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光舞う地の聖夜に駆けて 第6章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

 匠海、ピーター、タイロンの3人はそれぞれきっかけは別だったものの同じテロ阻止のため、手を組むことにする。
 数々の妨害にあったものの、3人はテロの首謀者、イーライを無力化することに成功するが、弾道ミサイルの発射カウントダウンはスタートしてしまう。
 それを阻止するために発射システムをハッキングしようとするが連邦フィディラーツィア魔術師フォークスニク、チェルノボグの妨害により戦力が分断されてしまう。
 チェルノボグの固有ツールウニカーリヌイにより窮地に立たされるものの匠海が事前に改造していたエクスカリバーでそれを撃退、チェルノボグも撃破する。
 チェルノボグの撃退によってカウントダウンは停止できたもののイーライは次善の案としてGWT爆破を実行しようとする。
 GWTがネットワークに接続した瞬間に起爆すると言われ、アラスカにいる3人にはもはや打つ手なしと思われたが……

 

GWTの記念式典に参加していたとうふは、匠海からの連絡でGWTに爆弾が仕掛けられていると知り、その解体を託される。

 

障害でブランクがあったとうふだが、サポートAI「辣子鶏ラーズーチー」のサポートを受けて、爆弾のシステムに介入を始める。

 

辣子鶏と共にハッキングを進めるとうふ。だが、その防御システムにとうふは辣子鶏の犠牲を覚悟する。

 

 
 

 

「行け!」
『アイヨー!』
 辣子鶏が攻性I.C.E.に向かって突撃する。
 とうふが破壊ツール地龍を展開、辣子鶏が先程とは違う巨大な龍を召喚する。
 時間はあまりない。これだけの硬さの防壁を知られずに突破するのはそもそも不可能。
 そのため、とうふは隠密を捨てて攻撃と回避に全てを割り振った。
 地龍ディーロンが防壁に体当たりをする。
 その瞬間、攻性I.C.E.が展開、複数の触手を辣子鶏に向けて解き放った。
 触手が到達する前に辣子鶏が空中に上がり、触手を回避する。
「……硬いな」
 とうふが呟く。
 彼の手持ちの中では最大威力を持つ破壊ツール、それも防壁突破に特化した地龍で体当たりしたにも関わらず、防壁は崩れていない。
 今の一撃で三分の一くらいは削っただろうが、あと二撃与えるには攻性I.C.E.の追跡が激しすぎる。
 辣子鶏に何本もの触手が迫る。
 ギリギリでそれを回避し、辣子鶏が攻撃のタイミングを伺うが密に展開された触手が次から次へと襲い掛かる。
『キツいアルよ! 避けきれなかったらごめんアルよ!』
 辣子鶏がそう叫びつつ触手を回避。
 だが、その回避コースに次の触手が回り込んでいた。
「辣子鶏!」
 とうふが叫ぶ。
 とうふも回避コースを算出していたが、計算を誤ったか。
 それとも、触手の動きの方が上手だったか。
 触手が辣子鶏との接触コースに入る。
 間に合わない。
 再びとうふが叫ぶ。
 その時だった。
 ポロン、と弦を爪弾く音が辺りに響く。
 直後、まるでエレキギターを弾いているような、激しい旋律が辺りを支配する。
 辣子鶏を捕らえようとしていた触手の動きが止まる。
 それと同時に辣子鶏が回避軌道に乗り、触手を回避する。
 動きを止めた触手が再び動き出す。
 しかし、その軌道は辣子鶏を追いかけるのではなく、何もない、明後日の方向。
「何が……」
 呆然としてとうふが呟く。
 辺りに響くエレキギターの音が触手の動きを狂わせているのはすぐに理解した。
 だが、一体何が――。
「お困りのようでしたので、つい」
 とうふの後ろから声がかけられる。
 振り返るとうふ。
 そこに、背が高い長髪の男が立っていた。
 細めた目が、鋭くとうふを捉えている。
「お前は――」
《とうふ、どうした!?!?
 何か想定もしていなかった事態が発生したと認識した匠海がとうふに声をかける。
 ポロン、と男が手にしていたエレキギター――エレキギター型の外部入力デバイス――を爪弾く。
 それだけで男はとうふと匠海の回線への割り込みを完了させる。
「何か通信をされていたようですので、私も参加を。ところで、何やら物騒なことをされているようですね」
「それは――」
 とうふが言葉に詰まる。
 爆弾を解体していました、と言いたいが爆弾を前に色々行っているのだ、信じてはもらえまい。
 そのとうふの考えを読んだのか。
簡単なことですよelementary。貴方がこっそりパーティーを抜け出したのを見つけましてね、こっそり通信記録をハッキング拝見させていただいたところ、通信相手は我らがアーサー。これはアーサーが独断専行スタンドプレイで厄介ごとを見つけてきたに違いないと思いまして」
 まさか、と呟く匠海の声がとうふの通話ログに上がる。
《その声、トリスタンか!?!?
 通話の向こうで、匠海が叫ぶ。
 それに対して向こう側では「知り合いなのか?」「トリスタンって『キャメロット』のあのホームズ野郎か」などと聞こえてくる。
「推測が当たったようですね」
 男――トリスタンが破顔する。
「お久しぶりですね。貴方、今一体どちらに」
 こうやって通信しているということはこの方に爆弾解体を依頼しているようですが、とトリスタンが尋ねると匠海はああ、と頷きつつ、
《訳あってアラスカにいる。話せば長くなるから省略するが、色々あってGWTの量子ネットワーク接続のタイミングで爆弾が起爆すると知ってな。あ、そこで爆弾解体してる奴は俺の上司、とうふだ》
 しかしなんでお前がGWTに? と疑問を浮かべる匠海。
 トリスタンが再び「簡単なことですよelementary」と答える。
「マーリン、アーサー、ガウェインが抜けた今、『キャメロット』代表は私でして。昨年のGougleゴーグル主催のスポーツハック優勝チームの代表として本日の式典に招待されていましたので」
《マジか……》
 こんな偶然があってたまるものか。
 だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
《トリスタン、渡りに船だ、協力してくれ!》
 匠海がトリスタンにそう持ちかける。
 それに対し、トリスタンは、
「ええ、初めからそのつもりでしたので」
 ご迷惑でなければ、とトリスタンがとうふに言う。
「ああ、助かる」
 とうふもそれを受け入れ、トリスタンは頷いてエレキギターを持ち直す。
《ところでトリスタン、何か外部デバイスデバイス使ってんのか?》
 エレキギターの音が気になったのだろう、匠海が尋ねる。
 オーグギアによるハッキングはオーグギアと腕や指を使ってのジェスチャーのみで行えるが、外部デバイスをオーグギアにペアリングし、外部デバイスの物理的なボタンなどを用いて様々なコマンドをショートカット登録して使う方法を用いる魔術師もいる。
 自分が『キャメロット』にいた頃、トリスタンはそんなものは使っていなかったはずだ。ましてエレキギターなんて。
 ええ、とトリスタンが頷く。
「やはり私は吟遊詩人ポジだと他のメンバーに言われまして。せっかくなので使ってみようかと」
 そう言いつつ、ポロンと一音。
 それに反応し、触手が動く。
《ま、まぁそれは分かった……が、吟遊詩人なら竪琴だろ普通》
 聞こえる音が竪琴のそれではなく、どう聞いてもエレキギターであるため思わず匠海がツッコむ。
「いえ、竪琴だと音の信号変換が難しいので比較的親和性の高いエレキを一つ」
《……お前はそれでいいのか……》
「これはこれで便利なものですよ。音の種類が無数にありますから、音一つ一つ、コード一つ一つにコマンドを紐づけるだけで、このデバイス一つでほとんどすべての操作を網羅出来ます」
 もう吟遊詩人じゃなくてただのロッカーじゃないかと匠海は思ったが、それ以上は何も言わない。
 トリスタンがとうふを見て指示を出す。
「私があの追跡プログラムを操りますので、その間に貴方は防壁の破壊を」
 ああ、ととうふが頷く。
「辣子鶏、援軍が来た。お前は防壁の破壊に専念しろ」
『形勢逆転アルね! 俄然やる気が湧いたアルよ!』
 辣子鶏が再び地龍を召喚する。
 地龍はがら空きになった防壁に再び体当たり、より大きく損傷させる。
『あと一発!』
 再び触手が大量に現れるが、その全てがトリスタンのエレキギターによるコード共鳴ハッキングでコントロールを奪われ、あらぬ方向へ雪崩れるように消えていく。
 それを見届け、辣子鶏がもう一度地龍を防壁に突撃させる。
 派手なエフェクトを巻き上げ、触手含めた防壁が消失する。
 その向こうには、丸裸になったコアが。
『ご主人! やったアルよ!』
 辣子鶏が嬉しそうに声を上げる。
「ああ、辣子鶏よくやった!」
 とうふが辣子鶏を労い、それからトリスタンを見る。
「助かった。お前がいなかったら今頃どうなっていたか」
 とうふのその言葉に、トリスタンがかぶりを振る。
「いいえ、まだです。最後のコアが残っていますので」
 油断禁物ですよ、とトリスタンがエレキギターを爪弾く。
「アーサーの前で、だというのに横槍を入れて申し訳ない。しかし、せっかくですので最後までお付き合いさせていただきます」
「大丈夫だ、俺一人でなんとかなると思っていたのが間違いだった」
 かつてはユグドラシル最強と言われて驕っていたのか。
 障害があっても一人で行けると思っていたが、頼れる人間がいるのなら、頼った方がいい。
 これは普段の仕事でも言えることだな、これからはもっとカウンターハッカーメンバーのことをよく見よう、そんなことを考えつつとうふは「手伝ってくれるか?」とトリスタンに尋ねた。

 

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