光舞う地の聖夜に駆けて 第2章
分冊版インデックス
上司によって無理やり取らされたクリスマス休暇で匠海は妖精と共にアラスカ内陸部のフェアバンクスに訪れていた。
妖精と共にオーロラを見ていた匠海はツアーの自由行動中に軍用トラックに雪を掛けられたことがきっかけで軍事施設にハッキング、そこで自分に雪を掛けたトラックが偽装のものであったということを知る。
詳しく調べるうち、トラックが持ち出したものは核弾頭であることが判明、テロの匂いを感じた匠海はトラックを妨害しようとするが別の
敵の魔術師を追い詰めたものの自身のオーグギアのリソース不足で逆転負けを喫する匠海。
だが、敵と思われた魔術師も実はテロを阻止するためにトラックを妨害しようとしていたことが分かり、二人はリアルで合流して情報交換することになった。
フェアバンクスに降り立ったピーターは兄夫婦の家に訪れ、休暇を楽しんでいた。
しかし、何気なく潜った
何かを輸送している車両を止めようと信号機をハッキングするピーター。だが何者かに邪魔をされる。
邪魔をしてきた何者かとピーターは交戦、辛うじて相手の動きを封じるものの、彼は敵ではなかった。
「……オレが把握しているのは『ランバージャック・クリスマス』が二十四日に決行されること、あと内容としては四本の世界樹に弾道……核ミサイルを撃つということまでだ」
匠海からデータの共有を受け、椅子に座り直したピーターが説明する。
その説明を受けた匠海が、ふむ、と言いつつ自分のデータにその情報を追記する。
「なるほど。俺はチェナ・リバーの辺りにある軍事施設から核弾頭が持ち出されたこととそれにはかなりの腕の魔術師が関与しているということだけだ」
情報量としては匠海の方が少ないが、脅威度としてはこちらの方が高い。
弾道ミサイルの発射を阻止するには魔術師の排除は必須だろう。
「そういえばどこで撃つとかは分からないのか?」
匠海の問いに、ピーターが首を振る。
「一応、募集要項には待ち合わせ場所は記載されていたがあくまでも待ち合わせ場所で詳細はそこで説明する、としか。一応、オーグギア持ってない奴向けにスクリーンに映していたが発射場所に関しては口頭説明だったのか資料には書いてなかった」
そう言い、決起集会で表示されていたスクリーンの画像を転送する。
「……確かに、大まかなことは書かれているが詳しくは全て口頭説明だったようだな」
ハッキングによる漏洩対策か、と匠海が呟く。
「どう思う?」
「どう思うとは」
ピーターの問いに、匠海が問いで返す。
「核弾頭が持ち出されたということはテロ確定でいいよな? まだ本当にテロが起きるとは信じられなくて」
やや気弱なピーターの言葉。
ほんの少し、沈黙してから匠海はふっ、と笑った。
「それを、俺たちで止めるんだろう?」
「アーサー……」
「止めてしまえばローカルディープの話はただの与太話だ。誰も不幸にはならない」
匠海の言葉に、ピーターは「これが大人の余裕ってやつか?」などと考える。
「ルキウス、」
不意に、
「お前には力がある、自分を信じろ。っても、これはジジイからの受け売りなんだがな」
俺をあそこまで追い詰めるほどの腕なんだ、できないはずがない、そう匠海が続ける。
ああ、とピーターが頷いた。
イルミンスール内でアーサーと呼ばれ、憤ることはある。
オレはあのアーサーの代わりなのかと。ルキウスとして見てくれないのかと。
だが、本物のアーサーは自分の実力を認めてくれた。
その上で、「俺が止める」ではなく「俺たちで止める」と言ってくれた。
ここで弱気になってどうする、と自分を叱咤する。
同時に思う。アーサーだのルキウスだのにこだわっていては超えられない。
自分は自分なのだ。周りが何と言おうとも、そこで揺らいではいけない。
パン、と両手を合わせる。
「アーサー、やろう」
そう言い、ピーターはまっすぐ匠海の目を見る。
「弱気になって悪かった。オレたちで止めよう」
そう言ったピーターの目に。もう迷いは残っていなかった。
それを見た匠海が小さく頷く。
「よし、それじゃ改めて情報をまとめよう。チェナ・リバーから出たトラックはノースポールを抜けて西に向かってロストした。単純に考えればアンダーソンを抜けたかもしれないが、追跡されていると気づいたんだ、方向を変えた可能性がある」
「もうあの辺になると街もないし衛星で探し出すのも難しいよな」
ふむ、と、匠海が唸る。
それからマップアプリを開くがすぐに閉じる。
「少なくともノースポールにはまっすぐ向かっていたわけだから方向を変えたことも考慮して発射地点を推測しようと思ったが無駄だな。どうせ移動式の発射台使っているだろうし『この施設』と特定することは難しいだろう」
「そうだな」
「それに仮に発射地点を先に見つけようとしてもその方が難易度が高い」
固定式の発射施設であれ移動式の発射台であれ極秘裏に発射するためのものだから簡単に特定できないように厳重にカモフラージュされているからな、と匠海が続ける。
そのタイミングで、
『タクミ、ただいまー……車返してきたよー……』
何故かヘトヘトモードを演出した妖精が帰ってきた。
『もう、ブースターなしでオーグギア使い過ぎー……お腹すいた』
「悪かったな、妖精」
匠海が手を伸ばして妖精をつまみ、左肩に乗せる。
それを見たピーターが、目を丸くする。
「お、おいアーサー……?」
「どうした?」
サポートAIなんてきょうび珍しくないだろっていうかお前も連れているだろ、と匠海が首をかしげる。
いや、あのな、とピーターが声を震わせる。
「緊張感なさすぎだろ、サンタコスって」
そう言われ、匠海があぁ? と妖精を見る。
そして、
「……なんて格好してるんだ」
呆れたように呟いた。
『なんて格好って、クリスマスじゃない、楽しまないと』
いつの間に着替えていたのか、妖精がボンボンの付いた赤いとんがり帽子にファーの付いた赤いワンピースという出で立ちでいる。
「どこで無駄にリソース使ってんだよ、こっちはリソース不足で負けてんだぞ」
『え、タクミ負けたの!?!?』
タクミも負けるのかーなどと嘯き、妖精がピーターを見る。
『で、このヒトは?』
「ルキウスだ。今回、二人でテロを阻止する」
ふーん、と妖精がピーターを舐めまわすように見る。
見定められてるな、とピーターは少々警戒する。
『タクミに勝つとかやるじゃん。それとも、タクミはもう歳なのかな?』
「うるさい、まだ引退する歳じゃない」
そんなやり取りを見ながら、ピーターは「サポートAIも
「……どういう教育したらそんなになるんだよ」
そう、思わずぼやく。
「あー……話せば長くなるから、こういう奴だと思ってくれ」
若干歯切れの悪い匠海の言葉に、なんとなくだが「何かあったんだな」と察するピーター。
実際は妖精の元データが匠海のかつての恋人の脳内データであり、さらには妖精のデータを一部改変したものがピーターも使っているサポートAIの基幹データであるからなのだがそんなことを話している暇はないし匠海もあまり話したい話題ではない。
ピーターが深入りしてこなかったことに感謝しつつ、話を戻す。
「とにかく、トラックか発射台を見つけないと」
「そうだな」
そうは言ったものの、発見する手立てが思いつかない。
手詰まりか、と二人が考える。
今は少しでも情報が欲しい。だが今まで侵入した場所はもう探しつくしているのではないだろうか。
そこまで考えてから、いや、と匠海が心当たりに気づく。
「ルキウス、待ち合わせ場所で入手した情報は監視カメラからのこれだけか?」
「ああ、そうだな」
頷き、ピーターが少し考える。
確かにあの時監視カメラに侵入してあの画像を入手した。
しかし、本当にあの待ち合わせ場所を調べ尽くしたと言えるのか?
匠海も同じことを考えていたのか、ピーターを見る。
そして、
「「待ち合わせ場所調べてみるか」」
同時に同じことを提案した。
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