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光舞う地の聖夜に駆けて 第6章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

 匠海、ピーター、タイロンの3人はそれぞれきっかけは別だったものの同じテロ阻止のため、手を組むことにする。
 数々の妨害にあったものの、3人はテロの首謀者、イーライを無力化することに成功するが、弾道ミサイルの発射カウントダウンはスタートしてしまう。
 それを阻止するために発射システムをハッキングしようとするが連邦フィディラーツィア魔術師フォークスニク、チェルノボグの妨害により戦力が分断されてしまう。
 チェルノボグの固有ツールウニカーリヌイにより窮地に立たされるものの匠海が事前に改造していたエクスカリバーでそれを撃退、チェルノボグも撃破する。
 チェルノボグの撃退によってカウントダウンは停止できたもののイーライは次善の案としてGWT爆破を実行しようとする。
 GWTがネットワークに接続した瞬間に起爆すると言われ、アラスカにいる3人にはもはや打つ手なしと思われたが……

 

「それは勿論。しかし、託されたのは貴方ですので私はあくまでもサポートということで」
 あくまでもとうふに華を持たせるつもりだ、と匠海は思った。
 今のトリスタンの腕はとうふに匹敵するくらいはあるだろう。だが、それでも出しゃ張ることなくサポートに回るという。
 元からトリスタンはサポート向けだったしな、と思いつつ匠海は続きを見守ることにした。
「ではとうふ、最後の仕上げにかかりましょう」
 トリスタンの言葉に、とうふがああ、と頷く。
 トリスタンはまたもエレキギターをポロンと鳴らし、
「ところで、好きな曲を一つ教えていただけないでしょうか?」
「は?」
 いきなり何を、ととうふが首を傾げる。
「いえ、貴方と貴方のサポートAIに強化バフをかけようと思いまして。お好きな曲をリクエストしていただければ、その曲に合わせて操作いたしますので是非とも一曲」
《……『キャメロット』のトリスタンって言えばとんでもない補助担当サポーターだったが、マジでヤバいな……》
 スポーツハッカー時代に『キャメロット』と対戦経験のあったピーターがぼやく。
 あの時はガウェインにこそ勝てたが最終的にうちのチームは負けたんだよなあ……などと記憶が蘇る。
 ピーターがそんなことを思っている間にとうふは曲を一つリクエスト、トリスタンが何度か爪弾いてチューニングした後頷いてみせる。
「それでは征きましょう、私ととうふのセッション、とくとご覧あれ」
 トリスタンがリクエストされた曲を奏で始める。
 それに合わせ、とうふは空中に指を走らせた。
 辣子鶏が丸裸になったコアに接触、内部に入り込む。
 全てのセキュリティが打ち破られた今、起爆システムを守るものは何もない。
 情報の格子を潜り抜け、辣子鶏が起爆システムの設定を確認する。
「残り一分」
 トリスタンがエレキギターを掻き鳴らしながら時間を確認する。
 ――間に合うか?
 起爆システムの設定次第。
 もしここに映画でよく見る時限爆弾の「赤か青か」があれば運任せとなる。
 辣子鶏が起爆装置のコアの設定を解除する度、コアが玉ねぎの皮を剥くかのように一枚一枚剥がれていく。
 今頃上の会場ではGougle社CEOが登壇し、ボタンを押す前の演説でもしていることだろう。
 だが、地下深くのここにその熱は伝わってこない。
 しかし、その会場以上の熱が、この解体現場に広がっていた。
 匠海も、そして匠海と共にいる二人も固唾をのんでとうふと辣子鶏のコンビネーションを見守っている。
 トリスタンも全力でエレキギターを掻き鳴らし、その共鳴コードで辣子鶏の演算処理をブーストする。
『これが最後の設定アルね!』
 辣子鶏が最後の設定をオフにする。
 コアの最後の一層が剥がれ落ちていく。
 しかし。
「「――っ!」」
 とうふとトリスタンが息を呑む。
 最後の設定、それが剥がれ落ちた後に残っていたのは赤と青のスイッチだった。
 どちらかを押せば、恐らくは止まる。
 逆に言えば、どちらかを押せば、起爆する。
「どっちだ……」
 額に汗を浮かべながらとうふが呟く。
 システムで作られている以上、勘に任せて押さずとも解析すれば正解は出る。
 だが残り三十秒を切った今、解析にかける時間はない。
『ご主人、どっちにするアル?』
 辣子鶏がとうふに指示を仰ぐ。
「……」
 駄目だ、選べない。
 魔術師が、調べれば答えが分かるものを勘で答えるわけにはいかない。
 調べろ。
 答えを探せ。
 今まで攻略してきた全てから、制作者の意図を導き出せ。
 だが、そうやって考えている間にも時間は過ぎていく。
「……辣子鶏」
 絞り出すように、とうふが辣子鶏に声をかける。
『どうしたアルか?』
 とうふが空中に指を走らせ、オーグギアを操作する。
 その演算の全権限が辣子鶏に移譲される。
「お前の全演算能力を以てボタンを解析しろ。間に合わない場合は、お前の判断に委ねる」
 とうふの宣言に、誰も声をあげなかった。
 あのピーターですら、そうか、と納得したように頷いている。
『ご主人……』
「トリスタンと言ったな、お前は全力で辣子鶏の支援を。お前ができる最大の演算バフをかけてくれ」
「……分かりました」
 それがとうふの決断なら、とトリスタンがより激しくエレキギターを掻き鳴らす。
《とうふ……》
 通話の向こう、遥か彼方の匠海も向こう側で何かを操作する。
 直後、とうふのオーグギアの演算速度が上がり、それがそのまま辣子鶏に移譲される。
《俺のオーグギアの演算もそっちに託した。ブースターなしで心許ないが足しにしてくれ》
《そ、それならオレも! オレはブースターがあるから、それも使ってくれ!》
 ピーターも匠海に倣い自分のオーグギアの演算をとうふに託す。
《なら俺は無駄かもしれんが、イーライを締め上げる》
 今まで黙って見守っていた「もう一人」、タイロンが口を開き、一度通信から外れる。
『ご主人、みんな……分かったアル!』
 場を見守る全ての魔術師マジシャンからの援護を受け、辣子鶏が解析ツールを展開する。
 辣子鶏の周りに幾重もの電子的模様の魔法陣が展開し、演算を開始する。
 タイマーだけが、静かに時を刻んでいく。
(辣子鶏……)
 ――お前を、信じる。
 全員が、辣子鶏の演算を黙って見守る。
 タイマーが十五秒を切る。
 匠海の横でピーターが十字を切り、祈るように目を閉じる。
 普段はやかましい妖精も、エコモードになっていることもあるがサポートAI同族の演算を黙って見ている。
 タイマーが十秒を切る。
 切羽詰まった声でタイロンがイーライを怒鳴りつける。イーライが愉快そうに笑う。
 タイマーが五秒を切る。
 それでも、とうふは何も言わず、焦りからボタンを押すこともなかった。
『解けたアル!』
 辣子鶏が叫ぶ。
 叫んだ直後、両手を上げ――。
 カウントダウンが停止した。
 その僅か数秒後、GWT全体が低く唸りを上げその機能を開放する。
 GWTの量子ネットワーク接続のダイアログがとうふとトリスタンの視界に表示される。
《間に、合ったぁ~……》
 ピーターが安心しきった声を上げ、その場にへなへなと座り込む。
《やったな、とうふ》
 匠海もほっとしたようにとうふを労う。
 しかし、とうふはというと、
「労うのは俺じゃなくて辣子鶏とトリスタンにしてくれ。俺はあくまでも辣子鶏のサポートをしただけだ」
 そう、謙遜した。

 

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