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退魔師アンジェ 第18章

『〝錬金術師棋士〟ベルナデット・フラメル』

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 父を霊害れいがいとの戦いで失った少女・如月きさらぎアンジェはいつか父の仇を討つため、父の形見である太刀「如月一ツ太刀きさらぎひとつのたち」を手に、討魔師とうましとなるためひたすら鍛錬を重ねてきた。
 そして最後の試練の日。アンジェは瘴気から実体化した怪異「黄泉還よみがえり」と戦い、これを討滅。討魔組のトップである月夜つきや家当主から正式に討魔師として認められた。
 翌日、月夜家を訪ねてきた生徒会長、中島なかじまアオイは、自身が宮内庁霊害対策課の一員であると明かし、「学校が狙われている。防衛に協力しろ」と要請してきたのだった。
 アオイから明かされた事実、それはアンジェ達の学校が「龍脈結集地りゅうみゃくけっしゅうち」と呼ばれる多くの霊害に狙われる場所であると言うことだった。
 早速学校を襲撃してきた下級悪魔「剛腕蜘蛛悪魔ごうわんくもあくま」と交戦するアンジェだったが、体術を主体とする剛腕蜘蛛悪魔の戦法に対処出来ず苦戦、アオイに助けられる結果に終わった。
 アオイから恐怖心の克服を課題として言い渡されるアンジェ。玉虫色の粘液生物と戦ったアンジェはヒナタの何気ない助言を受けて、恐怖心の一部を克服、再びアンジェを助けた白い光を使って、見事学校を覆う謎の儀式を止めることに成功したのだった。
 しかし儀式を試みた魔術師は諦めていなかった。それから一週間後、再び学校が今度は完成した儀式場に覆われていた。アオイは母・ミコトの助けを借り、儀式場の中心に到達するが、そこに待ち受けていた邪本使いマギウス安曇あずみの能力の前に為すすべなく、その儀式は完遂されようとしていた。
 そこに現れたのは「英国の魔女」と呼ばれる仮面の女性。彼女は事前にルーンと呼ばれる文字を床一面に刻むことで儀式の完遂を妨げたのだ。そして、英国の魔女は「この龍脈の地は私が治める」と宣言した。逃げる安曇。追う英国の魔女。蚊帳の外の二人。アオイは安曇は勿論、英国の魔女にも対抗することをしっかりと心に誓った。
 ある晩、アキラから行きつけの古本屋を紹介してもらった帰り、アンジェとアキラは瘴気に襲われる。やむなくアキラの前で刀を抜くアンジェ。しかし、一瞬の不意を撃たれ銃撃されてしまう。謎の白い光と英国の魔女に助けられたアンジェはアキラの部屋に運び込まれ、週末に休みの期間をもらう。
 休みの時間をヒナタと街に出て遊ぶのに費やすアンジェ。そこで剛腕蜘蛛悪魔を使役する上級悪魔らしきフードの男と謎の魔術師と遭遇する。追撃することも出来たが、アンジェは怪我人の保護を優先した。
 アンジェは父が亡くなった日の夢を見る。時折見るその夢、しかしその日見えた光景は違った。見覚えのない黒い悪魔の姿があったのだ。そしてその日の昼、その悪魔とその使役主である上級悪魔、悪路王あくじおうを名乗る存在、タッコク・キング・ジュニアが姿を現す。アンジェはこいつらこそが父の仇なのだと激昂するが、悪路王は剛腕蜘蛛悪魔を掃討すると即座に離脱していってしまう。
 そして同時にアンジェはアオイから知らされる。父が死んだその日は「大怪異」と呼ばれる霊害の大量発生の日だったのだ、と言うことを。
 イブリースが大攻勢をかけてきた。悪路王と英国の魔女は陽動に引っかかり、学校にいない。アオイとアンジェだけでは学校への侵攻を防ぎきれない。最大級のピンチの中、アンジェは自身の血の力と思われる白い光を暴走させる。それは確かにイブリースごと全ての悪魔を消滅させたが、同時に英国の魔女が封じていた安曇のトラップを起動させてしまい、学校を大きく損傷、死者まで出してしまう。
 アンジェはその責任を取るため、討魔師の資格を剥奪されることになるところだったが、突如乱入してきた悪路王がアンジェの血の力と思われる白い光を強奪。最大の懸念点だった力の暴走の危険は無くなったとして、引き続き討魔師を続けて良いことになった。
 アンジェの力の暴走、通称「ホワイトインパクト」の後、長門区ながとくは瘴気の大量発生に見舞われていた。アオイは一時的に英国の魔女と同盟を結ぶことを決意。アンジェと英国の魔女はタッグを組み、御手洗町みたらいちょうを守ることとなった。
 ホワイトインパクトに対処する中、英国の魔女は事態収束後も同盟を続けようと取引を持ちかける。アンジェは取引は断りつつも、英国の魔女の座学から様々な知識を学ぶのだった。
 英国の魔女に連れられ、ロアの実例と対峙するアンジェ。しかしそこに、ロア退治の任を受けた討魔師・柳生やぎゅうアキトシが現れ、アンジェを霊害と誤認。交戦状態に入る。それを助けたのはまたしても悪路王であった。
 父の仇である悪路王は如月家の血の力を盗んだ。そして如月家について、明らかに何か知っている。アンジェはそれを問いただすため、そして可能ならば討ち倒すため、アンジェは悪路王のいるとされる達達窟たっこくのいわやに向かう。そこでアンジェを待ち構えていたのは浪岡なみおかウキョウなる刀使いだった。アンジェはウキョウとの戦いに敗れ、その右腕を奪われる。
 アンジェの右腕は英国の魔女の尽力により復活した。悪路王はアンジェの血の力について、ウキョウを倒せるレベルにならなければ返却できないと語り、あのアオイでさえそれに同意した。そしてアオイはアンジェについてしまった及び腰を治療するため、ある人物とアンジェを引き合わせることを決める。
 アンジェは竈門町かまどちょう片浦かたうら家の討魔師・カリンを鍛えるためにやってきた宝蔵院ほうぞういん家の討魔師・アカリと模擬戦形式の鍛錬を行うことになった。アカリに一太刀浴びせれば勝ちだが、アカリは短期未来予知の血の力を持ち、彼女に触れられるものは殆どいない。
 討魔仕事の帰り、アンジェを迎えに大きなバイクに乗ったフブキが現れる。フブキは言う。「崎門神社さきかどじんじゃの蔵に盗人が入った。蔵には神秘的な守りがある。それを破ったということは、神秘使いだ」。そういって差し出された写真に写っていたのは、最近知り合った女性、ベルナデット・フラメルの姿だった。
 ベルナデットは魔術師だった。
 フブキと共にベルナデットと交戦するアンジェ。
 だが、フブキが作ったベルナデットの隙をアンジェは殺害を躊躇したため逃してしまう。
 ベルナデットが盗んだのは『象棋百番奇巧図式しょうぎひゃくばんきこうずしき』。江戸時代に作られた詰将棋の最高峰と言われる本だった。
 アンジェが回収したカードから、ベルナデットは錬金術師と判明するが、目的は見えない。
 そして、自身の覚悟不足によりベルナデットを逃したことを後悔し、こんなことでは復讐も成せないと感じたアンジェはアオイと真剣での鍛錬を行う事を決める。
 アオイとの親権での鍛錬の中、アオイの持つ刀、弥水やすいの神秘プライオリティに苦戦するアンジェは、その最中、頭の中で響く声を聞く。
 それはそれとして、1/25はアンジェの誕生日。アキラとヒナタ、そして当主から祝われる中、当主は宮内庁に「現在日本にいる英国の魔女を本物の英国の魔女だと承認する」事をアンジェに伝える。
 誕生日は同時に父の命日でもある。墓参りを終えた英国の魔女は頭の中に響く声について意見を求める。
 英国の魔女は「神秘使いの中には得意分野ごとに人格を作り、それを使い分ける者がいる」と伝え、アンジェもそれではないかと考察する。
 そんな中、「賢者の石」作成を目的にしていると思われるベルナデットの今後の行動指針を探るため、英国の魔女の知り合いである錬金術師に会うことが決まる。
 足尾銅山跡に工房を構え、盗掘しながら生活している錬金術師「ウンベグレンツ・ツヴァイツジュラ」、通常「アンリ」は言う。
 「将棋とは錬金術の一種であり、詰将棋とはそのレシピである。その最高峰たる『象棋百番奇巧図式』には、錬金術の最奥の一つ、賢者の石に類する何かのレシピが含まれている可能性が高い」
 そして、将棋とは盤上で行うもの。「龍脈結集地で行われる儀式魔術の可能性が高い」と。
 かくして、二人は慌てて学校に戻るのだった。

 

 アオイさんにも気付かれないように密かにちょっとずつちょっとずつ学内にルーンを張り巡らせ、一月が経った。アオイさんに知られたら、当主様から話が言っているはずとはいえ、「英国の魔女にこの学校を明け渡すつもりですか!」と怒られそうだ。
 幸い、英国の魔女のルーンはアオイさんの探知をくぐり抜けているらしく、今のところその手の小言を言われてはいない。
「でさぁ、アンジェはもうラスボス倒した?」
「いえ、まだですね。油が燃えるのが厄介で……」
 そして今は昼休み。あれから一月弱経過した3月4日の水曜日だ。
 私とヒナタは『デビルハンター4ダッシュ』のラスボスの話をしていた。
 ラスボスは油を扱うエンシェントデビルで、前半は油でこちらを拘束し、後半は油を燃やして攻撃してくる厄介な相手だ。
 話がわからないだろうに、アキラはニコニコと私達のやりとりを聞いている。
「ふーん、じゃさ、アンジェの色々が落ち着いたら、一緒に遊ぼうね」
「えぇ」
 最近は英国の魔女と守りを固めるため、放課後はずっと二人とは別に行動している。二人を守るためでもあるとはいえ、最近遊べていないのは少し寂しくはある。ベルナデットさんのことが落ち着いたら、ゆっくり友達と遊ぼう。
「えぇ、是……」
 直後、カランカランというような音が鳴り響く。これは、登録されていない神秘使いが学内に立ち入ったサイン!
 慌てて私が立ち上がると、何故か同時にヒナタも立ち上がった。
 神秘使い以外には聞こえないはずだが、やはりヒナタの家も何かしらの形で神秘に関わっている?
 考えている時間が勿体ない。
教室、閉じよシール・クラスルーム!」
 私は駆け足で教室を飛び出し、呪文コマンドワードを唱えると、一斉に全ての教室がロックされる。
「アラ、ウゴキガハヤイノネ」
 直後、廊下の向こうからベルナデットさんが現れる。
剣よ、来いアポート・マイ・ソード!」
 もう一つ、呪文コマンドワードを唱え、手元に私の刀、如月一ツ太刀を呼び寄せる。
「Japanese Templar knight……イイエ、クナイチョウ、トカイウソシキハ、ズイブンセッキョクテキニシンピヲツカウノネ」
 私は厳密には宮内庁ではないが、外から来たベルナデットさんには区別がつかないらしい。と、そうだ。
翻訳せよトランスレート
 再び呪文コマンドワードを唱える。これで、私の喉についたルーンが起動し、私の言葉は相手にとっての母語に聞こえるようになる。
「あなたは窃盗と傷害の容疑がついていて、不法侵入の現行犯です。いずれも神秘によるもの。即ち、あなたは霊害です。あなたが賢者の石を求めてここに来たのは分かっていますが、ここで降伏してください。そうすれば……」
 話している途中で、ベルナデットさんが何かをポケットから取り出し、口に含む。
「魔術による翻訳ね。ありがたいわ。なら、こちらも同じく翻訳で応じましょう。そして、こちらの目的も分かっている、と。まぁニコラスの名前を知る人が聞けばそうなるわよね。なら同じく分かるはずよ。降伏など、しない」
 ゆらり、とベルナデットさんの右手が外付けのカードポーチに伸びる。
 刀で攻撃するには距離が遠すぎる。
「させない、切り裂けスラッシュ!」
 私はすぐに左手を向け、呪文コマンドワードでルーンを起動し、風の刃を放つ。
「ふふ、美濃囲い」
 対するベルナデットさんは左手にずっと握っていたらしい複数の将棋の駒を空中にばらまく。
 するとそれが透明な壁を展開し、ベルナデットさんを守った。
「派生・四間飛車」
 空中にばらまかれた駒の内「飛車」と書かれた駒がベルナデットさんの正面に移動し、それが馬車の形を取ってこちらに突っ込んでくる!
 咄嗟に側面の壁にくっついて、回避する。
「何をしているのです、アンジェ。将棋の駒を避ければその先に待っているのは……」
 そこに遅れてやってきた英国の魔女の叱責が飛ぶ。
 振り返った、直後、馬車は東洋風の龍へと姿を変えていく。
「そうか、成ったんだ!」
 飛車という駒は敵陣までたどり着くと「龍王」という駒になるのだ。
 ふと階段の方にアオイさんがいるのが目に入る。こちらに介入する隙を狙っているようだ。
 私は「三階に戻って別の階段から背後を突いてください」という意図が伝わることを祈って、腕を大きくまわして振る。
 すると、アオイさんは頷いて、階段を登っていった。
「龍王は私が抑えます。アンジェはベルナデットをなんとかしてください」
 抑えるって、どうやって。あの龍王とかいうくねくねした空飛ぶ蛇みたいな龍は、私でも分かるくらい、膨大な魔力を持っている。
現代の魔術師プレゼント・マジシャンとはどのような存在か、お見せしましょう。『ヨブ記』4016節より引用。「What strength it has in its loins,見よ、その力は腰にあり、 what power in the muscles of its belly!その勢いは腹の筋にある!
 複数のルーンが空中に描かれ、巨大な魔法陣となる。一体何が始まるのか。ベルナデットさんでさえ、その様子を黙ってみている。
 黙ってみていないのは龍王で、周囲に雷を撒き散らしながら英国の魔女に飛びかからんとしている。
「夜闇の翼の竜! 星の火を放て! 汝の名は……バハムート!」
 魔法陣を中心に三つの緑の光がくるくると回転し、魔法陣から真っ黒な西洋のドラゴンが飛び出す。
 バハムート、というかベヒモスって、実際はカバとかじゃなかったっけ。飛び出してきたそれは、どう見ても、ゲームなどで見るドラゴンのバハムート。
 なるほど、フィクションによって生じた認知を利用して、ドラゴンのバハムートを召喚したということなのか。
 龍王の雷とバハムートの熱線がぶつかりあう。
 いつまでも見ていられない。
「抵抗するなら、霊害として討滅します」
 一気に踏み込む。
「いらっしゃい、日本の討魔師さん」
 ベルナデットさんがカードをばらまき、騎士が立ちふさがる。
「行きなさい、一兆度の炎を!」
 背後でそんな声が聞こえてとんでもない爆風がやってくる。
 騎士達も思わず盾を構えて防御する。
 その隙を逃さず、私は一気にベルナデットさんに肉薄し、如月一ツ太刀を振るう。
「そんな横からの攻撃じゃ、美濃囲いは破れないわよ」
 騎士達が体勢を立て直し、こちらに振り向く。
 まずい。ここで負けられない。
我らが神よオーディン!!!」
 私の右胸と如月一ツ太刀に付与されたルーンが輝く。
 よくお世話になっているルーン。刀を鉄をも切れる状態にしてくれる。
 ……待てよ、さっきのバハムートを踏まえて考えると、これ、オーディンの「斬鉄剣」ってこと?
 如月一ツ太刀を横薙ぎに振るって騎士達を纏めて一刀両断にする。斬鉄剣って単体攻撃のイメージが強いけど良いのかなこれ。
 しかし、その斬鉄剣を以てなお、美濃囲いとかいう障壁は破れない。
「まぁ、せっかくだし、私も肉弾戦にお付き合いしようかしら」
 ベルナデットさんが三枚のカードを組み合わせ、右手で西洋剣を構える。
 冗談じゃない。こっちの攻撃が効かないのに真っ向から戦う気はない。
 相手の斬撃を避けるのと合わせて後ろに飛び下がると、そこに三本脚のカラスが飛んできて、私の耳に札を貼り付ける。
「アンジェ、言いたいことは無限にありますが、とりあえず状況を。随分色々仕組んだようですが、なにか策はありますか?」
 札からアオイさんの言葉が聞こえてくる。
「策はあったんですけど、美濃囲いとかいう結界が邪魔して……」
「美濃囲い? ……なるほど、念の為簡単に将棋について調べておいて助かりました。それならこちらにも手があります。一分したらまた声をかけますから、それまでは時間を稼いでいてください」
 簡単に言ってくれる……。
 けれど、アオイさんに策があるというなら、それを信じるしか現状の手は無い。
「逃げてちゃ、勝てないわよ」
「逃げませんよ」
 真っ向からぶつかるしか無い。あまり剣術が得意なわけではないらしいベルナデットさんの構えも何もなっていない斬撃を如月一ツ太刀で受け止める。
 西洋剣を刀で受け止めるなど、普通に考えて正気の沙汰ではないが、神秘プライオリティのおかげでなんとかなっている。
 幸い、アオイさんとの鍛錬のおかげで真剣を打ち合わせあう事には慣れている。
 こんなへっぽこ剣術だけで勝てると思っているのか。遊んでいるのか?
「今です。ベルナデットに最接近して、天井になにか打ち込んでください」
 打ち合うこと12回。アオイさんから連絡が入る。
「うおおおおおおお!」
 こうなったらやるしかない。私は八相の構えで一気にベルナデットさんに接近する。
「破れかぶれ? 神風ってやつ?」
 体が美濃囲いに防がれた次の瞬間、私はその呪文コマンドワードを唱える。
穿けスパイク!」
 刀の先から光が伸びて、天井を貫く。
「Wow. けど、不発かしら?」
 次の瞬間。天井を破壊してベルナデットさんの頭上からアオイさんが落下してきた。
「美濃囲いの弱点は上方向、そうでしょう?」
 アオイさんの真下に向けた刀、弥水が美濃囲いの透明な壁と接触し、パリンと割れる。
「今です、アンジェ」
伸びよグロウ捕らえよキャプチャ!」
 その呪文コマンドワードで起動するルーンは私の体のものではない。
 廊下に張り巡らされたルーンの一部が起動し、蔦を伸ばして、ベルナデットさんを拘束する。
 その背後で、龍王が倒れた音もする。英国の魔女が勝ったらしい。
「ここまでです、ベルナデット・フラメル。あなたを逮捕します」
 身動きが取れなくなったベルナデットさんに向けて、私は堂々と宣言する。
「やり方はともかく、見事です、アンジェ」
 アオイさんもこれには認めるしか無い、といった様子だ。
「うふふ」
「何がおかしいのです」
 アオイさんが訝しげに呟く。
「いえ、ごめんなさいね。この程度で勝ったつもりになるのがおかしくて。ふふふ」
 ベルナデットさんは自分の態度を崩さない。なんだ、この余裕は。
「残念だったわね、アンジェさん。あなたがもし、の言っていたタイマノチカラを失っていなければ、たしかに私の負けだったわ」
「タイマノチカラ?」
 私とアオイさんの疑問の言葉が重なる。
 直後、ベルナデットさんの胸ポケットが黒とピンクの入り混じったような光を放ち、そして、蔦が枯れるように消えていく。
「なっ!?」
「ごめんなさいね。隠し玉は最後に取っておきたい性質たちなの」
 そういって胸ポケットから取り出したのは小さな石だった。
「まさか賢者の石?」
「うふふ、確かに賢者の石だったら良かったのだけど、これは違うの……」
 そう言って、ベルナデットさんがその石を掲げると、途端に何かが吸われているような感覚に襲われる。
「これは……魔力……つまり生命力を吸っている?」
「そう。無限の生命力エリクシルを生み出す賢者の石ラピス・フィロソフィカスとは真逆。無限に生命力を吸収する石、あえて言うなれば足を引っ張る愚者の石ラピス・スタルトスってところかしら。私が独学で賢者の石を作ろうとして生み出してしまった失敗作よ」
 けど、このように、戦いでは意外と有益でしょう? とベルナデットさんが笑う。
「まずいよ、アンジェ。陣地用のルーンが切れかけてる」
 聞き覚えのある声がする。振り向くと、英国の魔女の仮面が壊れかけていた。
「あなた、仮面が……」
「っ! これまで剥ぎ取られるか。……ごめん、アンジェ、ここは退くよ」
 英国の魔女が走って姿を消していく。いつものようにふっと溶けるような消え方でないところに英国の魔女の弱体化が見て取れた。
「ふふふ、さぁ、魔術は封じたわ。それに、このまま行けばあなた達の生命力もやがては尽きる。そして私は……。穴熊囲い」
 左側の外付けポーチから取り出した将棋の駒が再びばらまかれ、透明な壁がベルナデットさんを襲う。
「くっ、持久戦に持ち込む気ですか……」
 アオイさんが唸る。
「さっきみたいな対策はできないのですか?」
「穴熊囲いの弱点は囲いを作るのに時間がかかることと言われていますから、藤井システムのように速攻を決めるのが一つですが、これは今回は当てはまらないようですね。そうすると端から崩すのが定石のはずです」
 流石アオイさん。相手が将棋の駒を使う錬金術師とは知らなかったはずだが、ここまで将棋の知識をつけていたとは。私も知識面をもっと勉強するべきだったな。浅慮だった。
「相談の時間は与えないわ。端角」
 ベルナデットさんが左端に「角行」と書かれた駒を出現させる。
 その駒が牛車に代わり、廊下を斜めに突っ込んでくる。
「っ!」
 避けたら今度は竜馬が出現してしまう。私とアオイさんは頷き合って、左右に別れ、牛車を回避しつつ二匹の牛の首をそれぞれ刎ねる。
 だが車の勢いはそれでは殺せず、廊下と教室を隔てる壁が破壊される。
「あら、馬は呼び出せなかったみたいだけど、でも、生贄は増やせた、わね」
 ベルナデットさんがゆったりと歩き始まる。
「させません!」
 アオイさんが打って出る。私も遅れて前に出るが、穴熊囲いとかいう結界がそれを阻む。だが、完全に無駄じゃない。穴熊囲いを構成する駒の一つがポロっと地面に落ちる。
 側面を攻めるのは有効だ。
 しかし、私とアオイさんが穴熊囲いに阻まれている間に、ベルナデットさんは悠々と外付けのカードポーチから二枚のカードを取り出し、一つにくっつけて地面にぶつける。
「あぶない!」
 私が思わず警告を発して、アオイさんと私は距離を取る。
 直後、爆発が発生する。
 その間にベルナデットさんは私の教室に入る。
「待て!」
 私は慌てて駆け出す。
「守るべきものがある人間はそれが窮地に陥ると考えなしになる、どこも同じね」
 ベルナデットさんが振り向いて、私はベルナデットさんと剣を真正面からぶつあうことになる。
 クラスメイトからの視線を感じる。だが、気にしている場合ではない。ここにベルナデットさんが居座れば、彼らが死ぬ。
「うふふ、そうそう。彼らはあなた達のように訓練をしていない。放っておくとすぐに生命力を失って死んでしまうわよ」
「そうはさせません!」
「口だけは立派ね」
 ベルナデットさんが愚者の石を起動したままポケットにしまい、左手で外付けのカードポーチからカードを取り出す。もう一本の剣が出現し、私に向けて振るわれる。
 私はやむなく後ろに飛び下がってそれを回避する。
「ほらほら、はやくしないと、彼らが死んでしまうわよ」
「くっ」
 私は横目で突然の事態に目を白黒させながら教室の後ろの方に固まっているクラスメイト達に視線を向け、ふと気づく。
(ヒナタがいない……?)
 こんな時にどこで何をしているんだ、ヒナタは。でもここにいないほうが安全か。
「これはまずい。八咫烏ヤタガラス、今すぐお母様に連絡を」
 振り向くとと、アオイさんはそんな言葉を三本脚のカラスに声をかけて窓の向こうに飛ばしてから、こちらに合流してくる。
「仲間を呼んだの? こっちに来るまで、彼らが持つかしらね?」
 ベルナデットさんが笑う。
「記憶処置要員を派遣してもらうように依頼しました。後は倒すだけです」
 けれど、どうやって。
「やるだけやるしかありません。同時に行きますよ」
 アオイさんが駆け出す。私もそれに続く。
「確かに、二人同時相手は難しいわね」
 ベルナデットさんが二本の剣で私とアオイさんの刀を受け止めようとする。
 アオイさんは巧みに防御しようと試みるベルナデットさんの剣を避けて小手を狙うが、穴熊囲いなる結界がそれを阻む。
「くっ」
 アオイさんが苦い顔をする。弥水の神秘プライオリティと神秘強度の前には結界も万全ではなく、やや亀裂を走らせてはいる。同じ箇所に継続的に攻撃を続けられれば破壊も可能そうだが、素人剣術のベルナデットさんでも、それを防がねばならないことくらいは分かるらしく、同じ場所を狙わせてはくれない様子だ。
 先程露呈した「側面が弱い」は明らかな弱点だが、ベルナデットさんもそれは分かっているのか、なかなか側面は晒してくれない。
 ――このままじゃ……、みんなが……。
 焦燥感が高まる。
 ――なら、私に体を明け渡してみない?
 再び、あの声がする。
 こんな危機的状況で得体のしれない存在に体を明け渡せるわけ……。
 ――なら、このまま負ける? そしたらあなたの大切な存在は、みんな死ぬ。
 それはその通りだった。
 逡巡は一瞬。
「アオイさん、どうなるか分かりませんが、奥の手を使います。もし、困ったことに成ったら、後を任せます」
「へ、アンジェ?」
 さぁ、私の体を明け渡す。どうにかなるというなら、どうにかしろ。
 直後、私の意識がくらりと、薄くなり、視界が一段階暗くなる。

 

「ふふ、やっとこの時が来たわ!」
 あぁ、実際に言葉を口に出せるなんて、そんな喜びとともに、アンジェはそんな声を発する。
 傍のアオイと、そして影からこっそりと見つめている英国の魔女と、そしてベルナデットまでもがアンジェの豹変に驚く。
 直後、ベルナデットの剣の一閃を受けて、お父様の大切な刀が飛んでいってしまう。
「あら、物を握っているって思ったより難しいのね」
 手を開いて閉じてを繰り返し感覚を確かめる。
「どうしたの? まさか幼児退行しちゃったかしら?」
 ベルナデットの鋭い突きが放たれる。私はそれをアンジェがしていたようにサイドステップで避けようとして足をもつれさせて転倒してしまう。
「ううん、歩くのも難しいわ」
 ベルナデットは追撃は選ばず、碧との戦いに注力することを選んだらしい。二本の剣を前に碧は巧みに戦っている。大したものだ。
「そこね」
 私はゆったりと立ち上がり、そして、碧に突きを放ったベルナデットの右の剣を掴んだ。
 直後、ベルナデットの右の剣がボロボロと崩れて消滅する。
「なっ!?」
 そのまま、私はベルナデットの右腕を掴むが、ベルナデットは驚愕し、私の腕を振り払って後ろに下がる。
「あらあら、本当に物を掴むのって難しいわ」
 生まれてから16年、ずっと体を動かすことなくアンジェの中にいたのだから仕方ないけれど。
「な、なに……。今のは、生命力を吸収された?」
「あら、バレちゃった。まぁ魔術師相手に隠すのは無理よね」
 そう。私の能力は単純明快。触れた相手の生命力を吸収すること。
 だから、触れさえすれば、魔術師なんか敵じゃない。
「けど、触れられないのは問題ね。仕方ないわ、来なさい、夜魔ナイトゴーント
 見よう見まねで右腕を高く掲げ指を鳴らそうとするが、失敗する。
 まぁ、指を鳴らすのはただの演出だからどうでもいい。先程吸収した生命力魔力を使ってナイトゴーントを形成する。流石にさっきの量じゃ二体が限界か。
「なっ、下級悪魔!?」
 と驚いたのはベルナデットと碧。
「碧さん、私のナイトゴーントが、彼女の足を止める。そのうちに結界を破壊してちょうだい」
「あなたが……アンジェの言っていた声……。いえ、今は信じるしかありませんね。分かりました」
 そう言って、私は空中に手を伸ばす。
 ここは龍脈結集地。大地に直接アクセスするよりは効率が悪いけれど、空気中の魔力を吸うだけでも、結構な魔力をもらえる。
 あの愚者の石とやらがなければもっと良かったのだけれど。
 そして、左手を正面に突き出す。生成したナイトゴーントに魔力を供給し続ける。そうしないと、愚者の石にその体を形成する魔力を吸われて即やられてしまうからだ。
 私のかわいい二体のナイトゴーントがベルナデットに襲いかかり、ベルナデットは空手と成った右手で再び二枚のカードを取り出し、盾を出現させ、防戦に移行する。
 だけど、その選択は間違いよ、ベルナデット・フラメル。
 敵が四人に増えた時点で、あなたの「近接戦闘で遊ぶ」という選択肢は排除すべきだった。それとも、自分の魔術の魔力も吸ってしまうから、愚者の石を出した時点で近接戦闘しか出来なかったのかな?
 二人のナイトゴーントに夢中になっている間に、碧さんが死角に移動し、そこから一気に穴熊囲いの結界を攻撃し、破壊する。
 流石、小烏丸の写し。悔しいけど魔術師との戦いにおいては神秘としての強さは我らがお父様の刀より強力だと認めざるを得ない。
「ナイトゴーント、動きを封じて」
 ベルナデットが左右の外付けポケットに手をのばすのをナイトゴーントが止める。
 そして、私は駆け出し。またコケてしまった。
「くぅ……、走るのも難しいのね……」
 そこで私からの魔力供給を失い、ナイトゴーントが消滅する。
 ベルナデットが右手に複数のカードを取り出す。うち一つはフロジストンのマテリアルカード。また爆弾を作るつもりね。
 碧は左手に持った将棋の駒に意識がいっている。これはよくないわね。
「なら、更に奥の手よ」
 私は体を起こしつつ、右の手のひらをベルナデットに向ける。
「隣接魔界、展開」
 すると、手のひらの先から紫色の霧が発生し、ベルナデットに向かう。
 それはすぐさま、愚者の石に吸収されてしまったけれど、わずかにベルナデットの集中力を乱した。
 私は今度こそ、ベルナデットの右腕を掴む。
「くっ、魔力が……遮断されて、錬金が成立しない……」
 そのまま私はベルナデットを抱きしめる。
 私の生命力吸収は触れ合っている表面積で決まる。だから、抱きしめればよりその効果は高まる。
「愚者の石の動きを止めて、降伏なさい、ベルナデット・フラメル。そうすれば、死ぬ前にあなたを離してあげる。言っておくけど、愚者の石が周りの人間の生命力を吸収するより、私があなたの生命力を吸収するほうがはやいわよ」
「くっ……」
 悔しげにベルナデットは呻いて、そして、言った。
「ポーチの私から見て一番手前に、愚者の石を封じるための道具があるわ……」
「碧さん」
 私の言葉にアオイは頷き、ポーチを漁り、カードを見つける。
「御札に魔力を通す要領でやればいいわ」
 私が助言すると、すぐに碧はそのマテリアルカードから一枚の紙を出現させる。
 その紙で愚者の石を包むと、愚者の石は機能を停止する。
 私がベルナデットから離れると、すぐに碧がベルナデットの首筋に刀を突きつける。
「よくやりました、アンジェ……、と言って良いのか分かりませんが」
「良いのよ気にしないで。でも、そろそろあなたの言うアンジェに戻るわね。私、疲れちゃった」
 本当は戻りたくなんて無いけど、疲れちゃったのは本当だから仕方ないわ。

 

 そして、私の意識が戻ってきた。
 ”本当は戻りたくない”、か。体の制御を明け渡している間、真っ暗な空間に閉じ込められていた。わずかに見える外の光景で、外の様子を知るのがせいぜいだった。彼女もそうだったとすれば、その気持も分からなくはない。
「戻ってきましたか、アンジェ。もう少しで増援が到着するはずです。この教室へ誘導できるよう、外を見てきてもらえますか」
「分かりました」
 私は如月一ツ太刀を拾い上げながら頷く。
 ふと、ベルナデットさんの手が怪しく動いたのが見えた。アオイさんは迂闊にもこちらを見ていて気付いていない。
「アオイさん、危ない!」
 ベルナデットさんの袖に隠されたカードがベルナデットさんの手に降りてきて、そのカードが起動する。
「しまっ」
 爆発が発生し、アオイさんが吹き飛ばされる。
 ベルナデットさんが教室を出ようと駆け出す。
「させない!」
 私は抜き身の如月一ツ太刀を右手に持ったまま、ベルナデットさんに向けて駆け出す。
 ベルナデットさんがカードを取り出し、足元に投げつけると、脚部に甲冑が装備される。
「前回会った時、あなたは私を殺さなかった。あなたは人を殺せない。でしょ?」
 だから、足を切断するという選択肢を封じれば、私から逃げられる、そういうことか。
 私とベルナデットさんの進路が交錯する。
 今を逃せば何も出来ない。ルーンは全て先程の愚者の石で解除されてるから魔術では解決不能。
「アンジェ! そいつを逃してはいけません!」
 アオイさんの言葉が飛ぶ。
 分かってる。逃したら、またここを狙われる。あるいは、ここじゃないどこかで犠牲が出る。
 視界の隅で慌てて英国の魔女が杖を構えているが、今からルーンを刻むのはきっと間に合わない。
「別に人を斬れるようになれ、なんて偉そうに言う気はないけどさ。お前が斬らなかったら、その斬らなかった相手が、他の誰かを害するかもしれないんだぜ」
 フブキさんの声が頭の中で反響する。
「逃しません!」
 無我夢中で、刀を振る。
「がはっ」
 気がつくと、ベルナデットさんが左肩から右脇腹にかけて両断されていた。
 無我夢中の私の袈裟斬りがベルナデットさんを両断したのだ。
 直後、教室で悲鳴が溢れ、パニックが始まる。
「くっ、火急です、やむを得ません。英国の魔女、鎮静魔術を」
「分かっています」
 英国の魔女がルーンを刻み、クラスメイト達を落ち着かせていく。
「人殺し! そうやって殺したのか! つぐみも!」
「おい、カラス! やめろ」
 けれど、そこでヒートダウンせず、一人のクラスメイトが私に食って掛かってくる。
「わ、私は……」
 私はその言葉に何も言い返せない。
 カラスと呼ばれている彼は永瀬ながせ クロウ。名前の漢字に狼の文字が含まれるのに英語で鴉を意味するクロウなのがおかしくて、というよく分からない理由で、仲間内からカラスと呼ばれている。アンリさんを訪ねた三日後辺りにシロウという弟が生まれたということで女の子たちから写真見せてほしい、とか話題になっていた。
 そして、つぐみというのは……。ヒナタから聞いた。学園祭の準備中に事故で亡くなった……つまり、私が引き起こしたホワイトインパクトの被害者である四人の一人で、クロウの彼女だった人だ。
「どういうことですか、生徒は全員記憶処置されているはずです」
 英国の魔女がアオイに問いかける。
「わ、分かりません……。そもそも、記憶処置していなかったとしても、爆発の原因がアンジェだと知っているはずがない……」
「とりあえず、眠っていてもらいましょう」
「任せました。私は現着した記憶処置要員を誘導しに行きます」
 アオイさんが退室し、英国の魔女がルーンを刻む。
「この、やめろっ!」
 近づく英国の魔女になにか灰色の物体が命中する。
「なっ、こ、これは!?」
 直後、英国の魔女のローブが消失し、仮面が消え、そこに立っていたのは、私のよく知る人物……ヒナタだった。
 ヒナタが……英国の魔女……?
「私の全てのルーンを解呪ディスペルした!? 永瀬君、あなた、こんな石をどこで!」
「なっヒナタまで如月の味方かよ!」
 言われてみれば思い当たる節はある。
 英国の魔女と同盟してからヒナタがあまりセクハラしてこなくなったと思っていたが、私は英国の魔女と同盟を結ぶ以前から、英国の魔女のルーンらしき光――当時は血の力と誤認していたが――に助けられていた。
 それぞれのルーンの起動位置は毎回違ったが。いずれも、直前にセクハラされた位置ではなかったか……。
「くっ、離せよ、人殺しに味方するのか!」
「アンジェは人殺しじゃない! 結果的に人を殺したことはあるけど、それはみんなのためだ!」
 英国の魔女が現れた時は、いつもヒナタはいなかった。
 さらに、悪路王と初めて会った日は、英国の魔女が現れなかったけど、あの時、ヒナタはアキラに足止めされていた。
「いいから話して! この石は誰からもらったの!?」
「誰が人殺しとその隠蔽者どもに答えるか!」
 悪路王に夢の中で干渉された時、夢の中に出てきたヒナタ。あれは、英国の魔女がそばにいたから干渉してきたと考えればすんなりいく。
 そして、当主様が私と英国の魔女が同盟していると気付いたのも、ヒナタと私が仲良くしていたから……。
「この私の魔術を無条件で解呪ディスペルなんて普通出来るはずがない。あなたは普通じゃない存在に目をつけられてる! 正直に話して」
「嫌だね! 普通じゃないのは人殺しをして、平然とそれを隠蔽するあんたらだろ」
 全てのピースが今目の前に起きている事実を、英国の魔女がヒナタであるという現実を、証明している。
「くっ、なら眠らせて記憶をのぞかせてもらう!」
「いいか、覚えてろ、『灰の狼グラオ・ヴォルフ』はあんたらを見逃さない!」
 ヒナタがルーンを刻み、永瀬君が眠りに付く。
 ヒナタが永瀬君にルーンを刻んで何かをしようとするが、ぞろぞろと足音が近づいてくる。
「ちっ、ここにいたらまずい。またね、アンジェ」
 ヒナタはいつも英国の魔女がそうするように、ふっと消えていった。
「おまたせしました、永瀬さんは眠らされたようですね。……英国の魔女は?」
「それが、永瀬君の投げた石に魔術を解除されて、眠らせて逃げました」
 アオイさんが姿を現す。私は嘘でない範囲で英国の魔女の動向を報告する。
 まださっきの出来事で、口の中が乾いている。
「英国の魔女の魔術を解呪ディスペルした……? そんな事が……?」
「アオイ、話は後です。記憶処置を開始しないと」
 アオイさんの後ろから現れたのは、アオイさんのお母さん、ミコトさんだ。
「えぇ、あの永瀬 クロウという少年だけは強めにお願いします。前回の記憶処置がうまくいっていなかった可能性があります」
「分かりました。彼は私が直々に。みんな、お願いします」
 ミコトさんの後ろについてきた人々がクラスメイト達に札を持って駆け寄る。
「アンジェ、少し外の空気を……、いえ、今日はもう帰りなさい。学校にはいい感じに伝えておきます」
「はい……」
 実際、この後で授業など受けられる気がしなかった。

 

 それから一日が経った。目覚まし時計が私を起こそうとがなりたてる。
 私が人を殺しても、殺していなくても、時間というものは勝手に進んでいく。
 なんとなく、現実を受け入れたくなくて、私は目覚まし時計を止めて、そのままベッドに籠もることを選んだ。
「アンジェ、起きていますか?」
 それから気がついたら眠っていて、そんなアオイさんの言葉で再び覚醒する。
 が、返事する気になれず、黙って布団にくるまり続ける。
「……まぁ、今日はゆっくり休みなさい。学校には〝守宮〟殿に連絡してもらっておきます」
 アオイさんは私が狸寝入りしているのに気付いているかいないのか、そう言って、部屋を出ていった。

 

 そして、気がつくと、土曜日だった。
 何も飲まず食わずで二日生きていられたのは不思議だ。
 ――私がベルナデットを抱きしめて吸収してた生命力のおかげよ。
 なるほど。私のもう一人の人格に命を助けられたわけだ。
 ――でも、今日が限界だから、いい加減外に出なさい。
 もう一人の自分に従うのは癪だが、お腹が空いた。
 私は体を起こす。
 すると、久しぶりに立ち上がるもので、少しくらつくが、なんとか階段を降りる。
「おぉ、アンジェ。起きてきたか。昼ごはんが出来ておるぞ」
 〝守宮〟殿が迎えてくれる。もうお昼だったのか。
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「はじめて自らの手で人を殺したのだ、それで凹まぬ方がどうかしている」
 〝守宮〟殿が頷き、受け入れてくれる。
 私は久しぶりの食事を食べた。私に気を遣ってか、肉を使わない精進料理だった。
「だが、アンジェよ、初めての"仕事"で凹むのは仕方がない。だが、討魔師であり続ける以上、今後も同じようなことは必ずある。我らが相手する魔術師というものはその多くが狡猾でどれだけ追い詰められようとも諦めるということを知らず逃げようとする」
 昼ごはんを食べ終わった後、〝守宮〟殿が話し始めた。
「故に、アンジェよ。お主がもし、今回の体験を辛いと考えたのなら、ここで、討魔師を辞めるという手も、あるのだぞ」
「え」
 思わぬ言葉だった。
「多くの討魔師は辞めたくても辞められん。親から言い渡される使命とその強制があるからだ。だが、アンジェよ。お主にはそれはない。如月家を引き継ぐ理由も、強制する存在もない。お前が辞めたいと願うなら、月夜家はその選択を尊重する」
 討魔師を辞める……?
 脳裏をこれまでの事がよぎる。
 必死で戦って、死にそうな怪我もして、受けた言葉は「人殺し」。
 この辛い仕事を……辞める。辞める事が出来る。
 そうなれば私は戦わなくて良くなる。あの脳内の声も静かになることだろう。
 でも……。
 でも……。
 でも……。
 ――えぇ、その選択はありえない。
 脳内の声も私と同じ見解だ。
「お父様の仇を討つ。それが私の目的です。その前に、討魔師を辞めることはありえません」
「そう、か」
 〝守宮"殿が嘆息する。その様子が残念そうに見えたのは、私の気のせいだろうか。〝守宮〟殿は私が向いてないと思っていらっしゃる?
「アンジェ、よく言いました」
 そこにアオイさんが顔を出す。
「アオイ君、いらしていたのか」
「はい、アンジェの調子を見てから訪問したくて、少し盗み聞きさせてもらいました」
 申し訳無さそうに、アオイさんがお辞儀する。
「アンジェ、まだ精神的にお疲れのことと思いますが、査問会があります。出頭いただけますか?」
「査問会?」
「あぁ、今回はアンジェを責めるためではないのです。ただ、一応、その……人を殺しましたので、形式上、査問会を開く必要があるのです。ベルナデットさんとの戦いの件についてはハヤノジョウ様も満足していらっしゃるようなので、何かしらのペナルティが生じるということはないと思います」
 思わず警戒する私に、アオイさんが慌ててフォローを入れる。
「ちなみに、私も廊下を破壊した件で査問会が開かれる予定です。こちらがやむを得なかった旨はアンジェ、弁護お願いしますね」
「あ、それはもちろん」
 あれがなければ美濃囲いは破れなかった。他に手はなかったと思うし、責められることではないはずだ。
 二人で外に出ると、アオイさんが、腰に下げた弥水の柄を握る。すると、三本脚のカラスがやってきて、弥水の柄に止まる。
「八咫烏、これを」
 アオイさんが紙をくくりつけて送り出す。
「えーっと、さっきのカラスは何なんですか? アオイさんが使役してることは、例のホワイトインパクトの頃からなんとなく察してましたが」
「あぁ、あれは八咫烏。お察しの通りで私の使い魔です。弥水の本歌である小烏丸にはカラスが伊勢神宮の使いとして降りてきて、小烏丸を落としたという伝承がありまして、それと、中島家の祖先……神武天皇の元に遣わされた八咫烏の伝承を組み合わせ、弥水には八咫烏を使役する力がある、という解釈をすることで使役しているそうです」
「神武天皇が祖先……、待ってください。中島家は天皇家の分家なのですか!?」
「え、えぇ、そうですが……言っていませんでしたっけ……?」
 聞いていない。
「それは失礼しました」
 しばらく沈黙が間を包み込む。
「……そういえば、クロウさんの件はすみませんでした。こちらの記憶処置に不備があったばかりに不快な思いをさせてしまいました」
「いえ、私が結果的に人が死ぬような事件を起こしてしまったのは事実ですから」
 再び沈黙が起きようとして。
「あの、本当に永瀬君の件は記憶処置の不備なんでしょうか?」
 私は意を決して口を開いた。
「どういうことですか?」
「永瀬君は英国の魔女の全ての魔術を解呪ディスペルするような何かを持っていました。ただの一般人が持っているものとは思えません。それに、気になることを言っていました」
「気になること?」
 アオイさんの確認に私が頷く。
「はい。「グラオ・ヴォルフはあんたらを見逃さない」、と」
「『灰の狼グラオ・ヴォルフ』……! どうやら、それは確かに、ただの記憶処置の不備ではなさそうです」
「なにか知っているんですか?」
 私の言葉に驚愕するアオイさんに続きを促す。
「はい。『灰の狼グラオ・ヴォルフ』は政府の隠し事などを暴くのが好きな義賊気取りのウィザード級ハッカー……いえ、クラッカーです。近年は神秘を暴こうとしているという噂は聞いていましたが、まさか神秘の犠牲者遺族にコンタクトを取って真実を明らかにしているのでしょうか」
 クラッカー……。確かに神秘は政府の隠し事に分類される。神秘不拡散の原則を知らない者から見れば、それは私利私欲のために隠していると思われても不思議ではない。
「それにしても、永瀬の家関係でこんなことになるなんて、ハヤノジョウ様も悲しんでおられました」
「なんですか、永瀬も神秘の家だとか?」
「いえ、そういうわけではないのですが、ハヤノジョウ様によると、永瀬の家はかつては永遠エターニアだったとか。それで先祖とは交流があったと言っていました」
「エターニア?」
「そういえば、以前は話しませんでしたね。中島家のような200年の時を生きる長命の人間のことです。日本だと永瀬のように「永」の字が入っている家は永遠エターニアであることが多いんですよ。もうほとんどの家が血も薄まってしまって、普通の人間と変わらない寿命になってしまっているんですけどね」
 先祖還りで突発的に子供が永遠エターニアになることもあるようですが、とアオイさんが補足する。
 そんな話をしていると、やがて、マモルさんの車がやって来る。もう一人、リュウイチさんと見慣れない少女が車の中でこちらを待っている。彼女がユキさんだろうか。
 車に乗り込む。と、ふと、外にヒナタが見えた。
「またあとで、ね」
 と空中に文字が浮かび上がる。ヒナタが英国の魔女なのは、夢ではなかったらしい。ヒナタも外で待っててくれていたのか。
「紹介します、アンジェ。彼女は中島 ユキ。私の妹にあたります。と言っても、養子で。旧姓は海結莉と言うので、そちらで呼ぶものもいますね」
「……よろしく、お願いします」
 ユキさんがこちらにお辞儀する。
「はい、よろしくお願いします」
 養子を取っているとは、なにか複雑な事情があるのか。気になるが、気軽に踏み込んで良い話題でもなさそうなので、踏み込まないことにした。

 

「まて、アンジェ、しばし残れ」
 私とアオイさんの査問会は驚くほどあっさり終わり、解散か、と思ったところで、ハヤノジョウさんに声をかけられる。
「まずは、此度の戦い、見事だった。お主がおらねばベルナデットは取り逃して終わっていたことだろう」
 最初に浴びせられたのは、意外にも称賛であった。
「報告を聞く限り、実力も上がっているものと見える。そのうち一部は英国の魔女の恩恵とのことだが、勝つためにはあらゆる物を使うべきだ。アオイはその辺頭が硬いようだが、な」
 てっきり中島家はみんなアオイさんのように白黒はっきりつけたがるのだと思っていたが、少なくともハヤノジョウさんは違うようだ。一番お硬そうなのに、少し意外だ。
「それに、ソフィアは儂も知り合いだ。その娘だと月夜が保証するなら信用できる」
 ハヤノジョウさんもヒナタの母親を知っているようだ。
「そして、それだけ神秘の力を操って戦う術を身につけたのなら。あるいは、血の力を取り戻しても制御できるやもしれんな。血の力を取り戻しても、すぐに刀剣の取り上げ、とはしないように刀剣管理課と話しておく。もちろん、取り戻したら即座に報告し、暴走させることの無いよう訓練するのだぞ」
 思わぬ言葉だった。
「はい、ありがとうございます」
「うむ。ところで、一つ尋ねたいことがある」
「尋ねたいこと、ですか」
 さっきまでのはついでだったのか。
「お主、アオイにウキョウなる霊害について話した折、〝守宮〟に内密にするよう頼んだと聞いた。アオイから事情は聞いておるが、改めてその理由を問いたい」
 思わぬ問いだった。私はアオイさんに話したのと同じように〝守宮〟殿が悪路王について何か知っているらしいそぶりをしつつも隠しているらしいことを説明した。
「アオイからの報告通りだな。それからもう一つ問いたい。達谷窟に行った時、そこには上級悪魔の死体があった、これは誠か?」
「はい。10年前に……今となっては11年前でしょうか。に、討魔師に討たれた、と」
「ふむ。大怪異と同じ年か」
 唸るハヤノジョウさん。
「いや、だが問題はそこではないな。アンジェ、お主は知らんだろうが、上級悪魔に関しては宮内庁から討魔組に課している一つのルールがある。上級悪魔は陣取りゲームを行う。それ故に、上級悪魔を倒すと、周囲の上級悪魔が連鎖的に動く事が多い。空白と成った陣地に上級悪魔共が殺到するわけだな。多くの被害が出ることもある。それ故に、もし上級悪魔を討伐した場合、速やかに宮内庁に届け出ること、これがルールだ。だが……」
「もしかして、11年前に討たれた上級悪魔なんていない、とか?」
「頭の回転が速いな。聡い事は良いことだ。その通り。11年前に上級悪魔討伐の報告はない。その上、その悪魔、悪路王あくろおうという悪魔の存在を、〝守宮〟は知って知らぬふりをしているという。これは大変に……奇妙だ」
 確かに。
「そして、〝守宮〟にはもう一つ奇妙な動きがある。アオイに聞いたが、今日、討魔師を辞めないか聞かれたそうだな? アオイの主観によれば、断った時、残念そうだったとか。お主にはどう見えた?」
「私にも、残念そうに見えました」
「そうか。ならばこれも明かそう。前回の査問会の折、〝守宮〟は儂に、お主の討魔師剣の剥奪か刀の没収を行うように進言してきおったのだ。もちろん、査問会はその意見を無視し、公平に結論を判断したがな」
「つまり、〝守宮〟殿は私に討魔師を辞めさせたがっている?」
「うむ、その可能性が高い」
「でも、なぜ。そんなに私は討魔師に向いてないんでしょうか」
「そうは思わぬ。むしろ、悪路王あくろおうのことも考えれば、〝守宮〟に……あるいは月夜になにか腹に一物がある可能性のほうが高かろうな」
 〝守宮〟殿が、何かを企んでいる?
「確証のない話ではある。が、もし本当にそうだとすれば、アンジェ、お主はそれになにがしかの形で関わっておる。ゆめゆめ、油断するな」
「はい、ありがとうございます」
「うむ、では、行って良いぞ」
 私はお辞儀をして、査問会の会場を後にした。
 外に出ると、アオイさんとマモルさんが待っていた。リュウイチさんとユキさんは先に返ったのだろうか。
 が、その向こう側で、ヒナタが手を振っている。
「すみません、せっかく井処町に来たので、ちょっと気分転換してきます」
「そうですか。それは大事なことですね。では私達はお先に失礼します」
 マモルさんの車が走り去る。
「あはは、元気? アンジェ……」
 少し気まずそうに、ヒナタが近づいてくる。ヒナタにしては珍しいしおらしさだ。
「あ、えっと……。その……ごめん、別に隠してたわけじゃなかったんだけど……」
 本当にしおらしい、なんだか調子が狂う。
「一つ聞きたいのですが、成績がやたらいいのはルーンのカンニングですか?」
「あ、それは違うよ。テスト中はルーンは使ってないから」
「テスト中? そして、ルーン? では、授業中は眠りながら第二の脳サブ・ブレインに記録するようなルーンを使って、テスト中はその第二の脳サブ・ブレインの記録でテストに回答しているということですか?」
「すごいね、アンジェ、大正解!」
 少しヒナタの調子が戻ったらしい。
「まぁ、でも仕方ないですよね。ヒナタが英国の魔女だったのなら、夜は神秘の世界で忙しいんでしょうし」
「ううん、基本夜更ししてゲームしてるだけだよ」
 しばいてやろうか。
「なんでそんなにゲームばっかりやってるんです? 魔術師ですよね、それもそれなりに名の通った」
現代の魔術師プレゼント・マジシャンだからね。バハムート見たでしょ? ゲームはね、認知知識の宝庫なんだよ」
 ヒナタのサブカル好きはあくまで強くなるための手段なのか。
「あ、誤解しないでね。サブカル自体も大好きだよ。どう考えても認知の足しにならないようなマイナータイトルだって大好きだからね!」
 心を読んだわけではないと思うが、そんな弁解をする。
「やっほー、ミラ・ファジ! 私、紅茶」
「私はコーヒーで」
 そして、私達はハッピーマフィンズにたどり着き、ミラカル・ファジタルというメイドさんに注文をする。
「私ね、イギリスに生まれたけど、イギリスが嫌いだったんだ」
 そして、ポツリポツリとヒナタが自分の身の上を話し出す。
「それで、家出したんですか?」
「うん、勲章と英国の魔女の称号を受け継いだ翌日にね」
 なんて行動力だ。私とは比べ物にならないくらいの才能を持ってのことではあるのだろうけど、とんでもない話だ。
「私と同盟を結ぼうとしたのは?」
「え? アンジェの事好きだからだけど?」
 この女、あっけらかんと言いやがった。私がどれだけ英国の魔女の企みについて悩んだと思っているんだ。
 様々な可能性を思案した結果、その解答が、「個人的にその人が好きだから」、だと。
「でも、正体もバレちゃったし、今度こそ真正面から色々と協力できるね。私、いっぱいアンジェの助けになるからさ、頼りにしてよね」
 ヒナタは私の手を掴んで、私の目を真正面から見据えてそう言った。
「あ、でも、基本的に私の正体は内緒にしてね」
「アキラにも?」
「あー、アキラはアンジェの秘密知ってるんだよね……。うーん、教えたい気もするけど、敵対的な魔術師が魔術で私の正体を暴こうとしてきた時、アキラじゃ抵抗できないだろうからなぁ。当面は内緒にしとこ」
「分かりました」

 

 そして、月曜日。
「アンジェちゃん! 早退してから二日休んでたから心配したよ」
「よかったよー、例の老朽化した廊下から落ちたのってアンジェなんでしょ? 大丈夫だった?」
 素知らぬ顔で言うヒナタ。って、どんな設定だ。
 老朽化した廊下というのはアオイさんが作った穴についての言い訳だと思うが、私が落ちたことにするのはどうなんだ。
 チラリ、と永瀬君の方を見るが、特にこちらに反応する素振りは見せない。再度の記憶処置はうまくいっていると見ても良いのだろうか。ただ、前回もあのタイミングまでそんな素振りは全く見せなかったので、油断はできない。

 

 そして、それから二週間が経った。
 時折瘴気の討滅がある以外は何ということはなく時間が過ぎていく。
 今日は修了式。高校一年生が終わろうとしている。
 9月に正式に討魔師になって、もう半年。
 父の仇は見つかったが、謎は多い。
 仇である悪王(今代の悪路王)はなぜ、私を助けるようなことをするのか。
 悪王(先代の悪路王)はなぜ、誰によって討たれたのか、なぜ〝守宮〟殿はそれを伏せているのか。
 悪王が討たれた年と大怪異の年と父が殺された年が同じ年なのは偶然なのか。
 なぜ父はあのタイミングで私に刀を託そうとしたのか。
 私の中にいるもう一人の私は何者なのか。
 ベルナデットさんが私に言った「タイマノチカラ」とは何なのか、それを教えた「彼」とは誰なのか。
 〝守宮〟殿は何を企み、なぜ私に討魔師を辞めさせようとしているのか。
 永瀬君はどのようにして『灰の狼グラオ・ヴォルフ』から真実を知り、またあの灰色の石を手に入れたのか。
 分からないことだらけだが、一つ言えることがある。
 それは、討魔師として、これからも戦い続けるしか無い、ということだ。
「アンジェ、瘴気が発生しようとしています、行きましょう」
「えぇ、行きましょう」

 

『退魔師アンジェ』第一部 End

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