退魔師アンジェ 第13章

『"日本を裏から支配したもの"先代悪路王』

  

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 父を霊害れいがいとの戦いで失った少女・如月きさらぎアンジェはいつか父の仇を討つため、父の形見である太刀「如月一ツ太刀きさらぎひとつのたち」を手に、討魔師とうましとなるためひたすら鍛錬を重ねてきた。
 そして最後の試練の日。アンジェは瘴気から実体化した怪異「黄泉還よみがえり」と戦い、これを討滅。討魔組のトップである月夜家当主から正式に討魔師として認められた。
 翌日、月夜家を訪ねてきた生徒会長、中島なかじまアオイは、自身が宮内庁霊害対策課の一員であると明かし、「学校が狙われている。防衛に協力しろ」と要請してきたのだった。
 アオイから明かされた事実、それはアンジェ達の学校が「龍脈結集地りゅうみゃくけっしゅうち」と呼ばれる多くの霊害に狙われる場所であると言うことだった。
 早速学校を襲撃してきた下級悪魔「剛腕蜘蛛悪魔ごうわんくもあくま」と交戦するアンジェだったが、体術を主体とする剛腕蜘蛛悪魔の戦法に対処出来ず苦戦、アオイに助けられる結果に終わった。
 アオイから恐怖心の克服を課題として言い渡されるアンジェ。玉虫色の粘液生物と戦ったアンジェはヒナタの何気ない助言を受けて、恐怖心の一部を克服、再びアンジェを助けた白い光を使って、見事学校を覆う謎の儀式を止めることに成功したのだった。
 しかし儀式を試みた魔術師は諦めていなかった。それから一週間後、再び学校が今度は完成した儀式場に覆われていた。アオイは母・ミコトの助けを借り、儀式場の中心に到達するが、そこに待ち受けていた邪本使いマギウス安曇あずみの能力の前に為すすべなく、その儀式は完遂されようとしていた。
 そこに現れたのは「英国の魔女」と呼ばれる仮面の女性。彼女は事前にルーンと呼ばれる文字を床一面に刻むことで儀式の完遂を妨げたのだ。そして、英国の魔女は「この龍脈の地は私が治める」と宣言した。逃げる安曇。追う英国の魔女。蚊帳の外の二人。アオイは安曇は勿論、英国の魔女にも対抗することをしっかりと心に誓った。
 ある晩、アキラから行きつけの古本屋を紹介してもらった帰り、アンジェとアキラは瘴気に襲われる。やむなくアキラの前で刀を抜くアンジェ。しかし、一瞬の不意を撃たれ銃撃されてしまう。謎の白い光と英国の魔女に助けられたアンジェはアキラの部屋に運び込まれ、週末に休みの期間をもらう。
 休みの時間をヒナタと街に出て遊ぶのに費やすアンジェ。そこで剛腕蜘蛛悪魔を使役する上級悪魔らしきフードの男と謎の魔術師と遭遇する。追撃することも出来たが、アンジェは怪我人の保護を優先した。
 アンジェは父が亡くなった日の夢を見る。時折見るその夢、しかしその日見えた光景は違った。見覚えのない黒い悪魔の姿があったのだ。そしてその日の昼、その悪魔とその使役主である上級悪魔、悪路王あくじおうを名乗る存在、タッコク・キング・ジュニアが姿を現す。アンジェはこいつらこそが父の仇なのだと激昂するが、悪路王は剛腕蜘蛛悪魔を掃討すると即座に離脱していってしまう。
 そして同時にアンジェはアオイから知らされる。父が死んだその日は「大怪異」と呼ばれる霊害の大量発生の日だったのだ、と言うことを。
 イブリースが大攻勢をかけてきた。悪路王と英国の魔女は陽動に引っかかり、学校にいない。アオイとアンジェだけでは学校への侵攻を防ぎきれない。最大級のピンチの中、アンジェは自身の血の力と思われる白い光を暴走させる。それは確かにイブリースごと全ての悪魔を消滅させたが、同時に英国の魔女が封じていた安曇のトラップを起動させてしまい、学校を大きく損傷、死者まで出してしまう。
 アンジェはその責任を取るため、討魔師の資格を剥奪されることになるところだったが、突如乱入してきた悪路王がアンジェの血の力と思われる白い光を強奪。最大の懸念点だった力の暴走の危険は無くなったとして、引き続き討魔師を続けて良いことになった。
 アンジェの力の暴走、通称「ホワイトインパクト」の後、長門区ながとくは瘴気の大量発生に見舞われていた。アオイは一時的に英国の魔女と同盟を結ぶことを決意。アンジェと英国の魔女はタッグを組み、御手洗町みたらいちょうを守ることとなった。
 ホワイトインパクトに対処する中、英国の魔女は事態収束後も同盟を続けようと取引を持ちかける。アンジェは取引は断りつつも、英国の魔女の座学から様々な知識を学ぶのだった。
 英国の魔女に連れられ、ロアの実例と対峙するアンジェ。しかしそこに、ロア退治の任を受けた討魔師・柳生やぎゅうアキトシが現れ、アンジェと霊害と誤認。交戦状態に入る。それを助けたのはまたしても悪路王であった。
 父の仇である悪路王は如月家の血の力を盗んだ。そして如月家について、明らかに何か知っている。アンジェはそれを問いただすため、そして可能ならば討ち倒すため、アンジェは悪路王のいるとされる達達窟たっこくのいわやに向かう。そこでアンジェを待ち構えていたのは浪岡なみおかウキョウなる刀使いだった。アンジェはウキョウとの戦いに敗れ、その右腕を奪われる。

 

 アオイさんの木刀が迫る。自身の木刀で防ぐ。
 防がれたとみるやアオイさんは素早く木刀を引く。
「!」
 その隙を逃さず、私は一歩踏み込む。
 いや、それさえアオイさんの手のひらのうちか? 一瞬躊躇した私が上段に切り込むより早く、アオイさんがまるでフェンシングのように突きを放つ。
 ――っ!
 私の刀は上段に構えて、今振り下ろされようとしている。迫るアオイさんの刀は真っ直ぐ私の胴を狙っていて、ここから庇いにはいけない。
 咄嗟に横に飛んで突きを回避する。
 アオイさんが二の太刀で追撃してこないはずがない。そのままさらに後ろに飛ぶ形で姿勢を整え、木刀を構え直す。
 案の定迫っていた上段からの攻撃を間一髪で避け、木刀を身に寄せて、次に迫る中段の払いを受け止める。
 ? 木刀を引かない?
 意図に気付き、慌てて後ろに飛ぶ。
 刹那、先ほど足があった場所をアオイの足払いが通過する。
 この僅かな隙は攻撃のチャンス! ……いや、しかし、それさえ読まれていたら?
 一瞬霞に構えた刀を下段に戻す。
 しかし、それこそが一瞬の隙。
 見逃さぬとばかりにアオイさんの突きが飛び、私の胴体にめり込んだ。

 

「ごめんなさい、アンジェ、大丈夫ですか?」
 胴体への強い衝撃に咳き込む私に、アオイさんが飲み物と薬箱を持って戻ってくる。
「避けるのはすっかり上手くなりましたね。私も思わず寸止めできない程度には力が入ってしまいました」
 まさか褒めの言葉をいただくとは、感激だ。
「ですが、二度! 二度も攻撃のチャンスを見逃しましたね! それも攻撃姿勢に入ってから!」
 うっ、流石に気付かれてたか。
 そうだ。私はあれから、敵の動きを見切ることに集中して、まるで攻め切れない。
 アオイさんが活人剣の達人だから、ではない。活人剣の理論、攻める瞬間こそが隙であるという事実が、攻撃をする事で自身の隙を晒す事を恐れる思考へつなげてしまっていた。
 要するに私は一度腕を切られてすっかり攻撃を喰らう事を恐れるようになってしまった。
「まぁいいです。もうすぐ学校ですから、お互い支度しましょう。何があったか、また夜に聞かせてもらいますからね」

 

 改めてあの日のことを思いだす。

 

◆ ◆ ◆

 

「ん……ぐっうぅっ」
 暗闇。ただ、片腕が熱い。いや、これは痛みだ。
 どうなってるのかわからない。
 目を開けなきゃ。
「あ、アンジェ。意識を取り戻しましたね」
「その声は、英国の魔女」
「目を開けちゃダメ!」
 瞼に力を入れた直後、激しい警告が飛ぶ。本当にどこかで聞き覚えがある声色だ。そうまるで……。
「あー、出来ればあんまり考え事はしないで下さい。私の声だけを聞いて」
 英国の魔女はやけに真剣な声色。そしてそのまま言葉を続ける。
「あなたの腕はどうなっていますか?」
「え、あっ」
 その言葉で思い出す。
 討魔師・浪岡 ウキョウの鋭い一撃。
 たったの一撃で私の利き腕を奪った。
「あああああああああああ」
 私の利き腕。もう刀も振れない。これじゃ、復讐も敵わない。私の全てはここで終わってしまう。
「おかしい、忘却のルーンの効きが悪い……」
「多分、――のせいで血の力抜きでも魔術への耐性が高い」
――!? そんなの、これまで一度も――されてないのに……」
「でも間違いない。だって彼女は―――――だもの」
「そういうことか! だから認知魔術で治療する必要がある。いや、認知魔術だからこそ治療出来る!」
 あまりの痛みに二人の声が途切れる。何か大事そうなことを話しているのに……。
「アンジェ! アンジェ! よく聞いて。今からあなたの腕を魔術で治療する!」
 再び意識が朦朧とする私に英国の魔女が私を揺さぶる。
「治療?」
「えぇ、幸い貴方の腕は回収出来た。これくらいスパッと切れてれば魔術で接合できる」
「な、なるほど」
 なるほど。たしかにスパッと切られたような気はする。
「今から治療のためのルーンを刻むからね。受け入れて。抵抗すると効きが悪くなるからね」
「はい」
 確かにアオイさんも魔術には抵抗が出来ると言っていた。私は逸る気持ちと恐怖に駆られる気持ちの手綱をなんとか握って抵抗しないように、と意識する。
 先のない二の腕に英国の魔女の杖が触れる。何かヌメっとした液体が杖により伸ばされていく。
「はい、まず下準備が終わり。今度は切断された先の腕にルーンを刻んでいきますね、さっきのルーンでリンクが少し繋がったはずだから、離れていても触覚が作用しますが、驚かないで」
 直後、本当にないはずの腕が先ほどと同じ杖と液体の触覚情報を頭に送ってきた。
「あ、感じる」
「よし」
 手応えを感じたのか英国の魔女がらしからぬ声をあげる。意外だが、英国の魔女のような万能に見える魔術師でも喜びを感じる事があるのか。
「それじゃ、今から腕と腕をくっつけます。鉄をくっつけるような熱を使った魔術です。魔術で簡単に麻酔しますが、少し感覚は残ります。熱いですが許して下さいね」
「ぐっ」
 ジュッと焼けるような熱が腕を襲う。
「あ゛っ、ぐっぅ」
 暑い。麻酔のような魔術をかけてこれって、本当はどれだけ苦しいんだ。
 しばらくして、ようやくその苦しさは消えた。
「よし。今から内部の再生を促すルーンを刻みます。そしたら、手を動かせるようになりますよ」
 そう言うと、私の傷口にまたあの杖と液体の感覚が届く。もう腕の痛みもなくてくすぐったいほどだ。
「はい。私の言う通りに動かしてください。行きますよ、親指、人差し指、中指、薬指、小指」
 英国の魔女の言葉に合わせて指を動かしていく。すごい、本当に動いてる。手のひらの感触を感じる。
「動いてる。感じる」
「よかった、施術は成功です」
 私の言葉を聞いてようやくホッとしたように英国の魔女が告げる。変な話だ。動いてるのを見た時点で成功は明らかだろうに。それとも、感覚が生きてるのが分かってホッとしたのか。
「もういいですよ、目を開けてください」
 慎重に目を開ける。恐る恐る右手を見ると、果たして、そこにはしっかりとくっついて、私の指示に従う右手があった。
「よかった」
「よくないよ、アンジェ。君は何しにここに来たんだった?」
 極めて不機嫌な声に声の主人の方に顔を向けると、そこにいたのは悪路王だった。
「っ! 悪路王!」
 腰に手を当てるが刀はない。
「英国の魔女、私の刀は? なぜ攻撃をしないのですか?」
「それはここが彼の領域だからです。いくら私でも隣接魔界で上級悪魔相手に一人で挑むような無謀なことはしたくありません」
「隣接魔界?」
「魔界と呼ばれる僕ら悪魔の領域が人間の領域に表出した空間の事を人間はそう呼ぶらしい。概ね殆どの上級悪魔は人間の領域に自身の隣接魔界を持ち込んでいる」
「それにしてもあなたのそれは規模が大きいですけどね。その背後にある亡骸の影響ですか?」
「あぁ、これは先代だ。10年前に討魔師に討たれた。今も僕を守るために僅かな魂を燃やしている」
 言われてみると、悪路王の後ろにある大きな山に見えていたそれは、巨大な生物の一部に見えてきた。
「10年前……?」
 それは大怪異のあった年。父の死んだ年。一年といえど365日あるわけで同じ日というわけでもないなら偶然なのかもしれないが。なんだか引っかかる。
 いや、そうではなくて。
「それでも、私は力を取り戻すために……」
「それだよ、アンジェ」
 悪路王が私の言葉を遮る。
「力を返してほしいと君は言う。だがもし、今、能力があったら、どうなっていたと思う?」
「え?」
 どうなっていた……って? 
「私からもヒントです。アンジェ。私はあなたを魔術で治療しました。きっと、魔術以外では無理だったでしょうね」
 私の力の有無……。私の力は魔術の解呪ディスペルって言ってたっけ……。
「あ」
 もし血の力が残ってたら、魔術を使えずに腕を失っていた?
 思いもしなかった可能性に血の気が引いていくのを感じる。
「気付いたね。君は魔術……いや、汎神秘による支援を受けられない。それは神秘の加護なく、その刀と血の力だけで戦わねばならない、と言う事だよ。今の君にはそれだけの力はない」
「だ、だとしても、何故あなたがそれを裁定するのです! あなたは人類の敵、悪魔でしょう」
「それは違う。悪魔はただ悪魔同士争うと言う目的を持って生まれてくるだけだ。人間の領域に出張る彼らもただより戦いに向いた地平を求めているだけで積極的に人間を害したいと言う目的を持つ悪魔は少数だ。君達の学校を狙うイブリースはどうもそうじゃないようだけどね」
「人間を害したいわけではないのはそうでしょうけど、単にリソースとして人間を使う悪魔は枚挙に暇が無いほどですけどね。それで、あなたはこの世界で何を?」
「僕の目的は父を継ぐ事だ。830余年もの間この世界の裏を支配し続けた先代を、ね」
「何をふざけたことを!」
 世界を支配する? そんなの人間への関心とかそれどころの話じゃない。悪魔に支配されるなんてまっぴらごめんだ。
 私は右手やや遠くに刀があるのを確認して、右に一回転して刀を手に取って起き上がる。
 いきなり立ち上がったからか、一瞬立ちくらみが襲ったが、なんとか持ち直して刀を構える。
「アンジェ、勇敢なのはいい事だけど、無謀なのはダメだよ」
 パチンと悪路王が指を鳴らすと周囲に黒い円錐が無数に出現する。
「ここは僕の隣接魔界。隣接魔界にいる上級悪魔をまさかなりたての討魔師が倒せるとでも?」
「アンジェ、彼の言う通り、ここで彼と戦うのは分が悪いです。転移のルーンを敷きましたから、ここは退きましょう」
「……分かりました」
 渋々英国の魔女の忠告に頷く。そこに、再び腕を失う恐怖がなかったとは、決していえない。

 

◆ ◆ ◆

 

 去る直前、悪路王は言った。
「あのウキョウなる男は恐らくこの窟の入り口で張り込みを続ける気だろう。次に来る時は、彼を倒せるようになる事だ。それが叶えば、君の力を返してもいい」
 あの男を、倒す。そんな事が可能なのだろうか。今はまだ想像もつかない。
 アオイさんとの試合でも分かったが避けるだけならもう結構なところまでは来ているはずだ。つまり必要なのは攻め手だ。
 どうやって攻めていけばいいのか。学ばねばならない。
「……ジェ~」
 脳内でウキョウの動きを再現していく。
「アンジェ~」
 動けば斬られる。そんな相手にどう挑めば良いのか……。
「もう、アンジェってばぁ!」
「はっ、な、なんですがヒナタ」
「なんでじゃないよ。もう放課後だよ? 一日中ずーっとぼーっと上の空で、どしたの?」
「いえ、大した問題ではありません。帰りましょうか」
「うん。アキラー、アンジェが正気に戻ったよー」
「よかったー。アンジェちゃん、せっかくだから寄り道していこうよ」
「え、私は……」
「いいじゃん。アンジェ、最近ノリ悪いよ。何を思い詰めてるんだか知らないけどさ、そんな思い詰めて立って得るものは何もないよ」
「それは……」
 そうかも知れない、と少し思った。今の私には心の余裕がない。
「分かりました。付き合いましょう」
 考えてみればヒナタの言う通り、ここのところ全く二人と遊んでいなかった。
 当初こそ無駄な付き合いだと思っていた二人だが、今では十分に友情を感じている。たまには復讐を忘れて友情に準じるのも良いのかも知れない。

 

 ソフトクリームを食べ歩く中でアキラがふと思い出した、と口を開く。
「そう言えばアンジェちゃん知ってる? 幻の徳川家十六代目将軍って噂」
「あぁ、知ってます」
 むしろ戦いました。とはアキラ単独になら言えるのだが。
「へぇ、だったらあれは知ってる? 消えた航空機の謎」
「? 知りませんね」
「あれでしょ、マレーシアの飛行機が墜落したやつでしょ」
「あぁ、うん、それそれ」
 なんでも盛り上げるヒナタらしからぬ興味なさげな返答で思わずアキラも黙ってしまう。
「きゃっ」
「oh!」
 曲がり角で前をアキラが金髪の女性とぶつかってしまった。
「I'm sorry, sweetheart.Are you injured?」
「い、いえ、こちらこそ。あ、ソフトクリームが服に……」
 テンパったアキラが英語に対して日本語で返答する。
「Don't worry about me. Are you sure you're not hurt?」
「えっとえっと」
「私の事はいいけど、そっちは怪我はないか、ってさ」
「え、あっ、えーっと、ドントウォーリー」
「That's good. Let's take care of each other.」
 外国人のお姉さんは笑って去っていった。
「ならよかった、お互いに気をつけようね、ってさ」
「さ、サンキュー」
 ヒナタの翻訳にアキラが後ろから声をかけると、外国人のお姉さんは背中を向けたまま手を振って返事をした。
「綺麗な人だったね。王将のペンダントだけ不思議だったけど」
「王将? 炒飯ですか?」
 ペンダントなんて見てなかった。王将と言うとチェーン店「炒飯の王将」か?
「じゃなくて、将棋の駒だよ。将棋好きで日本に来たのかもね」
 ヒナタが少しこけたようなポーズを取りつつ突っ込む。観察力が足りてないんじゃないのー、との煽り付きだ。
「そうでしたか、皆さんよく見てるんですね……」
「それにしてもヒナタちゃん、やっぱり英語力高いね」
「えへへー、そりゃ成績一位ですからねー」
 本当に流石だ。
「アンジェはその点どうなのよ、最近順位下がり気味なんじゃないー?」
「うっ」
 否めない。なにせ万年二位の地位すら奪われ二桁の順位にまで落ちかけているのが今の私だ。全ては討魔師としての仕事と鍛錬に時間を取られているが故ではあるが。
 しかし、"守宮"殿からは文武両道を命じられている。このままでは不味いのは確かだ。
 何か方策を考えねばなるまい。

 

 などと言う一幕を経験しつつ家に帰った私が玄関から早速左の洋間に入ると、そこではお茶を啜りながら待つアオイさんの姿が。
「もしかしてずっと待ってました?」
「えぇ。あなたの及び腰について聞かせて下さい。まさか何もないなどとは言いませんね?」
 私に黙秘すると言う権利はなさそうだった。


「なるほど、浪岡 ウキョウなる霊害。初めて聞きましたね」
 場所と目的についてはぼかして説明することにした。
「れ、霊害? 討魔師じゃないんですか?」
「刀は立派な神秘武器です。これを人に仇なすために使うのであればこれは霊害となります。私達もそうですよ、アンジェ。あなたが刀を取り上げられそうになったのも能力を制御出来ず人に危害を加えてしまったからです。認識が足りなかったのなら再認識なさい、あなたの手にある武器は、使い方を誤れば速やかに霊害となりうるものです」
 使い方を誤れば速やかに霊害……。しかし確かに言われてみればその通りだ。
「しかしまだ完全ではないとは言え、あなたに不意を食らわせ、腕を切断する。かなりの使い手ですね。しかも悪路王は血の力の返還に彼の討伐を条件とした。……まぁこれについては妥当ですね」
「アオイさんも悪路王の肩を持つのですか?」
「少なくともこの件については悪路王に理があります。少なくともウキョウを倒せない状況であの力を取り戻しても、あなたの死が近づくだけ。いいえ、それは同時に私達皆の死が近づくだけ、とも言えます」
「けど悪路王は悪魔ですよ」
「けれど私達も討魔組の討魔師です。いえ、私は少し違いますが」
「え?」
 それがなんだと言うのか。
「……聞かされていないのですね。討魔組の血の力。その発端はなんだと思います?」
「え? えーっと……」
「例外もありますが、基本的には強さを求めるために悪魔や鬼、妖怪などと交わったことで生じた力です。それが呪いの如く遺伝子とは関係なく血によって伝染し続けている。それが血の力です」
「毒をもって毒を制す、と言う事ですか?」
「そう言う理解でもいいですが、そもそもご先祖は悪魔や鬼たちと交わった、と言うことを思い出してください。霊害という言葉の根本ですよ。つまり、彼らは異なる種族なだけで人間と分り合い、混じりあうこともできる。という事です。人間が刀を使い間違えれば霊害となるように」
「神秘も人間に利するなら仲間に、討魔師になりうる?」
「えぇ。昨日あなたを治療したあの魔女もそうです。私も受け入れ難いですが。ですから、あなたも受け入れ難いのは分かります。ですが、魔であれば即ち討つ、というのは、理性ある人間の行いではない。とだけ、頭の片隅に置いておいてください」
「受け入れ難いのはも何も、彼は父の仇で……」
「えぇ。でもそう思うのなら、アンジェ。あなたもホワイトインパクトによって死んだ人々に命で持って責任を取らなくてはならなくなりますよ」
「うっ……」
 そうだ。あの中で何人もの人間が死に、負傷した、と報告書を読んだ。私のクラスも何人か欠けた。誰かがその仇を討たなければと言われたら、私は……。
「ごめんなさい。あなたの復讐心を否定する気はないのです。ですが、それに目を曇らせないで欲しいのです」
「……分かりました。いえ、実践は難しいですが、覚えておきます」
「えぇ。ありがとうございます。さて、では、私以上に防御に特化した人との鍛錬が必要ですね」
「そ、そうなりますね」
 まさか用意する気なのか。
「心当たりがあります。守宮殿の腹心的な立場にある家の一つ、宝蔵院家の現当主、宝蔵院ほうぞういん 朱槍あかり殿です」


 
 to be continued……

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