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Vanishing Point 第2章

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 惑星「アカシア」桜花国上町府うえまちふのとある街。
 そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の3人はとある依頼を受けるもののその情報はターゲットに抜けており、Rain(水城みずき 鏡介きょうすけ)の後方サポートで目的地に侵入したリーダーのBloody Blue(鎖神さがみ 辰弥たつや)と仲間のGene(天辻あまつじ 日翔あきと)が罠にかけられてしまう。
 その罠を辰弥と鏡介の機転で乗り切るものの、辰弥が倒れてしまう。
 そんな依頼を達成した後日、辰弥は買い出しの帰りに行き倒れている一人の少女を発見する。
 辰弥に抱き起された少女は彼を見て「パパ」と呼び、意識を失うのだった……

 

 辰弥が拾った少女は衰弱していたため、闇医者であるなぎさが呼ばれる。
 その渚に対して命知らずの行動を取る辰弥たつや日翔あきとが注意するが辰弥はそんなことはどうでもいいとばかりに拒絶する。

 少女の診察を終えたなぎさ鏡介きょうすけに身元を洗うよう依頼する。
 その後で辰弥たつやに「話がある」と伝えるが日翔あきとがとんでもない誤解をしてしまう。

 

 
 

 

 パタン、とドアが閉まり、辰弥と渚が二人だけになる。
 ため息を一つ吐き、渚は「迂闊だった」と呟いた。
「あの二人の前で『話がしたい』は禁句ね」
 普段なら二人の前で辰弥に「話がある」とは言わなかった。
 それなのに、今日に限ってこんなことをしてしまうとは。
 そうだね、と頷いた辰弥がベッドに腰掛ける。
「ごめん、最近ひどくて」
「大丈夫?」
 辰弥が長時間立っているのが辛そうだったため先に用事を済ませてしまおうと思っていた渚は先に声をかけたことで誤解を招いてしまった。
 しかし彼のこの様子を見る限り誤解は招いたが声をかけて正解だったかもしれない。
 こめかみの辺りに手を当てた辰弥が大丈夫、と答える。
「流石に、ちょっと貧血気味だったからね。止めてくれてありがとう」
「無茶するからよ。ほら、」
 渚が鞄から錠剤のシートを手渡す。
「水は?」
「あるからいい」
 辰弥が受け取ったシートから薬を取り出し、枕元に置いていたペットボトルの水で飲む。
「ほんと、あなた最近貧血がひどいわよ。それ以上の鉄分サプリメント鉄剤ないしどうするの」
 そう言いながらも渚はさらに鞄を漁り、保冷ケースを取り出す。
「ほら、輸血パック今回の分。最近余裕なさすぎでしょ」
 うん、と辰弥が小さく頷く。
「……二人は気付いてるの?」
 ふと、気になって渚が尋ねた。
 それに対して、辰弥はいいや、と首を振る。
「二人には伝えてない」
「……時間の問題よ。まぁ、本当のことを知れば二人はあなたをチームから外すと思うけど」
 分かってる、と頷く辰弥。
 自分のこの状態本当のことを二人に知られれば二人は確実に自分をチームから外すだろう。
 だが、辰弥にとってそれだけは嫌なことだった。
 自分にできることは殺しだけだから、と。それ以外は何もできないから、と。
 それを理解しているから渚も二人には伝えていない。
 それでも辰弥の貧血がここまでひどい以上いずれは二人も知ることとなるだろう。
 いつまで隠し通すことができるのか。
 辰弥が保冷ケースを受け取り、クローゼット奥の冷蔵保管庫に中身を移す。
「……やっぱ、言った方がいいかな」
 ふと、辰弥が呟く。
 それに対して、渚は思わず、
「それはダメよ」
 そう、反対していた。
「あなたのその身体のことは教えたところでどうもなるわけじゃないしそもそもあなたは今の生活が終わることを望んでるの? 最期までは自分らしく生きていたいから黙っていてくれって言ったのはあなたじゃない」
 それはそうだと辰弥は思った。
 自分が渚に頼んだのだ。「何があっても誰にも教えないでくれ」と。
 薄々感じているのは自分はそう長くは生きられないだろうということ。
 だから、せめて最期の一瞬までは自分らしくありたい。
 そう、辰弥は願っていた。
 それを分かっているからこその渚のサポート。
 その彼女の厚意を無碍にしてはいけない。
 ごめん、と辰弥が呟く。
「ちょっと弱気になりすぎた。大丈夫だから」
「それならいいけど」
 そう言い、渚が辰弥のデスクから椅子を引っ張り彼の前に座る。
 きわどい動作で脚を組み、彼を見る。
「……で、あの子何なの」
「何、って、エントランスに落ちてた」
 辰弥の率直な言葉に渚の眉がわずかに寄る。
「水城くんが言ってたわよ? あなたのことを『パパ』って呼んでたって」
 その瞬間、今度は辰弥が眉を寄せる。
 それね、と辰弥が口を開く。
「心当たりは、ない」
「……そう、」
 何か思うところはあったのだろうが、渚が口を閉じる。
 少し考えて、彼女は再び口を開いた。
「あの子の親が鎖神くん似ということは?」
「そんな、あり得ない」
 思わず、辰弥が即答する。
 それに対して渚は「どうして」と尋ねることもなく、
「そう、」
 そう呟いて顎に手をやった。
「……本当に、病院から抜け出してきたのかしら」
 だとすれば、何のために。
 どうしてこのマンションのエントランスで倒れていたのか。
 何故、辰弥を見て「パパ」と言ったのか。
 医者の目から見て渚は少女の状態をある程度把握していた。
 白髪で深紅の瞳、先天性色素欠乏症アルビノであることはほぼ間違いない。一つ気になるのは例えアルビノであったとしても人間の瞳が赤くなることは極めてまれなケースなことである。動物個体にはよく見られるものではあるが、人間の場合大抵は淡い色彩の瞳となる。
 そこまで考えてから、渚は辰弥を見据えた。
 厳密には、辰弥の眼を。
 彼もすぐに察したのだろう、それは、と呟く。
「心当たりはないって言ったよね? 血縁関係があるわけ」
「滅多に見れない珍しい色の瞳をしていたら遺伝くらい疑うわよ」
 そう、辰弥の瞳も深紅。渚が血縁関係を疑うのも無理はない。
 だが、それでも辰弥はそれを否定した。
「……記憶がはっきりしていなくても子供はいないと断言できるのね」
「そもそも俺何歳だと思ってんの。若気の至りで子供作ってたって言いたいわけ? 第一、俺は……」
 流石に辰弥もイラっとしたのだろう、渚に対する言葉に棘が混ざる。
「いや、皆まで言わなくても良いわ、それもそうだったわね」
 そこまで言われて渚も納得したのだろう。
「そりゃー十代で孕ます駄犬は今までたくさん見てきたけどあなたがその一人とは思いたくないわよ」
「駄犬……」
 言うねえ、と辰弥が感心したように呟く。
「まぁ、血縁関係についてはそこまで否定するなら違うって思うことにするわ。それよりも、あの子筋肉周りはしっかりしていても油断できないわよ」
 少なくとも日中紫外線が強い外には連れ出さない方がいいわね、と渚が説明する。
 アルビノはメラニン色素が欠乏しているため皮膚が紫外線を遮断できない。視力に関しては辰弥の眼を考えれば網膜等の色素欠乏でないと判断できないこともないので測定してみないと正確なことは分からないが問題はないかもしれない。
 ただ、それを差し置いても「入院している」事が気になる。
 どのような病気を抱えているのかはちゃんとした病院で精密検査を受けなければ判断できないが、病院を抜け出すなど何か余程の事情があるとは考えられる。
 それを説明すると、辰弥は両手を組んで少しうなだれる。
「……早く、親元に返した方がいいよね」
「そうね。それとも、『拾うんじゃなかったー』とか『親元に返したくないー』とか思ってる?」
 渚としては辰弥が「まさか」という展開を想定しての冗談交じりの質問。
 だが、辰弥は彼女が思っていた言葉を口にしなかった。
「……分からない」
 その言葉に、渚が言葉に詰まる。
「分からない、って」
「……本当に返していいのか、そもそもあの子に帰るところがあるのか、その辺りで嫌な予感がする」
 そう言われて、渚も「確かに」と頷いた。
 真っ当な親の元で生きる子供ならそもそも病院を抜け出すことも、ましてや辰弥を見て「パパ」と呼ぶこともないだろう。
 辰弥は早い段階でその可能性に気づいていたのだ。
 だから保護したのか、と渚は納得する。
 裏社会で生きている人間は基本的に表社会の面倒を忌避する。行き倒れている人間を見つけても余程のことがない限り匿名で救急車だけ呼ぶかスルーするだろう。
 それを家に連れ帰ったのだ、その時は特に意識していなかったとしても深層意識で何かを感じ取っていたに違いない。
 面倒なことになるかもしれないわね、渚がため息交じりにそう呟いたとき、部屋のドアがノックされた。
「おーい、起きたぞー」
 ドアの向こうで、日翔がそう声をかけてきた。
 起きたか、と辰弥がベッドから立ち上がる。
 渚も立ち上がり、小さく頷く。
 とりあえず話を聞こう、と二人はドアを開け、部屋を出た。

 

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