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世界樹の妖精-Serpent of ToK- 第2章

 

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 場所はアメリカのフィラデルフィア。
 とある施設に、仲間の助けを借りて侵入した二人の男がいた。
 ハッキングに長けたガウェインと肉弾戦に長けたタイロンの二人は警備をものともせずサーバルームに侵入、データを盗み出すことに成功する。
 ハイドアウトに帰還した二人は、侵入の手引きをしてくれたもう一人のハッカー、ルキウスとサポートガジェットを作ってくれたアンソニーと量子イントラネットを通じて会話する。
 そこに現れた1匹の蛇。
 その蛇こそが「SERPENT」と呼ばれる謎の存在で、ガウェインたちはLemon社が展開しているという「Project REGION」を阻止すべくSERPENTに呼ばれた人間であった。

 

 
 

 

    第2章 かつての友なら何と言うだろうか

 

 合衆国ステイツ経済圏に存在するアメリカという国家には「世界樹」と呼ばれる四基のメガサーバが建造されている。
 第一の世界樹、「ユグドラシル」サーバはカリフォルニア州、サンフランシスコに。
 第二の世界樹、「イルミンスール」サーバは「ユグドラシル」と同じくカリフォルニア州、ロサンゼルスに。
 第三の世界樹、「Tree of Knoeledgeツリーオブノーリッジ」(ToK)サーバはペンシルベニア州、フィラデルフィアに。
 そして、第四の世界樹、「Gougle World TreeGWT」サーバがニューヨーク州、ニューヨークに建造され、四基体制になって数年が経過した。
 これらの世界樹は世界の量子ネットワークインフラを支え、数多くの巨大仮想空間メタバースやクラウドサービスが展開されることとなった。
 これら四基のメガサーバを有するのはGLFNグリフィンと呼ばれる四社の巨大複合企業メガコープ。GWTを建造したGougleゴーグル社、ToKを建造したLemonレモン社、イルミンスールを建造したFaceNoteフェイスノート社、そしてユグドラシルを建造したNileナイル社はそれぞれの世界樹でその力を世界に知らしめていた。
 そんな世界樹やGLFNもただ平和にその歴史を刻んできたわけではない。
 二一二五年にはNile社有するユグドラシルサーバが「暗闇の悪夢ブラックアウト・ナイトメア」と呼ばれることになった大規模サーバーダウンを起こし、二一二七年のクリスマスには四基の世界樹を核弾頭ミサイルで攻撃しようとする、「木こりのクリスマスランバージャック・クリスマス」という世界そのものを揺るがしかねないテロが発生した。
 結果として世界樹の重要性というものはこれらの事件で再認識されることとなったが、それぞれの事件で人知れず戦った人間も存在する。
 ――そう、「ガウェイン」こと山上 健や「ルキウス」ことピーター・E・ジェイミーソン、そしてタイロン・D・アームストロングの三人のように。
 彼らが出会ったのは冬真っ盛りのアラスカの地だった。
 武者修行で世界各地を渡り歩いていた健、兄夫婦と姪っ子に会うためアラスカに来ていたピーター、そして保釈金を保釈保証業者から踏み倒して逃亡した逃亡犯ベイルジャンパーを追っていたタイロン、この三人は奇跡にも近い状況で出会い、協力し、一つの巨大なテロを阻止することとなった。
 そのテロこそが「ランバージャック・クリスマス」であり、人類のほとんどがそのテロが解決した後に知ったというほど、極秘裏に阻止されたものだった。
 アラスカで出会った三人はそのままアラスカで別れ、もう二度と会うことはないだろう、と思われていたが――。
「……なんでこうやってまた組んでるんですかねえ」
 一仕事終えて「Team SERPENT」のハイドアウトに戻り、設置されていたベッドに寝転がった健がふと呟いた。
 「ランバージャック・クリスマス」は彼にとって忘れられない事件の一つだった。
 かつての友人が不可解な事故死を遂げ、己の非力さを呪った健は当時参加していたスポーツハッキングのチームから脱退し、世界中を回ってハッキングの腕を磨くことにした。噂で聞いた、ARウェアラブルデバイスオーグギアを使用せず、旧世代のコンピュータで行うハッキングのスキルを身に着けたい、と一念発起したからだ。
 世界を回り、様々な人間とスポーツハッキングで対戦したり、ハッキングで犯罪を阻止したり、そんな流れのARハッカーマジシャンとなり、その途中で出会った旧世代ハッキングオールドハックを知る人物に教えを請い、気が付けば七年という月日が経過したころ。
 健はふらりとアラスカの内陸部、フェアバンクスにオーロラを見るために足を運んでいた。
 実家からは「年末年始くらい帰ってこい」とは言われていたが、そんな気にもなれず、たまたまニュースで見かけたオーロラに惹かれて訪れた冬のアラスカ。
 そこで、面白いご当地情報がないかとアラスカ滞在時のみ侵入することができるネットワークこと地域深層ローカルディープに潜り込んだらテロの計画を発見してしまったのだ。
 それを阻止すべく、健は行動した。
 その時に同じく一人でテロを阻止しようと動いていたピーターと出会い、その後逃亡犯を追っていたタイロンとも出会った。
 あろうことか、逃亡犯がテロの首謀者、イーライ・ティンバーレイクだったため、三人は協力してテロの阻止に動いた。
 まさかの連邦フィディラーツィア経済圏の介入もあり、危険な場面もあったが最終的には三人で全ての障害を打ち破り、テロは阻止された。
 全てが終わり、「もう会うことはないだろうな」と別れた三人であったが。
 「ランバージャック・クリスマス」から二年が経過しようかという頃、健の目の前に一匹のSERPENTが現れた。
 「密かに危険な計画が進められている、お前のそのハッキングスキルを貸してもらいたい」と言うSERPENTに疑問を持ちつつも、「報酬は出す」「そのハッキングが世界平和につながる」と言われ、興味本位で参加してみたらピーターとタイロンもスカウトされており、まさかの再会を果たした……という次第である。
 再会から約一年。三人はアンソニーも交えてチーム内でグループを作り、フィラデルフィアを拠点に様々な活動を行った。
 「Team SERPENT」と呼ばれるこの秘密組織は「SERPENT」と呼ばれる存在がメンバーに指示を出し、情報収集などを行う。
 SERPENT曰く、「Team SERPENT」に所属するメンバーは誰もが何かしらの能力に秀でている、という。単にハッキングに強い人間がスカウトされるというわけではなく、タイロンのような四丁拳銃を操る武闘派やアンソニーのような機械工学の天才、他にも一般的には犯罪行為と言われるスキルに長けたメンバーもいるらしい。
 そのなかでも健たち四人は「選抜メンバー」としてSERPENTに抜擢されていた。
 SERPENTが言うところの「危険な計画」こと「Project REGIONプロジェクト レギオン」はLemon社が主体となって行っている、そしてその計画が進められている場所こそLemon社有する世界樹、Tree of KnowledgeToKなのだと。
 そのToKのお膝元、フィラデルフィアを拠点に四人は活動していた。
 とはいえ、ピーターだけは本職がイルミンスールのカウンターハッカーなのでロサンゼルスからの遠隔援護ではあったが。
 基本的に根無し草の健は「SERPENT」が用意したハイドアウトを転々としていたが、フィラデルフィアでの活動がメインになってからは今いるこのハイドアウトで寝起きしている。
 今もハイドアウトとして利用しているコンテナハウスに戻ってきて、一休みしよう、というところだった。
 今回もSERPENTの指示でとある企業に侵入し、ネットワーク未接続スタンドアロンのサーバからのデータ収集を行った。
 ああそうだ、と健が一旦起き上がってアンソニーを呼び出し、入手したデータを転送する。
《相変わらず大変だな》
 そんなことを言いながらアンソニーがデータを受け取り、解析を始める。
 再びベッドに寝転がり、猛はつい先ほどの侵入を思い出した。

 

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