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光舞う地の聖夜に駆けて 第6章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

 匠海、ピーター、タイロンの3人はそれぞれきっかけは別だったものの同じテロ阻止のため、手を組むことにする。
 数々の妨害にあったものの、3人はテロの首謀者、イーライを無力化することに成功するが、弾道ミサイルの発射カウントダウンはスタートしてしまう。
 それを阻止するために発射システムをハッキングしようとするが連邦フィディラーツィア魔術師フォークスニク、チェルノボグの妨害により戦力が分断されてしまう。
 チェルノボグの固有ツールウニカーリヌイにより窮地に立たされるものの匠海が事前に改造していたエクスカリバーでそれを撃退、チェルノボグも撃破する。
 チェルノボグの撃退によってカウントダウンは停止できたもののイーライは次善の案としてGWT爆破を実行しようとする。
 GWTがネットワークに接続した瞬間に起爆すると言われ、アラスカにいる3人にはもはや打つ手なしと思われたが……

 

 それから、辣子鶏を見る。
 辣子鶏の両手は、二つのボタンを同時に押していた。
「……まさか、両方を同時に押すのが正解とは」
 エレキギターから手を離し、トリスタンが呟く。
『片方の信号が止まったら一秒以内にもう片方も押さないと起爆する仕組みになってたネ! でもみんなの演算移譲がなかったらこの答え出るの間に合わなかったネ!』
 スイッチの目の前にある時計は十九時五十九分五十八秒で止まっていた。
 本当にギリギリの解除で、とうふもトリスタンもそこで漸く安心し、その場に座り込む。
「……アーサー、帰ってきたら詳しく聞かせてもらうぞ」
 そう、低く呟き、とうふは目を閉じた。
 外では、ついにGougle社CEOによりボタンが押され、GWTが起動し、世界樹を模したARビューがGWTの建物を覆う。
 それは今日この日のクリスマスを祝うように頂点でベツレヘムの星が輝き、枝々には鮮やかなイルミネーションが煌めく。
 CEOが「メリークリスマス!」と叫び、参列者たちも「メリークリスマス」と返す。その喧騒は大きく、地下にいたとうふたちにも聞こえてくるほどだった。

 

「やったなアーサー! やっぱユグドラシルの奴らは全然違う」
 とうふの起爆装置解除から数分、漸く脱力から回復したピーターが興奮したように匠海に声をかける。
 ああ、と匠海が頷きピーターに視線を投げる。
「イルミンスールよりは歴史が長いからな。修羅場くらい何度でも」
 流石にここまでの修羅場は初めてだったが、と呟きつつすっかり暗くなった空を見上げる。
 もしかすると、オーロラが見えるかもしれないな、と匠海が考えているとゆらり、と光が揺らめき、控えめながらも光の帯が空に現れる。
「……はは……」
 まるで労われているような錯覚を覚え、匠海が思わず笑う。
 それから、胸元で拳を握り締めた。
「和美……」
 ――結局、生き延びてしまった。
 お前としては、「まだ来るな」ということなのか、と。
 聞きなれない名前を耳にしたピーターが匠海の横で首をかしげている。
 タイロンも探偵という職業病からだろうか、興味深そうに匠海の様子を見るがそれ以上の情報を得ることもできず諦めてイーライを見る。
「……流石に、もう手は残ってないだろ。GWTは量子ネットワークに接続した。おたくさんの陰謀はもうお終いだ」
「ま、まだだ。チェルノボグ!! チェルノボグはどうした!」
「あの野郎bastardなら、アク禁にしてやったよ。少なくとも今日中には戻って来れない」
 匠海の言葉に、なんだと……と、イーライが愕然とする。
「くそ……君さえ、君たちさえいなければ……!」
 悔しそうにイーライが呪詛の言葉を口にする。
 ああ、そうだな、とタイロンが頷く。
「この中の誰一人欠けててもおたくさんの陰謀は止められなかったよ。それだけとんでもないことをやらかそうとしたんだ、一生牢の中で罪を償うんだな」
 そう言ってから、タイロンは匠海とピーターを見た。
「……それじゃ、フェアバンクスに戻りますか」
「そうだな」
 そう言い、匠海が立ち上がり、それに続いてピーターも立ち上がる。
「そういえば、今夜オレの兄夫婦がクリスマスパーティー開くんだ。せっかくだからお前らも来いよ」
「え、いやだがそれは」
 匠海が思わず辞退しようとするがピーターはそんな彼の肩に腕を回し、「遠慮すんなよー」としつこく誘う。
「……そ、それなら……」
 これは断り切れないと諦めた匠海が誘いを受ける。
 その一方でタイロンは、
「あー俺は遠慮しとく。イーライこいつをカリフォルニアまで護送して依頼人に引き渡さなきゃならんからな」
 流石に車に残したままパーティーに参加するわけにはいかん、とピーターの申し出を断る。
「あー……おっさんは、確かにそいつをなんとかしなきゃらなないもんな……仕方ないか。でも、そいつと一緒に一週間車の旅か?」
 流石に一週間の移動は大変じゃね? とピーターが疑問を口にするとタイロンは「大丈夫だ」と笑う。
「流石にまた逃げられたりするとシャレにならんからな。依頼人から旅費もらって弾道旅客機SOPでカリフォルニアまで帰るさ。あれなら数時間で移動できるからな」
Sub-Orbital Plane SOPかぁ……アレ、一度は乗ってみたいんだよな」
 めっちゃ高いけど、とぼやくピーターに匠海がニヤリと笑う。
「帰りに乗ってみるか? 払ってやるよ」
「マジかよ! アーサー、貯金どんだけあんだよ!」
 匠海の申し出にピーターが食いつきかけるがすぐに思い直す。
 いや待てこれは絶対何か企んでやがる、と警戒する。
「何も企んでねえよ。頑張ったご褒美くらいあってもいいだろうが」
「……し、信用できねえ……」
 ピーターが一歩後ずさる。
「お二人さん、そろそろ行くぞ」
 一応、軍には匿名で通報しておいたとタイロンが二人を急かす。
 そうだな、と匠海も頷き、ピーターに「置いていくぞ」と声をかける。
「なあおっさん、アー……タクミは絶対何か企んでるよな?」
「あぁ? んなもん、貰えるもんだけ貰って逃げればいいだろうが」
 何の解決にもならない台詞を吐き、タイロンが拘束したイーライを担ぎ上げる。
「家までは送ってやるよ」
 タイロンがそう言うと、ピーターは「助かるぜ」と嬉しそうに笑う。
 その様子を確認したタイロンが、匠海の方に向き直る。
「そういえば、おたくさん、レディを野郎bastard呼ばわりは紳士じゃないんじゃないか?」
「え、レディって、……チェルノボグのことか?」
 匠海の言葉にあぁ、とタイロンが頷く。
連邦フィディラーツィアのチェルノボグと言えば、ロシア連邦軍参謀本部情報総局GRUの有名な女スパイだぞ」
 ハッカーなのに知らなかったのか? とタイロン。
「ぐ……ぐるぅ」
 そんな大物だったのか。アメリカ以外の魔術師については全然詳しくないな、視野を広げる事も検討した方がいいのか、と思案する匠海。
「そういえば、パーティってのは、今夜っていうが厳密には何時からなんだ?」
 大体こういうのは開始時間決まってるものだろ、とタイロンがピーターに尋ねる。
「え? ああそういえば兄貴は十八時からって言ってたっけ……」
 そう言いながらピーターが時計を確認する。
 現在時刻は十六時十分を指すところ。
 暗がりでよく分からないが、ピーターの顔がみるみるうちに青ざめていくのが二人に伝わる。
「……やばい……」
 震え声でピーターが呟く。
「……遅刻したら、ヤバい、ていうか、遅刻、確定……」
 時間に間に合わなかったら姪っ子ベスが泣く、泣かせたら兄貴が黙っていない、とピーターは二人を見る。
 匠海とタイロンが顔を見合わせる。
「「「……」」」
 無言で三人は顔を合わせ、
「「「走れーーーー!!!!」」」
 タイロンはイーライを抱えたまま、匠海とピーターも疲れ切った自身の身体に鞭打って走り出した。
 十二月二十四日夜聖なる夜アラスカ光舞う地で。
 徐々に光を増す夜空の帯の下を、三人と一人はひたすら車に向かって走り続けた。

 

to be continued……

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