Vanishing Point / ASTRAY #04
分冊版インデックス
4-1 4-2 4-3 4-4 4-5 4-6 4-7 4-8 4-9 4-10 4-11 4-12
「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。
途中、河内池辺名物の餃子を食べる三人。その後、「カタストロフ」の襲撃を受けるものの撃退し、RVパーク池辺で一同は一泊することになる。
河内池辺を離れ、隣の馬返に赴いた三人は馬返東照宮を観光する。
その戻りに、辰弥は「カタストロフ」に襲われている一人の少女を保護するが、彼女はLEBだった。
「カタストロフ」から逃げ出したという「
しかし、ナイフを手にした瞬間にPTSDを発症し、ツェンテの殺害に失敗する。
それを見た日翔が「主任に預けてはどうか」と提案、ツェンテは晃に回収してもらうこととなった。
|磐瀨《いわせ》県に到着した三人は路銀を稼ぐため、|千体《せんだい》市にあるアライアンスから「近隣を悩ませる反グレを殲滅しろ」という依頼を受ける。
依頼自体はなんということもないものだったため、メンテナンスを受けてから依頼に挑むが、そこに「カタストロフ」が乱入してくる。
しかも、乱入した「カタストロフ」の構成メンバーはLEB、一瞬の隙を突かれた辰弥が昏倒してしまう。
だが、絶体絶命の状況を覆したのは辰弥自身だった。
反転したカラーの辰弥の動きに、日翔と鏡介は辰弥の中にノインの人格が存在し、このような状況では肉体を制御して動けるということに気付く。
メンテナンスの後、となると晃やツェンテが怪しくなるが、それでも二人がクロだという物的証拠がなく、三人はそのまま高志県へと入っていく。
高志県
店で料理が出るのを待つ間、三人は桜花のブランド牛について思いを馳せ、次の行き先を決める。
うしまぶしを堪能した三人は、晃と合流するために移動を開始する。
晃と合流した辰弥は、生体義体を獲得した日翔が時々放つプラズマナックルについて質問する。
メンテナンスの途中、辰弥は千歳の声を聴いた気がしてPTSDの発作を発症してしまう。
フードファイトの会場で、三人は日翔の参加登録を済ませる。
「……追加で百万の出費か……」
これで外したら懐が寒いな、とぼやきつつも鏡介は受け取った紙の投票券を見た。
リストバンドといい、投票券といい、不正防止にアナログ的な手法が使われている。これが電子投票ならハッキングで改竄のしようもあったが、紙に印刷されたものが相手では手も足も出ない。
やがて投票が締め切られ、五人の挑戦者の前に山盛りになったホットドッグが置かれる。
真剣な顔をする挑戦者の中で、日翔だけがテンション高くホットドッグを眺めている。
『第1ウェーブは若山豚ホットドッグ三十個! 制限時間は十分、十分以内に二十個以上食べられればクリアです!』
「……一つ三十秒で食べられないとノルマ未達か……厳しいな」
聞こえてくるアナウンスに、鏡介が眉間に皺を寄せる。
「日翔なら余裕じゃない?」
辰弥は日翔を信頼し切っているのか、余裕の表情である。
「……だといいがな」
いまだに辰弥が投票してみろと言った根拠が分からず、鏡介はそれ以上何も言わずステージを注視した。
ホログラム投影でステージにカウントダウンが表示される。
それが0になった瞬間、わっと観客席が盛り上がった。
挑戦者たちが目の前のホットドッグに手を伸ばす。
日翔がまず一個ホットドッグを掴み――一口で頬張った。
「はぁ!?!?」
日翔の一口を見た瞬間、鏡介が声を上げる。
「あー、骨格変形使って口の中広くしてるね」
辰弥が淡々と状況を把握して鏡介に説明する。
「日翔の本気の一口知らない? ショートケーキ一個なら丸ごと行くよ」
「マジか」
「ただ、入れすぎて噛むのに時間がかかるけど口の中を広くしてるから噛むのも余裕、必要最低限噛んで飲み込むんじゃない?」
辰弥に言われてよく見ると、日翔は一口で食べたホットドッグを数噛みしてあっという間に飲み込み、次のホットドッグに手を伸ばしている。
その間隔、実に十秒。
一つ三十秒という最低ラインを軽々クリアした状態で日翔は次々とホットドッグを食べていく。
「……これは余裕だな」
周囲より明らかに高スピードで小さくなっていくホットドッグの山に、鏡介が第1ウェーブの勝利を確信する。
合計三百秒――五分も経過しただろうか。
誰よりも早くホットドッグの山を制覇した日翔が隣を見る。
「うーん、物足りねぇ」
そんな声がステージから聞こえる。
その瞬間、周囲から「は?」や「まさか」という声が上がった。
今回のルール無用フードファイトは完食すれば他の挑戦者の邪魔をして失格に導くことも許されている。普段ならここで隣の挑戦者との殴り合いが発生するのだが――。
「ちょっといただくぜ!」
日翔は隣の挑戦者を殴るどころか、あろうことかさらに手を伸ばしてホットドッグを奪った。
「え!?!?」
まさか強奪されるとは思っていなかった隣の挑戦者が硬直している間に日翔は二個目、三個目のホットドッグを強奪していく。
「は!?!? まだ第2ウェーブと第3ウェーブがあるぞ!?!?」
鏡介が叫ぶ。
このフードファイトは「規定量をいかに早く食べ尽くすか」が課題となっている。そこに他人の料理を食べる余裕などない。
それなのに、日翔は隣の挑戦者のホットドッグを強奪している。
食べられている側の挑戦者が、日翔を止めようと殴りかかるが、日翔はのらりくらりとその拳をいなして次々にホットドッグを頬張っていく。
流石に相手の攻撃をいなしながらなので先ほどよりは食べるスピードが落ちているが、それでも凄まじい勢いで日翔は二皿目のホットドッグを食べ尽くしていった。
その、制限時間が十分に到達する前にレフェリーが赤い旗を掲げる。
『二番、ノルマ未達につき失格です!』
どよめく会場。
そう、日翔はライバルのホットドッグを十一個食べてノルマを達成できなくしてしまったのだ。
「すげえぞ三番!」
「うわー、こいつに賭ければよかった!」
「いや、ここで全力出したら次のウェーブ無理だろ」
そんな声が観客席から上がる。
二番に投票していた観客はここで手持ちの投票券が外れ券になってしまうが、それでも日翔を含めてまだ四人の挑戦者がいる。三連単の勝敗はまだ分からない。
十分のタイマーが0を刻み、この時点で四人の挑戦者の第2ウェーブ進出が決定する。
一位は当然ながら日翔、二位に一番人気の四番が控え、三位と四位がそれぞれ一番と五番になっている。
失格となった二番は二番人気だったため、かなりの人数――どころか大半の投票者に打撃を与えたようだが、その多くが数百万程度失っても痛くも痒くもない富裕層で、むしろ日翔の食べっぷりを嬉しそうに眺めている。
「いやー、あの見た目であの食べっぷり、いいですな」
「まさか隣の分を食べて妨害とは、前代未聞で面白い」
「ですが、次のステーキでうまくいきますかね」
ヒソヒソ聞こえてくる言葉に、鏡介はふん、と鼻を鳴らす。
ここで日翔が他人の料理を強奪するのは想定外だったが、同時に辰弥が両端の挑戦者に賭けろと言った意味も理解する。
日翔なら次もやる。テーブルは詰めずに間隔が開いたままになるので、第2ウェーブで余裕があれば日翔は必ず四番のステーキを強奪する。いや、余裕があれば、ではない。日翔のことだから余裕だらけになる。
実際、次の料理が出るまでに三十分のインターバルを設ける、とアナウンスされているが、日翔は口直し用に置かれたクッキーをあっという間に平らげ、物欲しそうな顔で他の選手のクッキーの皿を眺めている。
何をどうしたらそんなに腹が空くんだ、と思っているうちに三十分が経過し、今度はステーキが山積みになった皿が四人の前に用意される。
味変ができるようにさまざまな味のソースも並べられると、日翔が目を輝かせてステーキを見始めた。
これはどの肉をどのソースで食うか考えているな――と鏡介が他の挑戦者も観察する。
日翔以外の三人は真剣な顔でステーキを眺めている。その顔に胃袋に対する余裕はあまり見えない。
――勝ったな。
第1ウェーブでの戦績を考えると、第2ウェーブで一位通過すれば妨害せずとも日翔の優勝は確定である。
それでも、日翔のことだから隣――四番の肉を強奪するんだろうな、と思っているうちに第2ウェーブがスタートした。
第2ウェーブはステーキだが、ノルマは三十枚の肉に対し三十分で二十枚。肉ということで一枚につき一分半の猶予が与えられているが、日翔はそんな猶予をものともせず次々とステーキを口に運んでいる。
「いやマジでいい食いっぷりだな!」
観客も日翔の食べっぷりに魅了されて日翔のリングネーム――いつもの「Gene」コールを始めている。
「いやー、日翔、本当によく食べるねー」
心底楽しそうに辰弥が呟く。
しかし、鏡介は真剣な顔で周囲を見回した。
「辰弥、油断するな。『カタストロフ』が襲撃してくるなら今だ」
「そうだね」
辰弥も真顔に戻り、脳内でノインに声をかける。
『「かたすとろふ」の気配も、エルステみたいなやつの気配もないよ』
観客をかき分けるようにうろうろしていたノインから声が届く。
『それよりもお腹すいた。ノインもお肉食べたい』
「日翔が優勝したらステーキにしようか」
『やったー!』
それなら頑張る、とノインが再び観客をかき分けて周囲の警戒に戻る。
「……便利だな」
辰弥の声だけは聞こえるので、返答だけで状況を察した鏡介が呟く。
「まあ、あまり広範囲の索敵はできないけどね。この部屋の中くらいならノインも歩き回れるし、そこからノインの感覚を展開すれば『カタストロフ』がこの部屋に入る前くらいには察知できるよ」
辰弥がそう答えたその時、観客席がわっと盛り上がる。
その反応に辰弥と鏡介がステージを見ると、案の定日翔は自分の分を完食し、四番のステーキを強奪し始めていた。
四番といえば受付の前で日翔を煽った大男である。その男が、唖然として日翔が自分の分の肉を食べるのを眺めている。
「お前、さっきホットドッグ食いまくっただろ」
「いやー、全然足りないな」
そんなことを言いながら、日翔がもう一枚肉を奪う。
あっという間に四番の皿から十一枚の肉を強奪した日翔は満足そうな顔で水を一気に飲み干した。
『ここで一番人気の四番がまさかの失格です!』
完全に大番狂わせの展開。
この時点でほとんどの観客の投票権が紙屑となり、人生の一発逆転を賭けていた貧困層のギャンブル中毒者は絶望してのたうち回っている。
しかし、多くの富裕層は投票が外れたことに失望するよりも、日翔が五番人気にも関わらず、一番人気と二番人気の挑戦者を食欲で打ち負かしたことに興奮していた。
会場はやんややんやの大喝采。あとは第3ウェーブでノルマを達成できれば日翔の優勝は確定なので観客たちは「ここで脱落するなよ!」と応援している。
日翔も余裕の笑顔でガッツポーズをして観客に応え、会場の熱気は最高潮に達していた。
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。