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Angel Dust -第14章-

「お、マザデ様! 我らの救世主になるかも知れんお方!」
 薄暗い止まった動く歩道を歩くマザデに歩道の外から民衆の声が届く。
「マザデ、答えてあげた方が良いのでは?」
 ヂヨユがマザデに耳打ちする。
「そんな事ができるか! ギリシア、北欧、ケルト、インド、我らの知る体系はもうほぼ残っていない。この暗い街を見よ! この動かぬ歩道を見よ。全て神性ジェネレータが捕捉出来る体系を失い、エネルギーを組み出せなくなっているからに他ならない。あの、枯れ果てた畑を見よ! 雨乞いする人々を見ろ! 豊穣の神の加護は消え、雨乞いに応える神ももはやいない。栄華を誇った私たちの文明、それを全て捧げたといっても過言ではない! にも関わらず絶対数は」
「マザデ、人前ですので」
 ヂヨユは慌ててマザデの口を塞ぐ。一歩間違えれば不敬ともなりかねない行為であったが、それは言わせた。マザデがお上から不敬と誹られぬ言葉も、言わせた。吐き出す必要があると思ったからだ。
 だが、絶対数の不足だけは言わせるわけにはいかなかった。民の不安を煽らないためにも必要な事であった。
 それでも、ヂヨユもマザデの言いたい事は全てわかっていた。自分達のインフラ、その基盤である神性エネルギーを全て喪失した。人類をすべて石器時代に逆戻りさせるような行為だ。それでも全員が生還できるなら、そう願って推し進めた。
 結果はどうだ? 出来上がった擬似神性は4桁にも満たない。数億の人類を宇宙に逃すにはまるで足りない。
「ならば、我らが救いましょうか?」
 そして、それはそこに現れた。たった一つながら、万人一切を救いうる力を持った。これまで誰も見た事のない……。

 

 ◆ Third Person Out ◆

 

「フレイはどう思う? って、フレイ?」
 呼びかけで目を覚ます。
「あ、ごめんなさい、何でしたっけ」
「大丈夫? まだ疲れてるの?」
「いえ、大丈夫です。ただ、なんか最近変なすごく光景がよく頭に浮かんできて」
「この前、シュヴァルツの格納庫で言ってた奴ね? あの場所に単独で辿り着いた以上、何かしらの体質によるものな気がするけど……、何を見たの?」
「最近は、ルシフェルがまだ地球に住んでた頃の様子が見えます。彼らは地球にいては全滅してしまうような出来事が起こるから、一時的に地球から逃れる必要があって、そのために宇宙空間に適応できる体を作ろうとしていました。そのために作られたのが擬似神性、私達がデウスエクスマキナと呼んでる巨人です。デウスエクスマキナは擬似神核と呼ばれるルシフェルのコアと同質のものを搭載していて、それと装甲の特殊な素材により、神性を発現しているんです」
「驚いた。安曇、核について説明した?」
 メイヴさんは驚いて安曇に尋ねる。
「いいえ、技術的な話をしても仕方ありませんでしたから」
「そうよね。ここにいる技術にあまり関心のないみんなも今初耳だと思うけど、少なくともデウスエクスマキナの仕組みについては今の説明通りだわ。神性の核となる球体がデウスエクスマキナには存在していて、それと装甲が反応する事でデウスエクスマキナは神性防御を発揮してる。コックピットもおよそこの核の上部についていて、核の情報を読み取っているのよ」
「ついでに装甲は私からすると馴染み深い日本の玉鋼に極めて類似したハイスチールです。……いや鋼でもないようなんですが、まぁ”神秘”的な面で似ている、ということです。玉鋼には伝承効果を継承する性質がありますから、恐らくそれが作用して核の性質を引き出しているものと思われます」
 核についてはメイヴさん達は知ってたんだな。
「他に分かった事はないか?」
 勘違いでもないらしいと思ったのか、ユピテルさんも身を乗り出してくる。
「いえ、ただ、デウスエクスマキナを使った計画はうまくいかなかったみたいです。彼らの知る神性を全部使っても全員を救うには足りなくて」
「そりゃそうじゃろうな。現存するデウスエクスマキナに使われている神話体系の全ての神を使ったとて、今の人類の総人口にはとても敵わん。ルシフェル達とて同じだろう。だが、それでは、ルシフェル達は結局、デウスエクスマキナとは違う手段を選んだという事じゃな」
「そのおかげで私達はデウスエクスマキナを使う事が出来てる訳ですもんね」
「演劇用語として機械仕掛けの神デウスエクスマキナとはいかなかった、という事ですね」
 ユピテルの言葉にスジャータとグラーニアが頷く。
「ですが、ユピテル殿の希望する情報はそういうのではないのでは。より今のルシフェルの情報に近いもの、侵攻のきっかけ、政治的思想、あるいは構造上の欠陥、敵基地の位置、そのようなものです」
 もっともだ。目を向けるべきはこれからの話であって、かつてどうだったかはそこまで重要ではない。それは戦後になってからいくらでも出来ることだ。
「うーん、特に見た記憶はないなぁ。ちょっと”思い出し”てみようかな」
 前に思い出そうとして似たようなビジョンを見た事がある。応用すれば見る場面を指定できないだろうか。いつも見てる光景はまだ地球にいた頃の記憶だ。月に移動してからの記憶。
「うーんダメだな……」
「そのイメージというのは、記憶を俯瞰するように見えるんでしたね?」
 首を捻っていると、安曇が声をかけてくる。
「え、うん」
「なるほど。それは第三視点と呼ばれる能力ではないでしょうか。あらゆるものを俯瞰して見ることのできる能力です。基本的に神性に付随する能力ですね。フレイさんのデウスエクスマキナ・ヴァーミリオンに宿っているのはオーディン。特に第三視点に優れた神です。何かしらの形でフレイさんにその力が流入しているんでしょうね」
 え、ヴァーミリオンってオーディンだったの。なんかイメージと違うなぁ。
「そんなことありえるの?」
「分かりません。が、そもそもルシフェル達はデウスエクスマキナを自己改造の手段として用意していたはず。フレイさんがほぼルシフェルなのであれば……」
「待って、その前にはっきりさせて置きましょう。ルシフェルって言葉についてよ。ルシフェルって言葉は月に移民するために自己改造した姿のことを呼ぶ事にしましょう。それ以前の彼らのことは、そうね、パツァーンが自称していた旧人類、と言う呼称で呼びましょう」
「なるほど。では、改めて。フレイさんがほぼ旧人類なのであれば、その恩恵を受けられる可能性は高いのではないでしょうか」
「確かにね」
 フレイさんと安曇さんの会話を聞きながら、考える。第三視点か。どうしたら使いこなせるだろう。
「フレイさん。僕が助けに来る前、ルシフェルと戦いましたね。あの時のことを思い出してみたらどうですか?」
「! やってみる」

 

 ■ Third Person Start ■

 

 そこは月だった。月の内側はルシフェル達の生活圏であり。ほとんどのルシフェルはそこで冬眠のような状態にある。
 そこでそのルシフェルは目覚めた。
 ”私”はなんとなく覚えがあると感じた。これはもしかしなくてもこの前から見ていた風景にいた旧人類がルシフェルとなった姿がこの姿なのではないだろうか。
 ――新人類がメジヂ……彼らがパツァーンと呼ぶ者の存在を知った。今こそが彼らと講和を結ぶチャンスではないだろうか
 と、そのルシフェルは考えた。メジヂはとても急進的なリーダーで人類を滅ぼし、地球を得ようとしている。しかし、そんなことをしても仕方がない。彼らは自分達と同じ知的生命体だ。ならば話し合えば分かり合えるはずだ。
 月の中央にあるコアを見る。あのコアが全てのコアと連動して、私達に命を与えてくれる。が、あのコアはメジヂが掌握している。メジヂに逆らうような行為をすれば、ただちにあのコアからメジヂの知るところとなるだろう。
 ――ならば対策は一つしかない。あのコアからの接続を自ら断って、決死隊として伝えにいくのだ。きっと私の言葉を聞き届けてくれるだろう。オーディンと盟約を結びし我らが同胞が
 決意して、地球に降下する。
 直ちにコアとの接続を解除する。本来、アロンモードと呼ばれるモードに自身のコアを切り替えると、自身の体が黒く染まる。
 ――確か新人類は堕天と呼んでいるのだったか。言い得て妙だな
 アロンモードはコアからのエネルギーを拒絶し、稼働するためのエネルギーを自身の魂に変更するモードだ。当然やがて死ぬが、魂を動力とする事でコアから得られるエネルギーより圧倒的な力を得ることができる。まぁそこはどうでもいいが、ともかくコアとの接続を切ることができればなんでもよかった。


 フレイと言うらしい少女のそばに降り立つ。
 シュヴァルツと彼らが呼んでるらしい擬似神性が剣を構える。
「聞いてけれ!」
 この姿の口は喋るのに向いていないので変に鈍ってしまう。まぁ鈍っていようがいなかろうが、彼らに言葉は通じない。後にフレイがこの視点を第三視点でみてくれることを。
「このまま戦いを演じながら聞いてけれ」
 通じないとは分かっているが、一応伝えておく。既に言葉を理解してくれていたらラッキーだからだ。
 シュヴァルツが剣を振るが折れる。神性がない空っぽの擬似神性だものな。と苦笑する。
「俺達はパツァーンとは違う。新人類と争うつもりはないんだ」
 通じればラッキーだから、これも言っておく。
 そして拳でなお応戦してくる。
「いいぞ。その調子で続けてけれ」
 つい口に出てしまった。
 向こうは全力で殴ってきたらしい、腕が損壊していた。言葉はやはり通じないようだ。本題に入ろう。
「やはり言葉が通じないか。ならこれで! オーディンに近づいているあなたならば」
 手元に瓶を取り出す。この瓶には水が入っている。霊基を震わせる効果はあるが基本的には単なる水だ。
 ――だが、オーディンはユーミルの泉で目と引き換えに知慧を得た神性。魔力を浴びた水を瞳に浴びれば、何かしらの反応があるはず。
 瓶をシュヴァルツの顔にぶつける。シュヴァルツが一瞬揺れて動きを止める。
 ――やったか!
 そう思った直後、背後に現れた擬似神性・シヴァのトリシューラにより、コアを貫かれた。
「ここまでか。通じたと、信じるぞ」


 ◆ Third Person Out ◆

 

「大丈夫?」
「はい」
 私は見た事を報告する。
「決まりね。シュート・ザ・ムーン作戦の攻撃目標は月、その中心のコアよ」
「うむ。もう一つ決まったな。降伏勧告は必要じゃ。講和の条件を決めねばならんな」
 メイヴさんとユピテルさんが肯く。
「またその話をするのか。本気でルシフェルと和解しようってのか?」
 イシャンが立ち上がり、意見する。
「お主こそまだそこに拘るのか。月を破壊すれば連中を全滅させるのが決まっておるんじゃぞ。ワシらと和解したいと言う思想の連中もおるんじゃぞ。インドの王子は敵国の首都に無警告に核弾頭を落とし市民を虐殺するのを是とするのか?」
 ユピテルさんが座ったまま反論する。
「インドの事も、王子な事も関係ないだろ!」
 しかし、インドの王子として呼ばれる事をイシャンは嫌い、憤る。
「関係ないじゃと、たわけめ。お主はカーストに支配されるインドを変えたいのではなかったか。それともお主の変えたいと言う気持ちは、四男坊として甘やかされて育った末に持った父親へのちっぽけな反抗心にすぎんのか?」
「なんだと!」
 明らかに挑発するユピテルさんにイシャンはさらに激昂する。
「本気で変えたいと願うなら、なぜ、王子である事を否定する。もうスヴァスラジュ潘王国はないからか? 詭弁であろう。お主の父を見よ、スヴァスラジュ潘王国はもうないと言うのに、未だに権力者として辣腕を振るっておるわ。お主の父が目的のために手段を選ばなかったように、お主が王子である事を認めさえすれば、制度改正への大幅な力になるであろう。旗印にすらなれるであろう。その覚悟もなく変えるなどと、よう吠えられたもんじゃ。お主は父を嫌悪するが故に夢想家となった。じゃが父の良いところを認められず、全てを否定するようでは、まつりごとなど永遠にできんわ! 永遠にお花畑の中で踊っておるが良い」
「くっ……」
 イシャンは思わず黙る。どこかしら否定できない事があったのだろう。だが、イシャンも愚かではない。すぐに思考をまとめ直す。
「だ、だからと言って講和すると言う話にはならないだろう。降伏すると言うなら、ずっと月にいて貰えば良い。パツァーンがその邪魔だと言うなら、降伏したルシフェル達とともにパツァーンを倒せばいい。それで月はあいつらのものだ。どうせ宇宙開発なんて冷戦のためのものだ、辞めたって構わないだろ」
「ふむ。第一次大戦以前の考え方じゃの。のう、イシャン、第二次大戦の終戦時、戦勝国達はこれまでと違い、ごく一部の国へのものを除いて賠償金の要求のような戦後処理を行わなんだ。何故か分かるか?」
「そ、それは……」
「第一次大戦での膨大な賠償金と戦後処理による苦しい財政がファシズムの台頭を呼び、それが第二次大戦へと繋がったからじゃ。勝者が単に敗者を押し潰すだけでは、第二第三の戦争を生むだけ。国際社会の進歩じゃ。この件も同じじゃと思わんか。例えルシフェルが降伏し、奴らを月に閉じ込めても、奴らはいつか月のコアを破壊される対策をした上で襲ってくるかもしれん。そうなった時、ワシらは本当にこの地球を守れるか?」
「それは、だが、状況が違う。ルシフェルは多くの人間達を殺した。市民感情が納得しない」
「市民感情じゃと? 状況が違うじゃと? では聞こうイシャンよ。イギリス人である儂はドイツ軍の爆撃で妻と娘を亡くした。同じようなイギリス人は他にもたくさんおった。彼らがドイツが降伏した時、納得しておったと思うのか? 儂が今でも納得しておると思うのか?」
 ユピテルさんが机をバン、と叩く。
「だが、ファシスト政権は解散された。あんたらの復讐の対象は明確に滅んでるだろ?」
「ふざけるな。ファシスト政権など、スケープゴートにすぎん。ファシズムの台頭を許したドイツ市民達全員に罪がある。今のドイツの政策を知っているか。どうせいつか再び同じ過ちを犯すに決まっておる!!」
「おいおい、それは国籍差別だろ」
 ユピテルさんの口調は強かったが、差別に敏感なイシャンはその言葉を否定する。
「ほう。では今の儂の言葉とお主の言葉、どう違う? お主はパツァーンら急進的なメンバーを打ち倒すだけでは飽き足らず、その他のルシフェル達も冷遇し続けると言ったではないか。ファシスト政権を解体するだけでなく、ドイツを冷遇せよと訴える儂と、何が違う?」
「そ、それは……」
 イシャンには反論が思いつかなかった。ユピテルさんのドイツに対する怒りが本物である事を明確に感じて、ユピテルさんの怒りと自分の怒りに違いがない事が明確に分かったのだろう。
 その様子を見てユピテルさんは自身の感情を落ち着かせるため一度深呼吸をする。そして、諭すようにゆっくりと話を再開する。
「イシャンよ。儂も未だにドイツを恨んでおる。だから、お主のルシフェルを恨む気持ちはよく分かる。じゃが、18年前に講和したはずの第二次大戦ですら、儂のようにイギリス人にも、もちろんそれ以外のドイツ人にもアメリカ人にも日本人にもお互いを憎むものはおる。お主の国とて、完全に独立が成立した今も未だにイギリスを恨む者もおるだろう。あるいはインド大反乱のような独立運動によってインド人に家族を奪われ、インド人を恨むイギリス人もおるかもしれん。じゃがそれは戦後に一つずつ解決していくべきものじゃ。お主のような為政者のすべき事は、そういった一時の感情に振り回されず、長い目で市民が苦しまずに済む手を選ぶ事ではないかな? それともお主は市民感情を優先し降伏した相手を弾圧し、第二次大戦を起こす未来を希望するか?」
「いや、そう言うわけでは……」
「まだすぐに納得せずとも良い。お主が市民のことを思う事もまた大事な事じゃ。お主が市民の感情を理解して憤る事で救われる者もおるじゃろうし、全く市民の感情を理解できぬ機械の如き長では市民は救われない。だがそれでも、今為政者として何が必要なのか考えて欲しい」
「いや、まだ納得しきれないところはあるが。あんたが正しい事はわかる。市民達だってルシフェルへの恨みはあるにしても、誰だってこの凄惨な戦いを終えて、そして最後にしたいと思っているはずだ。少なくともそれは間違いない気がする。それに、維持と調和は俺の使命だからな
 ユピテルさんがイシャンが分かってくれたことに一安心する。私はそんなことより最後の言葉がなんか変な気がしたけど。
「ところで、先ほどのやりとりは聞いてましたけど、そもそもなぜ破壊して根絶してはいけないのです?」
 シャイヴァさんがそんな質問をする。
「いや、それは俺でも分かるぜ。理由は二つ。一つはその事実が後の世で知られた場合、俺達を含むあらゆる政府は確実に批判の的になる。まぁ死後の話にはなるだろうけどな」
「まぁ、死後とはいえ、騎士の誇りを失うのは勘弁して欲しいですが」
 イシャンの言葉にメドラウドさんが苦笑する。
「もう一つは、ルシフェルがあの月を中心とする勢力以外にも存在する可能性だ。フレイの第三視点とやらで情報は増えたが、未だあの月が唯一のルシフェルの拠点だとは確定してないんだ。もしあの月が拠点の一つでしかなかったら、あの月を壊すだけでは全てのルシフェルが滅ぶとは限らない。あるいはこれまで静観していた他のコロニーのルシフェル達がこちらを完全に敵とみなしてくる可能性もあるかもしれない。逆に月のルシフェルが降伏し戦闘をやめてくれるなら、月のルシフェルを通して他のルシフェルとも話を通せるかもしれないし、同じように急進的な思想に囚われているなら、やはり月のルシフェルの協力を得られればアドバンテージになる。単に降伏させるのかこちらも妥協して講和するのかの違いはあれど、少なくとも、ルシフェルをこちらが一方的に撃滅するのはリスクが大きいんだ」
「なるほど」
 シャイヴァさんが納得する。ユピテルさんは、やれば出来るではないか、とかぶつぶつ言っている。
「しかし、講和するなら言葉の問題はどうするのです? フレイはルシフェルの言葉が分からなかったのでしょう?」
 メドラウドさんが話を再開する。
「あ、それは多分大丈夫です。私、彼らの言葉、思い出しました
 そう言って同じ言葉をもう一度今度はルシフェルの言葉で話す。
「それは何よりね。思い出した、って言うのは?」
「え、あれ、私、そんな言い方しまし、た? なんか、喋れるって思っただけで……」
「これも第三視点の恩恵なの、安曇?」
「どうでしょうねぇ。私も実際にその能力を得た人間を見たのは初めてですし」

 

 ■ Third Person Start ■

 

 安曇がメイヴに耳打ちする。
「一つ確かなのは、フレイさんの中の神性がどんどん強くなっている、と言うことです」
「分かった。また変化があったら教えて」

 

 ◆ Third Person Out ◆

 

 私の中の神性が……? いったいどう言う意味なんだろう。
「講和するなら文化理解も必要でしょうね。そうなると気になるのは、あのパツァーンの言葉ですけど」
 グラーニアさんが話を切り出す。
「始まりは私達が思ってるよりさらに10年前、ね」
「だから、ロズウェル事件なんだ。ロズウェル事件は1957年のルシフェル襲撃から見て10年前の1947年なんだよ」
 メイヴさんの繰り返しに、イシャンが声を上げる。
 全員がそれに首を振る。聞いたことない、と。
「えっと?」
「さっき、フレイが頭を痛めてる間にイシャンが主張してたのよ」
 私がさっき声をかけられるより前の話か。
「そうだ、フレイ。お前なら何か分からないか? 1947年にはロズウェル事件って事件があったんだ。アメリカ軍がエイリアンクラフトUFOを撃ち落として、グルーム・レイク空軍基地エリア51にエイリアンが運び込まれたんだ。それがきっと最初のルシフェルだったんだ。ちょうど1957年に最初のルシフェルが襲撃したのもエリア51だった。きっと、戦端を開いたのはアメリカ軍だったんだ。それで1957年に救出にやってきた」
「それが本当なら、市民に喧伝する良いエピソードだろうけど、そんな基地のこと安曇すら知らないのよ?」
「だからそれは噂が本当だから徹底的に口止めされたんだ」
「だとしたら、なんであんたが知ってるのよ」
 メイヴさんは取り付く島もない様子だ。まぁ私も素直には信じられない。
「うまく言えないんだが、別の可能性みたいなものが見えるんだ。その世界だと、ルシフェルが襲ってこなかった世界の人間がこの世界にやってきて……」
エヴェレットの多世界解釈MWI? 1957年に提唱されたせいで全く世には知られてないはずの理論なのに、よく知ってるわね」
「え、いや、それは知らねぇけど。本当なんだよ。そうだ、フレイ、お前の第三視点とやらならどうだ?」
「え、えーっと」
「確か、お前はエルフの男にやられてダウンしてたんだ。こっちだとダウンした事ってミノタウロス型にやられた時だけだったろ。ピッツバーグ解放作戦以前に自分がダウンした記憶、思い出してみてくれ」
「やってみる」


「こんな事、あったんだっけ。でも見えるって事は、そういう事なのかな」
 私は見えた光景を理解できずぶつぶつと言葉に発する。
「見えたのか!」
「うん。イシャンがコード・アリスとかって呼ばれてる転移能力を持った人に異世界に飛ばされたから、助けるためにエリア51の跡地に行ったんだね」
「よりによってそこか、いやでもそうだ。そこであいつらからエリア51やロズウェル事件の事を聞いたんだよ」
 イシャンは嬉しそうだ。とはいえ、イシャンがアッシュを初めてみた時に口にしていたユキという名前も、今なら理解できる。”もう一つの世界”では、ユキという少女がシュヴァルツに乗って、暴れまわったのだ。つまりあの時から、イシャンは少しずつ”もう一つの世界”の事を思い出していたのか。
「フレイが言うなら、確かなのかもしれないわね」
 メイヴさんが趣旨変えする。
「この際、事実は全てが終わってからルシフェルから直接聞けば良いわい。何にせよ、当初は有効的に話をしようとしたルシフェルを撃ち落とし監禁したのはアメリカ軍じゃった、というのは、市民に喧伝するには悪くない話じゃな」
「だな。市民感情を抑えるに越した事はない」
 ユピテルの言葉にイシャンも肯く。
「ええ。けどアメリカはよく思わないでしょうね、自国の存在を揺るがす事実だわ」
「そうですね、イギリスや、インド、他の生きてる国家に喧伝を依頼するのが良さそうです。アメリカに潰される前に手配しておくべきでしょうね」
 メイヴの発言にメドラウドが肯く。イシャンは少し複雑そうだが、必要な事である事を理解しているからか、流石に何も言わなかった。
「じゃ一番の本題に入りましょう。どうやって月のコアを破壊するか、よ。正直、破壊する手段は二つしかない。パパラチアのブラフマーストラか、ヴァーミリオンのグングニルか。最初は威力の高いブラフマーストラにするつもりだったけど、コアがあると分かってるなら話は別。ブラフマーストラでは確実に月のコアを破壊できるかは分からないから、必中のグングニルを使いましょう。彼ら、パツァーンの台詞からするとデウスエクスマキナの武装は把握してるみたいだし、警告にも最適だわ」
「でも、グングニルは見えてる相手しか狙えませんよ」
 メイヴさんに抜擢されるが、その作戦には明らかに欠点があったので指摘する。
「そこなのよね。アメリカが観測用の人工衛星を打ち上げてくれる手筈にはなってるんだけど、グングニルはカメラ越しだと使えないのよね、確か」
 そう、一度長距離射撃の実験をしたのだ。結論は無理だった。
「人工衛星って言うのは?」
「地球の周りを回る機械の衛星の事よ。まぁ宇宙空間に放り出す機械だと思えば良いわ」
「宇宙に物を飛ばせるって事ですか? それなら、ヴァーミリオンのフギンかムニンを打ち上げられません?」
「フギンとムニン? オーディンのワタリガラスの?」
「はい。しかもフギンとムニンとなら、視界を共有出来るんです。本人はあくまでカラスだから宇宙に行く事はできないけど、宇宙まで打ち上げてもらえれば」
「月のコアを視認できる、か。いいわね。単に重力の外側まで連れて行くだけなら、人工衛星を打ち上げるより手間がかからないから、打ち上げの手間は少なそうだわ」
 あっさりと決まった。
「アメリカにも伝えたわ。ロケットの打ち上げ準備は1963年の11月頃になる」
「一年以上後ですか」
「えぇ。デウスエクスマキナで手伝うとどうしても目立つから、それは避けようって事になったの。その代わり、私達はアメリカの各所の都市の復興作業を手伝う事になったわ。まぁ、パツァーンの考え次第ではあるけど、攻撃は苛烈になるかもしれない、いえ、なるでしょう。けれど、なんとか一年と数ヶ月、耐えましょう」

 

 ■ Third Person Start ■

 

「マザデ! 何故擬似神性にあんな措置を……」
「ヂヨユか。声を落とせ。私は、あの外来種と新しい計画が納得いかん」
 新しい計画、それは新たな神性を基にした擬似神核を”揺り籠”に封じ、量産型擬似神性にその神核と対応する核を封じていく。そして量産型擬似神性と人類が融合する事で、宇宙空間への適応を得る、と言う物だ。
 もう”揺り籠”は完成し、所定の位置に配置されている。後に新人類がジャイアントインパクトと呼ぶ隕石の衝突、それが彼らの恐る地球の崩壊であり、彼らが地球から逃れねばならない理由だった。しかし、彼らは、その衝突の影響で新たな衛星が出来ることを計算から導き出していた。所定の位置にシェルター”揺り籠”を設置して全員でそこに待機すれば、自然と”揺り籠”はその衛星の中へと逃れられる、そういう算段であった。
「しかし、もはや衝突は間近、他に手はなかったでしょう」
「そうだな。私もそう思う。しかし、それでも、信用していいのか決めかねる。あの量産型擬似神性は我々にとっても未知の兵器だ。本当に縮小化出来るのか?」
 縮小化。人類と量産型擬似神性が融合するだけでは、人類が巨人となってしまう。故に、やがては従来の大きさに戻る事が、この宇宙適応計画には含まれていた。
「データ上は長い年月を経れば、元の大きさに戻れるはずですが」
「分かっておる。データ上のことは全てわかっておる。しかし、あの外来種は得体が知れぬ。私はそれが恐ろしい。じゃから、旧来の擬似神性を圧縮し、その代わり一つ一つを兵器に仕立てた」
「擬似神性を、兵器に?」
「うむ。”揺り籠”が星の海に揺られるようになるまでの間、あの外来種どもに奇妙な動きがあるようであれば、こいつらで、なんとか出来るようにな」

 

 ◆ Third Person Out ◆

 

 そして、運命の時が訪れた。
 ケープカナベラル、と言うらしいロケット打ち上げ場に、全てのデウスエクスマキナが集結した。
「大統領も直々に見てるらしいわ」
 メイヴさんががケープカナベラルの棟一つを指差して告げる。
「おいレディ。ここに集まったことは向こうにも知られてる早く動こう」
「そうね。さて、フレイ、予定の通り警告を」
《安心せい、月まで届くようにしてやる》
「あー、ごほん。ルシフェル、旧人類に告ぐ。我々は貴君らとの終戦を望む。貴君らがかつて地球の市民であり、今、また地球に帰属しようとしている事を私達は知っている。貴君らが望むならば、貴君らに領土割譲を提案出来る用意がある。この提案は最終通牒となる。我ら新人類は貴君らが月のコアを破壊すれば行動不能となる事を知っている。また、我らは月のコアを確認できる位置までフギンを飛ばすロケットと、フギンがコアを視認さえすれば確実にコアを破壊できるグングニルを持っている。これは貴君らも知っている装備だろう。また、現在貴君らの指導者が急進派であることも知っている。もし、急進派が投降しなくても、ならば、講和を望む者たちよ、共にメジヂを倒し、平和を得よう」
 言い終わると同時、複数のルシフェルが降下してくる。
「ダメじゃったか?」
「いや、そうでもねぇさ」
 いくらかのルシフェルが堕天し、ルシフェルに攻撃を仕掛ける。
「そうだ、俺はこの光景を見たことがある。エヴァンジェリンに味方してた講和派のルシフェルはみな堕天して、他のルシフェルと戦ってた。当時はそれと知らずむしろ急進派の味方をしちまってたけどな」
 それは仕方ない。”もう一つの世界”はルシフェルの事だけ考えていられる世界ではなかったし。
「フレイによれば、堕天は命を掛ける行為よ。彼らの勇気に応えましょう」
 全員が掛け声を上げて、武器を構えて、白いルシフェル達と交戦を始める。
「全員、前に出過ぎないで。遠距離主体のデウスエクスマキナはロケットに近づく敵を優先して倒して」
 敵も馬鹿ではない。ロケットさえ破壊すればこちらの降伏勧告は無意味となる事を理解している。
「くっ、騎士型が三体も」
 一方私の目の前には三体もの騎士型。大盾タイプが1と片手剣タイプが2。盾でこちらの動きを封じてくる。
「助けに行かせない作戦か……」
 騎士型の盾はスルトモードであれば裂ける。しかし、スルトモードは諸刃の刃。迂闊に使って疲弊しては、グングニルが撃てなくなる。
「仕方ないか、レーヴァテ……」
 言い終わる前に大盾タイプが堕天した丙種ルシフェルに吹き飛ばされる。そのまま盾を丙種ルシフェル自慢の豪腕で押し込む。
「今のうちに!」
 片手剣タイプの片方が攻撃のために剣を振りかぶった、その防御のない隙をついて、グラムとレーヴァテインを突き刺す。もう片方はグラムで盾を押し除けてゴリ押しで倒せる。
 丙種ルシフェルが大盾タイプに盾で弾き飛ばされているが、もう遅い。メギンギョルズを展開し、空中からグングニルで盾ごと破壊する。
「フレイ、ちょうどいい、お前も手伝ってくれ! さっきから、有翼型が増えてんだ」
 イシャンから通信。見ると確かに有翼型が増えている。空中にいるのは私とイシャンだけらしい。
 グレイプニルに持ち替えて、有翼型を撃ち落としていく。撃ち落としさえすれば、後は地上にいる誰かがやってくれる。
 しかし出る杭は打とうとするものがいるもので、有翼型空拳タイプが三体もしがみついてくる。
「鬱陶しい!」
 急上昇急降下や急旋回で吹き飛ばし、グラムとグングニルで切断する。
「フレイ、増援が来てる。かたまってるから、やれるわ!」
「分かった、ミョルニム!」
 ミョルニムを敵の降下地点に投下し、増援部隊を排除する。
 上空から見てもわかる。数はこちらが有利。超級ルシフェルの影も見当たらない。ただ、
「パツァーンはどこだ! 出てこい!」
 イシャンが叫ぶ。そう。パツァーンがいない。パツァーンを倒さねば急進派を倒し、降伏させることが出来ない。
「まぁまぁそう急かさないで」
 パツァーンの声が響く、と思った直後、さらに上級ルシフェルが降下してきて、デウスエクスマキナ達の動きを封じる。
 そして、それが降りてくる。
 黄色い輪っかを頭上に抱き、羽毛のような羽を背中から生やし、赤い槍を持つ白い巨人が。超級ルシフェル、天使型、とかだろうか。
「ま、まずはロケットを潰そうか」
 天使型は腕をロケットに向け、腕の先に光球を出現させる。あれを放つつもりか。
「させない! レーヴァテイン、励起!」
 私を拘束する騎士型を一刀の元に斬り伏せる。
「メジヂ!!」
 この距離では剣だと間に合わない、グレイプニルで動きを止める。
 グレイプニルを天使型に向ける。
 引き金を引く。
 弾丸が飛び出し、天使型の動きを止め、
 なかった。いや、引き金を引けなかった?
「え」
 光球が放たれ、ロケットと、そして大統領がいたはずの棟が弾け飛ぶ。
「大統領!!」
 誰かが叫ぶ。ロケットは損壊し、アメリカの長は死んだ。
 それは即ち、作戦は失敗に終わり、人類の勝ち目は消えてなくなった。そう言う意味だった。


第15章へ

 


 

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