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光舞う地の聖夜に駆けて エピローグ

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EP-1 EP-2 EP-3

 


 

 弾道旅客機SOPで僅か数時間のフライト。
 フェアバンクスからロサンゼルスへの直通便で戻ってきた匠海とピーターは空港の手荷物受取場でキャリーバッグを回収する。
「やっぱSOPってすげえな!」
 興奮冷めやらぬピーターがはしゃいでいる。
「でも、本当にいいのか? オレだってカウンターハッカー高給取りだし一応払えないことは……」
「気にすんな、どうせ俺はあまり金を使うことがないから」
 そう言う匠海の顔も若干にやけている。
「SOPって本当に成層圏まで飛ぶんだな。あの景色は凄かった」
 宇宙空間を間近に感じる深い蒼ディープブルー、あの光景は二度と忘れることはないだろうな、と匠海は思った。
「じゃ、俺たちもここで解散だな」
「そうだな」
 ユグドラシルとイルミンスール、同じカウンターハッカーとはいえ会社の違う二人がフェアバンクスから始めた奇妙な旅行はこれで全日程が終了した。
 若干の寂しさはあるが、これからいつも通りの生活に戻るだけ。
 「元気でやれよ」とキャリーバッグの持ち手を持った匠海を前に、ピーターが少し迷ったような顔をし、それからおずおずと右手を差し出す。
「……握手」
 緊張したような面持ちになり、ピーターがそう言う。
「べ、別にお前が違う人種だと意識しないようにしてるわけじゃないぞ。肌の色が違おうが中身がちゃんとしてたら関係ないってのはお前が教えてくれた」
「……不器用な奴だな、お前」
 思わず笑みをこぼし、匠海がピーターの手を握る。
「成長したな、ピーター」
「子ども扱いするない」
 少々むくれながらもピーターは匠海と固い握手を交わす。
「確かに今回はオレ、足を引っ張ったかもしれないけどさ。いつかはお前を超えてみせるからな!」
 手を離し、ピーターがそう宣言する。
 再び笑みをこぼし、匠海は次に不敵そうな笑みを浮かべる。
「楽しみにしてるぞ、ルキウス」
 次会う時は敵同士か? などと言いながら匠海が踵を返す。
 ピーターに背を向けながらも片手を挙げてひらひらと振り、歩きはじめる。
「……アーサー!」
 匠海の背に、ピーターが声を投げかける。
「無茶すんなよ! お前、無茶してばっかりだから!」
 ああ、心に留めておくよ、そう心の中で応え、匠海は空港を出た。
『タクミ、この後どうするの?』
 空港を出た瞬間、妖精が匠海に尋ねる。
「あー……」
 そう声を上げ、匠海が空を見上げる。
「……ジジイのところに行くか」
 久しぶりのロサンゼルスロスだ、そういえば『ランバージャック・クリスマス』の時に別のテロに対処していたというがそれは大丈夫だったのだろうか。
 こちらのあらましを説明するためにも、匠海はバスの時刻表を見て小さく溜息を吐いた。

 

 白狼しろうのアパートのインターホンを鳴らす。
 応答があるまで、何度か息を吐いて心を落ち着ける。
 ややあって、ドアが開いた。
「……おお、匠海か」
 中から出てきた白狼は、目の下に大きな隈を作り、かなりやつれているようだった。
「ジジイ、大丈夫か?」
 思わず、匠海がそう声をかける。
「……流石に、この歳で、エナドリブーストでの、二徹は、堪える……」
 ある意味、自分より酷い有様だった。
「何やってんだよ、っていうか、何があったんだよ」
 あの亡霊級魔術師マジシャンでありウィザード級魔法使いウィザードの白狼がここまで消耗するとは余程のことがあったのだろう。
 白狼が「とりあえず入れ」と匠海を招き入れる。
 白狼の部屋は荒れに荒れていた。
 エナジードリンクの缶とカフェイン錠の箱、エナジーバーの袋、ゼリー飲料のパウチが散乱している。
「……二十五日昨日、やっと片がついてな……」
 立ってるのも辛いから座らせてもらう、と白狼がリビングの床に腰を下ろす。
 その向かいに座り、匠海は心配そうに白狼を見た。
「ジジイが言ってた『世界規模のテロ』か?」
 ああ、と白狼が頷く。
「ジジイがここまでやられるなんて……あの時は詳しく聞けなかったが、一体何だったんだ」
 もしかしてこちらを手伝った方がよかったのか、いや、自分がいなければ『ランバージャック・クリスマス』も完遂されていたかもしれない、そう思いながらも匠海は詳細を聞き出そうとする。
 ああ、と白狼が頷く。
「……世の中の、リア充を憎む非モテ魔術師が手を組んでな……リアル『リア充爆発しろ』を実行しようとしていた」
「……」
 それは大変だ、確か「特定の条件を満たした人間を一人残らず殺す」と言っていたしな、リア充の事だったか、と匠海が納得する。
「『リア充爆破ッカー』はウィルス感染したオーグギアの連絡先と位置情報からカップルを判定してな、一定距離に入るとバッテリーを暴走、爆破させようとしていた。ガウェインの万物灼き尽くす太陽の牙ガラティーンもバッテリー破壊系だが、あれは人体には影響が少ないレベルだったのに対してあいつらはガチで大爆発する暴走のさせ方でな、爆発してたら確実に頭が吹っ飛んでいた」
 誰だよ『リア充爆破ッカー』という名前つけたのは、と思いつつも匠海はこれが二徹もするほど大変だったのかと疑問に思う。
 白狼ほどの腕前ならこの程度、難なく捻ることができると思っていたが。
「数人程度だったら問題なかったんだがな、まさか数百人単位で結託してるとは思わなかった。旅行中のお前の手を借りるのも申し訳ないと思って声を掛けなかったがお前から『手を貸してほしい』と言われた時は、な……」
「……」
 まさか数百人単位での大規模なテロが発生していたとは。
 しかも白狼の口ぶりだとその全てを一人で対応した、としか考えられない。
「なに無茶してんだよジジイ、他に手を借りれなかったのか」
「そりゃ……幸せそうなカップルを引き裂いてまで手伝ってもらうことなんてできないだろうが」
 ――ジジイはそういう人間だった。
 だからと言ってここまで無茶する必要があるか、と匠海は思う。
 これはジジイを休ませるのが先決だな、と思い、匠海は白狼を抱えて起こし、ベッドに誘導した。
「とりあえず寝ろ」
「……『ランバージャック・クリスマス』を阻止したそうだな」
 ベッドに寝かされた白狼が匠海にそう言う。
 え、と匠海が声を上げる。
 あれはアラスカの地域深層ローカルディープで展開されていたテロだ、接続できない白狼が知るはずがない。
「儂も知ったのは昨日だがな。『第二層』にアラスカで『ランバージャック・クリスマス』が計画されていて、それが四本の世界樹に核ミサイルを撃ち込むことだった、という書き込みがあってな。アラスカで、世界の危機となるとお前が巻き込まれたのはこれか、と」
 お前も大変なことに巻き込まれたんだな、と白狼が呟くように言う。
「……お互い、無事でよかった」
「ジジイは全然無事じゃないだろ」
 もういいから寝ろ、と匠海が再び言う。
 そうだな、と白狼が頷く。
「すまんな匠海、手伝えなくて」
「……ジジイ」
 匠海がそう呟くも、白狼は眠ってしまったのか反応はない。
 ブランケットを肩まで掛け、匠海は立ち上がった。
「俺は大丈夫だった。頼りになる仲間に出会えたからな」
 眠っている白狼にそう言い、匠海は静かに家を出た。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

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