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世界樹の妖精 -Brownie of Irminsul- 第8章

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  第8章 「『円卓の城キャメロット』で『銀十字シルバークルツ』は真実を選択する」

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 アメリカに建造された四本の「世界樹」がネットワークインフラを支える世界。
 ロサンゼルスのハイスクールに上がったばかりの永瀬ながせ 匠音しおんは駆け出しのホワイトハッカーとして巨大仮想空間メタバースSNS「ニヴルング」で密かに活動していた。
 通学途中で聞いた都市伝説、義体の不具合時に現れるという小人妖精ブラウニーを目の当たりにしたり、ホワイトハッカーとして校内のトラブルを解決していた匠音はある日、幼馴染のメアリーの「ニヴルング」での買い物に付き合っていた際、怪しげな動きをするアバターを発見通報する。
 その際に起動された爆弾から彼を救い、叱咤する謎のハッカー。
 弟子入りしたいという匠音の要望を拒絶しつつもトレーニングアプリを送り付ける魔法使い。
 それを起動した匠音はランキング一位にかつてスポーツハッカーだった和美母親のスクリーンネームを見つけ、このランキングを塗り替えるとともに謎のハッカーと再会することを誓う。
 そんな折、メアリーが「キャメロット」の握手会に行くことになるがトラブルに巻き込まれてしまう。それを助けたもののハッキングが発覚して拘束され、メアリーの機転で厳重注意のみで済むものの、和美にはハッキングのことを知られ辞めるよう強く言われる。
 それでも諦められず、逆に力を付けたくて匠音は匠海のオーグギアに接続し、父親のビデをメッセージを見る。
 その際に手に入れた「エクスカリバー」の性能を知りたくて手近なサーバに侵入する匠音、しかし「エクスカリバー」を使いこなせず通報されかける。
 それを謎の魔法使いこと黒き魔女モルガンに再び助けられ、ログアウトした匠音は和美にハッキングのことを詰められる。
 ハッキングを禁止する理由も、匠海のこともはっきりと教えてくれない和美に反抗し、匠音は家を飛び出し、祖父、白狼しろうのもとに身を寄せる。
 白狼からハッキングを教わりたいと懇願し、OKが出るが教えてもらえるのはPCハックオールドハック
 父親の事故の真相を聞きつつもそのハッキングに嫌気がさした匠音はブラウニーの姿を見つけ、追いかけてしまう。
 ブラウニーが逃げ込んだ先で匠音は男に声を掛けられる。
 ブラウニーについて調べてほしいという男は用意した義体にわざと不具合を起こさせ、ブラウニーを呼び出すことに成功する。
 ブラウニーを追跡する匠音。しかしブラウニーが逃げ込んだ先はメガサーバ世界樹「イルミンスール」だった。
 イルミンスールに侵入するうちに自信の才能を開花させる匠音。
 しかし、そんな彼の前にイルミンスール最強のカウンターハッカー、「ルキウス」が立ちふさがる。
 匠音を追い詰める「ルキウス」。だが、その「ルキウス」のアカウントを停止させたのは匠音をイルミンスールへと誘った謎の男であった。

 

 
 

 

 匠音が「Oberonオベロン」を構築する樹の幹に触れた瞬間、すぐさま振り返り男のアバターに向かって片手を振る。
 その手から放たれる棘状のデータ片。
 しかし、男もそれは想定していたのかすぐに防壁を展開、棘は防壁に阻まれて床に落ち、消滅する。
「……くっ、」
「まだ私に歯向かおうというのか? 無駄な足掻きはよせ」
 男の前に展開された防壁が消失し、その代わりに男の手に鎖が出現する。
 拘束する気だ、と匠音は瞬時に察知した。
 咄嗟に匠音も防壁を展開する。
 男の手から放たれた拘束の鎖バインドチェインが匠音に襲い掛かる。
 ――躱せる!
 これは以前見た。
 「黒き魔女モルガン」に初めて会った時、彼女は匠音に向かってこの鎖を展開した。
 あの時匠音は回避しきれず拘束されてしまったが、あの時とは違い男の攻撃には展開モーションがあった。
 展開速度も「モルガン」のそれとは比べ物にならないほど遅く、防壁が破られたとしても次の対策ツール展開は充分に間に合う。
 だが、男が放った拘束の鎖バインドチェインは匠音が展開した防壁に触れた瞬間、それをいともたやすく侵食し、突き破った。
「――な!?!?
 同時に防壁が凍結し、砕け散る。
 ――最高位アカウントスーパーアカウント!?!?
 イルミンスールの管理に携わる管理者アカウントアドミニストレータ権限を上回る最高位アカウントスーパーアカウントによる攻撃だと、匠音は直感で察知した。
 ただの管理者権限ではイルミンスールの全てに触れることはできない。
 それを上回るスーパーアカウントは緊急コードを含めてイルミンスールの全ての機能を制御することができる。
 それこそ、イルミンスールを緊急停止できるレベルには。
 そしてその効果範囲は「イルミンスール内で使われたツール」にも影響するのだろう。
 ハッキングで無効化されるのとはまた違うツールの無効化に、匠音は「ルキウス」をアカウント停止に追いやった男がアドミニストレータ以上の権限を持った存在であることを痛感した。
 ――こんなの、勝ち目がない。
 拘束の鎖バインドチェインが匠音に迫る。
 だが、鎖が匠音に触れようとした瞬間、周囲の風景が変わった。
 ざあっ、と風に舞う花びらのようなデータ片が匠音と男の視界を閉ざす。
「なんだ!?!?
 男がスーパーアカウントの自分が持つ権限でデータ片を払い除けようとするも飛び交うデータ片はそれをものともせず二人の間を舞う。
 データ片は、舞い始めた時と同じように唐突に消え去った。
 匠音の目の前に巨大な城が現れる。
「……」
 匠音は息を呑んだ。
 イルミンスールの内部に、こんな城が?
 一体どういうことだ、Oberonのシステム内が妖精王オベロンの居城のように構築されているというのか。
 匠音が振り返る。
 そこには男の姿がなかった。
 匠音の視界に表示されるステータスからも男のVRビュー共有が消えている。
 先ほどとは全く異なる空間。
 ふと、匠音はこの空間が初めて「モルガン」と出会った時に展開された領域に似ていることに気が付いた。
 まるで空間そのものが「イルミンスール」から切り離されたような、そんな現実味の薄れる空間。
 匠音が一歩、城に向かって踏み出す。
 彼には今の状況がOberonそのものが自分を誘っているように見えた。
 「お前には知る権利がある」と言った声が示したのはこのことだったのか、と。
 男にこれが見えていないのなら、と匠音は城に足を踏み入れた。
 城の中はがらんとしていた。
 データ片が宙を舞い、幻想的な雰囲気を漂わせている。
 城はゲームでよく見るような豪奢なものではなかった。
 石造りの、堅実で堅牢な、中世の城。
 奥へと踏み込むと広間のような空間に出る。
 そこには大きな円卓が一つ。
 いくつもの椅子がぐるりと取り囲み、その一番奥に、
「……あ……」
 ブラウニーが座っていた。
 中世の城に円卓、そして目まぐるしく変わる個数の椅子。
 昔読んだ本で覚えがある。
 アーサー王伝説の円卓は常にアーサーを含めて十二人の騎士が存在した、しかし文献によってその数は変動し、多いもので千六百も円卓の騎士は存在した、という記述さえもある。
 まさか、と匠音が呟く。
 ブラウニーは、まさか。
「アー……サー……?」
 かすれた声で匠音が呟く。
 だが、この声をリアルで聞いているはずの男は何の反応もしない。
 いや、おかしい。
 何か視界に違和感を覚える。
 視界の各種UIを確認し、匠音はそこで違和感に気づいた。
 ――加速モード?
 VRビューで時折設定される加速モード。
 体感時間を加速させることで現実での一分をVRビューでの数分に引き延ばすモードが実行されている。
 それも、匠音が見たこともない加速度で。
 ――ブラウニーがやったの?
 匠音が改めて円卓の奥に座るブラウニーを見る。
 ブラウニーの姿がふっと揺らめく。
 そして、一人の男の姿に変わった。
「――あ……」
 匠音の口から声にならない声が漏れる。
 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。
 そんなことが、あるはずがない。
「どう……して……」
「こうやって顔を合わせるのは初めてだな、匠音」
 そう言って、ブラウニーだった男――匠海が、そう匠音に語りかけた。

 

「……父……さん?」
 かすれた声で匠音が問う。
 ああ、と匠海が小さく頷く。
「お前の話は和美から聞いてる。二人とも、今までよく頑張ったな」
 そう言いながら匠海は匠音に座れ、と椅子の一つを示す。
 うん、と、匠音は匠海の向かいの椅子に腰を下ろした。
「どうして、父さんがここに」
 座った途端、真っ先に匠音の口からそんな質問が出る。
 匠海は十五年前に事故で死んでいる。それなのにどうして目の前に。
 いや、VRビューなのは分かっている。
 それにしても何故匠海の姿がイルミンスールここで再現されているのかが分からない。
 しかも、直前まではブラウニーの姿をしていた。
 ぐるぐると匠音の中で思考が回る。
 ――何故、匠海父さんが。
 いや、ブラウニーの正体が匠海なのか、と匠音の思考は行き着いた。
 匠海が答えるよりも前に匠音が次の質問を投げかける。
「いや、ブラウニーが……父さん……?」
「そうだ」
 匠海が頷く。
「ブラウニーはイルミンスール外で活動するための仮初の姿だ。この姿で人目につくのは危険が多い」
「どういうこと」
 ブラウニーが匠海であることは肯定されたとしても疑問が多すぎる。
 匠音の頭の中で疑問だけがぐるぐると回る。
 はは、と匠海が笑った。
「まず一つずつ答えていこうか。ああ、お前の側に悪意を持った人間がいたみたいだから今この空間を超加速モードにしている。解除しても実時間で数秒程度だから安心していい」
 それなら、と匠音は頭の中を整理した。
 まず、何から聞こうか。
 やはり、匠海がここにいる理由か。
「……父さんは……生きてるの?」
 真っ先に思った疑問。
 あのビデオメッセージを考えて、匠海は表向き死んだことにしてどこかで生きているというのか。
 それを和美母親も分かっているが匠音にはまだ早いと伏せられていたのか。
 匠音の問いに匠海が苦笑する。
「何を持って『生きているか』にもよるな。俺は確かに十五年前に死んでいる。ここにいる俺はあくまでも俺の脳内データを元に再現された人工の魂AIだ」
「……AI……」
 ここまで精巧に人間を再現するAIが開発されていたとは驚きである。
 そして、そのモデルとして匠海が選ばれたことも同時に驚きである。
「どうして、父さんが……」
 何故、匠海がAIとして再現されたのか。
 他にもモデルにできそうな人間はいただろうに。
 いや、匠音は匠海に会いたくなかった訳ではない。
 生まれる前に死んだ父親とは言え、一度は会ってみたかった。言葉を交わしたかった。
 声を聞くことはあのビデオメッセージで叶えられたが、言葉を交わすことなどできるはずがない、と諦めていた。
 それなのにAIとはいえ今目の前に父親がいて、言葉を交わせる状態にある。
 それは嬉しいことなのだが――何故匠海がという疑問は拭えない。
 本当はもっと色々なことを話したい。しかし、それよりも先に疑問が出てしまう。
 匠音の質問に匠海が苦笑する。
「本来なら、俺が被検体になることはなかったんだろうが……和美が、義父さんを唆したらしい。『死なせないで』と」
「母さんと……祖父ちゃんが……?」
 ああ、と匠海が頷く。
「俺の生前の記憶は事故の瞬間までだからその後は和美から聞いた話だ。あの事故で助からないと言われた和美はニューロンネットワークを模倣したAIの研究をしていた義父さんに声を掛けたらしい。『被検体を探しているなら』と」
 匠海の言い分はこうだ。
 日和の研究はニューロンネットワークを模倣したAIの開発だったが、その段階で人間の脳内のデータを抽出することも理論上では可能となっていた。
 その二つが合わさり、「抽出した人間の脳内データをAIに移植し、ネットワーク上で稼働させる」という計画が持ち上がった。
 本来、AIの学習には多数の学習モデルを必要とする。
 しかし、その学習モデルを「完全な一人の人間の記憶と人格」に絞ることができれば――?
 その実験の被検体として事故に遭い瀕死となった匠海が選抜された。
 和美の、「匠海を死なせたくない」というたった一つの願いによって。
 そもそも、人間の脳内データの抽出は倫理委員会の強い反対によって頓挫状態となっていた。
 もし、流出すればその人間の人格や性癖などすべてがさらけ出されるのだと。
 それでも日和は「死に瀕した人間からデータを抽出し、AIに移植すればその人間をネットワーク上で生き永らえさせることができる、現在開発中の義体に組み込めば死を克服できる」と説得し、説き伏せた。
 ただ、その説得が通じるまでデータの抽出が行われなかったわけではない。
 説得を待つほど匠海には時間が残されていなかった。
 だから日和は説得する裏で極秘裏にデータの抽出を行った。
 その結果、匠海の死後にはなったが説得は成功し、その前に抽出されたデータも「消すことにより完全に死なせるわけにはいかない」と認可された。
 そのデータを使い、日和はまずイルミンスールの基幹システム管理AI「Oberon」をFaceNote社の要望で開発した。
 事故当時、イルミンスールはまだ建造されていなかった。しかし、FaceNote社がユグドラシルに次ぐメガサーバを建造するということで日和は多額の資金提供とイルミンスール完成の暁には膨大なストレージを用意すると約束され、開発中のAI「Oberon」をイルミンスールの管理AIとして最初に稼働させることを受け入れた。
 日和とて一人の研究者、潤沢な資金と大規模な研究用サーバは喉から手が出るほど欲しかった。
 匠海をAIとして蘇らせるにしてもそういったものは大量に必要となる。だから日和はFaceNote社の条件を呑み、イルミンスールに移籍した。
 まず管理AI「Oberon」を開発、そこに匠海のデータを移植した。
 イルミンスール稼働開始直後の「Oberon」はただ淡々とデータ処理を行うだけのAIだった。
 それでも一年、また一年と経過するうちに「Oberon」は移植された匠海のデータを学習し、目覚ましい速度で成長していった。
 その成長の一環で、「Oberon」は義体制御OSを分化させた。
 イルミンスールの基幹システムは一般にはブラックボックスとなっているため義体制御OSの方が「Oberon」として売り出され、一般的に知られるようになった。
 それでも義体が一般流通するようになった時、「Oberon」に人格はまだ芽生えていなかった。
 「Oberon」が全ての脳内データの学習を完了し、「匠海」としての自我を持ったのは事故から十年ほどが経過したことだった。
 イルミンスール内で目覚めた匠海は日和の連絡を受けて「ニヴルング」にログインした和美と再会した。
 十年という空白の期間は存在したが匠海は確かにAIとして蘇った。
 そこで匠音息子のことを聞かされ、彼がもう少し成長したら会わせるということになった。
 この時点では匠海も目覚めたばかりで、辛うじて学習元の記憶データから事故直前までの状況を把握したばかりだった。
 あれから約五年。「Oberon」の人格としても定着した匠海は時折「ニヴルング」で和美と逢瀬を果たし、時には義体制御システムから送られるシステムエラーを察知しては姿を変え修復しに行くようになった。
 元々魔法使いウィザードとしてもハッキングができた匠海は義体制御システムのシステムエラーを修正することくらい朝飯前だった。しかもAIとなった今はコード入力もイルミンスールの演算能力を使いほぼノータイムで行える。
 そうやって、匠海はネットワークを利用し人々を影で助ける妖精ブラウニーとなった。
 それが都市伝説として広がっていった。
 そしてそれが、イルミンスールと義体の関係。
 匠海の説明に、匠音が大きく息を吐く。
「……父さんが、イルミンスールの……」
 ああ、と匠海が頷く。
「今はイルミンスールの管理AIとして機能しているが管理AIに自我は必要ないから今分離作業を進めている。今のままでは俺の主観で管理することになるからな」
「でも、分離したら……どうなるの」
 素朴な疑問。
 今、匠海がイルミンスールの管理AIとして機能しているのにも関わらずその自我部分を分離するとなればどうなるのだ。
 イルミンスールから切り離された匠海は匠海としてネットワークで生きることができるのか、それが純粋に気になる。
 それとも、全ては「そのため」の準備だというのか。
 突然の事故という形で別れを迎えることになった和美が心の整理を付けるための。
 匠音の胸に過った不安に気付いたか、匠海がふっと笑う。
「分離が成功すれば俺は『ニヴルング』の住民として生きることができる。流石に俺みたいなごく普通の人間がイルミンスールの管理なんて荷が重すぎるんだよ」
 いずれは全身義体のアンドロイドとしての実証実験にも付き合うかもしれない、と匠海はさらに笑う。
「父さんは――それでもいいの?」
 思わず匠音の口からこぼれた疑問。
 匠海が笑うのをやめ、匠音を見る。
 いや、違うんだと匠音が手を振って否定する。
 別に匠音は匠海といたくない訳ではない。むしろそうなってほしいと、匠海の話を聞いて痛感した。
 しかし、本当にそれでいいのか。そんな疑問が脳裏をよぎる。
 確かに死の間際に脳内データを抽出し、それをAIとして義体に移植すればこの世で生の続きを楽しむことができるだろう。
 それでも、本当にそれでいいのか。
 生物の死はそこで終わるべきものであって人の手によって続けるべきではない、と、匠音はふと思った。
 だからずっと匠海の死は受け入れてきたつもりだったしビデオメッセージで声を聴けたことで自分の中で一つの区切りをつけたつもりだった。
 それなのに。
 目の前で、ネットワーク内だけとはいえ、こうやって対面してしまうと揺らいでしまう。
 勿論、目の前の匠海が生前の彼を再現したAIであることは分かっている。
 それでも、もし共に生きることができるかもしれないと言われると、揺らいでしまう。
 父さんは死んだんだからそのまま眠らせてほしかった、という気持ちとAIであったとしても共に生きたいという気持ちが鬩ぎ合う。
 だがそれはあくまでも匠音の主観。匠海は、実際はどう思っているのだろうか。
 目の前の匠海はAIであって本人ではない。本人の本心はもう聞くことができない。
 AIとしての匠海は、このことをどう思っているのだろうか。
「……正直、和美のしたことは間違っていたと思っている」
 ぽつり、と語られる言葉。
 えっ、と匠音が匠海を見る。
「人は死を受け入れるべきだ、と俺は思う。だが、それでも俺が和美の立場だったら同じことをしたんじゃないか、とは思っている。人間は……大切な人を失いたくないと思うものだから」
 和美の行動は間違っていたかもしれない。しかし、その結果、現在匠音の目の前に匠海がいる。
 その思考は人間のそれと大差なく、本当に、匠海が生きていたらそう言ったのではないかと匠音は思った。
「本来なら俺は消えるべき存在なんだと思う。だが、和美が生きてほしいと願うなら俺はその願いを叶えてやりたい」
「父さん……」
 匠海自身は自分の死を受け入れているような言葉に匠音が悲痛そうな声を上げる。
 自分としては現世にとどまっていてはいけない、しかし愛する和美がそれを望むなら、という覚悟に匠海の人柄を感じてしまう。
「……匠音、お前はどうしたい?」
 不意に、匠海がそう問いかけた。
「え――」
「今回、お前をここに呼んだのはお前が悪意を持った人間に利用されていることに気づいたからだ。しかも、その悪意の矛先は俺に向いている」
「父さん、に……?」
 ああ、と匠海が頷く。
「イルミンスールの運営は『Oberon』から分化したブラウニー――俺という自我を持ったAIを独占的に利用しようとしている。そのために……」
「俺を使って、ブラウニーを……父さんを、捕まえようとした……」
 確かに独自判断でネットワークを自由に移動し、義体のコード改変というハッキングすら可能なAIを巨大複合企業メガコープが独占的に利用したいと考えるのはよく分かる。
 今はイルミンスール――FaceNote社のみがその事実を知って追跡しているかもしれないが他の企業もそれを知れば手出しはしてくるだろう。
 そうなれば、メガコープ同士での戦争も十分あり得る。
 実際、メガコープが覇権を巡りそれぞれの所有軍を使った小規模な小競り合いは起こっているし時々ニュースで報道もされる。
 それがもし、ブラウニーを巡るほどのぶつかり合いとなれば企業間紛争コンフリクトのレベルを超えた「戦争」が発生してしまう。
「止めなきゃ! 俺、あのおっさんをなんとかしないといけない!」
 円卓に手を付き、匠音が立ち上がり声を上げる。
「俺にそれを言うってことは、父さんは自分でそれを止める権限がないってことなんだよね? だったら――」
「そうだな、俺はイルミンスールをハッキングすることはできない。まぁ……その権限を書き換えればできるんだが、そんなことをすれば俺は確実に消される。和美や義父さんの身も危なくなる。だから、俺は自分の意志で権限を書き換えることはできない」
「じゃあ、俺が――」
 匠海が自分の意志で権限を書き換えられないなら外部からハッキングして書き換えればいい。そう思った匠音は匠海に名乗りを上げる。
 しかし、匠海はそれを首を横に振ることで却下した。
「なんで!」
「この事態を収拾できるのは俺じゃない、生きた人間だ。お前が俺の権限を書き換えたとしても、何も解決しない」
「……」
 そんな、という言葉が匠音の口から洩れる。
 自分にできるのは、恐らく匠海の制限を解除する程度の事だけ。
 FaceNote社の思惑を、ブラウニーを捕らえるという計画を阻止するには匠音はあまりにも幼すぎる。
 結局、俺は何もできないのか、と匠音が拳を握り締める。
「俺は、どうすれば……」
 ここに呼んだのなら、俺だって何かできることはあるはず、と匠音は目の前の匠海を見た。
 ただ、自分の息子を助けるためだけにこんなリスキーなことをする「人間」ではないはず。
 匠海が小さく頷き、口を開く。
「お前は俺の存在を世間に公表しろ」
「えっ」
 その提案は匠音の想定を大きく外れていた。
 十五年前に死んだ匠海がAIとして生存していることを、イルミンスールの管理AIとして機能していることを、公表する?
 そんなことをして黙っている企業があるはずがない。
 それこそ多くのメガコープが匠海を手中に収めようとするだろうし、それに――。
「俺の存在を公表してしまえば、FaceNoteは俺を利用することはできなくなる。まぁ……俺を狙う奴らは出てくるが俺には倫理委員会の後ろ盾がある。下手に手出しはできないはずだ」
「でも……」
 存在を公表するということはその全てをさらけ出すことにつながるのではないのか。
 それに、FaceNoteが日和に責任を擦り付けてデータの削除を強制執行する可能性もある。
 そんなことになれば、匠海という存在はこの世から完全に消されることになる。
 それでいいのか、と匠音は匠海に問うた。
「父さんが、消えることになってもいいの?」
「俺は元々死んだ存在だ。『死人に口なし』、FaceNoteがデータを削除すると決めたなら俺はそれに従う」
「……だ……」
 匠音の口から言葉にならない声が漏れる。
 どうした、と匠海が匠音に声をかける。
「……いや、だ。父さんを、消したくない!」
「匠音……」
 匠音の叫びに、匠海ははっとしたようだった。
 確かに自分が消されるという可能性はゼロではないが確定でもない。
 ただ、倫理委員会の後ろ盾があったとしても自分はFaceNote社の所有物、他の企業の手に渡るくらいならと全データを削除される可能性は非常に高い。
 FaceNote社の決断ならそれを受け入れる覚悟はできていたが、問題はもう企業だけのものではない。
 匠音という生前の自分が遺した息子も巻き込まれて、ただはいそうですかと消されるわけにはいかないのだと、匠海は気が付いた。
 ちらり、と匠海の思考パターンにノイズが混ざる。
 それが何かを考え、匠海は、
 ――ああ、匠音に対して罪悪感を抱いたのか。
 そう、「理解」した。
 自分の都合だけで匠音を、そして和美を悲しませるわけにはいかない。
 自分が消えない道を模索しなければいけない。
 匠音に「そう深く考えるな、消されるはずがない」と「嘘を吐く」こともできない。
 いくら「自我」らしきものが芽生えた存在であっても匠海はAI。嘘を吐くことはできない。
 AIが嘘を吐くということは人類への裏切りだから。
 間違った発言はできたとしても、嘘を吐くことはAIには許されていない。
 だから、「俺は消えない」と断言することはできなかった。
「……匠音、すまない」
 たった一言、謝罪する。
 結局俺は、父親として失格だな、と。
 だが、匠音は首を振って、それから匠海を見る。
 そのまっすぐな視線に匠海が一瞬たじろぐ。
 その目は絶望に沈んだものではなかった。
 まだ希望を棄てていない、勝利を求めた貪欲なもの。
 ――ああ、これだ。
 これを、待っていたんだと匠海は納得する。
 自分の全データのアーカイブにあったかつての自分を見たような気がして匠海は思わず笑みをこぼした。
 今、目の前にいる匠音はかつて絶望的な状況でもなお和美に向けた自分と同じ顔をしているのだろう。
 「絶対に負けない」、いかなる手を使っても勝利を掴み取る、という決意の顔。
 そうだ、状況は絶望的になものに近いかもしれないが完全に敗北が決まったわけではない。
 それに匠音には味方がいる。
 匠音はまだ気づいていないだろう。だが、和美も白狼しろうも彼を助け出すために動いている。
 そこまで考えて匠海はふと気が付いた。
 匠音は二人が動いていることを知らない。二人は匠音の現在地を把握していない。
 それなら、と匠海は思考のバックグラウンドで一つのデータを送信する。
 ――これで、気付いてくれ。
 今の俺にできることはこれだけだ、と祈るように思考を巡らせ、匠海は匠音に視線を投げた。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

 イルミンスールに侵入していた和美と白狼は最深部に向かう途中でそこへ向かうルートが封鎖されていることに気づいた。
 キーボードに指を走らせた和美がまさか、と呟く。
「おじいちゃん、まさか、匠音の侵入が察知されて――」
《それ以前に匠音一人で最深部に侵入できたのか? そんなことが――》
 あり得ない、という白狼の呟きが和美に届く。
 白狼も匠音のハッキングの腕はある程度把握していた。
 到底一人で最深部に侵入できるほどの腕ではない。侵入したとしても早い段階で察知され、逃げ回るので精一杯だろう、そう思っていたが。
 現時点でイルミンスール内を逃げ回る侵入者は存在しない。それはカウンターハッカーの動向を見ていて分か。る
 逆に、最深部へのルートが封鎖されているということはイルミンスール側は誰かにそこまで侵入されていると考えるのが妥当だろう。
 侵入ルートを封鎖し、離脱ルートも塞ぐ。そうすれば侵入者は塞がれたルートをこじ開けるか緊急ログアウトするくらいしか打てる手はない。
 緊急ログアウトは形跡が残るため踏み台を多数使用していてもいずれは侵入者本人に届く。それゆえに避けられている手法だから現時点で侵入者は袋のネズミ。
 しかし和美と白狼が一人のカウンターハッカーの視界をこっそりジャックして確認した限りイルミンスールの封鎖エリア外に匠音がいる気配はない。つまり――。
「あり得ないということはあり得ないわ、おじいちゃん。匠音は――『シルバークルツ』は最深部に、侵入してる」
 そこで和美の脳裏にかつての記憶が蘇る。
 十五年前、匠海が和美を「モルガン」だと気付いた時の事。
 あの時、匠海は和美のオーグギアをハッキングしていた。
 それに気づいた和美は逆に匠海のオーグギアを掌握し、鏡の迷宮へと閉じ込めた。
 存在が確定しない魔術師のままでいるために、匠海を殺そうとした。
 その時の匠海は既にスポーツハッカーとしてある程度の名を上げていたが和美のハッキングには遠く及ばず、世界樹を攻めるなどあり得ないというレベルだった。
 だが、あの時匠海は「覚醒」した。
 わずかに残された自分のオーグギアのリソースを使い、本来ならPCで行うオールドハックをオーグギアで行い、和美を打ち負かした。
 それまでの匠海にはできなかったことだ。それが、「殺されるかもしれない」という出来事がトリガーで彼を一気に成長させた。
 それを目の当たりにしたから、匠音がイルミンスールの最深部に侵入した可能性はあり得ないと断言できない。
 匠音もまた、魔術師マジシャンとして覚醒したのだと。
 証拠も何もないが断言してもいい、と和美は思う。
 それは白狼も同じだったのか、「そうだな」と頷いた。
 しかし、匠音が覚醒したとしてもイルミンスールの最深部が封鎖されていては離脱もままならないだろう。
 ここは自分たちで封鎖を解くしかない。
 幸い、二人とも侵入は察知されていない。いや、デコイは蒔いたがイルミンスールのカウンターハッカーたちは同時期に侵入していた匠音以外の別の魔術師だと誤認して追跡している。
 早く匠音と合流したいところだがそれよりもリアルの彼の所在地も気になる。
 何者かによって書き換えられた匠音の所在地は未だに特定できていない。
 ハッキングによって改ざんされたならまだその痕跡を辿ればよかったが管理者権限で書き換えられたデータはどれも正規のものと認識されてしまい、特定することができない。
 手詰まりか、と二人は考える。
 早く匠音の居場所を特定しなければ彼の身も危ない。
 イルミンスールに侵入させて、通報されればリアルでも拘束されるし場合によっては匠音に危害が加えられる可能性もある。
 そこで「最悪の事態」に思考が飛躍し、和美の手が一瞬止まる。
 ――匠音が……それは……。
《……和美さん?》
 白狼の声に和美が我に返る。
 今はそんなことを考えている場合ではない。
 なんとしても匠音の居場所を見つけ出さなければ。
 イルミンスール最深部への道を開こうとしつつも和美は別ウィンドウに表示させた匠音の位置情報に視線を投げる。
 十数個点滅している地図上の光点。そのどれもが比較的近くなので一つずつ当たるかと考える。
 比較的近くとはいえ全て回るには時間がかかる。その間に何かあっては遅い。
 どうすれば特定できる、と和美が考えた矢先。
 不意に、光点が揺らめいた。
 十数個の光点が一斉に揺らめき、一つを残してすべて消える。
「え――?」
 自分の家からも白狼の家からも比較的近いビルの一角。
 まさか、と和美が呟く。
「おじいちゃん!」
《ああ、儂も確認した》
 和美の意図を酌んだ白狼も声を上げる。
《位置情報を複数に分散させることは簡単でも完全に欺瞞することは難しい、そう考えると多分これが匠音の居場所だろう。和美さん、後は任せていいか?》
 匠音を助けに行く、と白狼が和美に告げる。
 だが、和美はそれを首を振って拒絶した。
「いいえ、おじいちゃん、わたしが行く」
《しかし和美さん、危険だぞ。ここは儂が――》
 和美が助けに行くのは危険だ、それなら何かあったとしても影響の少ない自分がと白狼は和美を説得する。
 しかし和美はそれよりも、と応える。
「おじいちゃんは魔導士ソーサラーじゃないでしょ。おじいちゃんが移動したらハッキングできるのがわたしだけになる。ここはわたしがハッキングしながら匠音を助けた方がリスクは少ないの」
《和美さん……》
 魔導士ソーサラーが、オーグギアに展開した旧世代PCエミュレータを使用したオールドハックを行う存在だということは白狼も理解している。それでいて、白狼はそのエミュレータを使用せずにPCのみでのハッキングを行っている。
 つまり、白狼が匠音を助けるために動けばハッキングの手は止めざるを得ず、和美一人でハッキングしなければいけなくなる。
 それに対しオーグギアからでもオールドハックができる和美は移動しながらでもイルミンスール側にアクセスすることができる。
 リスク分散を考えれば白狼より和美が移動した方が安全だろう。
 分かった、と白狼は頷いた。
 本当なら自分が行くべきだとは今でも思っている。
 いくら歳を取っているとはいえ自分は男、オーグギアでのハッキングも考慮して体力は付けているから多少腕に自信はある。
 それでも匠音や和美がイルミンスールで捕まるリスクを考えると確かに白狼が今離脱するのは危険すぎる。
 だから不本意ではあったが和美に行かせるしかなかった。
 和美が手早く回線をPCからオーグギアのエミュレータに切り替え、立ち上がる。
 バッグにクローゼットの奥にしまい込んでいた拳銃を押し込み、深く息を吐く。
 できるなら使いたくないが、状況によっては使うしかない。
 ――匠音、必ず助けるから。
 そう、自分に言い聞かせるように呟いて和美は家を飛び出した。
「あ、おばさん!」
 家を出たところでクッキーを手にしたメアリーが顔を出す。
「あの、匠音、まだ帰ってないんですか……?」
 帰ってきたならクッキー食べてもらいたくて、というメアリーに和美が「ごめんね」と言う。
「もしかしたら、連れ戻せるかもしれない。メアリーちゃんは心配しないで」
 そう言い、和美は廊下を走る。
 その途中で一度立ち止まって振り返り、和美はメアリーに声を掛けた。
「今、ちょっと大変なことになってるかもしれない。多分メアリーちゃんに影響はないだろうけど――『ニヴルング』に行くなら気を付けて」
「え? ええ……? あ、はい、分かりました」
 きょとんとしたメアリーが頷く。
 それを見届け、和美はエレベーターに乗り込んだ。
 数字が減っていく階数表示を緊張した面持ちで眺め、それから視界に映るキーボードスクリーンに指を走らせる。
「……匠音……」
 エレベーターが地上階に到着し、扉が開くと同時に飛び出す。
 ――間に合って!
 人ごみをかき分け、和美が走る。
 走りながらもイルミンスールの封鎖を白狼と共に破ろうと試みる。
 ――匠海がいれば――。
 ふと、そう祈る。
 ――匠海、匠音を守って――。
 もし、この事態を少しでもいい方向に導けるとしたら匠海しかいない。
 その匠海がこの事態を引き起こす引鉄トリガーとなっていることは理解している。そしてそのトリガーを用意したのが自分だということも。
 それでも。
 この選択を悔いたことはない。
 匠海のためなら地獄に堕ちてもいい、その覚悟で彼の脳内データを抽出することを日和に提案した。
 いや、「匠海のため」は自分のエゴだと自分が一番よく分かっている。
 もし、匠海が生きていたらそんなことを望んだのか。
 それに、AIとして再現された匠海はあくまでもAIで本人ではない。
 それも和美は分かっていた。
 それでも望んでしまったのだ。「たとえAIであったとしても匠海を蘇らせたい」と。
 その結果がこれだ。
 匠海はイルミンスール――FaceNote社に狙われ、匠音がそれに利用されようとしている。
 わたしのせいだ、と自分を責めるのは簡単だろう。
 しかし、そのために覚悟を決めたわけではない。
 匠海も匠音も必ず助ける、和美はそう呟いた。
 FaceNote社は魔術師マジシャン一人の力など重要視していないだろう。
 だがそれがFaceNote社の驕りであり慢心だ。
 今FaceNote社に立ち向かおうとしているのは「第二層ディープウェブ」に存在する魔術師の中でも存在が確定しない幻の存在と存在は確定しているものの誰も超えられないと言われる二人の亡霊ゴースト級魔術師。
 イルミンスールのカウンターハッカーなど二人にとっては赤子同然。
 ただ一人――「ルキウス」を除いて。
 あらゆるデータを凍結させる能力を持つ「凍てつく皇帝の剣フロレント」だけは二人にとって脅威である。
 それでも和美にはそれを阻止し得る切り札がある。
 匠海が遺した「勝利呼び覚ます精霊の剣エクスカリバー」、その改変能力が凍結速度を上回れば。
 匠音が「ルキウス」と遭遇していたら勝ち目はない。
 それまでに、匠音を救出しなければ。
 ――それでもし、匠海を諦めなければいけなくなれば?
 不意に、和美の脳裏をそんな声がよぎる。
 匠音の現在地に向かって走る和美の足が一瞬もつれる。
「匠、海……」
 ――もし、匠海か匠音を選べと言われたら?
 そんなの決まっている。匠音一択である。
 それなのに――どうして、躊躇ってしまうのだろう。
 匠海はもう匠海本人ではない。彼のデータから復元されたデータ上の存在。
 今を生きている匠音とは違う。
 それなのに、匠海を手放したくない、と思ってしまう。
 匠音を愛していないはずがない。匠海が遺した最後の希望を手放すはずがない。
 それでも、匠海を追いかけてしまう。
 諦めろ、と囁く声が聞こえる。
 今匠音を諦めればまだ匠海が助かるかもしれないという言葉に和美はもつれる足で走りながら首を振った。
 ――そんな誘いには!
 匠音を諦めてはいけない。匠音はこれからのハッキング界を変えていく、いや、違う。
 和美じぶんの希望。
 匠音は生きなければいけない。
 匠海の代わりとしてではない。この世に生を受けた、二人の血を継いだ一人の人間として。
 だから死者に縋ってはいけない。
 もしどちらかを選べと言われても選ぶべきは匠音。
 何を迷ってるの、と和美は自分を叱咤した。
 匠音がいると思しき建物まではあと少し。
 走りながら、和美はさらにキーボードスクリーンにコマンドを打ち込んだ。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

「父さん、父さんの存在を公表するにしてもイルミンスール側の妨害はあると思う」
 覚悟を決めたのか、匠音がそう匠海に確認する。
「イルミンスール……FaceNoteは他の企業に奪われるくらいならと父さんを消そうとするはず、だけど俺は父さんを消させたくない」
「だったらどうするつもりだ」
 まっすぐ自分を見据える匠音の目に、匠海はそれをまっすぐ受け止める。
「父さんの存在を公表するだけじゃ決定打にならない。やるなら、今俺を利用しようとしてるスーパーアカウントのおっさんとFaceNote自体の計画そのものを公表した方がいいと思う」
「なるほど」
 確かに、と匠海が頷く。
 匠音の言う通り、匠海の存在を公表するだけではFaceNote社は極秘裏に匠海のデータを削除して何事もなかったかのように、匠音の告発を虚偽として逆に訴えることができるだろう。
 しかしFaceNote社の計画そのものまで証拠と共に公表してしまえば。
 FaceNote社はもみ消すことが難しくなる。
 存在の公表と計画の公表により他の企業への牽制となり匠海の削除が免れる可能性は飛躍的に上がる。
 それこそ全てが公表されてしまった状態で匠海のデータを消すということは大衆が黙ってはいまい。そんなことをすれば企業イメージは大幅ダウン、業績の悪化へと直結し、上層部の入れ替えも起こりうる。
 保守的な考えを持つならそれは絶対に起こしたくない事態。
 その企業の心理を突けば匠海が残る道も見えてくるはず。
 分かった、と匠海は頷いた。
「だが、お前ひとりでは荷が重いだろう」
「だけど、今できるのは俺だけだし」
 じいちゃんがいたらまだもうちょっとなんとかなったのかな、と匠音が呟くと匠海が苦笑する。
「ジジイ……確かにジジイ――『白き狩人ヴァイサー・イェーガー』は頼もしい味方だな。安心しろ、お前ひとりじゃない」
「え――」
 匠海の言葉に匠音が目を見開く。
「『白き狩人ヴァイサー・イェーガー』って……『第二層』で聞いたことある、とんでもない腕の魔術師マジシャンだって。あれ、じいちゃんだったの!?!?
「お前……本当に、何も知らないんだな……」
 匠海が呆れたように呟く。
 だが、すぐに思い直したように匠音を見る。
「『匠音にハッキングはさせたくない』と和美が言っていた結果がこれか……結局お前はハッキングの世界に足を踏み入れ、粗削りだが扉を開いた。それがどういうことか分かっているのか?」
「どういうことって……」
 匠海の言葉の意図を図れず、匠音が困惑する。
「ハッキングは遊びじゃない。中途半端な覚悟でハッキングすれば殺されることもあるシビアな世界だ。和美はそんな危険な世界に踏み込ませたくなくてお前のハッキングを禁止した。それでもお前がハッキングをするというなら、本気で今起こっている事態を収拾して生還しろ、ということだ」
「それはもちろん――」
「失敗すれば、お前は社会的か肉体的かは分からないが死ぬことになる。まぁ、もう逃げることもできないから腹をくくれとしか言えないが、ハッキングの世界に踏み込んだ責任は自分で取れ」
 そう言って、匠海は立ち上がった。
 匠音も椅子から離れ、匠海を見る。
 ハッキングは遊びじゃない、その言葉に自分がいかに甘い考えでハッキングを行っていたかを痛感する。
 確かにスポーツハッキングなら遊びで済んだだろう。だが、匠音が行っているのは遊びではない。違法なハッキング。それも今現在進行形で行っているのは逮捕された場合情状酌量の余地も与えられないかもしれない世界樹イルミンスールのハッキング。
 甘い気持ちでいれば、イルミンスールに、FaceNote社に喰われる。
 仮に逮捕されなかったとしてもリアルが完全に割れていればリアルアタックで消される可能性もある。
 これは遊びではない、戦争だと匠音は自分に言い聞かせた。
 今の世の中、国同士の武力がぶつかり合う「戦争」は過去の遺物と化している。しかし強大な力に立ち向かうこの戦いは「戦争」だと匠音は認識した。
 傍から見れば匠音に勝ち目は何一つ見えない戦い。
 だが、匠音の希望は完全に潰えたわけではない。
 ハッキングという力は個人であったとしても企業を凌駕し得る可能性を秘めている。
 今は絶望的な状況だがそれを覆す可能性はまだ残っている。
 匠音が両手で自分の頬を叩く。
 フルダイブではないため感覚はないが、それでも気合は入ってくる。
「やるよ、父さん。FaceNoteの思惑を公表して、父さんも助ける」
 ああ、と匠海が頷く。
「ああそうだ、一つ教えておこう。義体制御OS『Oberon』は確かにイルミンスールの管理AI『Oberon』と表裏一体だ。つまり、義体の全データはイルミンスールに転送されている。しかし……義体を使ってる人間が必ずしもそれを受け入れるかは別問題だ」
「つまり……」
「イルミンスールにデータ収集されたくない人の義体はその時点でデータ送信を停止するコードを入れている。その時点で不具合を起こしたら修正することができなくなるが、それは本人も納得済みの事だ」
 イルミンスールと義体が切っても切れない関係にある、いや、ある種の監視状態にあるのは事実だろう。
 それを良しとしない人間もいるのだろう。
 だが、それに対しても匠海は配慮していたというのか。
 その匠海の配慮に彼の優しさが垣間見え、匠音はふと「この人が父さんでよかった」と思った。
 何故だろう。実際に父親として何かをしてもらったことはない。言葉を交わしたのも初めてだし、第一目の前の匠海は本物ではない。
 それでも、よかった、と心底思った。
「……匠音、」
 改まった顔で匠海が匠音を呼ぶ。
「何、父さん」
 怪訝そうな顔をする匠音に、匠海は空中に指を走らせ、それから何かを弾く。
 匠音の視界にファイル受信の通知が届く。
 展開すると、それは何かしらのツールのパッケージ。
「……これは?」
「使いこなせるかどうかはお前次第だ。ジジイの教えをちゃんと受けれいれば――な」
 意味ありげに笑い、匠海が片手を振る。
「もし、お前が全てを終わらせることができればその時にまた会おう」
 ぶわり、と城がデータ片へと化し花吹雪のように渦巻き、消えていく。
 超加速モードで動きが止まっていた男が身じろぎする。
「何が――」
 何が起こっていた、と訊ねてくる男に、匠音は無言で「エクスカリバー」を抜き、突きつけた。

 

「何をする気だ」
 男が「エクスカリバー」を抜いた匠音に問いかける。
「おっさん、あんたイルミンスールの運営なんだろ? 父さんをどうする気だ」
 まっすぐな視線で男を見据え、匠音が訊く。
「父さん……? なるほど、ブラウニーの正体はタクミ・ナガセか!」
 やはり、と男が面白そうに笑う。
「ドクター・サクラが開発した『Oberon』がニューロンネットワークを模したAIだということは分かっていたがここまで急速に『Oberon』が人格を持つほどに成長するのもおかしいと思っていた。だがそこに十五年前事故死したタクミ・ナガセの人格データを移植していたのなら話は早い」
 そう言って男が匠音を睨みつける。
「思わないか? 人格を持つほどのAIが野放しになっていいのかと。ブラウニーは我々の手によって管理され、FaceNote社を、そしてゆくゆくは『ニヴルング』に登録した全ユーザーを監視するのに使われるべきだ」
「何を――」
「現時点でオーグギアを所持するほとんどのユーザーが『ニヴルング』を第二の生活の基盤としている。当然、君のようなハッカーもその中に含まれる」
 しかし、と男が続ける。
「もし、ブラウニーを制御してハッカーを全て摘発することができれば。いや、ハッカーだけでない、全てのネットワーク犯罪を未然に防げれば。それはそれで素晴らしい世界になるんじゃないのか?」
「……ふざけてる……」
 そのために父さんを利用するのか、と匠音は唇を噛んだ。
 いや、ブラウニーを利用してFaceNote社が世界を管理して、他の企業を蹴落とすつもりなのか、とも考える。
 そんなことをさせるわけにはいかない。
 FaceNote社に世界を管理させるわけにも、匠海をその計画に付き合わせるわけにも。
 いくら匠海が、「Oberon」が自我を持っているとしても所詮はAI、データを書き換えてしまえばいくらでもその思考を歪めることはできる。
 そんなことはさせたくない。AIとはいえブラウニーは一個の存在として確立している。
 それを人間の手で歪めさせるわけにはいかない。
 確かに男の言うことは正論かもしれない。犯罪なんてあっていいものではない。
 それでも、それを個人が、一企業が勝手に制御していいものではない。
 犯罪を抑止するために法律があり、その法律は民衆が、民衆の代表が話し合った結果作り出されたものである。一企業が勝手に作り出すものとはわけが違う。
 だから匠音は男を、FaceNote社を敵と認識した。
 倒すべき巨悪として。
「なんかすごく偉そうなことたれてるけどさ! 結局おっさんは自分の思い通りに世界を書き換えたいって言ってるようなものじゃないか!」
「それがどうした? 世界は管理されるべきだろう? より力のあるものにな」
 それが正義なんだよ、と男が言う。
「ふざけんな! あんたは正義じゃない。正義を騙る悪の組織だ!」
 匠音が「エクスカリバー」を構え直す。
「俺はあんたを告発する! 告発した上で、父さんのことも、FaceNoteの企みもみんな、公表してやる!」
「できると思っているのか? その程度のハッキングの腕で!」
 バカにしたような男の声。
 匠音の指が「エクスカリバー」を滑る。
「やってみないと分からないだろ!」
「だったら私を倒して通報してみろ!」
 男が匠音に向けて片手を振る。その手から拘束の鎖バインドチェインが伸びて匠音に向かう。
「それはもう見た!」
 男が「ルキウス」を上回る権限を持っていることは分かっている。自分の防壁でも権限で貫通することは分かっている。
 匠音が横に跳び、バインドチェインを回避、即座に電撃パラライザーを飛ばして反撃する。
 それをスーパーアカウントの権限で無効化し、男がさらにバインドチェインを飛ばす。
 ――やっぱスーパーアカウントをなんとかしないとどうすることもできねえ……!
 迫りくるバインドチェインに「シルバークルツ」が逃げ回り、周りのオブジェクトを盾にしてはチャンスをうかがう。
 だが、その回避もスーパーアカウントを持つ男を前にしては限度がある。
 「シルバークルツ」の死角から伸びた一本のバインドチェインが脚に絡みつく。
「――ッ!」
 無様にもその場で転倒する「シルバークルツ」を男が嘲笑う。
「っそ!」
 「エクスカリバー」で鎖を斬り払うものの脚に絡まった鎖は生き物のように這い上がり、全身を締め付けようとする。
「ここまでのようだな」
 勝利宣言にも聞こえる男の声。
 それには屈しないと匠音が男を睨みつける。
「諦めろ、君はもう用済みだ」
 そう、男は笑った。
「ブラウニーがタクミ・ナガセのデータであるなら話は早い。ドクター・サクラに協力を仰ぐまでだ」
「そんなこと……じいちゃんが……!」
 「エクスカリバー」を振り回し、匠音が抵抗する。
 バインドチェインは「エクスカリバー」によって切断されるもスーパーアカウントの効果なのか切断面からさらに鎖を伸ばし、匠音を絡めとっていく。
「くそっ……」
 視界に【Warning!】の文字が浮かび上がる中、匠音が何か手はないか必死で考える。
 このままでは完全に拘束されてしまう。
 ――嫌だ、こんなところで負けたくない。
 ――いや――父さんをめちゃくちゃにされたくない――。
 今ここで助けは得られない。自分一人でなんとかするしかない。
 ――でも、誰か――。
《力が必要?》
 「誰か、力を貸して」と匠音が思ったその時、不意に視界にメッセージが飛び込んできた。
 ――え?
 匠音の驚きと戸惑いとは裏腹に、メッセージはさらに文字列を増やしていく。
 一見、意味の分からない文字列の羅列。
 しかし、それがプログラムのコードだと、匠音はなぜか理解した。
 ――これは――?
《『エクスカリバー』にそのコードを入力して》
 メッセージはそこで途切れる。
 どういうこと、と思いつつも匠音は「エクスカリバー」には何かを入力するような余地があったことを思い出す。
 それが、このコードなのか。
 バインドチェインに絡めとられ、思うように動けないものの匠音はメッセージからコードをコピーし、「エクスカリバー」に貼り付けた。
【Code Accepted】
「――え?」「なんだ……?」
 匠音と男が同時に声を上げる。
 「エクスカリバー」が光り輝き、辺りに光の波動を展開する。
 光を浴びたバインドチェインが光の粒子となり、砕けていく。
「馬鹿な、スーパーアカウントの権限を上回っている、だと――!?!?
 信じられない、と男は声を上げた。
 スーパーアカウントと言えばイルミンスールの全権限を、そしてイルミンスール内で使われる全ツールの制御を掌握している最高権限。
 それを上回る権限など、あるはずがない。
 いや、まさか――
 「シルバークルツ」が立ち上がる。
 そのアバターに光が集まり、その姿を変えていく。
「な――!」
 白銀の鎧に青を基調とした装飾が施された騎士。
 ばさり、と鮮やかな青のマントが背中から広がる。
「まさか――『アーサー』……!」
 「シルバークルツ」が、いや、「アーサー」が光り輝く「エクスカリバー」を手に男に突進する。
「うおおおおおおおおお!!!!」
 走りながら、匠音は「エクスカリバー」にコードをセットした。
 匠海から渡されたパッケージから選択した凍結用のコード。
 「エクスカリバー」にまとう光が黄金きん色から蒼白いものへと変化する。
 咄嗟に男は防壁を展開した。
 スーパーアカウントの権限で作成した、イルミンスール内ではあらゆる攻撃を防御する最強の盾。
 しかし、「エクスカリバー」はその盾を、易々と打ち砕いた。
 盾が凍結して砕け、その向こうから「アーサー」が飛び込んでくる。
「くそ、まさか『アーサー』が……!」
 男が再度バインドチェインを射出するものの、「エクスカリバー」がそれを斬り捨てた次の瞬間、鎖は光の鎖へと変化し、方向転換して男に襲い掛かる。
「まだだ!」
 後ろに飛びのいて距離を稼ぎ、男が叫ぶ。
 光の鎖が一瞬停止し、それから「アーサー」に付き従うように浮遊する。
 「アーサー」が動きを止めたことで、男は不敵な笑みをその顔に浮かばせた。
止まったな」
「……何を」
 匠音が怪訝そうな声を上げる。
 男は片手を挙げ、パチンと指を鳴らした。
 ぶわり、と周りのデータが渦巻く。
「逃がすか!」
 「アーサー」が床を蹴り、男を追う。
「逃げるわけがないだろう」
 余裕そうな男の声。
 「アーサー」が振り下ろした「エクスカリバー」が男の目前で止まる。
「な――っ、」
 「アーサー」が剣を引き、後ろに跳ぶ。
「メアリー!?!?
 男の腕の中に一人の少女のアバターがいた。
 ロシアンブルーの毛並みの猫の頭をした、見覚えのあるアバター。
 見間違えるはずがない。メアリーだ。
 どうしてメアリーがここに。
「……えっ? え、ここは……?」
 突然転送されたのだろう、メアリーが戸惑いを隠せず身じろぎして声を上げる。
 それからすぐに自分が男に抱きかかえられていることに気付き抗議の声を上げる。
「ちょっと、放しなさいよ!」
 「ニヴルング」ではフレンド以外のアバターに触れることは基本的にオートセーフが働いてできないはず、それなのにどうしてと困惑を隠せないメアリーの声に匠音も「放せ」と威嚇する。
 しかし、男はそれには構わずメアリーのアバターを撫でまわす。
「やめろ! メアリーは関係ないだろ!」
 露骨に嫌そうな顔をしてもがくメアリーを前に、匠音が叫ぶ。
「君のフレンドリストくらい把握しているよ。彼女を消失ロストさせたくなければ大人しくしろ」
「ずるいぞ!」
 匠音が叫ぶ。
 まさか、メアリーが巻き込まれるとは思っていなかった。
 ――そうか、だから母さんは――。
 漸く気付く。
 魔術師マジシャンがへまをした時、攻撃されるのは魔術師本人だけではない。
 その交友関係が知られていれば、本人ではなく身内も攻撃される可能性が出てくる――。
「メアリーを離せ! なんで関係のない奴を――」
「そう言い切れるかな?」
 にやり、と男が笑う。
「君がハッキングさえしなければ彼女もこんなことにならずに済んだのになあ!」
「……え……?」
 男の腕の中でもがいていたメアリーが動きを止め、「アーサー」を見る。
「『アーサー』……? どうして『アーサー』がこんなところに……」
「ふん、よく見ろ。あれはアーサーなんかじゃない」
 メアリーを抱えたまま男が再び指を鳴らす。
 「アーサー」のアバターが消失し、「シルバークルツ」のものに戻る。
「あっ……」
 たたらをふむ「シルバークルツ」。
 それを見たメアリーが目を見張る。
「……『シルバークルツ』……? え、どういうこと? なんで『シルバークルツ』が『アーサー』のアバターを……」
 「アーサー」がいなくなってから十五年、このアバターを使う魔術師は一度も現れなかった。
 それなのにどうして今ごろ。
 いや、それよりも「シルバークルツ」がどうして「アーサー」のアバターを。
 目の前のシルバーのチェーンを巻いた吸血鬼のようなアバターが「シルバークルツ」というのは何となく分かった。
 いや、違う。
 「その考え」に思考が行きついた時点でメアリーは思考を停止していた。
 嘘だ、そんなことがあるはずがない。
 しかし、メアリーはがハッキングできることを知っていた。
 その魔術師マジシャンとしての通り名が「シルバークルツ」であるとは信じたくなかった。
 何故なら、彼は、匠音は――。
「どうして、匠音が……」
「メアリー……」
 メアリーが自分の名前を呼んだことで匠音が表情を変える。
「……ごめん……」
 たった一言だけ呟き、匠音は男を見る。
「メアリーを放せよ!」
「その強がりもいつまでできるかな?」
 相変わらず余裕の顔で男が笑う。
「君に選ばせてあげよう――彼女か、父親を」
「なっ――」「えっ?」
 匠音とメアリーが同時に声を上げる。
「どういう……」
 どういうこと、と匠音が呟き、そしてあっと声を上げる。
「まさか!」
「父親を諦めれば彼女を助けてやる、と言っているのだよ。父親から手を引け。悪いようにはしない」
 そう言った男の声は下卑ていて、醜悪なものだった。

 

to be continued……

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