Vanishing Point / ASTRAY #02
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「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。
途中、河内池辺名物の餃子を食べる三人。その後、「カタストロフ」の襲撃を受けるものの撃退し、RVパーク池辺で一同は一泊することになる。
朝、辰弥は晃と話しながら朝食を作る。
全員で朝食を食べながら、辰弥は馬返東照宮へ行きたいと改めて口にする。
晃から生体銃を受け取り、三人は移動を開始する。
馬返に到着した三人は馬返東照宮までの道で食べ歩きを始める。
食べ歩きをしながら歩く三人だが、鏡介は日翔に辰弥が無理をしている、と告げる。
馬返東照宮に到着した三人は三猿を眺める。
お参りを済ませた三人はおみくじを引く。辰弥が引いたのは東照宮でしか引けないという上吉だった。
「……ん?」
東照宮を出て幹線道路に戻り、キャンピングカーを停めた駐車場に向かう途中で日翔が突然足を止めた。
「どうした?」
鏡介も足を止める。
「子供の声がする」
辰弥は微かな声を聞き取ったか、すぐそばの裏路地に視線を投げている。
「なんか感じるなーと思ったが子供か?」
日翔がそう尋ねると、辰弥はうん、と頷いて路地裏に足を向けた。
「子供だけじゃない、なんか嫌な空気を感じる」
「観光地だからと言って治安がいいわけじゃないもんな。親からはぐれた子供が悪い大人に引っかかったか?」
だったら助けないとな、と日翔が両手の指を鳴らす。
「お前ら……」
厄介ごとに首を突っ込むなよ、と言いつつ、鏡介も路地裏に足を向けていた。
「行くぞ」
「応!」
怪しまれないようごく自然に、三人が路地裏に足を踏み入れる。
少し歩くと、黒い衣装に身を包んだ数人の男の姿が見えた。
「『カタストロフ』!?!?」
辰弥が思わず声を上げる。
あの戦闘服は「カタストロフ」のものだ。
自分を追ってここまで来たか、と辰弥が考えるが、それにしては違和感を覚える。
男たちは辰弥にではなく、別の何かに注意を払っているようだった。
先ほど聞いた子供の声は男たちの視線の先にあるような気がする。
まさか、と思った瞬間、辰弥は動いていた。
地を蹴り、左右のビルの壁を足がかりに三角跳びして空中に舞い上がる。
空中に舞い上がったことで現場の様子が俯瞰できた。
男たちの視線の先には一人の少女がうずくまっている。
――ノイン!?!? いや、違う!
白い髪に、同じく白いワンピースを着た少女。
見た目にノインを思い出させるが、ノインは辰弥と融合しているし、男たちが迫っているということは幻覚ではなく実在する。
『ノインに似てる、なんかムカつく!』
(そんなこと言わずに、助けるよ!)
ノインを叱咤しながら、辰弥は髪をいくつもの槍にトランスさせた。
男たちが頭上の辰弥に気づいて銃を向けるがもう遅い。
次の瞬間には串刺しにされた男たちが地面に縫い付けられる。
「大丈夫?」
トランスを解除して髪を元に戻し、辰弥は少女に駆け寄った。
日翔と鏡介もすぐに合流し、少女を見る。
「ありがとうございます!」
目を潤ませながら、少女が辰弥に抱きつく。
その目を見た瞬間、三人は思わず固まった。
赤い瞳。爬虫類のような縦割れ瞳孔。
以前聞いた久遠の言葉を思い出す。
――LEBはね、特徴的な眼をしているの。
その時久遠が口にしたLEBの特徴――辰弥は自分の眼を思い出す。
目の前の少女はどう見てもLEBだった。LEB以外でこの眼を持つ人間がいるはずがない。
「君、は――」
辰弥が声を絞り出す。
「エルステさんですよね? よかった、ここでお会いする事ができて」
辰弥に縋りつき、LEBの少女は心の底からよかった、と繰り返す。
「助けてください。『カタストロフ』に帰りたくないです!」
「『カタストロフ』……」
この一言で理解した。
この少女は「カタストロフ」にいた。
晃が造った第二世代が「カタストロフ」に拉致されていたのか、それとも「カタストロフ」が造り出した個体かは判別できないが、少なくとも「カタストロフ」にいたところを逃げ出してここまで来たのは間違いない。
辰弥を名指ししたということは辰弥なら助けてくれると信じ、気配を辿ってここまで来た、ということか。
『こいつ、主任の匂いがしない、第二世代じゃない』
くんくん、と匂いを嗅ぐような動きをしながら、ノインが言う。
「長居はまずい、とりあえずキャンピングカーに戻ろう」
周囲の防犯カメラをジャックして警戒していた鏡介が辰弥に声をかける。
「うん、一旦戻ろう」
辰弥が少女を抱き上げる。
『連れて帰るの? やばくない?』
ノインは少女を連れて帰ることに難色を示しているが、ここで助けてしまった以上放置しておくわけにはいかない。
(一旦連れて帰るしかないでしょ)
そう反論しながら、辰弥は鏡介を見た。
「鏡介、周りは?」
「大丈夫だ、追っ手の気配はない」
鏡介の返答に、辰弥が頷いて走り出す。
小走りで路地裏を出て人混みに紛れ、キャンピングカーに戻る。
キャンピングカーに入ったところで、辰弥は少女をソファに座らせた。
「もう大丈夫」
「ありがとうございます」
辰弥の言葉に、少女がほっとしたように頭を下げた。
「君、LEBだよね」
単刀直入に辰弥が尋ねる。
「はい。
何一つ隠そうとせず、少女――ツェンテはそう言った。
ツェンテ、と聞いた瞬間、辰弥の後ろで日翔と鏡介が顔を見合わせた。
「鏡介、こいつ――」
「第一世代だ」
以前、辰弥を救出する際に見た資料と晃の発言から判断する。
第一世代は序数でナンバリングされるのに対し、第二世代は基数でナンバリングされる。十は
しかし、第一世代は「
そう考えるとツェンテが命名規則から第一世代と判断できるが、一体誰が、という話になってくる。
日翔と鏡介の視線が自然と辰弥に投げられる。
「辰弥――」
日翔がそう呼びかけた時、辰弥の手がわずかに震えているのが見えた。
「――所沢……」
辰弥が低い声で呟く。
「所沢って、第一世代LEBを造り出した所沢 清史郎か?」
分かりきったことかもしれないが、鏡介が確認する。
「うん……所沢は生きてる。他人の空似だと思いたかったけどツェンテを見て確信した。ツェンテを造ったのは所沢だ。どうやってか分からないけどあの襲撃を生き延びて、ずっとLEBの研究を続けてたんだ」
「……ヤバくね?」
黙って辰弥の話を聞いていた日翔が声を上げる。
「ああ、かなりヤバい。『カタストロフ』はLEBの量産を計画していた。そういえば秋葉原が提出していた『エルステ観察レポート』に所沢の名前があったな。そうか、あいつが辰弥の――」
苦々しげな口調で鏡介が答える。
「ツェンテがいる、ということはLEBは量産できる体制に入ったということか」
「かもしれない」
辰弥の声は震えていた。
所沢の名前を聞いただけでも吐き気がしてくる。
こんなところでその名前を聞きたくなかった、とばかりに声を震わせる辰弥の肩に鏡介が手を置いた。
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