光舞う地の聖夜に駆けて 第5章
分冊版インデックス
匠海、ピーター、タイロンの三人はそれぞれきっかけは別だったものの同じテロ阻止のため、手を組むことにする。
匠海とピーターのタッグでテロの首謀者、イーライを特定した三人は弾道ミサイル発射の現場に向かって移動を開始する。
その途中で電波のローカルネットワーク構築による無人運転のトラックの群れに襲われたもののタイロンがそれを撃退。
弾道ミサイルの発射現場に到着した三人はテロリストを無力化、イーライが
しかし、弾道ミサイルはイーライによって発射シークエンスを終了され、カウントダウンが始まってしまう。
それをハッキングで止めるべく動いた匠海とピーターだったが、目の前に巨大な防壁を築かれ、行く手を阻まれる。
イーライが無力化されたものの、
「ルキウス、一分待ってくれないか?」
「へ?」
時間分かってんのか? とピーターが指摘するもののどうやら匠海は何かをする気満々らしく、これは言っても聞かない奴だな、と納得させられてしまう。
「分かったよ、本当に一分だけだからな?」
助かる、と匠海は頷き、それから
「何やってるんだ?」
どうしても気になり、ピーターが匠海に尋ねる。
「ああ、エクスカリバーをカスタムしようと思ってな」
「それ、今する必要あんのか?」
まあな、と匠海が頷く。
「念のための保険だ」
匠海の言葉に、何か思うところがあったのかと自分を納得させるピーター。
そのまま匠海の手の動きを観察する。
オーグギアの操作にしては指が細かく動いている気がするが余程細かい操作をしているのだろう、それにしても早いなと感心する。
きっかり一分、匠海が「待たせた」とコンソールを閉じ、エクスカリバーを抜いた。
「テストしなくて大丈夫かよ」
「シミュレーションは終わっている」
逆に、シミュレーションだけで本番行くのかよと驚いたピーターであったが、匠海の常人離れした技量を考えると当たり前のことなのかもしれない、とふと思う。
それなら、と
その隣に立ち、
ピーターのフロレントが冷気を纏う。
「ルキウス、俺が走り出したらフロレントを撃て。それに合わせる」
「了解。しくじるなよ、アーサー」
チャンスは一回。チェルノボグが完全にログアウトしたとも考えられず、失敗した場合はこちらの独自ツールの性能が相手に割れて対策される可能性が出てくる。
対策されればそれを上回る策が必要となるため、それが繰り返されるほどこちらの手が無くなり相手は時間を稼ぐことができる。
そうならないためにも、一回で城壁を攻略する。
行くぞ、と匠海が身構え、そして地面を蹴る。
城壁に向かって突進する匠海とその場にとどまったピーター、二人が同時にそれぞれの剣を振りかぶる。
「
二人の声が重なる。
剣を振り下ろしながら、二人は言葉を続けた。
「
振り下ろされたピーターのフロレントから斬撃波が飛び、匠海の横を掠め、追い越していく。
匠海を追い越した斬撃波は城壁に直撃、その一部を凍結させる。
そこへ、匠海のエクスカリバーが叩き込まれた。
プリセット展開、エクスカリバーの刀身を伝い、凍結した城壁のコードを書き換えていく。
凍結部分を城壁が侵食しようとする隙を縫い、エクスカリバーが城壁を改変、そのまま向こう側へと貫通する。
匠海が手首を返し、エクスカリバーを横薙ぎに振るう。
城壁の、データ改変が行われた部分が今度はエクスカリバーの破壊機能で打ち砕かれる。
無数のデータ片を撒き散らし、城壁にぽっかりと大穴が開く。
その向こうには――
「チェルノボグ!」
一言叫び、匠海はチェルノボグに向かって駆け出した。
城壁に開いた穴を抜け、チェルノボグと対峙する。
「アーサー!」
ピーターも匠海を追いかけるが、ピーターの目前で穴が完全に埋まっていく。
「クソッ、アーサー! しくじるなよ!」
穴が完全に塞がる直前、ピーターは匠海の背に、そう叫んだ。
ゆらり、とチェルノボグが揺らめきつつ匠海の前に立っている。
「まさか、
だが、戦力は分断できたようだ、とチェルノボグが嗤う。
「貴様とは特に一度一対一で相見えたいと思っていた。貴様の連れとは違う空気を感じるからな」
「ああ、俺もお前とはサシでやり合いたいと思っていた」
匠海がエクスカリバーを構える。
チェルノボグも片手を挙げると、まるで羽虫が集まるかのようにデータ片が収束し、一本の大鎌を構築する。
「それがお前の
一体、どのような能力を持った独自ツールなのか。
形状を見ただけでは破壊系のツールのようにも見えるが、断定はできない。
注意しろ、と匠海の本能が囁く。
じり、と二人が睨みあったままにじり寄る。
と、チェルノボグが大鎌を振った。
「злой дух」
「ズロィドゥーフ」と辛うじて聞き取れたその言葉が辺りを支配する。
ざわり、と空気が揺れ、凍結している地面から、無数の人影が浮かび上がった。
「な――」
ニェジットか、と匠海が身構える。
現在の匠海は現実と完全なデータ領域の狭間に立っているようなもの、メインの視界はデータ領域のものではあるがそこにニェジットが現れたということは。
咄嗟にサブ視界にしている現実の視界を確認する。
ここにニェジットが現れたということは、まさか現実にも現れたのか、と一瞬錯覚したからであるが、当然、現実の視界にニェジットは一体も存在しなかった。
――リアルには、いない、か。
そうだろう、先ほど生産型のヤドカリは爆破したのだ、あんなものが複数いてたまるものか、と匠海が呟く。
と、なると今視界に存在するのはニェジットの姿をとった
この一瞬でこれだけの数を展開したのか、と匠海は驚愕した。
あの
もしかすると俺より上かもしれない、そんなことを考えながら匠海は地を蹴った。
目の前の
botがデータ片となって飛び散り、次の瞬間、
「――っ」
すぐ近くにその身体を再構築する。
botがバールや鉄パイプのような形をした
それを弾きながら、匠海はチェルノボグに向かって走り出した。
botの攻撃をエクスカリバーでいなし、botを斬り捨て、さらに前へ。
botの波を突破、チェルノボグに到達する。
「うおぉぉぉっ!」
エクスカリバーを最上段に振りかぶり、匠海がチェルノボグに切りかかる。
袈裟懸けに斬り裂かれたチェルノボグが霧散する。
しかし、
――手ごたえがない。
エクスカリバーによる改変が発動しない。
まるで雲を斬ったような、そんなぼんやりとした感触。
――ダミーか!
エクスカリバーを横薙ぎに振りながら匠海が振り返った。
匠海に掴みかかろうとしていたbotが薙ぎ払われ、砕け散り、別の場所で再構築される。
「……チェルノボグ! どこだ!」
無数のbotに包囲されつつある状態で匠海は叫んだ。
botだけを残してログアウトするとは思えない。
そもそも、いくら
それに、チェルノボグは「貴様とは特に一度一対一で相見えたいと思っていた」と匠海に言っていた。それを放棄して逃げるとは考えられない。
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