Vanishing Point / ASTRAY #03
分冊版インデックス
3-1 3-2 3-3 3-4 3-5 3-6 3-7 3-8 3-9 3-10 3-11 3-12 3-13 3-14
「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。
途中、河内池辺名物の餃子を食べる三人。その後、「カタストロフ」の襲撃を受けるものの撃退し、RVパーク池辺で一同は一泊することになる。
河内池辺を離れ、隣の馬返に赴いた三人は馬返東照宮を観光する。
その戻りに、辰弥は「カタストロフ」に襲われている一人の少女を保護するが、彼女はLEBだった。
「
「カタストロフ」から逃げ出したというツェンテ、保護するべきと主張する日翔と危険だから殺せと言う鏡介の間に立ち、リスクを避けるためにもツェンテを殺すことを決意する辰弥。
しかし、ナイフを手にした瞬間にPTSDを発症し、ツェンテの殺害に失敗する。
それを見た日翔が「主任に預けてはどうか」と提案、ツェンテは晃に回収してもらうこととなった。
移動中、ノインの指摘で輸血をすることになった辰弥は日翔に話し相手になるよう依頼する。
何がしたい、と訊かれた辰弥は色んな所に行きたいと呟く。
千体市に到着した三人は千体市名物のずんだシェイクを楽しむ。
「千体の牛タン定食は牛タン焼き、麦飯、テールスープ、味噌南蛮、幾つかの野菜の浅漬けがセットになっているのが定番らしい」
辰弥と日翔が転送されたデータを見る。
それは、千体市のグルメ情報を取り扱ったウェブサイトだった。
ずんだや牛タン定食といった有名どころから麻婆焼きそばなどB級グルメなど、数多くのご当地グルメが紹介されている。
「うわー、笹かまぼことかおいしそう! 次の目的地までのおやつに買おうかな」
ざっくりと牛タン定食の説明を見た辰弥が他のご当地グルメの紹介も見て目を輝かせている。
「ったく、本来の目的忘れてるだろ……」
そう毒づくものの、鏡介も「ずんだシェイク、うまかったな……」などと考えている。
あれはいい、頭を使った時のエネルギー補給にちょうどいいしタンパク質やビタミンも手軽に摂れそうだ、と鏡介が考えていると、a.n.g.e.l.がその思考に割り込んでくる。
『しかし、提供されてすぐに摂取しないと溶けてしまうので長期保存には向いていません』
(a.n.g.e.l.、今はそんな現実的な話はどうでもいい)
『それは失礼しました』
鏡介とa.n.g.e.l.がやり取りしている横で、日翔が向かいの辰弥と楽しそうに話している。
「辰弥、飯食ってアライアンスに顔を出した後どうする?」
「まあ、仕事があればそれを受けて、それからメンテナンスかな。前のメンテから一週間だし、色々追加データも取りたいだろうし」
「あー、そうだな。館県に入る前には一度メンテしておきたいな。って考えるとここでやっとくのがちょうどいいか」
辰弥の言うことはもっともだ、と日翔も頷く。
この一週間、特に身体に不調が出ることもなく元気いっぱいな辰弥と日翔であったが、だからといってメンテナンスをしなくていいというわけではない。それに二人とも晃にとっては貴重なサンプルであるので定期的な追跡調査は必要。データは多い方が今後の改良につながることを考えればそれに協力するのが筋だろう、と二人は考えていた。ましてや晃は「グリム・リーパー」の一員であるし、辰弥たちのメンテナンス費用やキャンピングカーの調達費用は要らないと言ってくる、いわば恩人である。検査くらいいくらでも協力する、というのが三人の共通見解だった。
「ってなわけで一仕事終わったら主任に連絡入れようぜ。向こうも寂しがってるだろうし」
「そうだな、お前らはしっかり診てもらった方がいい」
『主任来るの?』
辰弥の隣に座っているノインも声を上げる。
日翔と鏡介には見えないが、目を輝かせてはしゃぐ様子が見えている辰弥はそうだね、と心の中だけで頷いておく。
そうこうするうちに三人の目の前に牛タン定食が乗ったトレーが置かれた。
「うっわ、すげえ!」
トレーの上所狭しと並べられた器に日翔が歓声を上げる。
皿に盛られた厚切りの牛タン焼き、同じ皿に盛られた野菜と肉味噌のようなものは鏡介が言っていた浅漬けと味噌南蛮だろうか。大きめの鉢に盛られたテールスープにはしっかりと煮込まれたテールがごろっとした状態で入っており、ボリュームたっぷりである。
炊き立ての白米もほかほかと湯気を上げており、甘い香りが三人の鼻孔をくすぐった。
『おぉー』
辰弥の前に置かれたトレーをノインが覗き込んでいる。
『早く食べろ!』
(はいはい)
辰弥が厚切りの牛タン焼きを口に運ぶ。
しっかりとした歯応えの後に醤油だれの味が肉の風味と共に口に広がっていく。
『うーん、いいね! 肉って感じ!』
「うん、美味しい」
タンといえば部位によっても食感は変わるが、この牛タン定食に使われているものは程よい歯応えであっさり噛み切ることができる。噛み締めれば肉汁が滲み出してくる。
「いやー、これうまいな。さすが
「いや、千体の牛タンは別に千体牛のものではないらしい」
日翔の言葉に、鏡介がテールスープを飲みながら説明する。
食べながらもa.n.g.e.l.で情報収集を行なっているようだが、必要な時に必要な情報を出せる鏡介の仕事ぶりに辰弥も日翔も感心するしかなかった。
「そもそも、千体で牛タンが食べられるようになったのは旧時代の戦争が理由と言われている」
「へえ」
辰弥が興味深そうに鏡介を見る。
鏡介も百科事典サイトの情報を閲覧しているだろうから自分もそれを見れば済む話だが、鏡介はそれを分かりやすく噛み砕いて説明してくれるので飲み込みやすい。それに鏡介との会話のネタにもなるので辰弥は自分で調べようとしなかった。
「当時の桜花は
「うわ、鏡介がサイペディア使ってやがる」
茶化す日翔に、鏡介が「なんだと」と反論する。
「エビデンスが必要な情報ならサイペディアは使わないがこの程度のものなら俺でも使う。まぁ、サイバボーン運営の百科事典サイトだからIoL絡みのことは誇張されているだろうが」
「え、サイペディアって運営、サイバボーンなの?」
真奈美の件や日翔の件で並々ならぬ縁のあるサイバボーン・テクノロジーとこんなところでも縁があるのか、と辰弥が意外そうな顔をする。
義体関係ではほぼ最大手と言ってもいい
「サイペディアのサイをなんだと思ってたんだ。サイバボーンのサイだぞ」
「知らなかった」
勉強になった、と辰弥が次はこれ、と味噌南蛮を箸で摘み、口に運ぶ。
その瞬間、辰弥の隣でノインが悶絶した。
『からいーーーー!!!!』
「ん、いいねこれ。牛タンに乗せて食べたらいい味変になりそう」
悶絶するノインとは真逆に、これはいいねと今度は牛タンに味噌南蛮を乗せる辰弥。
『やめろ! せっかくの肉を無駄にするな!!!!』
ノインが喚いているが意に介さず、辰弥は味噌南蛮を乗せた牛タンを楽しみ始めた。
ピリッとした爽やかな辛味が味噌と絡み、鼻を抜けていく。
これは唐辛子かな、と考えつつ辰弥が検索する横でノインがぽかぽかと辰弥を殴る。
『調べるな! こんな辛いもの、食いもんじゃない!』
「へえ、味噌南蛮って青唐辛子を味噌で漬けたものなんだ。簡単にできそうだし、これは今後のレパートリーに含めてもいいな」
『お前、絶対嫌がらせで言ってるだろー!!!!』
ノインが辰弥によじ登り、首を絞める。
そんなことするなら呼吸器系等乗っとればいいのに……などと考えつつ、辰弥は牛タン定食を平らげていった。
『そんなことすればノインも死ぬだろー!』
◆◇◆ ◆◇◆
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。