御を上回れる貴重な武器だ。それを活用できるのなら、確かにこの拮抗を維持するためにスルトモードを使うのにも意味がある。
『ありがとう、けどそう上手くは行かないよ』
「あはは! この前の決闘の再演をやるつもりかい、オーディン! 邪を払う剣、《霊の剣》!」
 案の定、ヴァイスの左手に白く輝く剣が出現する。
 魔性に近いエネルギーを持つスルトモードのレーヴァテインはこの霊の剣にとても弱い。
 以前はこれに対しその処理能力を超える出力を持つミョルニムで対抗したが、今回、ミョルニムはグングニルと同じ理由で使えない。
 しかし、この後のことを考えればここで距離を取ったりするのは得策ではない。このまま近距離戦を続けなければ。
 しかし、霊の剣は魔に属するものをなんでも払ってしまう恐ろしい武器だ。メジヂの高い神性により、魔に属さなくても半端な武器ならやはり押し負けてしまう。
 となれば。
「ヴァーミリオン! グングニルを使った時のことを思い出して!」
《な、何?》
「いいから、早く!」
《う、うむ。えーっと、そうじゃなぁ》
 ヴァーミリオンが考え出した。後は、ヴァーミリオンの思考と同調して……。

 

■ Second Person Start (Óðinn) ■

 

 その日は〝世界〟で初めて戦争が起きた日だった。
 全ての始まりはヴァニル達が我らアーシスの元に送り込んだ恐ろしき〝黄金の力〟クルヴェイグは、アーシスの領域で魔法セイズを教えて周り、悪しき者達を喜ばせた。
 これに脅威を感じた儂達はクルヴェイグを館に招き、説得したがこれに応じず、やむなく槍で貫き、焼いたが、しかし、三度繰り返しても死ぬ事なく。
 それどころか、これを敵対と見たヴァニル達が侵攻してくる事態となった。
 戦争というものをするのは初めてだが、有効な武器は知っていた。
 過去から未来、果ては並行世界、そしてこの領域の外側までも見通せる第三の視点。
 それが彼に伝えていた。
 私はトネリコの枝を手に待ち、そこから、未来、私が持つことになる槍へと限定的に改竄する。
 私の手中にそれは姿を表した。
 それは白き光の槍。柄にはトネリコを、穂先にはルーン文字を。
 それは決してまとを打ち損なわず、敵を貫いた後には自ら持ち手の元に帰り、この槍を向けた軍勢には必ず勝利をもたらすとされる。
 即ち、グングニル。
 それは速やかにヴァニルの軍勢に向けて放たれる。

 

◆ Second Person Out ◆

 

 それは、『巫女の予言』に語られるアース神族アーシスヴァン神族ヴァニルの戦争の始まりの光景だった。
 グングニルが作られるより前のエピソードのはずだがミーミルの泉により全てを見通す力を得たヴァーミリオン……否、オーディンにとっては、時間軸なんて関係ない、ということか。頭がこんがらがりそうだ。
「必中の神槍、《グングニル・オリジン》!」
 カタログにはない名前。しかし、私は自信を持って叫ぶ。
 直後、〝私〟の左手に先程に見た光の槍が出現し、霊の剣を受け止めた。
「なっ」
 情報実体化を行う際、神格と乗り手エンジェルのイメージが複合マージされる。ヴァーミリオンの武器にミリタリー風な要素を持つものが多かったのは、最初に見たグレイプニルが二丁拳銃の形を取っていたことと、神秘関係に疎かった影響だろう。
 私が武器を使ったことでカタログに武器が増えると、私が使ったそのままの武器として実体化したのも、私の作った武器を見て「そういう武器だ」と認識した影響だろう。
《レーヴァテインのように元々可変する性質を持った武器の場合、変形して元の姿に戻ることもあるようじゃがの》
 なるほど、あの見た目のレーヴァテインは私がイメージしたレーヴァテインで、スルトモードのレーヴァテインは本当にスルトが使っていた時のもの、ということか。
 まぁ要するにヴァーミリオンに本物のグングニルを見せてもらったことで、グングニル・オリジンという名前で本物のグングニルに近い近接武器を実体化させてもらったわけだ。
「でやぁっ!」
 ここで未知の武器が出てくると思わなかったらしくメジヂが硬直した。やはり、ミョルニムの時と同じ、想定外の事態に弱い!
 グングニルの柄でロンギヌスの槍を受け止め直す。流石は主神の槍、押し勝てないまでも、辛うじて拮抗出来ている。
 自由となった右手のレーヴァテインで翼を切りつける。
「くっ!」
「堕ちろ!!」
 落下を始めるメジヂのヴァイスに向けて、グングニルを投擲する。
 グングニルはヴァイスの落下コースを僅かに変え、事前にビーコンを仕込んでおいたその中央に確実に落下した。
「狙い通り!」
 忘れずにレーヴァテインを通常モードに戻す。
『今だよ!』
『了解』
 英語で叫ぶと、シャイヴァが速やかに応じる。
 直後、ヴァイスの四方から光の筋が伸びる。事前に雪の下に仕込んでおいた鏃。
 囲ったものを消滅させる恐るべし武器。メジヂがブラシマシラスと呼び、シャイヴァはパーシュパタアストラと呼ぶ。破壊神シヴァの武器であり、英雄アルジュナが宿敵カルナを倒すのに用いた武器。
 それが今、ヴァイスを覆い尽くした。
 そう、防衛作戦にシャイヴァが加わっていなかったのは最大の懸念点であるメジヂを確実に倒すためだったのだ。
 少しずるいかもしれないが、これで私たちの勝ちだ。
「あはははははは!」
 瞬きしたその一瞬のうちに、確かにヴァイスは消滅した。しかし、その不愉快な笑い声は消えない。
「いや、まさかそんな手で来るとはね。危なかったよ、本当に」
 いた。先程までヴァイスがいた場所に、確かにそこに浮かんでいた。ヴァイスは消せたが、メジヂは消せなかった、ということ?
「いやぁ、悪いね。ブラフマシラスは確かにあまねく一切を消し去るんだけど、それってあくまで自身の世界のあまねく一切に過ぎないんだよね」
 そう言った直後、メジヂの手元の空間が、なんというか……捩れた
 まるで空間そのものが騎乗槍のような円錐状に歪曲していく。
「まずい!」
 その円錐の先端にいるのは、隠れているシャイヴァのアンバーだ!
 慌ててメギンギョルズをはためかせて急降下する。
 円錐状の歪みが先端方向に動き出す。
 間に合わない!
『シャイヴァ!』
 そこに間に合わせたのは、イシャンだった。パドマで円錐状の歪みを受け止め、自身はアンバーを突き飛ばした。
 が、私に次ぐ神性と、ダンディライオンの盾に次ぐ硬さを誇るその浮遊する盾は、恐ろしいほど一瞬で弾き飛ばされ、アンバーを突き飛ばした結果、アンバーのいた位置にいたパパラチアのコックピットブロックに突き刺さった。
「イシャン!」
『ぐっ、この、畜生……』
 6ユニットあるパドマ、その全てがブラフマーストラに装填される。
『せめて、これで……!』
 ブラフマーストラの砲身が伸びる。
「グレイプニル!」
 イシャンは決死で攻撃する気だ。なら私はせめてそれを援護しなくては!
 二丁の拳銃を乱射する。当たれば動けなくなるし、周囲を弾丸が飛ぶだけでもやはり下手に動けなくなる。
 そして、パパラチアの全力ブラフマーストラが放たれる。6ユニットすべての神性を注ぎ込んだその一撃の瞬間出力はヴァイスの出力さえも上回る。流石に今度こそメジヂも助かる術はない!
「ほいっと」
 メジヂがパパラチアに向けて、引っ掻くようなジェスチャーを取る。
 直後、空中に三本爪の亀裂が走り、そこから空間の〝裂け目〟……そうとしか形容できない現象が発生した。
 何もない場所に、薄さ0の穴が空いている。
 放たれたブラフマーストラは全てその穴に飲み込まれ。
『きゃぁぁぁぁっっ!』
『くっっっっ!』
 直後、二人の女性の悲鳴が聞こえた。
「何事!?」

 

■ Third Person Start ■

 

 そこは打ち上げ施設の南側。防衛を担うスカーレットとヴァイオレットが立っている。
 突然、二体のDEMを一直線に結ぶ直線上に先程見た空間の〝裂け目"が出現し、ピンク色の極太熱線がその"裂け目〟から飛び出した。
 それはヴァイスの神性防御すら打ち砕く恐るべしブラフマーストラの一撃。ピンクの熱線は速やかにスカーレットとヴァイオレットを呑み込み、そして、ごくごく僅かな基礎フレームを残し、消滅した。

 

◆ Third Person Out ◆

 

 なんてこと。辛うじて、コックピットブロックは残っているようだけど、もうあれでは戦闘も出来ないだろう。
 たった一瞬で、パパラチア、スカーレット、ヴァイオレットを失ったのか。
「メジヂ!」
 レーヴァテインを構えて突撃する。
 メジヂが空中を引っ掻き、三本爪の〝裂け目〟が目の前に広がる。
 直後、〝私〟達の眼前に広がるのは四本腕のDEM……ダンディライオン!!
 慌てて足で踏ん張って止まろうとするが、落下によってついた速度はその程度では停止しきれない。
『危ない!』
 割り込んだラファエルがカーボネック・シールドで私の攻撃を受け止めた。
『ありがとう、メドラウドさん』
『気にしないでください、フレイさん、しかし、今のは』
『うん、多分空間と空間を繋ぎ変える能力だ』
 これは厄介だ。先程の私やさらにその前のイシャンのように、行った攻撃をそのまま自分に、あるいは他の味方に返してくる。防御、どころかカウンターだ。
 ルシフェルが降下に使う転移もあの能力によるものか。アメリカが撮影した月よりルシフェルが出撃する映像はそれ以前にルシフェルが月から出撃した時のものなのだろう。
『遠距離攻撃はまずいか。近接攻撃主体、しかも防御も張れないくらい接近してじゃないと』
『かなり厳しいですね。そもそも本体の神性防御もかなりのもののはずです』
 なんてことだ。ここまできて、勝ち目なしで負けるのか?
『話してる暇はなさそうだ。空を見て』
『フレイさん、メドラウドさん、チュンダが空を見て、と……!』
 ヒンディー語で何かを言ったチュンダの言葉をスジャータが翻訳し、何かを見て息を呑む。
 空?
 見上げると、それはルシフェルの群れだった。
「あはは! ルシフェルの群れで空が見えない! ルシフェルが七分に空が三分! って?」
 事態に気付いた私たちにメジヂが通信に割り込んできて嗤う。
「あ、この世界だとまだこの映画ないんだっけ。ま、それじゃこの先に作られることもないだろうけど」
「メジヂ……!」
 メギンギョルズを展開し、飛び上がる。
「お、まだやるかい、オーディン。じゃ、僕も応じるとしようか」
 視界の向こうでメジヂが頭上に〝裂け目〟を開く。
 そして、〝裂け目〟から落ちてくる。それは。
「ヴァイス!」
「大正解。いやー、念のため持ってきておいて正解だった」
 メジヂがヴァイスに乗り込む。ヴァイスの赤い三つ目が輝気、起動したことを示す。
 手元に赤い槍が出現する。
 〝私〟がようやくヴァイスまで到達しグングニル・オリジンを振りかぶる。白と赤、二つの槍が交差する。
「どういう事!? なんで、ヴァイスが二つあるの![
「さぁ、なんでかな。もしかしたら二つあったのかも」
 いや、それはありえない。確か、過去に見た。

 

■ Third Person Start ■

 

「頼む、ジユグ。もはや君以外頼める人間がいないんだ」
 マザデが頭を下げる。後ろの原初のデウスエクスマキナは黒いままだから、外来種の神とやらが現れるより前か。
「頭を上げてくれマザデ。君の気持ちはよく分かる。俺だって力になれるなら力になりたい」
「なら!」
「だか、無理なんだ。すぐに擬似神核に封入してエネルギー源に組み込め、かつ量産可能な体系を作るなんて」
 ジユグと呼ばれた男が叫びながら無念そうに首を振る。
「そんな。過去最高の腕を持つと言われる体系技師の君を持ってさえ不可能だと?」
「あぁ。過去最高の腕を持つと言われる神性技師の君を持ってさえ私に頭を下げなければならなかったのと同じようにね」
 そう、マザデは悩んでいた。人類全てを救うにはのても擬似神性の数が足りないことに。
 そこで、マザデは神性そのものを内包するエネルギー原、即ち、体系を形作る体系技師たるジユグに頭を下げてでも神性を量産しようとした。
「な、なら、既存の体系を複製出来ないか? 一つの神性が複数の擬似神性を動かせれば、あるいはそれでも……」
「無理だろうね。知性を持つものは自己と同一の存在が目前にいるという事実には耐えられない。作られたものだとしても神性も同じことだ。同じ神性を持った擬似神性を作るのは間違ってもやめた方がいい。下手をすれば……」
「どちらもダメになってより数が減る事態にもなりかねないか」
「あぁ」
「クソっ、ならどうすればいいんだ!」
 マザデが頭を抱える。
「なぁ、マザデ。悩んでるところ申し訳ないが、気分転換代わりに俺の手伝いをしてくれないか?」
「なに? それはもちろん構わないが、私で力になれることか?」
 二人が連れ立って歩き出す。
「あぁ。この星からの脱出がかなったとして、いつか私達がこの星に戻った時、この星が私達の望む環境と違っては困るだろう? そこで、いつか戻って来た時のための体系を新たに作ったんだ」
「なんだと!? なら、それを……」
「擬似神性にする、とは言わないでくれよ。まだこの体系は未稼働だからエネルギーは取り出せないし、なにより、残ったリソースをほとんど注ぎ込んで作った代物だ、次は作れない。まさか、後の備えをここで食い潰したいとは言わないだろ?」
 ジユグの研究スペースに到着する。そこにはカプセルのような透明なケースに封印された何にもの〝何か〟が眠っていた。その真ん中にあるケースには「テセリア」と刻印がある。
「……そうだな。だが、私に何をしろと? 見たところ体系は完全に完成しているように見える。調停の神を中心に添えたアニミズム的な神性。シンプルだが目的に完全に合致している」
「あぁ、それはもちろん。ただ、彼らが目覚める時に俺達が必ず星に降りて来ているとは限らないだろ? そこで、彼らをある程度管理するシステムが必要になると思うんだ。それに、そうでないと、俺達に好ましい環境を作ってくれない可能性も出てくるからな」
「なるほど。私に作って欲しいのはその管理システムか。……良いだろう。擬似神性は行き詰まっていてどうせやることはない。気分転換に付き合おうじゃないか」

 

◆ Third Person Out ◆

 

 そう。もし擬似神性を複製出来るなら、マザデは困っていないのだ。
 だから、これが二体目のヴァイスであるはずがない。
「どうしても知りたいなら、その第三の視点を使って見たらどう?」
「狙ってみられるならそうするよ!」
「まだ出来ないんだ、じゃ、大したことないね!」
 ガキン、と槍を跳ね上げられる。
「レーヴァテイン、励起!」
 お互いに生じたこの隙を逃すわけにはいかない。レーヴァテインをスルトモードに切り替えて半ば強引に切り上げる。
「ふっ」
 ヴァイスの動きが不自然に止まり、正面に〝裂け目"が出現する。そして、"私"のレーヴァテインが"裂け目〟に飲み込まれる。
『危ない! くっ』
 硬いものを切断した手応えがあった。
『メドラウドさん、シールドが!』
『この程度、大したことではありませんよ。ぐっ』
 スジャータさんの悲鳴が聞こえた。それに対してメドラウドさんは余裕ぶったが、直後に苦しそうな声を上げる。

 

■ Second Person Start (Medrawd) ■

 

「剣にエネルギーを集中!」
「はい!」
 防御型ルシフェルの盾を真正面から叩き切る。いかなクラレントと言えど、本来なら防御型の盾を破壊するなど不可能だ。それが可能なのは一重に後席でエネルギー振り分けを行ってくれているソフィアのおかげだけ。他に回すべきエネルギーを……つまり、防御も機動性も捨てて初めて、防御型を打ち破るだけの出力を得られる。
 これまでも理論上は可能だったが、本当に実行すれば、たちまち他のルシフェルの攻撃を喰らって、防御を失った装甲はそれを防ぎ切れず、やられていただろう。
「左、騎士型!」
 騎士型の剣を盾で受け止める。もう盾には元の防御力が戻っていた。
 ソフィアがこちらに合わせて常にエネルギーを調整してくれるから、瞬間的に出力を上げ、瞬間的に元に戻すことが出来る。
 これは通常のDEMには不可能な事だ。不完全な人工DEMでもあるが、私はこれに乗れることを誇りに思う。
「右から高出力砲撃!」
「こちらでは間に合わない!」
「防御壁を展開、2秒!」
 盾で騎士型の剣を押し戻し、剣で切断する。
 右を向くと魔法陣で構成された壁が今にも消滅しそうに明滅していた。
「盾に全エネルギー!」
 砲撃型の熱線を盾で受け止める。本来なら逸らすことすら難しい砲撃型ルシフェルの砲撃を僅か数秒とはいえ防ぐ防御壁の展開。これもまた、ソフィアの強みだ。
 わずか2秒稼げるだけで、戦いの推移は大きく変わる。
「敵の数は圧倒的ですが、ダンディライオンの方も大きな損害なく戦闘出来ています。これを維持できれば……!」
 そう、私はダンディライオンと背中合わせにお互いの死角を補いつつ戦闘していた。
 と、ダンディライオンに視線をつけた時、その背後の空間に亀裂が走ったのを確かに見た。
「まずい!」
 ダンディライオンと〝裂け目〟の間に割り込み、盾を構える。
「盾にエネル……」
 ガツンと、破壊の力が盾に振るわれる。終末者ターミネーターの力、スルトの剣。
 その前に、私の盾は限界を超え、両断された。
「メドラウドさん、シールドが!」
「この程度、大したことではありませんよ」
 スジャータさんの心配そうな声に安心させるために冷静に応じる。
「ぐっ」
 しかし、盾を失い、隙まで晒したこちらを敵は容赦しなかった。
 前衛のルシフェルが一斉に殺到する。
「まずい!!」
 砲撃型から砲撃が飛んでくる。回避不能!

 

◆ Second Person Out ◆

 

「メドラウドさん!!!!」
 なんてことだ。近接攻撃でもこうなるのか。このままじゃ、味方を攻撃してしまうばかりになってしまう。
 近接攻撃もダメ、遠隔攻撃もダメ、大規模破壊もダメ。
《パドマのように敵の盾を避けて攻撃できればのう》
「……やっぱり、アレしかないのか」
 本当に使えるものなのかは分からない。一か八かの賭けになる。
「……」
 落ち着いて、レーヴァテインを通常モードに戻して構え直す。
「どうした、オーディン。降参かな?」
 メジヂの言葉は無視。目を閉じ、イメージする。さっきのヴァーミリオンのセリフから考えてレーヴァテインの変形に私のイメージは関係ないようにも思えるけど。それでもやはりイメージは成功率を上げる、そんな気がする。
「レーヴァテイン、フレイモード!」
 目を開け、叫ぶ。
 剣が折り畳まれ、柄とハンドガードだけになる。そして、赤白い炎が真っ直ぐな刀身のように燃え上がる。
 直後、レーヴァテインが浮かび上がり、自動的にメジヂのヴァイスに向かって行く。
「なに!?」
 炎の刃は、終末者ターミネーターの力を持つスルトモードほどではないにせよ、確実にヴァイスにダメージを与えた。
「くっ。フレイの名前を冠した剣……独自の武器を編み出した……いや……、そうか、それは……。まさか……!」
「そう。これこそは……」
「フレイの勝利の剣」
 不愉快ながらメジヂと声がハモる。
 そう、北欧神話でフレイといえば、私のことではない。晴天の神にしてヴァニル達の女神ヴァナディース・フレイヤの双子の兄。ユングリングのフレイだ。
 スルトの剣と同一視されるレーヴァテインだが、一方でスルトの剣はもう一つ、フレイの持つ「勝利の剣」とも同一視される事がある。
 これは自動で戦い、持つものに勝利をもたらすと言われる剣で、フレイはこれを失ったが故にスルトに敗れたとされる。
 一か八かだったが、うまくいったらしい。
「だが、その剣じゃボクの神性を十分には抜けない。倒し切る前に、先に君を倒せるよ、オーディン」
 直後、ヴァイスの三つ目が炎のように揺らめく。
 合わせて、ロンギヌスの槍が妖しく蠢く。
 私はグングニル・オリジンを構え直し、防御の姿勢を取る。
 ヴァイスがこちらに走り出す。
 あまりに隙だらけの動き。こちらの攻撃を誘発させて同士討ちさせる気か?
 なら、その手には乗らない。私は確実に防御し、その隙を勝利の剣に突いてもらう。
「はっ!」
 真正面から大振りの突き! こんな攻撃、避けられないわけがない。
 突きの到達地点を槍でカバー……。
「がっ!」
 直後、右肩に激痛が走った。いや、これは幻肢痛だ。実際の右肩ではなく、ヴァーミリオンの右腕が傷ついたのだ。
 なんで?
 差し出されたロンギヌスの槍は、私のグングニル・オリジンに防がれる直前に、〝裂け目〟に消えていた。
「自分の攻撃を転移させたのか……」
「正解。じゃ、どんどん行くよ!」
 ヴァイスが後ろに飛び下がる。
「待て!」
 慌てて駆け出す。しかし、それが良くなかった。
 十分に距離をとったヴァイスはそれを良いことに、虚空に向けて連続で突きを放った。
 もちろん、その切先は〝裂け目〟の中へ。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
 四方八方から、〝裂け目〟が開いては閉じて開いては閉じ、足、肩、膝、胸、頭、貫かれない場所はないと言うほどに、全身を貫かれる。
 綺麗に一分、〝私〟の全身を突き尽くしたヴァイスは一度攻撃を中止する。
「ぐっ、くっ」
 情けない事に、攻撃が止んで一息付けて安心している自分がいた。
 それにしても、なんで……。
《あぁ、なぜ、コアやコックピットブロックを狙わんのか……》
 それは単にいたぶりたいだけでしょ。さっきから配下のルシフェル達もロケットを攻撃してない。遊びの多い男だ、メジヂは。
 何をするにしてもどうすれば相手を馬鹿に出来るかを考えて緻密に計算する男だろう。それでいてイレギュラーに弱いから、結果的に当初の予定すらこなせなくなるわけだ。相手を馬鹿にするなんて無駄な縛りを入れて挙句失敗する。小物にありがちなミスだ。
 痛ぶられて怒っているのだろう。どこまでも罵詈雑言が浮かんできそうだ。
「違う、そうじゃなくて……、なんで、こんなにダメージがフィードバックするの……」
 確かに直接DEMを操る私は、他の人と違って多少のダメージフィードバックを受けてきた。けど、それは多少の痛みや、違和感、あるいは痒みやしびれ程度だったはずだ。
「あはは、それは君がどんどんオーディンに近づいてるからさ!」
「オーディンに?」
「そう。第三視点で色んなものを覗いてきたろう? フギンとムニンまで使っただろう? 僕にオーディンと呼ばれ、それを受け入れただろう? そして、これは僕も予想外だったけど、本物のグングニルを手に取っただろう? レーヴァテインが近接武器じゃなくなったから、それを自分のメインの武器として認識したよね? 君の認知はどんどんオーディンに近付いてるのさ。そうすると、君の神秘的な存在もまた、オーディンに近くなる。君達の言葉だと、照応とかって言ったかな?」
 つまり、私がオーディンに近付いてるから、オーディンであるこのヴァーミリオンともシンクロも強くなって、フィードバックも強くなった、ということか。
《やたらお主のことをオーディン扱いすると思ったら、そんな狙いがあったとはなぁ》
「いや、あったとはなぁ、って、全てを見渡せるオーディンなら気付いてよ」
《全てを見渡す第三視点ならお主も持っておるだろう? そして、あれは簡単に制御出来るものじゃ無い。あれに目覚めた時点で、もはやこうなるのは決まっておった。より精密にこの体躯を操れるようになると好意的に考えるしか無いと思っておったわ。そうなれば攻撃も喰らわなくなるじゃろうしの》
 ところが、そうはならなくなった、と。あんな攻撃、ちょっと動きが良いくらいじゃ話にならない。
《全盛期なら第三視点で全部避けられたからの》
 私の第三視点じゃ、あの突きのスピードにはついていけない。せめて見ながら体を動かせないと。
「あはは、もう打つ手無しかな? じゃ、終わらせてあげるよ!」
 こちらが何も動かないのをいいことに、メジヂが再びロンギヌスの槍を構える。
 どうする、一か八か、グングニルかミョルニムで吹き飛ばすか?
「!」
 グングニル・オリジンを構え直す。
「はっ、そんな必死に構えたって、防げないものは防げるようにはならないよっ!」
 ふと、気付いた。
 照応すればするほど、私はオーディンに近づく。それはつまり、より第三視点も強力になるということだ。
 だが、今から何かを増やすことはできない。情報実体化のように無から有を生み出すには特別な条件が必要だからだ。
 だが、有を無にする事ならできる。
 オーディンが持っていなくて、私が持っているものがある。
 それは、右目だ。
 右手を二本指で爪のようにして右目に手をかける。
 本当にやるのか?
 メジヂがこちらに駆けてきている。
 ここで負ければ人類私達は終わる。
「ままよ!」
 右目に手を突っ込んで、引っ張り出す。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 全身を刺された時を越える痛みが頭を襲う。
 やっぱりダメだったのか。
 【右目の損傷を確認。オーディンソンプロトコル開始】
 機械が何かを英語で言っているが、痛みで聞こえたものじゃ無い。
 直後、右目に何かをあてがわれた感触を感じ、痛みが引いていった。
「これは……」
 疑問に思う間もなく、第三視点が起動する。

 

■ Third Person Start ■

 

 メイヴさんとソフィアさんが話している。
「単刀直入に言います。あの子、フレイさん、でしたか? 彼女の力を高める以外に我々に勝ち目はありません」
「またその話? なら、私に「フレイ、私たちの勝ちのために、右目を抉らせて」って言えと言うの?」
「そうです。ヴァイスの神性力は圧倒的です。しかもまだ隠し球を持っているかもしれない。オーディンに近づいている彼女を可能な限りオーディンに近づけて力を増すべきです」
「あなたまさか、イシャンのアレも」
「はい、私が助言しました。見事ヴィシュヌに近接しましたね。しかしアレが限界のようです。しかしフレイさんは違います。もっともっと近づける余地がある」
 淡々とソフィアさんが続ける。
「あなた……人の心はないの? 家と家族を失い戦いしか知らない少女がようやく色んなものを手に入れて、それを得た力に振り回されて苦しんで、それを今度は体まで差し出させようって言うの? その言葉に何も感じないの?」
「感じません、魔女ですから。目的のために可能な手段があるのに、それを感情で邪魔されては堪りません。私達が最初に教わる事は、平時感情を如何に封じるかです。普段は感情を模倣する魔術も動かしていますが、今はその必要もないですし」
「そ。太古の昔からイギリスを守ってきた英国の魔女。かのマーリンの弟子達と聞くから、どんな愉快な人達かと思っていたけど、実際に会ってみるとつまらないものね。けれどそれなら言う事は一つよ。私は貴方の提案を却下する。貴方達はあくまで助言役にして執行役、今指揮権を持つ私の許可なしには動けない、そうね?」
「えぇ。残念な選択です、ミス・ミノーグ。けれどご安心下さい。人類が追い詰められればどうするか、私達も理解しています。こちらを渡しておきますね」
 ソフィアさんが取り出したのは黒い眼帯だった。Fに似た記号が入っている。〝私〟の中のオーディンの知識が教えてくれる。あれはアンサズのルーン。オーディンを意味するルーンだ。
「それは裏面に治癒の魔術、再生ではなくあえて塞ぐ効果に抑えてありますが。そして表にはオーディンを意味するルーン。まぁ私はルーンには詳しくないので、見様見真似ですけど、オーディンにより近づけるダメ押しくらいにはなるでしょう」
「つまり、目を抉り出したらこれをつけろってことね」
「えぇ。それではまた、ミス・ミノーグ」
 ソフィアさんが退室する。
「はぁ、クソ喰らえね。グラーニアを応援したくはないけど、少なくともソフィアを選ぶなんて事はナシよ。いっそメドラウドに直接……」
「メイヴさん、その眼帯ですが、備えておくに越した事はないかと」
 突然、柱の影から安曇が姿を表す。
「もう慣れたけど、また盗み聞き? あんな会話をわざわざ聞くなんて、趣味悪いわね。それで、どう言う事?」
「まぁ私もどちらかと言うとあちら側の人間ですが、英国の魔女の発言は、その善悪を考えなければ、真っ当な話です。そしてフレイさんは決して馬鹿ではない」
「えぇ、つまり、フレイが自主的にそれを思いつくかもしれない、と?」
「もしくは、この光景を第三視点で見てしまうかもしれません」
「……分かった。フレイの右目を監視して、この眼帯を装着するギミックを作りましょう。科学だけでは無理ね。安曇、協力できる?」
「もちろんです。ソフィアさんも、手がかりを残してくれたようですし」
「そ、結局あの女の掌の上ってわけか。マーリンじゃなくてモルガンの末裔なんじゃないかって疑いたくなるわ」
「おや、それなら良いではないですか。ゲイボルグの持ち主に最後まだ寄り添った妖精でもあります」
「そりゃますます最悪ね」

 

◆ Third Person Out ◆

 

「メイヴさん……」
 と感傷に浸っている暇はない。
 ヴァイスは攻撃体制に入っている。
 さぁ、来い、受け止めてやる。
 直後、右目の視界が変化した。

 

■ Third Person Start ■

 

「後ろか!」

 ヴァイスの槍の目前に〝裂け目"が出現する。同時にヴァーミリオンの背後に"裂け目〟が出現する。

 この見え方ならもはやヴァイスの方を向く意味すらない。体ごと180度旋回する。

 ヴァイスの槍が〝裂け目"に侵入し、もう一方の"裂け目〟から槍の先端が突き出てくる。

 〝裂け目〟から飛び出す槍を旋回する勢いも交えつつグングニル・オリジンで弾く。

 ヴァイスの赤い槍を、ヴァーミリオンが旋回しながら白い槍で撃ち払う。

「へぇ、よく避けたね。けど、どこまでマグレが続くかな!」

 赤い槍が〝裂け目〟の向こうに引っ込む。

「右!」

 再び一対の〝裂け目〟が開く。片方は赤い槍の先、そしてもう片方はヴァーミリオンの右側面。

 右側面から飛び出すロンギヌスの槍を、右に向き直りながらグングニル・オリジンで受け止める。

 赤き槍が飛び出す。と見えた時にはもはヴァーミリオンは万全に構えており、白き槍がそれを受け止める。

 完全に相手の動きが見える。近接攻撃を通すからには〝裂け目〟は双方向性のはず。それなら、こちらから撃って出られる!

 そこからさらにはヴァイスはヴァーミリオンの左側面、真上、再び後方、と攻撃を続けるが、ヴァーミリオンはその全てを防ぎ切った。

 連続攻撃が来た! メジヂはこれまで必ず最後の一撃が大振りだった。

 ヴァイスはさらに速度を上げる。ヴァーミリオンの四方八方から無数の攻撃を放つ。

「レーヴァテイン、スルトモード!」

 ヴァーミリオンが勝利の剣となっていたレーヴァテインを呼び戻し、即座にスルトモードに変形させる。

 流石に瞬間的に左右には振り替えられないので両手で対応する。

 四方八方からの攻撃を両の手で捌く。

 と、見せかけて。

 〝裂け目〟から最後の攻撃が来る。

 ヴァイスが一瞬、足を後ろに下げ、強く踏み込んで最後の突きを放つ。

「ここだ!」

 ヴァイスの赤い槍をヴァーミリオンが青い炎の剣で受け止める。

 攻撃を受け止めると、同時、グングニル・オリジンを〝裂け目〟に向かって差し込む。

 同時、ヴァーミリオンの白い槍がヴァイスの赤い槍と並行に伸びていき、〝裂け目〟の中に消える。

 

 

■ Third Person Start ■

 

 突然、全ての景色が切り替わった。
 そこはこれまで何度かみてきたメジヂの過去と関わる視点。
 荒廃した地球。空を見れば月は穴ぼこだらけで、蟹にもウサギにも見えない有様になっていた。
 それをみて〝私〟は理解する。
 これは遠くの未来。これまで見てきたもう一つの私達の世界とも違う、メジヂがいた世界。
 メジヂが現れなかったこの世界では、1958年にルシフェルが現れるような事もなく、旧人類は元の姿に戻れるまで月で過ごすことを選び、新人類は旧人類のことなど知る由もなく生活していた。
 そして、その時がやってきた。
 先程、ヴァイスを見た時に見た光景。即ち、旧人類による地球侵略。
 しかし、地球人は勝った。或いは少なくとも痛み分けに終わった。
 それがどう言う手段による物なのかは想像とつかない。きっと、以前にメジヂが言っていたダムウェントスなるものが関わっているのだろう。


 そして、旧人類と新人類が戦後の新たな生活が始まろうとしていた。
 以前にユピテルさんが言っていた通り、二種の種族は戦いの末に相互を殲滅する以外の道を見つけられたのだ。
 しかし、それに意を唱える者たちがいた。そのうちの一人がメジヂ。


 〝私〟達がルシフェルと呼ぶ旧人類の新たな姿は、信仰によって力を得られると言う性質を持っている。また、契約によって神の軌跡を使う権能も持っていた。
 ゆえにメジヂは、他の旧人類達もしていたように、新人類と契約を結び、願いを叶えて力を得ようとした。

 

 そして、目をつけたのが、いま荒廃した大地を力なく歩く彼。
 過去に〝私〟がアメリカの基地でパツァーンと名乗る彼と会った時と同じ服装。何らかの軍服、カンパニュラを意匠化したような紫と黄色のワッペン。
 メジヂは問いかける。
《汝、何を望む》
「望み……?」
 少年は掠れた声で呟く。
「望みなんて、僕はただ……」
《汝の願いが、我が力になる。願いを、言うのだ》
 少年の言葉が望みを言う権利を拒否するかのように聞こえたメジヂは言葉を遮り、強く繰り返す。
「望みなんて、僕はただイオルに帰りたいだけだ」
 イオル。それは少年の故郷の名。〝私〟にも、まだその故郷の場所までは見通せない。それで分かる。彼の故郷はここから遠く離れた異世界にあるのだ、と。彼は望んでか望まずにか、次元を越える力を持ってしまったのだろう。
《その願いは叶えられない。それは汝の大きすぎる宿命に縛られているが故に》
 嘘ではない。メジヂは願いを叶えようとしたが、何かに阻まれた。それは単一世界の神の権能をも上回る何か。例えるなら外世界の法則か。
 少年はそれを聞き、やはり、と落ち込む。
「それが叶わないなら、もはや、この体もこの意識もいらない」
《確かにそれは心からの誠の願いであるらしい。それなら、とっとと……。いや、なら、こう言うのはどうだ?》
 ニヤリ、とメジヂが笑ったのが分かる。あぁ、メジヂの夢はこの時に始まったのだろう。
《お前の願いはつまり、自分の人生を捨て、誰かに代わりに生きてほしい、と言うことではないか》
「……! あぁ! それでいい。俺はもうこの人生なんていらない。帰省本能インプラントなんかに苦しめられるのはごめんだ! 俺の人生を誰かに代わってほしい!」
《なら、汝の願いは私が叶えよう。ここに契約は完了した》
 メジヂと少年の間に光が溢れる。
 光が消え去ると、そこに残ったのは先程までの少年一人。
 しかし、そこに絶望の光はなく、ただ、笑みがあった。
「これはすごい! 契約によって出来るちっぽけな時間遡行なんて比じゃない! やれる! この力なら! この間違った結末を変えられる!」
 少年が三本爪を振りかぶると、空間に〝裂け目〟が出現する。
 そして、〝裂け目〟の中に消えていく。
 そこは、1947年の月。無人偵察機がアメリカ軍機に追跡され墜落したあの日の直前。
 無人だったから穏健派が勝ったが、もし有人だったらどうかな? まして撃墜だったら、どうかな? この体なら、それも容易いこと。

 

◆ Third Person Out ◆

 

■ Third Person Start ■

 

「撃墜だったら……? アメリカ軍に攻撃の意思はなかったの?」

 〝裂け目〟から飛び出した白い槍にヴァイスが貫かれ、ヴァイスが赤い槍を手放して一歩後ろに退く。

「あぁ、始まりの光景を見たんだ? そうさ。むしろ、穏健派の奴らの台本通り、平和裏に交渉したいって言ったから、着陸場所の案内までされたよ」

 〝裂け目〟が閉じ、ヴァイスの赤い槍がヴァーミリオンの足元に落下する。

「じゃあ、アメリカは本当は平和的な交渉に応じる気で……!」

 ヴァイスが白い槍を抜こうとするが、その前に自動的にヴァーミリオンの元に戻る。

「ま、〝裂け目〟からちょいってトリガーを引いてやったんだけどね。それでご破産。穏健派の幻想もこの星に巣食う害虫どもの平和ボケもそれで終わり」

 ヴァイスが面白そうに肩を揺らす。

「この! 何が面白い!」

 ヴァーミリオンが一気に踏み込んで、白い槍をヴァイスに突き刺す。

「ぐっふ。くくく、ま、一回目は失敗したんだけどね、他のアドベンターが割り込んで来やがって。クラン・カラティンも和平ムードで、うんざりだよ。慌てて月に戻ってみれば、もうルシフェル側も完全に穏健派の空気でさ」

 ヴァイスがダメージを受けて後方に下がる。そのまま〝裂け目〟に入り、一気に後方へワープした。

 それが一回目。私やイシャンが何度も見た別の世界の私達か。

 なるほど、あの世界しか見えないのも当然だ。ルシフェルの襲来はメジヂがやってきた一回目のあの世界と、二回目のこの世界だけなんだ。

「ところで、なるほど。ちょっとやりすぎちゃったかや? 随分オーディンに近づいたみたいだね?」

 ヴァイスは〝裂け目〟を赤い槍の下に出現させ、ヴァイスの頭上に転移させる。

 〝裂け目〟で槍を回収し、メジヂが槍を構える。

 ヴァイスが頭上から降ってきた槍を掴み取り、替え直す。

「だとしたら? もう打つ手なしかな?」

 ヴァーミリオンもまた、白い槍と、一度ただの赤い剣に戻った災厄を謳う剣を構える。

「いいや? 全然? むしろ、面白くなってきたよね」

 ヴァイスが面白そうに槍をくるりと回す。

 メジヂがおもしろそうに笑う。そして、槍の切先がこちらに向けられる。

 ヴァイスが槍をヴァーミリオンに向ける。

 来るか!

 ヴァイスが槍をヴァーミリオンに向ける。

「今この瞬間、現存する各地の街にルシフェルを送り込んだ!」

 ヴァーミリオンも、槍を握り直し、ヴァイスを睨む。

 その言葉の、直後。

 ヴァイスが踏み込み、〝裂け目〟を出現させる。

「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

■ Third Person Start ■

 膨大な情報が、私の中に。

 イタリアのフィレンツェ、ルシフェルが上空から降りてくる。

 溢れて。

 人々の恐怖の声が聞こえて来る。

 何も。

■ Third Person Start ■

 情報が。

 オーストラリアのメルボルン、奇跡的に残っていた大聖堂の塔がついに陥落した。

 メジヂの。

 人々の希望が失われていくのが分かる。

 ヴァイスの。

■ Third Person Start ■

 動きが。

 スイスのベルン、これまで襲われていなかった世界遺産の美しき街並みが破壊されていく。

 認識できない。

 人々は抵抗を始める。強い人々だ。しかし、それも時間の問題だろう。

 左肩に痛み。

■ Third Person Start ■

 右足に痛み。

 ブルガリアのソフィア、ヴィトシャ山の方へ逃げようとする人々をルシフェルは無慈悲に蹂躙する。

 右腹に痛み。

 救い手は現れないのか、と叫ぶ人々。

 左胸に痛み。

■ Third Person Start ■

「ぐうううううううっ」

■ Third Person Start ■

「やっぱり、まだ見たいものだけを自由に見られるほどではないらしいね!」

■ Third Person Start ■

 メジヂが何かを言っている。

■ Third Person Start ■

 それを理解することが困難なほどに、頭が痛い。

■ Third Person Start ■

 右目が燃えそうに熱い。

■ Third Person Start ■

 自分が誰かすら、分からなくなる。

■ Third Person Start ■

 自分が誰かすら、分からなくなる。

■ Third Person Start ■

「もう本当に抵抗なしか。じゃ、もう終わらせよう」

■ Third Person Start ■

 辛うじて左目の視界が、メジヂの槍がついにコアに向けられていることを理解する。

■ Third Person Start ■

《フレイ、しっかり、自意識を保つんじゃ!》

■ Third Person Start ■

 誰かが声をかけて来る。

■ Third Person Start ■

 フレイ? それが私の名前?

■ Third Person Start ■

 私は北欧の晴天の神?

■ Third Person Start ■

 違う、私は神じゃない。

■ Third Person Start ■

 私は、

■ Third Person Start ■

 私は、

■ Third Person Start ■

 私は、

■ Third Person Start ■

 誰だったんだっけ?

■ Third Person Start ■

「さよならだ! 裏切り者のマザデ!」

■ Third Person Start ■

 

■ Third Person Start ■

 

「マザデ! 揺り籠に行かないってどう言うことですか?」
「ヂヨユか、何をしている。揺り籠はもうすぐしまってしまうぞ」
「それどころではありませんよ。あなたがいないから!」
「言っただろう、ヂヨユ。私はあの外から来た神をとても信用出来ない。あれの力を借りるのはごめんだ」
「ではここで死ぬのですか? いつもプレッパー達に言っていたではないですか、あんなシェルターでは生き残れない、と」
「いや、私はジユグと共に、後の世代に備えようと思う?」
「後の世代……?」
「あぁ、インド体系のように、輪廻転生という概念があるだろう? あれを私達自身に適用したのだ。ジユグと私の共同開発でね。まぁ、あの次世代神性の管理システムを開発するのに作った技術の応用なんだが」
「つまり、我らが生きながらえた暁には、その子供の世代として生まれ変わる、と?」
「あぁ、あるいは、もしこの星に新たな知的生命体が生まれれば、その存在になるのかもな。その場合も私の持つ形質は受け継がれるはずだ。記憶の方が受け継がれるかは、少し分の悪い賭けになるが」
「それでは……」
「そんなに私が心配なら、お前は揺り籠で生き延び、将来、私が現れた時に私の元に駆けつけて思い出させてくれれば良いだろう? お前なら、私に気付けるはずだ」
「……分かりました」
 ヂヨユが去っていく。
「もしこのアイデアをもっと早く思いついていれば、これを量産して、後の新たな知的生命体と……、いや、それもまた賭けにしかならないか」
 手の内にあるのは黒い砂のような物質。自在に結合して任意の形状を取る新素材、言うなれば「ナノマシン」だ。

 

■ Third Person Start ■

 

 灰色の世界。時間が静止している。
 ヴァーミリオンが見える。その中にいるフレイも見える。
 そうだった。私はフレイ・ローゾフィア。そして、旧人類のマザデ。
「そうか、私を見つけて、ここまで導いてくれたのだな、ヂヨユ」
 過去、〝私〟に第三視点を目覚めさせたルシフェルはマザデなのだと思っていた。
 しかし今、そうではないと分かった。であるなら、彼は、ヂヨユだ。
 もはや、コアへの攻撃は防げない。
 だが、〝私〟は切り札の存在を知っている。
 どうせヴァーミリオンではメジヂの神性防御を抜けないのだ。
 なら、やることは一つだ。

 

 決意した瞬間、世界に色が戻る。
 槍が迫る。
 コックピットブロックの中のフレイは、いくつかの操作をしてから、後部から緊急脱出する。
「安曇さん、ここにシュヴァルツを!」
「え、しかしあれは……」
「いいから、はやく!」

  •  

     フレイの背後でヴァーミリオンが貫通され、膝を突く。しかし、構わない。あのコアにはもうヴァーミリオンはいない。

  •  

     直後、フレイの目前に出現したシュヴァルツのコックピットブロックに捕まり、そのままコックピットブロックに入り、起動する。

  •  
  •  

    《やれやれ、捨てられたかと思うたわい》

       

     中で聞こえてきたのはヴァーミリオンの声。
     見れば機体中央のコアが吟朱色に輝いている。

     

    《仲間達も、来たようじゃ》

     
  •  

    《あなたに我が刃を》
     ――ダンディライオン

     
  •  

    《やぁ、偉大なる王よ、私が助けましょう》
     ――ラファエル

     
  •  

    《かつてはあなたへの助力を拒んだが、調和を目指す心、見ていました。力を貸しましょう》
     ――パパラチア

     
  •  

    《不意打ちで負け扱いなど、癪に触る。私も力を貸そう》
     ――スカーレット

     
  •  

    《私の智慧が必要だろう? 任せたまえ》
     ――ヴァイオレット

     
  •  

    《初めまして、母に逢いに行った美琴の最後の祈りです。あなたに力を貸しましょう》
     ――マラカイト

     
  •  

     絆を結んだ仲間たちが、情報空間を介してシュヴァルツの中に入って来る。

     

     そして、7つのコアに入り込んだ全てのエネルギーがエネルギーラインを通じて混ざり合う。それはまさに虹のようだった。

     

    《じゃが、儂等の機体が黒では締まらんじゃろ?》

     

    「うん、私たちと言えば……」

     
  •  
  •  
  •  
  •  

     機体が赤く染まる。

     

 フレイの背後でヴァーミリオンが貫通され、膝を突く。しかし、構わない。あのコアにはもうヴァーミリオンはいない。

 直後、フレイの目前に出現したシュヴァルツのコックピットブロックに捕まり、そのままコックピットブロックに入り、起動する。

《やれやれ、捨てられたかと思うたわい》

 中で聞こえてきたのはヴァーミリオンの声。
 見れば機体中央のコアが吟朱色に輝いている。

《仲間達も、来たようじゃ》

《あなたに我が刃を》
 ――ダンディライオン

《やぁ、偉大なる王よ、私が助けましょう》
 ――ラファエル

《かつてはあなたへの助力を拒んだが、調和を目指す心、見ていました。力を貸しましょう》
 ――パパラチア

《不意打ちで負け扱いなど、癪に触る。私も力を貸そう》
 ――スカーレット

《私の智慧が必要だろう? 任せたまえ》
 ――ヴァイオレット

《初めまして、母に逢いに行った美琴の最後の祈りです。あなたに力を貸しましょう》
 ――マラカイト

 絆を結んだ仲間たちが、情報空間を介してシュヴァルツの中に入って来る。

 そして、7つのコアに入り込んだ全てのエネルギーがエネルギーラインを通じて混ざり合う。それはまさに虹のようだった。

《じゃが、儂等の機体が黒では締まらんじゃろ?》

「うん、私たちと言えば……」

 機体が赤く染まる。

 フレイの背後でヴァーミリオンが貫通され、膝を突く。しかし、構わない。あのコアにはもうヴァーミリオンはいない。
 直後、フレイの目前に出現したシュヴァルツのコックピットブロックに捕まり、そのままコックピットブロックに入り、起動する。
《やれやれ、捨てられたかと思うたわい》
 中で聞こえてきたのはヴァーミリオンの声。
 見れば機体中央のコアが吟朱色に輝いている。
《仲間達も、来たようじゃ》

《あなたに我が刃を》
 ――ダンディライオン

《やぁ、偉大なる王よ、私が助けましょう》
 ――ラファエル

《かつてはあなたへの助力を拒んだが、調和を目指す心、見ていました。力を貸しましょう》
 ――パパラチア

《不意打ちで負け扱いなど、癪に触る。私も力を貸そう》
 ――スカーレット

《私の智慧が必要だろう? 任せたまえ》
 ――ヴァイオレット

《初めまして、母に逢いに行った美琴の最後の祈りです。あなたに力を貸しましょう》
 ――マラカイト

 絆を結んだ仲間たちが、情報空間を介してシュヴァルツの中に入って来る。
 そして、7つのコアに入り込んだ全てのエネルギーがエネルギーラインを通じて混ざり合う。それはまさに虹のようだった。

《じゃが、儂等の機体が黒では締まらんじゃろ?》
「うん、私たちと言えば……」

 機体が赤く染まる。

 

 着地する。砂埃が盛り上がる。
「な、なんだ、それは……」
 メジヂが驚愕に目を丸くする。
「デウスエクスマキナ・シュヴァルツ・フレイ。私の、私たちの、切り札だよ」
「まだ隠し球があったなんてね。けど、何体乗り換えたって、結果は同じだよ!」
 メジヂが〝裂け目〟にロンギヌスの槍を投入する。
 もはやそれを見切る必要すらない。
「パドマ」
 6つの花弁がシュヴァルツの周囲に出現する。それはあらゆる方向から飛来するロンギヌスの槍を確実に防いだ。
 だからもう、ロンギヌスの槍も〝裂け目〟も興味はない。
 シュヴァルツが前進を始める。
「なら、こうだ!」
 空間が円錐状に歪む。
 7つの神性により大幅に高められた第三視点により、知識が流れ込んでくる。
 あれはコード・アリスと呼ばれる異世界を転移する能力者たちの持つ能力の一つ、フォルト・ピアッサー。
 空間を歪める力を使った凶悪な技だが、その実態はフォルトと呼ばれる空間を形作る物質の制御に過ぎない。
「カーボネックシールド」
「プリドゥエン」
「アリマタヤ・ヨセフ・シールド」
「ユダ・マカバイ」
「オハン」
「デュバン」
「フィンシールド」
「八尺瓊勾玉」
「メギンギョルズ」
 7重の盾がシュヴァルツの前に出現する。
 放たれたフォルトピアッサーはそのすべてを穿ったが、しかし、八尺瓊勾玉の展開する結界と、メギンギョルズの防御を破れず減衰消滅した。
 シュヴァルツはフォルトピアッサーが消滅するより早く駆け出す。
「調子に乗るな!」
 ロンギヌスの槍が振われる。
「ロンゴミニアント」
 二本の赤い槍が交差する。
「霊の剣!」
「ゲイ・ジャルグ」
 シュヴァルツが出現させたあらゆる搦手を無効化する赤い槍が、ヴァイスの霊の剣の対魔能力を抑え込む。
「ゲイ・ボウ」
「ヴァジュラ」
 空中に黄色い槍が二本、出現し、手の形に変形したパドマがこれを撃ち出す。
 それは鋭く、ヴァイスの両手を貫通する。
「ぐっ」
「エクスカリバー、クラレント」
「し、信仰の大盾!」
 新たに出現した二本の剣、しかし、ヴァイスは防ぐ。
「天叢雲剣」
 しかし、次に出現した雷を帯びた大剣は受け止められない。
「ミョルニム」
 続いて空中に電撃を帯びた巨大な槌が出現する。本来なら速やかに雷がフレイを灼くはず。しかし、圧倒的に高いシュヴァルツの神性防御はそれすらも無力化した。
 シュヴァルツは虹色の翼を展開し飛び上がり、空中のミョルニムを掴んで投下する。
「八咫鏡」
 その周囲を無数の八咫鏡が取り囲む。
 それはミョルニムの破壊エネルギーを外に逃さず、それでいて、内部のエネルギーを何倍にも膨れ上がらせる、恐ろしき反射炉だった。
「ブラフマーストラ、グングニル」
 両肩に大型の砲塔が出現する。パドマによる装填はない。しかし、それを上回るエネルギーラインからの供給がある。
 放たれた攻撃はパドマ6つを優に超える出力を持っていた。
「くそ、こんなこと!!」
 膨大なエネルギーのスウォームから、小さな影が飛び出す。神性エネルギーを一点突破して〝裂け目〟を駆使して飛び出したメジヂだ。
「ヴァジュラ、ゲイボルグ」
 赤き棘の槍は自分の手で、ヴァジュラは無数に、パドマの手で、放たれる。
 無数の黄金と赤の槍がメジヂの行手を阻む。
「やぁぁぁぁ!」
「くっ、接続、全開!」
 メジヂが神性を全開にして防御に徹する。
「レーヴァテイン!」
「グラム!」
「エクスカリバー!」
「クラレント!」
「カリバーン!」
「ダビデソード!」
「モラルタ!」
「ペガルタ!」
「クルージーン!」
 一本一本の剣を使い捨てる覚悟の全力で左右に武器を出現させては壊しを繰り返す。
「硬い!」
《奴は月のエネルギーから供給を受けているようです。高出力のエネルギーを纏った高質量の攻撃が望ましいでしょう》
 なら、ぴったりのものがある。
 少し前に、メドラウドはラファエルはエネルギーを振り分ける事が出来るのが強みだと言った。
 それは正しい。旧人類の持つ神性記憶合金は満遍なくしか神性を展開できない。
 しかし、エネルギーラインというエネルギーの通り道を持つシュヴァルツは違う。
「全てのエネルギーを右手に集中させる」
 その言葉通り、全てのエネルギーラインの光が弱くなっていき、反面、右手のエネルギーラインだけは眩しいほどに輝いていた。
「終わりだ、メジヂ!!!!!」
 真正面から放つアッパーパンチ。
 それはメジヂの持つ圧倒的に高い神性にすら打ち勝ち、メジヂの小さな体を高く高く持ち上げた。
 そして、それを行なったシュヴァルツの、いや、虹のデウスエクスマキナの虹色の羽は、その戦場にいた全ての人間の目に留まった。

 

 お互いに肩を貸しあいようやく指揮所にたどり着いたメイヴとグラーニアも。
 同じく肩を貸しあって基地を目指していたイシャンとシャイヴァも。
 そして、後席の相棒の死に悲しむメドラウドとスジャータも。
 単身戦い続けるユピテルと必死でそれを支援をしている『鋼』の二人も。

 

 みんな、その希望を、勝利を、明日を、伝えてくれる虹色の光を見つめていた。

 

《さぁ、最後の仕上げじゃな》
「うん」
 もはや落ちて来る月は止められない。
 用意したロケットには悪いけど、もう完全に第三視点をマスターしたフレイにはもはやロケットによる観測は不要だ。
「いっけぇぇぇぇぇ、神の一筋! 《グングニル》!」
 最後と思うと自然と叫んでいた。
 白い熱線が空に飛び立ち、月の核を撃ち抜いた。


 核を撃ち抜かれた月はたくさんの破片を撒き散らした。
 それは月自身の破片であり、月に住んでいた天使、ルシフェル達の生きた印、そしてもはや塵となったもの。つまり、天使達の塵、エンジェルダストだった。

 

End

Epilogue

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この作品を読んだみなさんにお勧めの作品

 AWsの世界の物語は全て様々な分岐によって分かれた別世界か、全く同じ世界、つまり薄く繋がっています。
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  塵は塵に還るべし(2021年AWs新連載選考会候補作品)
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 まだリンクになっていない場合は、下記の作品を読んでお待ちください。

  Dead-End Abduction
 知性間戦争後の荒廃した地球で、再起動者と呼ばれる死体を労働者として使う技術を使わなければ立ち行かない世界で、自我を持っているとしか思えない再起動者と出会った技師の物語です。
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 どこかで聞いたことがある気がしませんか?

  退魔師アンジェ
  異邦人の妖精使い
 この物語の中で、いくらかの神秘について語られた事を覚えていると思います。
 というよりDEM自体も神秘と言える存在でした。
 しかし、DEMがクローズアップされすぎて他はよく分かりませんでしたよね。
 これらの物語は2010年代の日本を舞台とした神秘を扱う現代ファンタジー小説です。
 本作で出てきたキャラクターやその関係者も出てきたりするかもしれませんね。

 そして、これ以外にもこの作品と繋がりを持つ作品はあります。
 是非あなたの手で、AWsの世界を旅してみてください。

 


 

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