光舞う地の聖夜に駆けて 第2章
分冊版インデックス
上司によって無理やり取らされたクリスマス休暇で匠海は妖精と共にアラスカ内陸部のフェアバンクスに訪れていた。
妖精と共にオーロラを見ていた匠海はツアーの自由行動中に軍用トラックに雪を掛けられたことがきっかけで軍事施設にハッキング、そこで自分に雪を掛けたトラックが偽装のものであったということを知る。
詳しく調べるうち、トラックが持ち出したものは核弾頭であることが判明、テロの匂いを感じた匠海はトラックを妨害しようとするが別の
敵の魔術師を追い詰めたものの自身のオーグギアのリソース不足で逆転負けを喫する匠海。
だが、敵と思われた魔術師も実はテロを阻止するためにトラックを妨害しようとしていたことが分かり、二人はリアルで合流して情報交換することになった。
フェアバンクスに降り立ったピーターは兄夫婦の家に訪れ、休暇を楽しんでいた。
しかし、何気なく潜った
何かを輸送している車両を止めようと信号機をハッキングするピーター。だが何者かに邪魔をされる。
邪魔をしてきた何者かとピーターは交戦、辛うじて相手の動きを封じるものの、彼は敵ではなかった。
邪魔をしてきた魔術師――匠海と会い、情報交換をするピーター。二人は手を組み、テロを阻止することを決める。
二人が合流したウエストマーク フェアバンクス ホテルから数ブロック離れたエリアにそのビルは打ち捨てられていた。
打ち捨てられていたとはいえ電気設備は生きており、割と最近までは使用されていたことが伺える。
窓ガラスも割れておらず、プロジェクタやその他の設備もそのまま残っており、一部ではホームレスが根城として利用しているらしい。
少々治安が悪そうではあるが、逆に悪だくみをするにはうってつけである。
じゃり、と砂利を踏む音が響く。
ビルに紛れ込んだ砂利を踏んで匠海とピーターがビルに踏み込む。
ピーターがローカルディープで見た部屋に、そろりと身を滑らせる。
人の気配はなく、スイッチを探し出して明かりをつけるもののやはり誰もいない。
「あー……やっぱり何も残っていないか……」
部屋の奥のスクリーンも兼ねた白壁を見て、ピーターが部屋に踏み込もうとする。
「やっぱり無駄足だったか?」
「待て」
不用心に部屋に踏み込もうとしたピーターを匠海が止める。
「なんだよ」
不満そうに声を上げるピーターに、匠海がオーグギアを操作し、視界の一部を共有する。
「ブービートラップが仕掛けられている……が、解除された形跡がある」
ピーターの視界に、赤外線センサーでスキャンした部屋の様子が映しだされる。
切れたワイヤー、解体された手榴弾。
「アーサー、どういうことだ」
「分からん。が、追跡を考慮してブービートラップが仕掛けられたことは確かだな」
注意深く室内を見回し、それから匠海は大丈夫だ、とピーターに合図した。
「だが、俺たちのほかに侵入者がいるかいたかだ、警戒は怠るなよ」
了解、とピーターがそろり、と部屋に入る。
白壁の前に立ち、周りを見る。
部屋の中にはいくつかの机と椅子、そして天井にプロジェクタが残されていた。
せめて何か端末の落とし物でもあればよかったのに、とピーターが溜息を吐いて匠海を見る。
「……アーサー?」
驚いたようにピーターが声を上げる。
匠海はというと、部屋の中央で空中に指を走らせていた。
何かを操作している、それは分かるが何かを見つけたというのか。
魔術師としての勘、そして洞察力は並の魔術師の比ではない。
よく勝てたな、ブースターなしというハンデがなければ負けてたのは自分の方だったのでは、とふと思う。
暫く様子を見ていると、匠海は何かを見つけたのかウィンドウを閉じるモーションをとり、ピーターを見る。
「大した情報は残っていなかったが、面白そうなデータは見つけた」
「何やってたんだ?」
この部屋でハッキングするようなものは何もないはずだが、とピーターが訝し気に匠海を見る。
「お前、プロジェクタを忘れてただろ。オーグギアからのデータ転送なら履歴が残るから、そこからデータを復元した」
そう言いながら匠海がピーターの隣に移動し、データを共有する。
最初はピーターが撮影したスクリーンの画像の元データ、次に主要な実行メンバーリスト。一番上に記載されたイーライ・ティンバーレイクが今回のテロの首謀者だろうか。
「見たことある名前もちらほらあるな。大抵SNSで反GLFNをわめいている過激なインフルエンサーだ」
「よく知ってるな」
ピーターが見ても知っている名前はなかった。
それだけに匠海の情報収集能力の高さに驚かされる。
「
大抵炎上している奴らが行き過ぎて厄介なことをやらかすからな、場合によっては先手を打つこともある、と匠海。
「それとも、お前はSNSを見ないのか?」
「くだらん奴のくだらんつぶやきを見るくらいならハッキングの腕を磨いた方がイルミンスールのためになる」
そうか、と匠海が一言呟く。
「その様子だと、信号いじったのが初めての犯罪か?」
少しニヤニヤしたような顔で匠海が尋ねる。
う、と言葉に詰まり、ピーターが顔を真っ赤にする。
「うるせーな、オレは違法なハッキングはしたくないんだよ!」
そんなピーターを生暖かい目で見る匠海。
「青いな」と思っていたのは事実だが同時に自分が擦れていたことに気付かされる。
そう言えば俺が初めて違法にハッキングしたのは腕試しでモルガンが叩き潰したサーバだったか、などと思い出し、それから、
「ルキウス、伏せろ!」
咄嗟にピーターを手近な机の裏に突き飛ばし、自分も潜り込む。
「なんだよアーサー!」
そう抗議するも、頭上を奔る銃弾に思わず身を竦める。
匠海を見ると、いつの間に抜いたかスマートガンを片手に机の向こう側の様子を窺っている。
「万が一に備えて残してやがったか?」
お前も抜け、と匠海に言われてピーターも慌ててスマートガンを取り出す。
「撃てるな?」
「バカ言うな、
「なら、
え、とピーターが声を上げる。
「何を」
「冗談だ」
真顔で向こう側を警戒したまま、匠海が言う。
「とりあえず、撃てるならいい。奴の銃を落とせ」
匠海が机の裏から覗き込み、侵入者を確認、すぐに床を転がって隣の机に移動する。
わずかなタイムラグの後、先ほど匠海がいた位置に正確に銃弾が叩き込まれる。
「ちっ、向こうは殺る気か」
ほんの一瞬しか見ていないが、侵入者は両手にそれぞれ銃を握っていた。
《アーサー、どうする》
なるべく侵入者に聞かれないように、とピーターが回線を開いて聞いてくる。
「ルキウス、お前は
俺も同じ奴だから分かる、と続け、匠海は机から身を乗り出した。
スマートガンのオーグギア連動によるオートエイムに照準を委ねると視界に表示されたロックオン用のレティクルが即座に相手の銃に重なる。が、それを確認するより早く匠海は引鉄を引く。
相手が匠海の動きに合わせて引鉄を引くより早く、匠海の放った弾丸が自動追尾を行い右手の銃を撃ち落とす。
同時にピーターも立ち上がり、発砲。
同じく左手の銃が撃ち落とされる。
その隙を突き、匠海はコンソールを展開した。
右手にスマートガンを握ったまま、左手でコンソールを操作、侵入者のオーグギアのアクセスポイントを特定しようとする。
両手の得物は落とした、とピーターが侵入者に一歩近づく。
だが、次の瞬間、二発の銃声が響き、匠海とピーターのスマートガンが手から離れて床に落ちる。
「ルキウス!」
まずい、と匠海が叫び、さらにコンソールに指を走らせる。
いつ間に抜いたか、侵入者はさらに二丁の銃を両手に握っていた。
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