光舞う地の聖夜に駆けて 第3章
分冊版インデックス
クリスマス休暇を利用しフェアバンクスにある兄夫婦の家に遊びに来ていたピーターは土産話のネタを探すためにアラスカの
そこでテロがアメリカ本土にある四本の「世界樹」を弾道ミサイルで攻撃するものであると知り、それを阻止するためにトラックの妨害を始めたところ同じくトラックを妨害しようとしていた匠海と遭遇、交戦することになる。
匠海のリソース不足で辛勝したものの、トラックを見失った二人はリアルで合流、情報交換を行い、次の行動のためにテロリストの決起集会会場へ向かうことにする。
決起集会会場はもぬけの殻だったものの匠海が残されたデータを復元、しかし謎の男の襲撃に交戦を余儀なくされる。
一時は男の銃を撃ち落としたものの、相手は四丁拳銃の使い手で匠海とピーターは窮地に陥ってしまう。
しかし、男はテロリストではなく、一人の逃亡犯を追うバウンティハンターだった。
ホワイトホースを通過し、アラスカ・ハイウェイに車を乗り入れる。
国境を越えてアメリカに再入国、デルタ・ジャンクションでリチャードソン・ハイウェイに乗り換える。
カリフォルニア州クレイトン市からカナダを縦断してのアラスカ入りは冬の今、特に厳しい。
雪とは縁遠いカリフォルニア州をスタートとした今回の旅は雪の世界、アラスカに到達したことで終わりを迎えようとしていた。
バーチ湖ほとりのサービスエリアで給油と食事を済ませ、マップアプリを開く。
ここからフェアバンクス市内まで約五十六マイル(九十キロメートル)、一時間もあれば到着するだろう。
「……しっかし、寒いな」
この寒さにも関わらず自分の信念だけで被り続けている中折れ帽を被り直し、凍り付いた湖面に目を向けながら、男――タイロン・ダン・アームストロングは呟いた。
呟いてから少しヨレたソフトパックから煙草を取り出し、咥える。
オイルライターの蓋を開けるとキン、と小さいが澄んだ音が響き、その点火機構が露わになる。
ライターに点火、煙草に火をつけて紫煙を燻らせる。
「何が楽しくてアラスカくんだりまで来なきゃいけないんだ」
どうもこうも、全ては
一度は逮捕された人間が保釈保証業者から保釈金を立て替えてもらい保釈され、そのまま逃亡することはよくある話である。
そんな人間を追跡、捕縛ししかるべき場所に引き渡して懸賞金を受け取る
尤も、それだけでは生活が苦しいため私立探偵も兼業して生活しているが。
そのため、危険な目には何度も遭ってきたし死線を潜り抜けたことも数えきれないほどある。
今回も、
依頼を受けたのは二週間前。情報が入り追跡を始めたのが一週間前。そして今回の期限は一ケ月。
まだまだ猶予はあるがベイルジャンパーは常に移動し、一度見失うと調査は振出しに戻ってしまう。
依頼フォルダを開き、今回のターゲットを確認する。
「イーライ・ティンバーレイク、ねえ……」
何の因果やら、とぼやく。
先日逮捕されたイーライだが、その彼を逮捕したのは探偵としてのタイロンだった。
違法な武器取引が行われているから調べてほしいという依頼を受けて調査した結果浮上したイーライ。写真をぱっと見ただけでは凶悪犯には見えない。どちらかというと善良な市民に見える。
しかし、見た目に反してイーライは違法な武器取引を行い、自身も違法に武器を所持していた。
以前よりは規制が緩和されたとはいえ、カリフォルニア州はアメリカ内で最も銃規制の厳しい州である。きちんとした手続きを踏み、許可を得て所持しなければすぐに逮捕される。
とはいえ、武器の違法所持で逮捕されたとはいえ何故
しかも、
何かあるな、とタイロンは探偵としての勘でそう思っていた。
とはいえ、アラスカからどこへ逃亡しようというのだ。
特にイーライは最後まで武器の仕入れ先を明かさなかった。取引武器は
それに追跡の最中に色々と情報が入ってきた。
イーライは過激な反
そう考えるとアメリカ内でもGLFN四社から最も遠いアラスカに逃亡するのもあり得る話だ、とタイロンは判断した。
短くなった煙草を携帯灰皿に入れ、タイロンは停めてある自分の車に向かった。
車に乗り込み、エンジンをかける。
行先はあらかじめセットしていたフェアバンクス市内のまま。
車は滑るように走り出し、フェアバンクスに向けて進路をとった。
トラブルが発生することもなく、昼過ぎにタイロンがフェアバンクス市内に足を踏み入れる。
少しぶらぶらと市街地を歩き回り、軽く聞き込みを行う。
写真を見せてイーライの足取りを追う。
数人から「ここ数日で見たかもしれない」という情報が入り、やはりここに来ていたのかと確信する。
そんなことを繰り返した情報収集で数時間が経過し、フェアバンクスに夜の帷が降りた頃。
オーグギアにアラートが表示される。
――おいでなすった。
アラートが表示される前からとうに気づいている。
周囲の人間が装着しているオーグギア同士の短波通信を利用した衝突防止のための位置情報が先ほどからタイロンからつかず離れずの位置に人がいることを示している。
そうでなかったとしてもオーグギアを装着していれば尾行がすぐにバレるというのに相手は素人だな、とタイロンは溜息を吐いた。
善良な一般市民を巻き込みたくないため、人気のない裏路地に入る。
表通りの喧騒が遠くに聞こえる位置まで移動し、タイロンはくるりと振り返った。
「おたくさん、尾行の何たるかが分かっていないのに人の後を付けるものじゃないぞ」
低い声で警告する。
その声を合図に、物陰から五人の男が姿を現す。
「リーダーを追いかけまわすのはやめてもらおうか」
男の一人が銃を抜き、警告する。
その銃を見て種類を特定、
どうせ非殺傷で撃つわけもないな、と考え、タイロンも腰に手を当てる。
「おっと、変な真似はよせ。死にたくないだろ?」
銃口をタイロンに向け、男が笑う。
周りの男たちも銃を抜き、タイロンに向ける。
だが、それに怯えることもなくタイロンは不敵に笑った。
「その程度で俺がビビると思ってんのか?」
全く動じないタイロンに、男たちが「ふざけるな!」と怒鳴る。
「てめぇ、痛い目に遭いたいらしいな!」
やっちまえ、と誰かが叫ぶ。
五つの銃口がタイロンを狙う。
だが、その銃がタイロンを捉えることはなかった。
五つの銃口の先からタイロンの姿が消える。
オートエイムでタイロンを捉えていたはずの銃が虚空を穿つ。
次の瞬間、銃声と共に二人の手から銃が弾け飛ぶ。
「な――」
「遅い!」
続いて、他の二人の手から銃が弾け飛び、残された一人の銃も次の瞬間には弾き飛ばされる。
「
男たちの後ろに立ち、タイロンがふっと手にした銃の煙を吹き消す。
そしてくるりと振り返り、
「モードチェンジ、
そう、宣言する。
直後、タイロンの銃のキャパシタに電流がチャージされ、次いで放たれたレーザーによって作られた導電性
「こいつ、化け物か!?!?」
三人の男が怯んだように声を上げる。
その三人にタイロンが突撃、一人は腹部に重い一撃を受け昏倒、次の一人も成すすべなく殴り倒され、残り一人となる。
「モードチェンジ、
実弾モードに切り替え、タイロンはその銃口を健在の一人に向ける。
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