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光舞う地の聖夜に駆けて 第5章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

 匠海、ピーター、タイロンの3人はそれぞれきっかけは別だったものの同じテロ阻止のため、手を組むことにする。
 匠海とピーターのタッグでテロの首謀者、イーライを特定した3人は弾道ミサイル発射の現場に向かって移動を開始する。
 その途中で電波のローカルネットワーク構築による無人運転のトラックの群れに襲われたもののタイロンがそれを撃退。
 弾道ミサイルの発射現場に到着した3人はテロリストを無力化、イーライが連邦フィディラーツィアから供与を受けていた生産型の大型ニェジットに苦戦したもののこれを撃破、イーライも無力化する。
 しかし、弾道ミサイルはイーライによって発射シークエンスを終了され、カウントダウンが始まってしまう。
 それをハッキングで止めるべく動いた匠海とピーターだったが、目の前に巨大な防壁を築かれ、行く手を阻まれる。

 

「まさか、GWTだけでも?!」
 ピーターがどうしよう、と匠海を見る。
 続きを言え、と匠海がイーライに促す。
「ああ、言ってやるさ。俺は仲間に依頼してGWTに爆弾を仕掛けた。起爆は――GWTがネットワークに接続した瞬間」
「な――」
 匠海が言葉に詰まる。
 今日はGWT完成式典である。そのクライマックスが、Gougleゴーグル社CEOによるGWTの量子ネットワーク接続ボタンの押下だったはずだ。
 休暇直前に課長とうふが言っていたから憶えている。
 つまり、現時点ではGWTはネットワークに接続していない。
 それが接続された瞬間――
「ああ、それと、爆弾自体はGWT以外に接続していない。ハッキングで止めるにはGWTに接続しなければいけないぞ」
「つまり……」
 ――ハッキングのためにGWTへ接続、した瞬間にGWTがネットワークに接続したと認識される。
「……どこまでも卑怯な奴だな」
 ぎり、と歯軋りしながら匠海が呟く。
「どうすんだよ、今からGWTに行くか?」
 式典のネットワーク接続いつだよ、とピーターがGWT完成式典の案内ページを見る。
「……二十時か……いずれにしても間に合わねえ……」
 今は十五時、五時間じゃアラスカからニューヨークまで行けるわけがねえ、と頭を抱えるピーター。
 そんなピーターに、
「五時間じゃない、一時間だ」
 低く、匠海が呟いた。
「え? 一時間って……」
 どういうことだよ、とピーターが疑問を口にする。
 それに小さく溜息を吐き、匠海はピーターの視界にアメリカの地図タイムゾーンを表示した。
「ここはアラスカ標準時AKST、GWTはニューヨークだから東部標準時ESTだ。時差は四時間、向こうはもう十九時だ」
「あっ……」
 思わずピーターが声を上げる。
 完全に失念していた。
 残り一時間を切っている、爆弾がネットワークに接続されていない、接続することができない以上こちらから打てる手は残っていない。
「今からGWTに連絡を!」
 ピーターが声を上げるが、タイロンが無理だと首を振る。
「俺たちが連絡したところで信じてもらえるものか、いや、間に合うものか」
 ニューヨーク市警NYPDに連絡しても間に合わないかもしれないし確実にパニックが起きる。
「爆弾の位置は!」
 間に合わない、誰もがそう思っているのに匠海がイーライにそう問い詰める。
「地下の基礎部分にたっぷり仕掛けてあるよ。GWTが量子ネットワークにつながった瞬間を監視できるようにした特別製の起爆装置と共にな」
 だが、それを知ったところでどうなる? 連絡してもNYPDの解体班ではどうすることもできない、とイーライが勝ち誇った笑みを浮かべる。
 だが、それに対し、匠海は、
「ああ、よく分かった、協力感謝する」
 ピーターもタイロンも諦めの色を浮かべる中、ただ一人不敵な笑みを浮かべてそう返事した。
 匠海のその笑みに、イーライも困惑する。
 まだこの男は手を隠し持っているのか、と。
「どういうことだ。もう君たちには何もできないはずだ」
俺たちはな」
 そう言いながら、匠海がオーグギアを操作し連絡先電話帳を開く。
「言ったよな、イーライ。『常に次善の策を用意しておく』と。だが、案外簡単なことで覆されるものだぜ?」
「どこに連絡する気だ?」
 イーライが言葉を発する前にタイロンがそれを代弁する。
「ああ、上司にな」
 そう言いながら、匠海が発信ボタンをタップする。
 上司? と怪訝そうな顔をする匠海を除く三人。
「なんでユグドラシルの上司に連絡すんだよ! サンフランシスコからでもニューヨークには間に合わないだろ! 気でも狂ったか?!」
 ピーターが抗議するが、彼のその言葉に匠海がふふっと笑う。
「なんだよきめえな」
「間に合うんだな、それが」
「「な――」」
  ピーターとイーライが同時に声を上げる。
「間に合うだと? そんな、馬鹿なことが!」
 信じられない。それは他の二人も同じだった。
 その上司とやらがその場にいるのなら話は別だが、そんなうまい話があるわけない。
 その一同の思いを察したのだろう、匠海がニヤリと笑う。
いるんだな、それが」
 匠海がそう言ったタイミングで、電話の相手が応答する。
「きたきた。じゃ、俺は話つけてくるから――ああ、とうふ、完成式典はどうだ?」
「本当にいたぁーーーー?!」
 ピーターの絶叫を尻目に、匠海は通話相手――とうふと会話を始めた。

 

to be continued……

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