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光舞う地の聖夜に駆けて 第3章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

 クリスマス休暇を利用しフェアバンクスにある兄夫婦の家に遊びに来ていたピーターは土産話のネタを探すためにアラスカの地域深層ローカルディープに潜り込んだところ、テロ計画のページを発見してしまう。
 そこでテロがアメリカ本土にある四本の「世界樹」を弾道ミサイルで攻撃するものであると知り、それを阻止するためにトラックの妨害を始めたところ同じくトラックを妨害しようとしていた匠海と遭遇、交戦することになる。
 匠海のリソース不足で辛勝したものの、トラックを見失った二人はリアルで合流、情報交換を行い、次の行動のためにテロリストの決起集会会場へ向かうことにする。
 決起集会会場はもぬけの殻だったものの匠海が残されたデータを復元、しかし謎の男の襲撃に交戦を余儀なくされる。
 一時は男の銃を撃ち落としたものの、相手は四丁拳銃の使い手で匠海とピーターは窮地に陥ってしまう。
 しかし、男はテロリストではなく、一人の逃亡犯を追うバウンティハンターだった。

 

「入った」
 匠海の言葉に、ピーターが目を丸くする。
「マジかよ!」
 先ほどのやり取りからここまでわずか数分。
 それでも、時間に余裕があるというわけではない。
 ちら、と時計を見る。
 システムの巡回時間WDTは五分。
 侵入する直前にチェックが入っているため焦ることはないが早急に検索しないとライブラリからの離脱、痕跡隠しに手間取った場合侵入が察知される。
 膨大なオーグギアユーザーのキャリブレーションデータからイーライを探し出す。
 表示されたイーライの情報を確認、タイロンから受け取った顔写真と照らし合わせる。
 一見、差異がないようだが念のため顔認証をかける。
 その結果が「一致」で、匠海は漸くイーライのオーグギア特定が完了したと判断する。
「特定できた。今から離脱する」
 そう、二人に報告。
 ピーターがオーケー、と頷き、匠海の離脱を待つ。
 痕跡が残らないように離脱するには侵入する時よりかなりの気を使う。
 それでも集中力を切らさず、匠海はサーバを離脱、ピーターとイーライのオーグギア情報を共有する。
 データを受け取ったピーターが「今度はオレの番だ」と宣言、匠海から作業を引き継ぐ。
「ルキウス、任せた」
 リソース管理は行なっていたもののそれなりに負荷がかかったオーグギアを一旦冷却するためにエコモードに切り替え、ふう、と息を吐く。と、同時に処理が重くなる原因の一つである妖精が一旦非表示となり、視界から消える。
 ピーターに位置情報取得を託したのは非常に厳重な防壁を持つデータセンターのハッキングで相当な集中力とリソースを消費するから。
 流石に世界樹クラス、いや、それ以上のセキュリティを攻略するには歳か、などと思いつつも匠海は一息吐いた。
「おたくさん、やるねえ」
 タイロンがそう言いながら煙草を勧めてくる。
 一瞬、それを受け取ろうかと考えた匠海だったが見えない妖精の視線を感じ、ダメだダメだと心の中で首を振った。処理が停止し、表示もされず、ほとんどの機能を停止している妖精だが、起動時に速やかに機能停止後からの状況が分かるよう、視界記録だけは続けるようにしている。感じた視線はきっと気のせいではない。
「いや、俺は吸わないから」
 そう言って断り、匠海がピーターのハッキングを見守る。
 不安はない。
 ピーターがイルミンスールのカウンターハッカーを務めているからではない。
 ブースターを使用していなかった匠海のリソースを彼以上に把握し、冷静に対処したピータールキウスの腕を認めているからである。
 とりあえず完了するまでは休憩だ、と匠海は目を閉じた。

 

 ――アーサーにばかりいいところは持って行かせねぇ。
 空中に指を走らせ、ピーターが世界のアクセスポイント一覧を展開する。
 その中からアラスカに配置されているものだけを絞り込み、表示。
 どの情報にアクセスするにしてもオーグギアは最も近いアクセスポイントにデータを送り、そこから世界中のデータにアクセスする。
 そのため、どこにいるか分からないハッカーに対してはまずアクセスポイントの特定から始まる。
 だが、現時点でイーライがアラスカにいるのは確定しているため探し出すのはアラスカのみでいいだろう。
 複雑な手順を踏めばアクセスポイントを欺瞞することも可能ではあるが、アクセスポイントさえ特定してしまえばあとはそこからの洗い出しとなる。
 アクセスポイントへのアクセス数もかなりの数にはなるが、それでも欺瞞されたオーグギアはすぐに分かる。
 匠海から受け取ったイーライのデータを使い、アクセスポイントを特定する。
 流れるデータの一点が違う色で光っている。
 手を伸ばし、ピーターはそのデータを掴んだ。
 ――まずは、アクセスポイント。
 アクセスポイントの特定は比較的簡単にできる。特に今回はアラスカで絞っていたため候補となるアクセスポイントの数自体が少ない。
 アクセスポイントのデータベースを展開、アクセスしている全てのオーグギアを呼び出す。
 ピーターを中心として、アクセス中のオーグギアの所有者と基本番号、及び緯度経度現在地の一覧が展開される。
 一つ息を吐き、ピーターがぐるりと周りを見回した。
 ――どこだ。
 匠海から受け取った基本番号を自前の検索ツールで視覚化して宙に放り投げる。
 視覚化されたデータは猛禽類ハクトウワシの姿を取り、獲物を探すようにピーターの周りを飛翔する。
 やがて、ハクトウワシは獲物イーライを見つけ、飛翔コースを変更した。
 ピーターの視界がハクトウワシのものとリンクする。
 ハクトウワシは一度高度を上げ、目的のデータに向けて急降下する。
 鋭い鉤爪がデータを捕らえる。
 ――捕らえた!
 ハクトウワシが急旋回してピーターの元に戻り、データの形に戻る。
 ピーターの手元で、受け取った位置情報が地図上に光点で表示される。
 地図を拡大してより具体的な位置を特定、さらにもうひと手間かけてアラスカ上空を飛ぶ軍事衛星のカメラにアクセスして現地を確認する。
「アーサー、捕まえた! ノースポール南西、凍結したタナナ川を超えた先だ!」
 ピーターが叫びつつ、タイロンと匠海に位置情報を転送する。
 匠海が目を開け、ピーターを見る。
「よくやった、ルキウス」
 受け取った位置情報を地図に表示させ、匠海がピーターを褒める。
 それに少し頬が緩むがすぐに気を引き締め、ピーターは衛星写真も共有する。
「イーライは仲間に準備を押し付けて逃げたわけでもなさそうだ、移動型の発射台TELARが四台、すぐそばにある。弾頭は……もう接続済みか」
 衛星写真をズーム、発射台を拡大表示させる。
「確か発射はアラスカ標準時AKST十六時だったよな?」
 そう言いながら匠海が時計を見る。
 現在時刻は九時に差し掛かるところ、発射まであと七時間しかない。
「イーライの居場所はここから直線距離で約六十マイル(九十六キロメートル)、道がないから車でも普通のスピードでは行けないぞ」
 まぁ、それでも行くしかないけど、とピーターが続ける。
「時間がない、今すぐ行こう」
 そう言って匠海が立ち上がる。
「そうだな。お二人さん、俺の車に乗れ。道なき道オフロードは慣れてる」
 タイロンも立ち上がり、服についた埃を払う。
「さぁて、行きますかね……」
 タイロンの言葉に、三人は顔を見合わせ、頷いた。
 誰からということもなくそれぞれ右の拳を突き出す。
 中央で三つの拳がコツンと合わさり、それぞれの思いで気合を入れる。
「止めよう、何があっても」
 匠海の言葉に、ピーターとタイロンがああ、と力強く頷いた。

 

to be continued……

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