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光舞う地の聖夜に駆けて 第2章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

 上司によって無理やり取らされたクリスマス休暇で匠海は妖精と共にアラスカ内陸部のフェアバンクスに訪れていた。
 妖精と共にオーロラを見ていた匠海はツアーの自由行動中に軍用トラックに雪を掛けられたことがきっかけで軍事施設にハッキング、そこで自分に雪を掛けたトラックが偽装のものであったということを知る。
 詳しく調べるうち、トラックが持ち出したものは核弾頭であることが判明、テロの匂いを感じた匠海はトラックを妨害しようとするが別の魔術師マジシャンと交戦することになる。
 敵の魔術師を追い詰めたものの自身のオーグギアのリソース不足で逆転負けを喫する匠海。
 だが、敵と思われた魔術師も実はテロを阻止するためにトラックを妨害しようとしていたことが分かり、二人はリアルで合流して情報交換することになった。

 

 その両方の銃口から煙が上がっている。
 二人に照準を合わせる時間はなかったはずだ。
 ――まさか、この一瞬で、しかも目視だけで正確に自分たち二人の銃を撃ち落としたのか?
 自分はまだ伏せれば遮蔽が取れる。だが、ピーターは完全に机から離れてしまっている。
 そのタイミングで漸く、相手のアクセスポイントが特定される。
「モードチェンジ、非殺傷スタンモードスタンバイ」
 侵入者の低い声が部屋に響く。
 モードチェンジした銃のキャパシタに電流がチャージされる。
 匠海が漸くアクセスポイントから侵入者のオーグギアを特定、情報酔いで無力化するためのSynapse PAin MomentSPAMを送り込もうとする。
 だが、匠海が最後のキーを押すよりも相手が引鉄を引く方が早かった。
 細い光レーザーが二人に照射、次の瞬間、レーザーが引き起こしたブルーミング現象により空気が導電イオン化され、それによって作り出された導電性レーザー誘起プラズマチャンネルLIPCを通った電撃が二人に撃ち込まれる。
 電撃によって筋肉が強制的に収縮させられ、全身に激痛が走る。
 それに耐えられるわけもなく、二人はその場に倒れ伏した。
 気絶できればどれほど楽だったか、と思いたくなるような激痛に脂汗が出る。
 それでも、匠海は体を起こそうと腕に力を入れた。
 普段から鍛えている身、こんな電撃に負けるわけにはいかない。
 しかし鍛えているからと言って強制的に収縮した筋肉が言うことを聞くわけもなく、匠海は苦し気に呻いた。
「こんな事態を想定して常に四丁の銃を持ち歩くのが俺の流儀でね」
 侵入者が再び音声認識で銃のモードを切り替える。
「モードチェンジ、ガンパウダーモードスタンバイ」
 火薬実弾ガンパウダーの単語に、相手の本気を感じる。
 少しでもバカな真似をすれば撃つ、その意思表示がたった一つの単語で伺える。
「……で、おたくらの話を聞かせてもらおうか。GLFNの飼い犬さん」
「なんで、それを」
 匠海が呻きながらそう言葉を絞り出す。
「簡単なことだよ。おたくらが使ってるそのスマートガンは最新だが先行モデル。ほとんどノータイム、視線誘導なしでのロックオンに自動追尾までされたら分かる奴には分かるんだよ。ちなみに、そいつは現時点でGLFNにしか卸されていない。それを持っているんだから当然、GLFNの人間と判断できる」
「……」
 言い当てられ、匠海は口を閉ざした。
 視線だけ、ピーターに投げるが彼は彼で苦し気に呻いている。
 完敗だ、と匠海は思った。
 視界には侵入者のオーグギアにSPAMを送り込む画面が表示されているがそのOKボタンをタップすることすらできない。
 さらに相手はガンパウダーモードでスタンバイした銃を二人に向けている。
 二人が何かしら行動しようとすれば撃つだろう――何の躊躇いもなく。
 ――ここまでか。
 テロは阻止できないのか。
 このまま、世界樹の崩壊を見届けるしか、いや、見届けることなく死ぬしかないのか。
「……で、どうしてGLFNの人間がこんなところに来た? 別におたくらに必要なものがあるわけないだろうに」
「……誰が、お前なんかに」
 せめてもの抵抗とばかりに匠海が回答を拒否する。
「ああ、そうかい。じゃあこっちの坊やに話を聞くよ」
 匠海から銃口は外さず視線は外し、侵入者はピーターを見る。
「坊やとしてはどうなんだ?」
「誰が、テロリストなんかに」
 ピーターも苦し気だが回答を拒否、だがその一言で侵入者は首をかしげることとなった。
「テロリスト? どういうことだ?」
「お前……テロリストじゃないのか……?」
 思わず、匠海が声を上げる。
 訳が分からないといった顔で侵入者は再び匠海を見た。
「いや、俺はしがない賞金稼ぎバウンティハンターだ。探偵も兼ねてるがな」
 そう言い、侵入者はピーターに向けた銃を一旦ホルスターに収め、空中に指を走らせて身分証IDカードを表示させる。
 カードは確かにバウンティハンターと私立探偵の許可証で、偽造不可能と言われる暗号証明印デジタルスタンプが捺されている。
 カードに表示された名前はタイロン・ダン・アームストロング。
「バウンティハンター、だと」
 逮捕された人間が保釈保証業者に保釈金を立て替えてもらって釈放されたのち逃亡することがままある。
 それを追跡、捕縛して引き渡して成功報酬を受け取るのがバウンティハンターである。
 現在では全ての州で免許制となっており、「必ず生け捕りにしなければいけない」等制約も多い。
 偽造不可の許可証を提示されたことで、匠海は相手の言葉を信じざるを得なかった。
「バウンティハンターがなんでここに」
「仕事だからに決まってるだろうが。逃亡犯ベイルジャンパーがここにいるという情報を掴んだから来たらもぬけの殻だわブービートラップは仕掛けてあるわなんか踏み込んでくる奴はいるわで散々だよ」
 で、おたくらはなんでここに、とバウンティハンター――タイロンが再び尋ねる。
「……テロを阻止するための情報が欲しくて」
 相手がテロリストの一人ではなく、バウンティハンターなら信用してもいいか、と匠海が答える。
 そういえば俺をテロリスト呼ばわりしてたよな、と呟きつつタイロンはそれでも匠海から銃口は外さない。
「おたくさ、俺に対してハッキングしようとしてるというかしてるだろ? それ解除してくれないか。解除してくれないとこっちもこいつは下せない」
 タイロンは匠海の動きからハッキングを察知していた。
 そのため、ピーターからは銃口を外せても匠海に対しては警戒を外せなかった。
 その頃には漸くわずかだが身体を動かせるようになっており、匠海は震える手でコンソールを操作、ハッキングを停止する。
 助かった、とタイロンが匠海からも銃口を外し、ホルスターに収める。
「とにかく、話を聞こうか。まさかとは思うが、イーライ・ティンバーレイクがテロを企んでるのか?」
 どうやらテロのことが気になったらしい。
 そういえば、さっき見たリストの一番上にイーライという名前があったなと思い出し、匠海は小さく頷いた。

 

to be continued……

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