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光舞う地の聖夜に駆けて 第5章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

 匠海、ピーター、タイロンの三人はそれぞれきっかけは別だったものの同じテロ阻止のため、手を組むことにする。
 匠海とピーターのタッグでテロの首謀者、イーライを特定した三人は弾道ミサイル発射の現場に向かって移動を開始する。
 その途中で電波のローカルネットワーク構築による無人運転のトラックの群れに襲われたもののタイロンがそれを撃退。
 弾道ミサイルの発射現場に到着した三人はテロリストを無力化、イーライが連邦フィディラーツィアから供与を受けていた生産型の大型ニェジットに苦戦したもののこれを撃破、イーライも無力化する。
 しかし、弾道ミサイルはイーライによって発射シークエンスを終了され、カウントダウンが始まってしまう。
 それをハッキングで止めるべく動いた匠海とピーターだったが、目の前に巨大な防壁を築かれ、行く手を阻まれる。

 

イーライが無力化されたものの、連邦フィディラーツィア魔術師フォークスニク、チェルノボグが築いた防壁に阻まれる匠海とピーター。

 

匠海の提案により、ふたりはチェルノボグが築いた赤の城塞クレムリンに穴を開け、匠海がそこに飛び込んでいく。

 

チェルノボグが周囲の人間のオーグギアのリソースを利用して攻撃してくることに気付いた匠海は、ピーターと共に再度テロリストへのハッキングを行う。

 

押し寄せるチェルノボグ使役する悪霊ズロィドゥーフを、匠海は改造したエクスカリバーで打ち破る。

 

 
 

 

「ルキウスのフロレントがエクスカリバーのもう一つの発射地点になるようにコードを送った」
 まぁ、バフをかけると言って組み込ませたがな、と続け匠海はエクスカリバーを一振り、それからチェルノボグに切っ先を向ける。
 匠海の言葉に、ピーターは納得したものの、それでも驚きの連続だった。
(さっきの光、エクスカリバーの……? まさか、フロレントの斬撃波を模倣コピーしたっていうのか? あの短時間で? まさか)
 ほんの数回しか見ていない攻撃を短時間で解析し、模倣してエクスカリバー自分のツールに組み込んだのか、とピーターが唸る。
 そんな芸当ができる魔術師など、見たことがない。
 しかも、そのツールを一時的に適用できるツールにして共有するなどピーターには決して真似のできないことだった。
 何者なんだ、とピーターは透明になった壁越しに匠海を見る。
 匠海はちら、とピーターに視線を送り、それからチェルノボグを見据える。
「あれだけ暴れたんだ、お前ももう手はないと思うが?」
「くっ……」
 チェルノボグが歯ぎしりする。
赤の城塞クレムリン悪霊ズロィドゥーフも攻略された今、チェルノボグには匠海に対抗する手段がない。
 それでも。
「貴様だけは、私が斃す!」
 チェルノボグが吼えた。
 それと同時に、周囲に無数の燃え盛る弾頭を展開、弾幕として匠海に放つ。
「あいつ、まだやる気か!?!?
 匠海が驚愕の声を上げる。
 声を上げると同時にエクスカリバーを構え直し、飛来する弾頭を斬り捨てる。
 だが、その動きは鈍く、数発がアバターを掠めていく。
「――っ!」
 視界中央に大きく表示される【WARNING】の文字。
 ――エクスカリバーの反動が大きすぎる!
 ブースターなしで、改造したエクスカリバーの最大出力を放った反動は匠海の想定を大きく上回っていた。
 アバターの動作に遅延が生じ、チェルノボグが放つ弾頭を捌ききれない。
 しかも、相手が放つ弾頭にはAHOが組み込まれており、アバターのダメージ部分からオーグギアに侵入、さらに負荷をかけていく。
 匠海の顔から余裕が消える。
 ――まずい、もたない。
 咄嗟にエクスカリバーで被弾部分を改変処理すると同時に侵入してくるAHOを除去するが、間に合わない。
「さっきまでの威勢はどうした!」
 そう言いながらチェルノボグが一際大きく収束させたAHOを展開、火球に加工し匠海に向けて解き放つ。
 ――避けられない。
 迫りくるAHO火球に、匠海はただそれを見るしかできなかった。
アーサーアバターもオーグギアも限界で、これ以上動けない。
「アーサー!」
 壁越しにピーターが叫ぶ。
「どうした、アーサー! 避けろよ!」
 ピーターが、壁を砕こうとフロレントを叩き込むがびくともしない。
「アーサー!」
 そう、叫んでからはたと気付く。
 ――まさか。
 ピーターが初めて匠海と戦った時、何が決め手で勝てていたのか。
 あの時は――。
 ――さっきのエクスカリバーでリソース使いきったのか!?!?
 無茶をする、とピーターは思った。
 匠海は今回ブースターを所持していない。
 ここに来る前にショップに寄ることができればよかったが、時間が時間でショップ自体が開いていなかった。
 そのため、ブースターなしというハンデを背負ったまま現場に乗り込み、チェルノボグの妨害にあった。
 そこから改造エクスカリバーの最大出力である。リソースが残るわけがない。
 逆に、よくここまでもたせたな、と思い、ふう、と息を吐く。
 今、この状況で自分ができることは何か。
 チェルノボグを止め、カウントダウンを止められるのは誰か。
 この壁を破壊できないピーターはチェルノボグに一矢報いることはできない。
 チェルノボグを倒せる可能性を持つ匠海はブースターなしのリソース不足で動けない。
 それなら――。
「ええい!」
 咄嗟にオーグギアとのペアリングを解除し、ピーターは自分のブースターを左耳からむしり取った。
 隣でなんとか火球を回避できるようアバターとツールの最適化を試みる匠海の左耳に押し付ける。
「アーサー、使え!」
 そう叫びながら、ピーターは強引に匠海のオーグギアに侵入、彼の処理に割り込んでオーグギアとブースターをペアリングする。
 匠海の視界にあった【WARNING】の文字が消え、【BOOSTER CONNECTED】の文字が表示される。
 同時に全ての処理がブースターに移譲、高速演算により全ての負荷が解消される。
 直後、火球が匠海に着弾、爆発。
「はっ、威勢のいいことを言っておいて、その程度か!」
 チェルノボグが高らかに勝利宣言する。
 だが。
「それは、どうかな!」
 爆発の煙の中から匠海の声が響き、次いで煙を切り裂き光の斬撃がチェルノボグに向かって飛んでいく。
「な――」
 辛うじて斬撃を回避したものの、チェルノボグのローブがざっくりと切り裂かれる。
 爆発のエフェクトが消えていく。
 そこに、
「ルキウス、助かった」
修復ツールヒーラーエンジェルで被弾したダメージを修復した匠海アーサーが立っていた。
 その全身が光り輝き、見るものすべてを圧倒させる。
 ――まさか、これが。
 ――万全のコンディション。
 チェルノボグとピーターが同じことを考える。
 チェルノボグは「今まで本気を出していなかったのか」と思い、
 ピーターは「これが本来のアーサーなのか」と思い知らされる。
 ――こんな奴に。
 ――勝てるわけがない。
 光を纏ったエクスカリバーをくるくると回し、匠海がチェルノボグを見る。
「悪かったな、ブースターを持ってきていなかったから本気を出せなかった」
「ブースターを、持ってきていなかった、だと?」
 ふざけるな、とチェルノボグが吼える。
「貴様は! どれだけ私をコケにすれば気が済む!」
「コケにする気はない。だが――」
 匠海がエクスカリバーを構え直し、切っ先をチェルノボグに向ける。
「この俺を怒らせたこと、後悔させてやる!」
 匠海を中心として、不可視の波動が広がる。
「な――」
 全てを圧倒するようなその波動に、ピーターの声が詰まる。
 ぞっとするような、もうそれだけで魂を刈り取られるかのような錯覚すら覚える、殺意。
「お、おいアーサー……」
 あまりの殺意に怯んだピーターが思わず匠海に声をかける。
 チェルノボグも背筋が総毛立つような殺意に一瞬怯むものの、こちらも相手を射殺すかのような視線を匠海に向ける。
「次の一撃で」
「決める!」

 

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