光舞う地の聖夜に駆けて 第3章
分冊版インデックス
クリスマス休暇を利用しフェアバンクスにある兄夫婦の家に遊びに来ていたピーターは土産話のネタを探すためにアラスカの
そこでテロがアメリカ本土にある四本の「世界樹」を弾道ミサイルで攻撃するものであると知り、それを阻止するためにトラックの妨害を始めたところ同じくトラックを妨害しようとしていた匠海と遭遇、交戦することになる。
匠海のリソース不足で辛勝したものの、トラックを見失った二人はリアルで合流、情報交換を行い、次の行動のためにテロリストの決起集会会場へ向かうことにする。
決起集会会場はもぬけの殻だったものの匠海が残されたデータを復元、しかし謎の男の襲撃に交戦を余儀なくされる。
一時は男の銃を撃ち落としたものの、相手は四丁拳銃の使い手で匠海とピーターは窮地に陥ってしまう。
しかし、男はテロリストではなく、一人の逃亡犯を追うバウンティハンターだった。
「さぁて、おたくさんの話を聞かせてもらうか」
銃を向けられた一人は周りで倒れる四人を見る。
四人とも苦し気に呻くだけで起き上がれそうにない。
「や、殺るなら殺れよ!」
苦し紛れに男が吼える。
だが、タイロンはそれを「バカか」と一蹴した。
「バウンティハンターが人を殺せるわけないだろうが。命だけは助けてやるよ」
バウンティハンターとて一般市民である。殺害が許されているわけではない。
逃亡犯と戦った末殺害してしまおうものなら自分が殺人犯として手配されてしまう。これは機械があまり得意ではないタイロンが非殺傷モードのあるヴァリアブルハンドガンを使っている理由でもある。
タイロンが殺さない、と分かった瞬間、男はナイフを抜いた。
殺されさえしなければこちらに勝ち目がある、と思ったのか。
「だったら俺が殺してやるよ!」
ナイフを振りかぶり、突進。
そのナイフを難なく撃ち落とし、タイロンは男の腕を掴んだ。
そのまま地面に投げの要領で叩き付ける。
「がはっ!」
背中から地面に叩きつけられ、男が声を上げる。
その男にタイロンは銃を突き付けた。
「大人しく話してくれたらよかったんだがなあ」
余程痛めつけられたいらしい、と、一発。
男の耳元すぐ横の地面に銃弾が突き刺さる。
「俺としてはおたくさんから話が聞ければそれでいいんで、死にさえしなきゃ、な」
「ま、待て!」
怯えた男がガタガタと震えながら声を上げる。
「さあ、まずはどこを潰そうか。腕か? 脚か?」
好きなところを言え、とタイロンが凄む。
「分かった! 話す、話すから!」
男の命乞いに、タイロンは満足そうに頷いた。
だが、その彼の様子を見て男がニヤリと笑う。
なんだ、と、タイロンは一瞬訝しみ、
「誰だ!」
そう、振り返りざまに発砲した。
どさり、と何かが倒れる。
しまった、とタイロンは視線の先で倒れた何か――人影を見る。
民間人の、いや、ターゲット含めて人間の殺害は固く禁じられている。
まずった、これは確実に
しかし、倒れた人影は死んでいなかった。
モゾモゾと動き、体を起こす。
「な――」
その人影には顔がなかった。
ぐちゃりとした、肉塊を捏ねて作ったようなその人影に禍々しさを覚える。
また、最初衣服に見えたのは特殊な素材でできた甲殻のようだ。
「
実物を見たのは初めてだが、探偵としてさまざまな情報を見聞きしてきたため、存在は知っている。
その一環でニェジットという「簡単には死なない」生物兵器が生み出されているとは聞いていたが。
唸り声を上げながら
タイロンが数発発砲するが、銃弾は右手に持つ盾と甲殻によって阻まれる。
「……ち!」
ニェジットがぶん、と腕をタイロンの頭に向けて振り下ろす。
分厚い
再び、タイロンの両手の銃が火を噴くがニェジットは今度はそれを正確に盾で受け止める。
――こいつ、知能があるのか?
一見、映画などでよく見る知能のないゾンビに見える。
だが、このニェジットは闇雲にタイロンを狙うのではなく、確実にタイロンだけを狙って行動している。彼の銃弾を防いだのも、たまたまではなく、明らかに攻撃を見ての防御姿勢に見える。
――こいつぁ、まずいな。
普通に撃っただけでは盾や甲殻に阻まれる。甲殻をも撃ち抜くのであればヴァリアブルハンドガンの
できるなら
幸い、ニェジットの甲殻は胴体と腕、脚の主要なところを覆っているだけで頭と関節は無防備である。それを補うための盾だろうが――。
ニェジットが再びタイロンに向けて腕を振り上げる。
――そこだ!
タイロンがニェジットに向かって突進する。
振り下ろされる腕を横に跳ぶのではなく正面に突っ込む形でスライディング、ニェジットの股の下を潜り抜ける。
直後に振り返りながら体を起こし、二丁の銃を頭と腕に向ける。
そのまま発砲。
タイロンに後ろに回られたニェジットが振り返る前に腕と頭を撃ち抜かれる。
腕と頭を失ったニェジットがその場に倒れ、今度こそ動かなくなる。
直後、まるで溶けるようにニェジットが消えていく。
ニェジットが消滅したことを確認して、タイロンは振り返った。
「で?」
再び男に銃を向ける。
「えっ、あっ、あの」
「ちょーっと事情が変わった。おたくさん、今のが何か知ってるようだし、じっくりと話を聞かせてもらおうか」
そう言い、タイロンは煙草を取り出し、口に運んだ。
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