縦書き
行開け
マーカー

Vanishing Point / ASTRAY #03

分冊版インデックス

3-1 3-2 3-3 3-4 3-5 3-6 3-7 3-8 3-9 3-10 3-11 3-12 3-13 3-14

 


 

ここまでのあらすじ(クリックタップで展開)

 「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。
 途中、河内池辺名物の餃子を食べる三人。その後、「カタストロフ」の襲撃を受けるものの撃退し、RVパーク池辺で一同は一泊することになる。
 河内池辺を離れ、隣の馬返に赴いた三人は馬返東照宮を観光する。
 その戻りに、辰弥は「カタストロフ」に襲われている一人の少女を保護するが、彼女はLEBだった。
 「第十号ツェンテ」と名乗る彼女に、三人は辰弥の開発者である所沢 清史郎が生存し、新たな個体を生み出したことを知る。
 「カタストロフ」から逃げ出したというツェンテ、保護するべきと主張する日翔と危険だから殺せと言う鏡介の間に立ち、リスクを避けるためにもツェンテを殺すことを決意する辰弥。
 しかし、ナイフを手にした瞬間にPTSDを発症し、ツェンテの殺害に失敗する。
 それを見た日翔が「主任に預けてはどうか」と提案、ツェンテは晃に回収してもらうこととなった。

 

移動中、ノインの指摘で輸血をすることになった辰弥は日翔に話し相手になるよう依頼する。

 

何がしたい、と訊かれた辰弥は色んな所に行きたいと呟く。

 

千体市に到着した三人は千体市名物のずんだシェイクを楽しむ。

 

次に、三人は牛タン定食を食べる。

 

千体市のアライアンスに立ち寄った三人は近隣の反グレチームの殲滅という依頼を受ける。

 

PCがない中、無理を押してハッキングを続ける鏡介にa.n.g.e.l.だけでなく辰弥と日翔ももう少し頼れ、と言う。

 

オートキャンプ場で晃と合流した三人はそれぞれメンテナンスを受ける。

 

メンテナンスが終了し、一同はバーベキューを楽しむ。

 

アライアンスの依頼で反グレチームの殲滅を始めた「グリム・リーパー」は途中で「カタストロフ」の乱入を受ける。

 

乱入してきた「カタストロフ」の構成員はLEBだった。そのショックで一瞬硬直した辰弥は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。

 

『BB!』
『エルステ!』
 日翔、鏡介、ノインが辰弥に呼びかける。
 だが、壁に頭をぶつけたか反応がない。
「マズいぞ鏡介Rain!」
 日翔も鏡介も辰弥に駆け寄ろうとするが、「カタストロフ」の構成員と残存している半グレメンバーによって動きが取れない。
「ナメたことしてくれたが、気絶してるならちょうどいい! 死ねやぁ!!!!
 半グレメンバーの一人がナイフを手に辰弥に襲いかかる。
「BB!」
 再度、鏡介が呼びかける。
 いくら人間の身体能力を遥かに上回るLEBであっても気絶してしまえば無防備だ。反撃できなければ一方的に嬲られる。
 半グレメンバーが手にしたナイフが辰弥の心臓目掛けて振り下ろされる。
「が――ッ!?!?
 だが、心臓に刃を突き立てられたのは半グレメンバーの方だった。
『な――!?!?
 日翔と鏡介の声が重なる。
 半グレメンバーのナイフは辰弥に届かず、逆に、辰弥の右腕が刃にトランスして半グレメンバーの胸を貫いている。
「うー……重っ」
 刃を抜いてトランスを解除し、辰弥が唸りながら体を起こす。
「BB、大丈――」
 大丈夫か、と声をかけようとした日翔の声が途中で止まる。
 そこはかとなく覚える違和感。そこで立ち上がっているのは辰弥なのに、辰弥ではない雰囲気。
 何だ、何が起こっている? と考え、そこで日翔は違和感に気がついた。
 単純に、見た目が違う。
 身長も、髪の長さも今の辰弥のものだが、カラーリングが反転している。
 生まれ変わった辰弥はいくつかの房と後ろ髪の先端が白い黒髪だが、今目の前にいる辰弥は黒い房と黒い毛先の白髪である。それどころか、頭の左右に白猫のような獣の耳が生えている。
 さらに見ると腰の辺りからは白くしなやかな尻尾が生えてゆらゆらと揺れていた。
 いや、この動きは猫が狩りをする時のような仕草にも見える。
 ――猫?
 どういうことだ、と日翔も鏡介も「カタストロフ」のLEBたちが警戒する。
 少なくとも、この辰弥は辰弥ではない、誰もがそう確信する。
「あー、だるー……。気絶するとか、ほんっと、サイテー」
 心底気だるそうにそう言った「辰弥」だが、身体は完全に戦闘モードに入っていた。その深紅の双眸が鋭く「カタストロフ」を捉えている。
「とりあえず、捕獲するぞ!」
 「カタストロフ」のLEBたちが一斉に「辰弥」に襲いかかった
「遅いね」
 「辰弥」はたった一言だけ言い、大きくジャンプする。
 その場で真上に上がっただけ、かと思いきや後ろの壁を蹴って「カタストロフ」のLEBを飛び越え、後ろに回る。
 後ろに回ったところで即座に振り向き、「辰弥」は腕を刃にトランスさせ、一気に振り抜いた。
 LEBたちも即座に反応して回避行動をとるが、「辰弥」に一番近かった一人が巻き込まれて首を刎ねられる。
「っ、Rain!」
 呆気に取られてその様子を見ていた日翔だが、すぐに我に返って鏡介に声をかける。
 鏡介も頷き、同じくあっけに取られていた半グレの残りに銃を向けた。
 トランス能力の有無で戦いの有利不利は変わってくるが、LEBの相手はLEBに任せたほうがいい。少なくともトランス能力を身につけた辰弥なら残り数人のLEBくらい引き付けられる。
 それなら今のうちに半グレを殲滅し、それから落ち着いてLEBの対処に当たったほうがいい。
 日翔がコンバットナイフを手にすぐ近くの半グレに襲いかかる。
「っそ!」
 半グレも手にしたナイフで受け止めるが、生体義体の出力調整で以前同様の怪力を備えた日翔には敵わない。
 半グレの手からナイフが弾け飛び、次の瞬間、日翔によって頸動脈を掻き切られる。
 鏡介もGNSと義体の精密制御で的確にターゲットの頭を撃ち抜き、二人は「辰弥」に視線を投げた。
 「辰弥」が近くのビルを利用して三次元的な軌道で残り二人となったLEBを翻弄している。
 確かに普段の辰弥もビルを利用して有利に立ち回れる上位を取ることはあるが、「辰弥」はただ壁に張り付いて上を取るのではなく、ビルとビルの間を飛び回って完全にLEBたちの攻撃を回避していた。
 この「辰弥」は少なくとも普段の辰弥より動きは活発、俊敏である。
 まるで猫を思わせるような動きに日翔と鏡介は援護に回りつつも「こいつは」と考えていた。
 明らかに辰弥ではない。辰弥の戦闘スタイルとあまりにもかけ離れている。
 それに、辰弥のメインウェポンはピアノ線ではあるがその次によく使うのは銃である。だが、この「辰弥」はトランス能力を最大限に駆使してその場の状況に合わせて腕や髪を武器にトランス、相手の攻撃を捌いている。
 二重人格か、と鏡介が自問する。
 研究所で「生産」されてからの数々の実験やその後の戦いで辰弥の精神がどれほど擦り減っていたかは分からないが、それでも精神に異常をきたさないとは断言できない。度重なる精神的なダメージに、それを回避しようとして解離性人格障害多重人格が発症してもおかしくないだろう。
 ただ、一般的な解離性人格障害は外見の変化が起こるわけではない。人格がスイッチしたところで見た目が変わらないから昔の時代は悪魔憑きだのただの演技だの言われていたはずだ。
 それなのに、今LEBたちと戦っている「辰弥」は完全に見た目が変わっている。体型などはそのままでも髪の色合いが反転するだけでなく猫耳と尻尾が生えている時点で完全に辰弥ではない、と判別できる。
 それとも、トランス可能なLEBだからこそ人格の変動で外見も変わるというのか。それはそれで分かりやすいが、一体この人格は何なのだ。
 そう考えていた鏡介の脳裏を一つの名前が過ぎる。
 ――ノイン?
 何故、その名前が浮かんだのかは分からない。
 確かに辰弥はノインと融合したし、思い返せば雪啼せつなと呼ばれていたころのノインは何故か猫じゃらしに反応した。キウイを食べて酔っ払いもした。
 つまり、今の「辰弥」はノインの人格が表出したものか、と考え、鏡介はまさか、とその考えを否定する。
 辰弥との融合でノインの意識は消えたはずだ。少なくとも日翔だけでなく鏡介もそう認識していた。旅の途中で辰弥がノインの幻影と会話していることを知らない二人なら当然の考えである。
 鏡介がちら、と日翔に視線を投げる。
 日翔はそんなことを微塵も考えていないのか、右手にアサルトライフル、左手にコンバットナイフを手にLEBの一人に切り掛かっている。
「あきと、じゃま!」
 「辰弥」がそう言いながら日翔が狙っているのと同じ個体に髪をトランスさせたいくつもの槍を向ける。
「邪魔とか傷つくなあ!」
 軽い身のこなしで流れ弾のように飛んできた槍を躱し、日翔がアサルトライフルでLEBの動きを牽制、回避方向を固定したところでコンバットナイフを突き立てる。
 同じタイミングで槍もLEBを串刺しにし、三人は残り一人となった「カタストロフ」のLEBに視線を投げた。

 

第3章-12

Topへ戻る

 


 

「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。

 マシュマロで感想を送る この作品に投げ銭する