光舞う地の聖夜に駆けて 第2章
分冊版インデックス
上司によって無理やり取らされたクリスマス休暇で匠海は妖精と共にアラスカ内陸部のフェアバンクスに訪れていた。
妖精と共にオーロラを見ていた匠海はツアーの自由行動中に軍用トラックに雪を掛けられたことがきっかけで軍事施設にハッキング、そこで自分に雪を掛けたトラックが偽装のものであったということを知る。
詳しく調べるうち、トラックが持ち出したものは核弾頭であることが判明、テロの匂いを感じた匠海はトラックを妨害しようとするが別の
敵の魔術師を追い詰めたものの自身のオーグギアのリソース不足で逆転負けを喫する匠海。
だが、敵と思われた魔術師も実はテロを阻止するためにトラックを妨害しようとしていたことが分かり、二人はリアルで合流して情報交換することになった。
フェアバンクスに降り立ったピーターは兄夫婦の家に訪れ、休暇を楽しんでいた。
しかし、何気なく潜った
何かを輸送している車両を止めようと信号機をハッキングするピーター。だが何者かに邪魔をされる。
「なんだと!?!?」
ピーターは信じられない光景を目の当たりにした。
騎士が、手に持つ光り輝く剣でマントの凍結部分を切断したのだ。
バカな、とピーターが呟く。
――破壊系ツールだろ、それで自分のアバターを破損させるのか!?!?
魔術師同士のアバター戦で被弾することはままある。
アバターの破損は程度が低ければ即座に消失ということはないがそれでもツールによっては致命傷となる。
ましてや、相手が今持っている剣は見たことがなく、独自ツールに見える。
そう考えると破壊系なら一撃必殺クラスの威力を持っていると考えるのが妥当。
それなのに、相手はその独自ツールで自らのアバターを傷つけた。
そんなことをすれば、アバターが整合性を失い自壊するはず。
凍結したマントが光の粒子となって消失する。
だが、アバター本体は消失しない。
――なんなんだ、あのツール。
分からない。ただ一つ分かるのは、相手の独自ツールは破壊だけでなく何か予測できない機能を持った厄介な代物であるということのみ。
凍結部位を切り離すことで騎士が体勢を整え、剣を一振りする。
今の攻撃で、相手はピーターの独自ツールが凍結系と気づいたに違いない。
さて、ここから相手はどう出るか、とピーターは思案する。
凍結性能の斬撃波を飛ばしてくると判断した時点で普通なら近接戦闘に持ち込もうとするだろう。
それには遠隔系の攻撃を囮にして接近を図るはず。
ただし、遠隔系の攻撃はリソースの消費が激しいものが多い。
これが普通の魔術師戦なら長期戦になっただろう。だが、相手は
短期決戦で終わる、とピーターは判断した。
それならこちらのリソースはあまり考えなくていい。
騎士が四基の
見た目は騎士なのにハイテクなもの使うなと思いつつ、斬撃波を飛ばして四基とも撃墜する。
同時に、視界に一本のゲージを表示させる。
内容は、相手の推定リソース。
これがレッドゾーンに入ればこちらの勝ちである。
今のドローンでゲージがそれなりに削れる。
――この調子だ。
相手はさらに四基射出、それも難なく撃墜。
それを見越してだろう、さらに二基のドローンが射出され、シールドを張りつつビーム状の攻性プログラムをこちらに向ける。
対策はしているが、とピーターはニヤリと笑った。
ゲージの減りが早い。
これならあと四基で打ち止め、向こうは突撃せざるを得なくなる。
シールドと撃ち込んでくる攻性プログラムに少し苦戦するが、ドローンを撃ち落とす。
だが、ピーターの予想より早く相手は四基のドローンを展開させていた。
大量のデータがオーグギアに流し込まれ、回線が圧迫される。
DDoS攻撃という古典的な手ではあったが、魔術師戦では初弾を防げなければかなり痛い攻撃となる。
「こいつ……っ!」
回線が圧迫され、アバターの動きが重くなる。
その隙をついて騎士が突撃してくる。
辛うじて四基のドローンを撃墜して回線を回復、斬撃波で騎士を牽制する。
しかし、騎士はそれを手にした剣を凍結させることで受け流し、そのまま突っ込んできた。
――
はじめに騎士が斬撃波を剣で受けず、回避、さらには凍結したマントを切断したにもかかわらずアバターの整合性が失われなかったことでその剣が独自ツールだとピーターは判断していた。
ところが、今度は回避することなく犠牲にした。
これは一般論であるが、独自ツールを使う魔術師はその
リソースの消費が激しいこともあるが、独自ツールを攻略されるということは相手に負けを認めるも同然となる。
それなのに、この騎士は。
プライドがないのかとピーターは呟く。
自分が勝てるなら、独自ツールですら踏み台なのか、と。
目前に騎士が迫る。
騎士が剣を抜く。
その刃先がピーターの首筋に正確に突きつけられる。
「く――っ、」
「チェックメイト!」
騎士が宣言する。
ぞくりとした感覚がピーターの背筋を駆け抜ける。
そこで、ピーターは気づいた。
今、騎士が手にしている剣こそ本物。
いつの間にすり替えられたのか先程凍結した剣は見た目こそ同じものの、ダミーだったのだと。
それでも。
「はん、それはどうかな!」
――オレの、勝ちだ。
騎士の周りで信号が舞う。
「な――」
騎士が声を上げる。
ピーターの視界に映るゲージは、残りわずかの状態で点滅していた。
ここまでリソースを消費していては、独自ツールといえどもその真価を発揮することはできないだろう。
もう少し早く止まると思っていたが、この程度は誤差の範囲内。
恐らくは普段はブースターを使っていて、その癖でのリソースの大盤振る舞い。
ピーターも騎士の首筋にフロレントを突きつける。
フロレントが冷気を纏い、いつでも相手を凍結させられるようスタンバイする。
「魔術師でありながらブースター使ってないとかなめてんのか? 何か小細工しているようだが概ね想定通りだ」
く、と悔しそうに騎士が唸る。
「やれよ。その剣は飾りか? メインの性能を出せずとも
ま、やってもお前の首も落ちるがな、と挑発する。
ピーターのフロレントはその機能を失っていない。
相手はピーターのフィールドにいる。しかも、出口は全て封鎖済み。
アバターを無力化すれば本来なら自分のフィールドに
つまり、ここで相手を無力化すればたとえ自分が無力化されたとしても取り逃すことはない。
ピーターにデメリットは存在しないのだ。
軍配はピーターに上がった。
さっさとこいつを通報してトラックの誘導を再開しよう、そう思ったが。
《マスター、察知されました。ターゲット、離脱します》
しまった、とピーターは唸った。
この騎士との戦いに集中しすぎてトラックのことを失念していた。
勝ちはしたものの、それほどギリギリの戦いだったのだと今更ながら思い知らされる。
「ったく、『ランバージャック・クリスマス』だかなんだか分からんがお前らの思い通りにはさせない」
せめてもの負け惜しみで、相手にそう言葉を叩き付ける。
だが、相手の反応はピーターが予想してもいなかったものだった。
曰く、「あいつらの仲間ではない」と。
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