光舞う地の聖夜に駆けて 第6章
分冊版インデックス
匠海、ピーター、タイロンの3人はそれぞれきっかけは別だったものの同じテロ阻止のため、手を組むことにする。
数々の妨害にあったものの、3人はテロの首謀者、イーライを無力化することに成功するが、弾道ミサイルの発射カウントダウンはスタートしてしまう。
それを阻止するために発射システムをハッキングしようとするが
チェルノボグの
チェルノボグの撃退によってカウントダウンは停止できたもののイーライは次善の案としてGWT爆破を実行しようとする。
GWTがネットワークに接続した瞬間に起爆すると言われ、アラスカにいる3人にはもはや打つ手なしと思われたが……
GWTの記念式典に参加していたとうふは、匠海からの連絡でGWTに爆弾が仕掛けられていると知り、その解体を託される。
念のため、同席していたユグドラシルの最高責任者に匠海とのやり取りを伝えようかと思ったとうふであったが、本来ならGWTに通報すればいいことをわざわざ自分にだけ伝えたことを考えるとそれはいけない、と考え直す。
それに、匠海がここまで自分を信頼しているのだ、それを無碍にするわけにはいかない。
パーティー会場を抜け、トイレに行くふりをしてそっと地下への階段に入る。
杖がカツン、カツンと音を立て、階段室に響くがここにはとうふ以外の人の気配はない。
「基礎は確かに警備が甘いな。こっそり何かを仕掛けた可能性はあり得る。しかし、こんな急なキャットウォークの階段を降りろとは……」
後遺症で身体の自由が利かなくなり、リハビリはあれども積極的に運動をするわけではないので数階分階段を下りるだけでも息が切れる。
とうふの脚が階段を踏み外しかけ、慌てて壁に縋り付く。
「……ふぅ」
危ない、と一瞬上がった心拍を整え、さらに地下に降りる。
やがて、基礎ブロックに到着し、そこでとうふは大きく息を吐いた。
照明を探し、点灯させる。
「……」
基礎杭に、爆薬が仕掛けられているのが見える。それも、大量に。
これだけ仕掛けてあれば爆発した時、GWTは無事では済まないだろう。
その爆薬に、起爆装置と思しき箱を見つけ、とうふは歩み寄った。
これか、ととうふは箱の蓋を開ける。
「……確かに、複雑そうだな」
映画でよく見るような時限爆弾ではない。
複雑な基板に様々なパーツを組み込んだ、旧世代PCを思わせる外見に「確かに
物理的に破壊すれば簡単に止められそうだが、この手のシステムは通電が止まった瞬間に別ルートの起爆装置が働いて爆発するのがお約束だろう、ととうふは考える。
箱の蓋を横に置き、とうふは起爆装置と自分のオーグギアのコンソールを展開した。
「……さて、久々の
そう、低く呟くとうふの口元が歪む。
あの
それに、ブランクがあるとは言っていたが。
「
自分のコンソールを操作、とうふがそう声をかける。
『はいはーい、ご主人が呼ぶって珍しいアルね!』
際どいスリットが入ったチャイナ服を身に纏ったサポートAIが姿を現す。
「今からこの起爆装置を解体する。お前は俺の動きのサポートを頼む」
『アイヨー、ご主人の動きをトレース、拡張して起爆装置に入力すればいいアルか』
そうだ、ととうふが空中に指を走らせる。
後遺症で手元が震えるが、辣子鶏と呼ばれたサポートAIがそれを補完し、オーグギアの操作に反映させる。
確かに、あの負傷でとうふは一度は
だが、誰かが放流したサポートAIのコアプログラムを入手し、その可能性に一筋の光を見出した。
その可能性を教えてくれたサポートAIこそ、最終的に匠海が保護したローカパーラというハッキング用のサポートAIだ。
彼女が始まりだったかのように、多くの魔術師がサポートAIをハッキングに利用するようになり、
そして、とうふは思ったのだ。サポートAIをカスタムして利用すれば、再びハッキングできるのではないかと。
それに、とうふは脳内に注入したナノマシンのバッテリー暴走で重傷は負ったものの、その後の治療でバッテリー依存ではなく体内電流をエネルギーとして活動する最新のナノマシンを注入しており、それによる数々の操作補助も受けている。
リハビリも含めて数年かかったが、彼はスポーツハッキングで、ある程度の難易度のサーバになら侵入できるほどに回復していた。
ただ、誰にもそれを伝えていない。
恐らく、匠海も気づいてはいない。
単純に、かつてのとうふの腕を買って頼んできただけだ。
それなら見せてやろう、ととうふは匠海に回線を開いた。
《とうふ? 終わったのか?》
早すぎるだろ、と匠海が声を上げる。
「残念だな、今からだ。この足で基礎部分まで降りる苦労を想像しろってんだ」
なるほど、と匠海が頷く。
《回線を繋いだ、ということは実況する気か?》
「お前も見たいだろ? 俺のハッキング」
流石にそう言われて断るような匠海ではない。
むしろ興味津々の顔つきで、尻尾があれば振っているのではないかという様子で妖精に何やら指示を出している。なにせ、久しぶりのハッカーモードのとうふだ、その証拠にとうふの口調が、普段の温厚なものから少々ガラの悪いものへと変わっている。
匠海としてはとうふができると信じていたが、まさかここまでの自信を取り戻すとは。
お前のおかげだよ、と匠海には聞こえないように呟き、とうふは辣子鶏に指示を出した。
《お前もサポートAI導入してたのか》
「ハッキングサポートに特化させた。辣子鶏、挨拶してやれ」
『辣子鶏アルヨー! ヨロシクなのネ!』
とうふに言われて辣子鶏が映り込む。
《なんだよその言語設定》
「うるさい、俺は元々華僑の流れなんだよ」
サポートAIくらい好きにしていいだろと言いつつもとうふと辣子鶏は手を動かしている。
《お前の生まれなんて興味ない。とにかく、そっちがなんとかなるまでは休憩がてら見物させてもらう》
匠海がそう言いながらスクリーンを同行者に共有したのだろう、ルキウスとタイロン、二人の名前が追加される。
スポーツハッカー時代を思い出すな、と思いつつとうふは一つ息を吐き、
「行くぞ辣子鶏、まずはコンソールパネルの解体だ」
『アイヨー!』
とうふがアバターの代わりに、辣子鶏を起爆装置に侵入させる。
起爆装置のシステムに侵入した辣子鶏がコンソールパネルを前に自分用のウェポンパレットを展開する。
『ご主人、パネルの基礎は
そう言いながら辣子鶏がOSに合わせた侵入ツールを選択、とうふの指示を待つ。
分かった、ととうふが大振りに手を動かすとその動きに辣子鶏が同期する。ただし、その動作には補正がかかり辣子鶏はとうふの動きから精細な動作を行いツールを表示させる。
ポン、と辣子鶏の手に小ぶりの
「辣子鶏、脆弱部分から
辣子鶏から送られてくるコンソールパネルの
辣子鶏が「アイヨー」と返答し、蒸籠から現れた龍をパネルの脆弱な部分に送り込む。
とうふが「小龍」呼んだこのツールは匠海が愛用している
解体操作は精密な操作が必要なため侵入までをとうふが行い、そこから先は音声認識と辣子鶏の動作補正、辣子鶏自身の判断で進めていく。
あっという間にパネルが内部から解体され、その中の制御システム自体が姿を現す。
《さすがとうふだな、動きに迷いがない》
ブランクがあるとは思えん、と匠海が声を上げる。
「ナノマシンと辣子鶏のおかげだ」
ゆるゆると手を動かしながらとうふが答える。
ナノマシンによって死にかけた自分が、まさかナノマシンで復活することになるとは。
医療技術の発展は凄いな、と思いつつもとうふが辣子鶏を制御システムに取り付かせる。
「辣子鶏、構築階層を教えろ」
制御システムを
ハッキング先の可視化には魔術師によって癖が見られるが、とうふはシステムを多層構造で可視化させ、順を追って侵入する手段をとっている。
匠海の平面マップによる可視化に比べて侵入難易度は高くなるが階層によって特定パターンの攻略となるため、状況に応じて即座にツールを切り替えることができないとうふには適切な可視化方法となっている。
『四層あるネ! トラップ層、セキュリティ層、
トラップ層は他にも色々あるけど一番危険なのはテイクオーバーネ、と続けた辣子鶏がとうふの指示を待つ。
「オーケー、トラップ層は
『ラジャー!』
辣子鶏がウェポンパレットを操作、小龍はそのままに別の龍を呼び出す。
小龍とは比べ物にならない大きさのその龍はデータ空間上でくるりと輪を描き、それから可視化された
『行くアルねー!』
龍が大きく口を開き、火炎放射器のように
炎を受けたトラップが無意味なデータ片となり、そして初めからなかったかのように消滅していく。
《なるほど、階層式の可視化はまとめて吹き飛ばせるから楽なのか》
「ルキウス」と名前が表示された通信参加メンバーが声を上げる。
その声の若さからまだまだ経験が浅そうだと思ったのか、とうふがふと笑みをこぼす。
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