光舞う地の聖夜に駆けて 第5章
分冊版インデックス
匠海、ピーター、タイロンの三人はそれぞれきっかけは別だったものの同じテロ阻止のため、手を組むことにする。
匠海とピーターのタッグでテロの首謀者、イーライを特定した三人は弾道ミサイル発射の現場に向かって移動を開始する。
その途中で電波のローカルネットワーク構築による無人運転のトラックの群れに襲われたもののタイロンがそれを撃退。
弾道ミサイルの発射現場に到着した三人はテロリストを無力化、イーライが
しかし、弾道ミサイルはイーライによって発射シークエンスを終了され、カウントダウンが始まってしまう。
それをハッキングで止めるべく動いた匠海とピーターだったが、目の前に巨大な防壁を築かれ、行く手を阻まれる。
イーライが無力化されたものの、
匠海の提案により、ふたりはチェルノボグが築いた
チェルノボグが周囲の人間のオーグギアのリソースを利用して攻撃してくることに気付いた匠海は、ピーターと共に再度テロリストへのハッキングを行う。
「やってやろうじゃねーか!」
匠海からもらったAHOを展開、先ほどピーターがハッキングした七人のオーグギアに送り込む。
チェルノボグは自身がボットネットを展開するためにテロリストのオーグギアに干渉していたためか、防壁は追加されていない。
オーバーロードした七つの光点が×の表示に代わる。
「アーサー! こっちはOKだ!」
ピーターが匠海に向かって叫ぶ。
その声を受け取った匠海も、一旦エクスカリバーを収納、ウェポンパレットから防壁ツールを展開して自分の周囲に壁を作る。
botが壁に取り付き、破壊しようとする。
だが、いくら壁に殴りかかろうとも壁の表面で【KEEP OUT!】や【DANGER DO NOT ENTER】の文字が記載されたダイアログが表示、botの攻撃を弾いていく。
防壁によってbotの攻撃が止まり、匠海がほっと息を吐く。
だが、すぐに指を動かし、先ほど侵入した七人のテロリストのオーグギアにアクセスする。
防壁を展開したとはいえ、リソースと展開スピードを考慮してのものなのでそこまで堅牢なものではない、時間が経てば突破される。
チェルノボグもピーターが半数の
その大鎌が、匠海の頭上で【DANGER HIGH VOLTAGE】のダイアログに阻まれる。
と、同時に電撃状のデータ攻撃を受け、後方に跳び退る。
「かかったな!」
匠海がチェルノボグに向かって叫ぶ。
その間も、彼の手はテロリストのオーグギア侵入のための操作を止めない。
一度侵入したオーグギアは防壁が更新されない限り簡単に再侵入できる。
だが、いくら簡単に侵入できると言ってもその間にチェルノボグが妨害しようと攻撃してくることは容易に想像がついた。
そのため、一見無防備に見える頭上を用意し、そこに罠を張った。
「……卑怯な」
攻撃を受け、アバターが麻痺したのだろう、チェルノボグが呻く。
「卑怯なのはどっちだ! 一対一とか言いながら他人のオーグギア使ってる時点でそっちが卑怯なんだよ!」
そう叫びながら匠海が「送信」ボタンをタップする。
再び形成されたルートを辿り、残りの七人にAHOが展開、オーバーロードを起こす。
「もうこれ以上は生産できないぞ!」
匠海がチェルノボグに宣言する。
「だが、既に生産した分で貴様らは十分『詰み』だ! 貴様らがいくら破壊しようとも、再構築できる以上戦力は減ることがない!」
もう、貴様らは潰されるしかないのだよ、とチェルノボグが勝ち誇ったように言う。
だが、匠海はそれに対し、
「……ふっ」
その口元に、笑みを浮かべた。
それと同時に、ピーターにデータを一つ転送。
《アーサー? なんか送られてきたんだが》
「ルキウス、そいつをフロレントに組み込め。
一瞬、「どういうことだ?」と首を傾げたピーターだが、すぐに頷いてフロレントに受け取ったデータを貼り付けたらしい。
準備は整った、と匠海は再びエクスカリバーを展開、チェルノボグに向けて構える。
「何がおかしい」
麻痺を解除し、チェルノボグが再び空中に浮かび上がる。
「私の
「できるんだな、これが」
そう言い、匠海が不敵に笑う。
その匠海の言葉に、チェルノボグは背筋が総毛立つような錯覚を覚える。
「確かに、お前の展開したbotは破壊されればその残骸を元に再構築する。だが残骸がなければ?」
「な――」
チェルノボグが驚愕の声を上げる。
「まさか、貴様――」
「こっちが無策かと思ったか? 対策くらい、いくらでもある」
「そんなはずがあるか! 破壊しかできない、いや、無害な残骸に改変するだけではいくらでも再構築できる!」
少なくとも、貴様だけ潰せば私の目的は達成できる、とチェルノボグが続ける。
「……どうかな?」
匠海がエクスカリバーを握り直す。
「俺はお前を倒して弾道ミサイルを止める! お前なんかに邪魔はさせない!」
そう宣言すると同時に、匠海は周囲の防壁を解除、押し寄せるbotを空中にジャンプすることで回避、さらに複数の足場を展開して包囲網の外に出る。
「見せてやるよ、俺のエクスカリバーの真の力を!」
botたちが匠海の方に向き直る。
匠海がエクスカリバーを担ぎ上げるかのように持ち上げ後方に大きく振りかぶる。
その、エクスカリバーに光が収束していく。
「
チェルノボグの目に、匠海が振り下ろすエクスカリバーがスローモーションに見える。
「
botたちに向け、
その瞬間、光が爆発した。
爆発した光は一直線に収束、巨大な光の濁流となって匠海に向かうbotたちを吹き飛ばす。
「これは――」
上空で巨大な光の筋を見下ろしながらチェルノボグが茫然として呟く。
――曰く、かの聖剣は千の松明を集めたような輝きを放ち、九百六十人もの敵兵を倒したという――
かつて聞いた
だが、すぐに我に返り、匠海に向かって叫ぶ。
「手があると思えば、結局まとめて吹き飛ばすだけか! そんなもの、再構築すれば――」
「できればな」
匠海の言葉に、チェルノボグがはっとして地上を見下ろす。
そこに、botは一体も存在しなかった。
ただ、存在するのは匠海とその視線の先に無数に立つ光の墓標。
まさか、とチェルノボグが掠れた声で呟く。
「あれだけで、全てのbotのデータを別のオブジェクトに改変したというのか!?!?」
だが、botを封じられたのは匠海がいる側のみ。
「……さすが、世界樹の
あの程度の
せめて、一人くらいは脱落させておきたいが。
そのチェルノボグの言葉に、匠海がふん、と鼻で笑う。
「残念だが、それも対策済みだ。見てみろよ」
匠海の言葉に、チェルノボグが「なんだと」と唸る。
そんな、二人は
対策ができるはずがない。
半信半疑で、チェルノボグはコンソールを操作し、城壁の透過処理を行う。
壁は存在するものの、匠海とピーターは互いの状況が確認できるようになり、
「なん……だと……」
チェルノボグが信じられない、といった風に声を上げる。
ピーターの側も、
匠海の側と同じく、無数の光の墓標が並んでいる。
「どういうことだ……」
チェルノボグがピーターを見る。
ピーターの手にはフロレントが握られたまま。
だが、その刀身に纏っているのは冷気ではなく、光。
ピーター本人も、光を纏うフロレントに驚きを隠せずにいた。
匠海が簡単なことだ、と解説する。
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