光舞う地の聖夜に駆けて 第3章
分冊版インデックス
クリスマス休暇を利用しフェアバンクスにある兄夫婦の家に遊びに来ていたピーターは土産話のネタを探すためにアラスカの
そこでテロがアメリカ本土にある四本の「世界樹」を弾道ミサイルで攻撃するものであると知り、それを阻止するためにトラックの妨害を始めたところ同じくトラックを妨害しようとしていた匠海と遭遇、交戦することになる。
匠海のリソース不足で辛勝したものの、トラックを見失った二人はリアルで合流、情報交換を行い、次の行動のためにテロリストの決起集会会場へ向かうことにする。
決起集会会場はもぬけの殻だったものの匠海が残されたデータを復元、しかし謎の男の襲撃に交戦を余儀なくされる。
一時は男の銃を撃ち落としたものの、相手は四丁拳銃の使い手で匠海とピーターは窮地に陥ってしまう。
しかし、男はテロリストではなく、一人の逃亡犯を追うバウンティハンターだった。
テロリストは
ざり、と足元で砂利が鳴る。
時間は十二月二十四日の午前六時。
自分を襲った男たちを返り討ちにし、たっぷり話を聞いてから近くの
死なない程度にかなり痛めつけたが、男は場所は口にしても時間は決して喋らなかった。
知っているはずだ、と思っての尋問だったがどうやら本当に知らなかったらしい。
本当はすぐに調査したかったが思いのほか長旅の疲労が蓄積していたため、やむなく仮眠をとって今に至る。
ここに来たのは、何かしらの痕跡がないかの確認。
イーライの足取りはここでぱったりと途絶えている。
「……逃亡しちまったかねえ……」
男たちに襲われた際に遭遇したニェジットのことを思い出す。
ニェジットは
何らかのきっかけを作りたくて送り込んだニェジットがアラスカの内陸部まで移動してきたという可能性もある。
もし、そうであれば、面倒なことにはなるが、とはいえ、
ただ、気になるのは、本当にあのニェジットがただふらりと彷徨いこんできたものだったのか、だ。
そして何より、男はタイロンの後ろに立ったニェジットの姿を認めてニヤリとした。
イーライは本当に
確かにイーライは熱狂的な反GLFN信者である。この四社はいずれも
と言うことは、存在が知られれば戦争もあり得るような存在であるニェジットを投入して支援してでも、成し遂げさせたい、かつ、極めて確実性の高い、GLFN弱体化のプランをイーライは持っているというのか?
男はそのあたりに関してはあまり情報を持っていなかったがイーライが自慢気に見せてきた、と言っていたことを思い出し確信する。
厄介なことになったな、とタイロンは呟いた。
「……何を企んでる、イーライ」
建物内に紛れ込んだ砂利を踏みしめ、タイロンがビル内を探索する。
その中、とある一室に違和感を覚える。
つい数時間前まで使われていたような、そんな雰囲気を漂わせる部屋。
まさか、ニアミスだったかと思い部屋に踏み込もうとして、
「……」
眉をひそめて足を止める。
オーグギアの赤外線センサーが細いワイヤーを捉えている。
姑息にもブービートラップをしかけやがって、とタイロンはしゃがみこんだ。
ワイヤーの端を確認すると手榴弾がセットしてあり、足を引っかける等で強いテンションがかかるとピンが抜け、爆発する仕組みになっているらしい。
ブービートラップとしてはよくあるもの、それで焦るタイロンではない。
常に持ち歩いている万能ツールキットからワイヤーカッターを取り出し、ワイヤーを切断、それから手榴弾も手際よく処理して無効化する。
室内にブービートラップが残されていないことを確認し、タイロンは部屋に踏み込んだ。
室内をぐるりと周り、痕跡を探るが何も見つからない。
溜息を吐き、タイロンが部屋から出る。
他の部屋もぐるりと回り、他に痕跡がないか探すが何も見つからない。
そのタイミングで、タイロンの耳が足音を捉える。
何やら話し声が聞こえることから、複数人だと判断、一旦物陰に身をひそめる。
「やっぱり無駄足だったか?」
先ほどタイロンがブービートラップを解除した部屋から声が聞こえる。
侵入者は何かを探しているようだ。
おい、俺の後でよかったな、そこブービートラップ仕掛けられてたぞと思いつつ耳を傾けていると、もう一人が始めの声の主を呼び止めたのが聞こえる。
「ブービートラップが仕掛けられている……が、解除された形跡がある」
どうやら、一人はブービートラップに気付いたらしい。
なかなかやるな、と感心しつつ、会話と足音から侵入者は二人組だと判断する。
二人組は室内に踏み込み、中を調べ始める。
二人組がどのような人間か気になり、タイロンは部屋の前に移動した。
一人が奥で何かを調べ、もう一人は中央付近でオーグギアの操作をしている。
暫く眺めていると中央付近にいた一人が奥にいる一人に歩み寄り、壁の方を向いたまま何かを話し始めた。
「その様子だと、信号いじったのが初めての犯罪か?」
片方が少々ニヤつきながらもう片方を茶化す。
「初めての犯罪か?」という台詞が、タイロンに引っかかる。
――まさか、こいつら。
茶化した方が悪びれた風もないため、日常茶飯事で何かしら法に触れるようなことをしているのか、と考える。
犯罪者なら、とタイロンは二丁の銃を抜いた。
タイロンは警察官ではないため、犯罪者を逮捕する義務なんてものはない。
だが、それでも犯罪を犯罪と思っていないような人間を野放しにするわけにはいかない。
たとえ軽微なものであったとしても、繰り返すうちに重大な犯罪を犯す。
茶化された方が何やら反論しているが、まさか、犯罪を唆しているのではなかろうか。
茶化している方に銃を向ける。
その瞬間、茶化している方が動いた。
「伏せろ!」
もう一人を突き飛ばし、二人で机の裏に転がり込む。
同時に、タイロンも発砲していた。
勿論、これは牽制の一撃。
それにしても、この二人組、特に茶化していた方の反応は早い。
机の向こうに身を隠してから、いくつもの死線を潜り抜けてきたような雰囲気を漂わせている。
何者だ、とタイロンは思った。
その辺のごろつきでもない、かといって指名手配されるような凶悪犯でもない。
ごく普通の一般市民のようで、それでもって犯罪を犯罪と思っていないような、サイコパスささえ感じる。
……と、机の影から様子を窺っていた一人が机を飛び出し、転がって隣の机に移動する。
咄嗟にタイロンも発砲するが、それは当たらない。
机越しに睨み合いの状態となる。
互いの姿は見えないが、それでも向こうもこちらに対して敵意を向けている。
じり、とタイロンが机に向かって一歩にじり寄る。
同時に、二人が机から身体を乗り出す。
二人が銃を握っているのが見える。
どれだ、と判別する前にタイロンは両の銃の引鉄に力を籠める。
しかし、引鉄を引く前に右手の銃が弾け飛ぶ。
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。