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光舞う地の聖夜に駆けて エピローグ

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 十二月二十八日。
 一週間ぶりに出勤した匠海はとうふによって設定された入館禁止処理出禁が解除されていることを確認してオフィスに入り、自分のブースに向かう。
 ……と、その前にとうふに呼び止められた。
「おい匠海アーサー
「なんだ?」
 二十四日のことで何か言われるのか、と身構えた匠海に、とうふが奥の応接室を指差す。
「最高責任者がお前に話があるそうだ」
「げ、」
 やばい、と匠海が呟く。
 アラスカで行ったあれこれがバレたのか、特にスマートガンの制限解除はあの後設定し直したとはいえバレていれば首が残るかどうか。
「……行かないと、ダメ?」
「行け」
 いつになく強い口調でとうふが命令してくる。
「……分かった、俺の荷物、まとめといてくれ……」
 力無くそう言い、匠海はとぼとぼと応接室に向かって歩きだした。
 応接室に入ると見慣れた最高責任者どころかNile社CEOまで来ており、予想していた話の重要度が爆上がりする。
 これは確実にクビだ、しかも司法取引でNile社入社を条件に釈放されているのである。ここでクビとなると釈放条件が全て消え――
 人生終わったな、と匠海は覚悟した。
 釈放条件が消えてしまえば収監は必至、今回の件も含めて行ったことを考えると終身刑は免れない。
 それでもいいか、と匠海は考えた。
 妖精の行く末を見ることができなくなるだろうことが心残りではあるが他に思い残すことはないな、と気付かされる。
 ドアがノックされ、とうふが入室する。
 そこで全員が揃ったらしく、最高責任者が口を開く。
「永瀬君、君という人間は相変わらず無茶をする」
 アラスカに行ってまで何してるんだ、とやや呆れ声の最高責任者。
 匠海は何も答えない。
「アラスカで散々ハッキングしまくったそうじゃないか。キャリブレーションデータを漁ったり複数人にSPAM送りつけた挙げ句会社支給のスマートガンをハッキングして殺傷エリミネイト解除までしたとか」
 うわあ、どこまで認識してるんだ会社は、と匠海は平静を取り繕いながらも話を聞いている。
 これは収監どころか賠償請求されるかもしれない、とふと考える。
 だが、そこまで言ってから最高責任者はふっと笑った。
「『ランバージャック・クリスマス』なるテロを阻止したそうだな」
「どうしてそれを」
 思わず、匠海が声を上げる。
 あの時、アラスカで起こったことの詳細を匠海は誰にも話していない。
 とうふには協力してもらった手前話すつもりではいたがその前にここに呼ばれている。
 最高責任者が口を開く。
「なに、当局から連絡が入ってな。先日逮捕されたイーライ・ティンバーレイクがアラスカでテロを実行しようとしたが阻止された、それを阻止したのが君とイルミンスールのカウンターハッカー、ピーター・ジェイミーソンだと」
「それは……」
 イーライが自供するとも思えない。そう考えると。
「逃亡したイーライを捕縛したバウンティハンターが協力者として君達の名を挙げた。相当の違法行為を行ったがテロを阻止するためだったから罪に問うなと」
 タイロンが話したのか、と匠海が納得する。
 タイロンは彼なりに匠海たちの違法行為を認識していたということか。
 匠海がそう思っているとCEOが立ち上がり、匠海の横に立つ。
 その手を握り、CEOは、
「君のおかげでユグドラシルは、いや、世界が救われた。我々としても君のような優秀なカウンターハッカーがいて鼻が高い」
 そう、にこやかに匠海に言った。
「……はあ、」
「このことは大々的に宣伝させてもらう。もちろん、君のことは特定できるように出さないが世界を救えるほどのハッカーがユグドラシルを守護しているのだと言うくらいは構わないだろう?」
「……それは、まあ」
 歯切れ悪く匠海が同意する。
 そんな匠海には構わず、CEOは最高責任者にも声をかける。
「こんな逸材を見つけてくるとは君もやるな」
「ユグドラシルの中枢に入れるほどの実力ならと思いまして」
 七年前、匠海をユグドラシルにスカウトしたのもこの最高責任者だった。
 それ以来何か大事があれば顔を突き合わせる仲ではあったがここまで買ってくれていたとは。
「犯罪者枠でなければもっと上に立たせたいものです」
 匠海がチームリーダーとはいえ平社員の立場に甘んじているのは「犯罪者枠」という枷があるから。
 だが、かと言ってとうふのような管理職に収まる気も彼にはなかった。
 常に最前線で悪意のある魔術師マジシャンとぶつかり合いたいと。
 CEOが再び匠海を見る。
「ここまでの実力者だ、もし君が望めば枠関係なしにもっと上の席を用意してもいいが?」
 そんなことを提案してくるが、匠海は、
「その話はお断りさせていただきます。私の居場所はこの、監視室だと思っていますので」
 そう、即答した。
 そうか、とCEOが呟く。
「だが、もし気が変わったら遠慮なく言ってくれたまえ。話は通しておく」
 その言葉に匠海が小さく頷くと、最高責任者が「話は以上だ」と伝えてくる。
 二人に軽く会釈、匠海がとうふと共に退室する。
「あ、出てきた」
「マジか、せっかくの話蹴るのかよ」
「いやでもやっぱ監視室ここにはアーサーがいないとな」
 いつの間にか集まっていたカウンターハッカー仲間が応接室の前で聞き耳を立てていた。
「「……」」
 匠海ととうふが顔を見合わせる。
 そして、
「お前ら働けーーーー!!!!」
 匠海の一喝が、監視室全体に響き渡った。

 

The END.

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