縦書き
行開け
マーカー

世界樹の妖精-Serpent of ToK- 第11

 

分冊版インデックス

11-1 11-2 11-3 11-4

 


 

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 場所はアメリカのフィラデルフィア。
 とある施設に、仲間の助けを借りて侵入した二人の男がいた。
 ハッキングに長けたガウェインと肉弾戦に長けたタイロンの二人は警備をものともせずサーバルームに侵入、データを盗み出すことに成功する。
 ハイドアウトに帰還した二人は、侵入の手引きをしてくれたもう一人のハッカー、ルキウスとサポートガジェットを作ってくれたアンソニーと量子イントラネットを通じて会話する。
 そこに現れた1匹の蛇。
 その蛇こそが「SERPENT」と呼ばれる謎の存在で、ガウェインたちはLemon社が展開しているという「Project REGION」を阻止すべくSERPENTに呼ばれた人間であった。
 SERPENTの指示を受けてLemon社の関連企業に侵入するたけし(ガウェイン)とタイロン。
 「EDEN」にいるという匠海たくみ和美かずみが気がかりで気もそぞろになる健だったが、無事データを回収する。
 解析の結果、そのデータは保管期限が切れて削除されたはずの「EDEN」ユーザーのデータ。
 そこから匠海と和美のことが気になった健は独断で「EDEN」への侵入を果たす。
 「EDEN」に侵入した健だが、直後、魔術師仲間内で「黒き狼」と呼ばれる魔術師に襲われる。
 辛うじて逃げ出した健であったが、「Team SERPENT」を危機に晒しかねない行為を行ったということで謹慎を命じられる。
 謹慎中、トレーニングをしているところで健は「Team SERPENT」に亡霊ゴースト魔術師マジシャンである「白き狩人ヴァイサー・イェーガー」が在籍していないことに疑問を持つ。
 「ヴァイサー・イェーガーはチームへの所属を希望しなかった」という事実に不信感を持つ健だったが、そんな折、Lemon社が新型AI「ADAM」と「EVE」を発表する。
 この二つのAIは匠海と和美だ、と主張する健。
 二人は大丈夫なのか、と心配になった健はもう一度「EDEN」に侵入することを決意する。
 止めようとするアンソニーだったが、そこにピーターとタイロンも到着し、健と共に「EDEN」をダイレクトアタックすると宣言する。
 ToKのサーバルームに侵入し、ダイレクトアタックを敢行する健たち。
 「EDEN」に侵入し、匠海と会話をはじめた直後、予想通り黒き狼に襲われる健だったが、自分のアバターに一つのアプリケーションが添付されていることに気付く。
 「魔導士の種ソーサラーズシード」と名付けられたアプリケーションを起動する健。それはオーグギア上からでもオールドハックができるものだった。
 オールドハックを駆使し、黒き狼を撃退に成功するが、健たちの侵入もToKに知られており、健たちはToKから離脱する。
 黒き狼は白き狩人ヴァイサー・イェーガーであり、彼は匠海の祖父、白狼であると主張する健。
 だとすれば匠海と和美を守りたい一心で「Project REGION」に参画しているはずだ、という健にまずはその事実の確定をしなければいけないとタイロンが指摘する。
 しかし、健が匠海の祖父の名が「白狼」であることを告げた瞬間、タイロンとピーターは「確定だ」と判断する。
 それならDeityを抑え、黒き狼を説得すれば助けてもらえるかもしれない。
 そう判断した三人はタイロンのハイドアウトからまたもToKをハッキング、Deityと黒き狼の捕獲に向かう。
 SERPENTが作った綻びを利用し、再度「EDEN」に侵入する健とピーター。  黒き狼が現れるが激闘の末説得に成功、その協力を得て匠海と和美を「ニヴルング」へと転送、ピーターもDeiryを抑え、データの入手に成功する。
 任務完了と現実世界に戻る二人、しかしどこで突き止められたかLemon社の私兵がタイロンのハイドアウトに乗り込んできて、三人は拘束されてしまう。
 Lemon社の収容施設に収容される三人。
 脱走もできない状況だったが、そこへ日和が現れ、白狼の手を借りて三人を脱獄させる。
 その脱走劇の最中、収容施設を十二機のロボットが襲撃する。
 それはアンソニーが「Team SERPENT」の面々に呼び掛けて集結した「蛇小隊サーペント・スクワッド」だった。
 FaceNote子会社で白狼と顔を合わせた健たち。
 ここで「Project REGION」を完全に阻止すべく、一同は最後の攻撃を仕掛けることを決意する。

 

 
 

 

    11章 「黎明を告げる蛇」

 

「それじゃ、二人を儂のイントラネットに招待する。そこからならお前らの特定までの時間を稼げるし、仮に逆探知が始まっても撒くくらいの余裕はできるはずだ」
 白狼の言葉に、健とピーターが応、と頷く。
 今までも正念場だと思ったことは何度もあるが、今回は真の意味で正念場だと二人とも思っていた。
 GLFNグリフィン各社が有する世界樹を攻めることに比べれば難易度は低いかもしれない。合衆国ステイツ経済圏各国政府のホットラインにデータのコピーを送るのは、まず一般市民に秘匿されているホットラインを探し出すという時点で難易度は高いが、侵入してしまえばどうということはない。気をつけることがあるとすればセキュリティを監視しているAIやカウンターハッカーに気取られないようにすることだけだ。
 世界樹の侵入検知は精度が非常に高いことで知られている。いくら痕跡を残さないよう侵入してもほぼ確実に侵入だけは感知されるので感知されないように侵入する、という考えは捨てた方がいい。むしろ「感知されても自分だと発覚しないよう」立ち回る必要がある。
 その一点で、健たちはあの拘束で致命的なミスを気づかず犯してしまったと言える。いくら察知されても「誰が」が分からない限り追跡はできない。だが、あの時は何故か追跡されてしまった。
 ピーターは自分が追跡された、と確信していた。その主な理由が「Deityに接触した」である。恐らくDeityにはピーターの預かり知れない検知システムがあり、それによってピーターであると特定されたのだ、と。
 とはいえ、「Team SERPENT」がToKに対して行うべきことは全て終わった。よほどのことがない限りToKに侵入する必要はないし、その基幹システムを担うDeityにアクセスすることもない。
 結局何に捕捉されたんだ、という疑問は残しつつもピーターは健と共に白狼ヴァイサー・イェーガーのイントラネットにアクセス、指示を受けながらデータの拡散準備を始めた。
 ピーターの担当は各放送局が有する放送ラインの掌握。
 合衆国ステイツ経済圏にある大小全ての放送局を洗い出し、まとめてトラッカーを付けていく。一つ一つに電波ジャック用のウィルスを送り込んでもいいが、一斉に発火させて同時ジャックするならまずは枝を付けてその後一括で送信した方が効率がいい。
 健は各国のホットラインを洗い出し、政府にデータを送りつける準備を進めている。こちらも特に問題なく進んでいるようで、時折健が「うお、こんなところにルートがあったのか」と呟いている以外静かなものである。
 そして、この作戦の主軸を担う白狼は二人が様々な場所へアクセスするためのルート調整を行いつつ最大の仕事――ToKへのアクセスを行っていた。
「ジジイ、ToKにはもうアクセスする理由なんて――」
 白狼がToKにアクセスしていると気づいた健が声を上げる。
「いや、ToKにはもう一度だけアクセスする必要がある」
 そう言い、二人の視界にToKのセキュリティマップを表示する。
「GLFN各社は放送の優先権を握っている。競合した場合は総資産の上位が優先される仕組みにもなっとる。つまり、イルミンスールを起点として電波ジャックを行なってもLemon社の方が総資産は上だから簡単に封じることができる」
「マジか」
 放送の優先権については健には預かり知れないものだった。白狼の言い分が正しければ各放送局が都合の悪い報道を行えばGLFN四社が揉み消せる、という話である。仮にFaceNote社が放送局に圧をかけてLemon社の不祥事を報道させたとしても、四社の中で最高額の総資産を保有しているLemon社はそれを封じることができる、ということだ。
 そう考えると白狼の動きは間違っていない。ToKはLemon社の心臓でもあるため、それを事前に抑えておけばいざ電波ジャックを行なってもLemon社は手も足も出せなくなる。
「しかし爺さん、Deityにはヤバい探知システムがあるぞ? それに引っ掛かったらこの場所も、FaceNoteも……」
 心配そうにピーターも声を上げる。
 だが、白狼はそれを笑いで吹き飛ばした。
「儂がどれだけToKの隠しカウンターハッカーとして動いてたか知らんのか。Deiryの裏口バックドアくらい作っとるわ」
「うわこわ」
 ピーターの口から思わずそんな声が出る。
 白狼は白狼でいつか反旗を翻せるよう準備していたということか。
 ただ、これができたならもっと早く「Project REGION」を、それも白狼一人で阻止できただろうに、とピーターも健も思ったが、それは不可能だった、とすぐに思い直す。
「お前らのおかげだよ」
 手を止めずに、白狼が呟く。
「だろー? もっと崇めてくれていいんだぜ?」
「おいガウェイン調子に乗るな!」
 調子に乗った健をピーターが止める。
 そうだ、健とピーターが一時的にもDeityを止め、匠海と和美のデータをサルベージしたからこそ白狼は今自由に動くことができる。いつかは反旗を翻そうと準備はしていても、「Team SERPENT」が動くまで機は熟していなかったのだ。
「まさか、ニヴルングに転送するとは思っていなかったぞ。とはいえ、儂の動きにも限度があったからDeityに察知されず転送することはできなかった。お前たちが来てくれたからできたことだよ」
「なのに散々ボコしてくれてよー……」
 健のぼやきにピーターもそれはそう、と心の中で同意する。
 いくら匠海と和美のデータが人質に取られていたとしても白狼がもっと早く協力してくれればLemon社に拘束されることもなかったかもしれないのである。
「まあそうぼやくな。お前らにとっては必要な試練だったんだよ」
「言ってくれるなあ……」
 そう言いながらも三人は手を止めない。
 放送局の放送ネットワークが、各国のホットラインが、そしてToKの主要機能が三人の手によって侵食されていく。
「ジジイ、各国ホットライン捕捉完了!」
「こっちも放送ネットワーク掌握完了した」
 健とピーターが同時に声を上げる。
「よし、こっちもToKの通報システム周りを全て抑えた」
 白狼も準備完了と声を上げる。
 しかし、白狼は自分が進めた作業の全容を二人には告げていなかった。
 ToKの通報周りを押さえたのは事実だ。だが、それだけはない。
 ――匠海、和美さん、お前らの願いは受け継いだ。
 白狼が最後の仕上げを済ませてエンターキーを叩く。
 それはToKにある「Project REGION」に関する全データの削除。コピーは健とピーターが持っている。これから各国政府にも送られる。だからこのプロジェクトが完全に消失するかと言われるとそうはならない。ただ、Lemon社が独断で進めることができなくなるだけだ。
 データは削除したが、削除されたという発覚を遅らせるためデータは全て出鱈目な文字の羅列にしている。いざアクセスしたらデータが破損していてそこで初めて発覚する仕組みだ。
 もう、Lemon社に対して思うことも「Project REGION」に関わることもない。今ここで、全てを終わらせる。
「いいか、二人とも」
 白狼が二人に声をかける。
「ああ、大丈夫だぜ」
「問題ない」
 健とピーターも力強く頷く。
「それなら――「Team SERPENT」毒蛇の一噛み、これで決着をつける!」
 三人が同時にそれぞれのコードを起動させる。
 ――三人がそれぞれに送り込んだコードが発火し、毒蛇が熟れたレモンに噛み付いた。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

11章-2へ

Topへ戻る

 


 

「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。

 マシュマロで感想を送る この作品に投げ銭する