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Vanishing Point Re: Birth 第11

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

筋萎縮性側索硬化症ALSが進行してしまった日翔。
そんな「グリム・リーパー」に武陽都のアライアンスは補充要員を送ると言う。
補充要員として寄こされたのは秋葉原あきはばら 千歳ちとせ
そんな折、ALS治療薬開発成功のニュースが飛び込み、治験が開始されるという話に日翔を潜り込ませたく、辰弥と鏡介は奔走する。
その結果、どこかの巨大複合企業メガコープに治療薬の独占販売権を入手させ、その見返りで治験の席を得ることが最短だと判断する。
どのメガコープに取り入るかを考え、以前仕事をした実績もある「サイバボーン・テクノロジー」を選択する辰弥と鏡介。いくつかの依頼を受け、苦戦するものの辰弥のLEBとしての能力で切り抜ける四人。
不調の兆しを見せ、さらに千歳に「人間ではない」と知られてしまう辰弥。
それでも千歳はそんな辰弥を受け入れ、「カタストロフ」ならより詳しく検査できるかもしれないと誘う。
同時期、ALSが進行した日翔も限界を迎え、これ以上戦わせるわけにはいかないとインナースケルトンの出力を強制的に落とす。
そんなある日、辰弥の前に死んだと思われていたもう一体のLEB、「ノイン」が姿を現す。
取引を持ち掛けるノインに、辰弥は答えを出すことができないでいたが、そんな邂逅から暫く、「グリム・リーパー」の拠点が何者かに襲撃される。
撃退するものの、報復の危険性を鑑み、千歳に泊まっていけと指示した鏡介だが、辰弥が買い出しに行っている間に襲撃者を調査していると「エルステ観察レポート」なるものを発見。こんなものを書けるのは千歳しかいないと彼女を詰める。
帰宅し、二人の口論を目撃し狼狽える辰弥に、鏡介は辰弥の逆鱗に触れる言葉を吐いてしまい、辰弥は千歳を連れて家を飛び出してしまう。
行く当てもない辰弥に、千歳は「カタストロフに行こう」と誘い、辰弥はそれに応じる。
「カタストロフ」に加入し、検査を受ける辰弥。
その結果、テロメアが異常消耗していることが判明、寿命の限界に来ていると言われる。
自分に残された時間は僅か、せめて日翔が快復した姿は見たいと辰弥は願う。
そのタイミングで、「カタストロフ」は第二世代LEBを開発した永江ながえ あきらの拉致を計画、辰弥がそれを実行するが、その後のノイン捕獲作戦を実行した結果、ノインに晃が拉致されてしまう。
失意の中、「カタストロフ」は「榎田製薬」の防衛任務を受ける。
「サイバボーン・テクノロジー」の攻撃から守るため現地に赴く辰弥だったが、そこで「サイバボーン・テクノロジー」から依頼を受けた鏡介と遭遇する。
鏡介とぶつかり合う辰弥。だが、互いに互いを殺せなかった二人はそれぞれの思いをぶつけ、最終的に和解する。
「グリム・リーパー」に戻る辰弥、しかし千歳はそこについてこなかった。
帰宅後、鏡介と情報共有を行う辰弥。
現在の日翔の容態や辰弥の不調の原因などを話し合った二人は、
・「サイバボーン・テクノロジー」が治療薬の専売権を得たことで日翔は治験を受けられる
・晃は失踪しているが、辰弥もフリーになった今、見つけられれば治療が可能である
という点に気付き、「カタストロフ」よりも前に晃を確保することを決意する。
晃の隠れ家を見つけた辰弥たちだったが、仲間を引き連れた昴とも鉢合わせ、交戦する。
しかし昴が「プレアデス」と呼ぶ何かの攻撃を受け、辰弥が重傷を負ってしまう。
それでもチャンスを見つけて昴を攻撃した辰弥だったが、千歳が昴を庇って刺され、命を落としてしまう。
呆然自失となる辰弥。それを鏡介が叱咤し、戦意を取り戻させる。
「カタストロフ」を蹴散らした辰弥に鏡介が「サイバボーン・テクノロジー」から治験の手続きについて連絡を受けたと告げる。
「サイバボーン・テクノロジー」に連れられ、治験の説明を受ける二人。
しかし、治験薬はあくまでも「初期状態にしか効かない」と告げられる。

 

失意のまま帰宅しようとする辰弥と鏡介。そこへノインと、ノインを追った「カタストロフ」が現れる。

 

 
 

 

 ノインと、不可視のプレアデスが激しく斬り合う。
 昴はというと「カタストロフ」のメンバーに攻撃中断の指示を出し、辰弥を見る。
「鎖神、ちょうどいい、ノインを捕獲し、永江博士を差し出しなさい。そうすれば今までのことは全て不問にするし、天辻の生体義体を作ってもらう。もちろん、君の調整槽も作ってもらいましょう」
 昴が取引を持ち掛ける。
「時期的にもう聞いたのでしょう? 治療薬は初期症状にしか効かない、と」
「なっ」
 知っていて黙っていたのか、と辰弥が目を見開く。
 だが一方で、辰弥が自力で全てを解決する可能性が潰えた今、昴の取引は一発逆転の切り札だった。
 辰弥がノインを捕獲し、「カタストロフ」に戻れば潰えた希望は再び希望としての機能を取り戻す。
 鏡介が隣の辰弥を見る。
 だが、辰弥は、昴に銃口を向けたままゆっくりと首を振った。
「俺は『カタストロフ』には戻らない。あんたを殺し、永江 晃はこのまま俺たちで確保する」
 そうだ。希望はまだ完全に潰えていない。
 ノインが協力し、プレアデスに対処するというのであれば辰弥にとっての敵は全て人間。人間なら、殺せない人物はいない。
「辰弥……」
 鏡介が声を上げた。
 「カタストロフ」を味方につけるより、ノインを味方につけることを、辰弥は選択した。
 「カタストロフ」を蹴散らし、昴を殺した暁には辰弥とノインは殺し合うことになるだろう。だが、それこそが辰弥の計算なのだと、鏡介は気が付いた。
 「カタストロフ」を味方につけ、ノインを捕獲するにしても激しい戦闘は避けられない。それがうまく行ったとしても辰弥の行く末、いや、「グリム・リーパー」の行く末は「カタストロフ」の狗。
 しかし、ノインを味方につけて「カタストロフ」を殲滅した場合、戦闘は避けられないもののそのノインを無力化できれば「グリム・リーパー」は自由なままで生きていくことができる。
 「カタストロフ」とノインを天秤に掛ければ、恐らくはノインを味方につけた方が「カタストロフ」との戦闘が多い分、辰弥にとって分の悪い選択肢となるだろう。
 それでも、辰弥は賭けたベットしたのだ。「自由に生きる」可能性に。
 最期のその瞬間まで、誰かの飼い犬として生きるのではなく、自由気ままな野良犬であることを選んだ。その先が茨の道であったとしても、日翔と鏡介と一緒なら怖くない、と。
 そうですか、と昴が呟く。
「もっと聞き分けのいい狗だと思っていたのですがね――やれ」
 昴が手を振り、攻撃の手を止めていた「カタストロフ」のメンバーに指示を出す。
 一斉に放たれる弾丸。それはポータブルカバーと鏡介のホログラフィックバリアで阻まれる。
「どうする辰弥、プレアデスとやらはノインが対応してくれているが、流石に今の俺たちでは手も足も出ないぞ」
 トランスはもってのほかだが、できれば生成もあまり辰弥にさせたくない。
 特に、この後ノインとの戦闘が控えているなら辰弥の能力は温存しておいた方がいい。
 とはいえ、そんな贅沢が言っていられる状況でないことは二人とも分かっていた。
 少なくとも、アサルトライフルを二丁、そしてマガジンをいくつか生成しなければ「カタストロフ」のメンバーを殲滅することはできない。
 さもなければ辰弥が敵の真っただ中に飛び込んで鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュを使えば血液量コストはもう少し少なくて済むか。ただ、その場合は約十メートル離れた距離をどうやって詰めるかが課題となる。
 どうする、生成だけで切り抜けられるか、と鏡介が辰弥を見た。
「いつもの手になるけど、HASH使える?」
「とは言うが、俺は『カタストロフ』のサーバを特定できていない」
 辰弥の言葉に、鏡介が首を振って否定する。
 鏡介がHASHを送って足止めし、辰弥がその隙を突いて鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュを放って殲滅する、というのはよく使う手である。
 だが、前回は「カタストロフ」相手に有効だったのは向こうがGNSハッキングガイストハックに対する対策が甘く、ローカルネットワークを構築していなかっただけで、今回は既に対策されている。
 鏡介が「カタストロフ」の基幹サーバを特定できていればそこからローカルネットワーク経由でHASHを送れたかもしれないが、特定できていないためそれは不可能。
 しかし、辰弥はトントンと自分の頭を指で叩いた。
「俺は以前『カタストロフ』のデータリンクを使ってたから、パスはある。それ使って」
「なるほど」
 辰弥の言う通りだ。パスさえあれば、そこから基幹サーバに侵入することができる。
 分かった、と鏡介がホロスクリーンを展開、指を走らせ、辰弥のGNSに侵入、そこから「カタストロフ」の基幹サーバに侵入しようとした。
 しかし。
「駄目だ、この作戦、見破られてるな」
 すぐに鏡介が手を止めて首を振った。
「お前のパスは完全に切断されている。侵入は不可能だ」
 鏡介の言葉に、辰弥が思わず舌打ちをした。
 もしかしたら、という淡い希望はあったが昴がその辺りを想定しないはずがない、ということか。
「と、なると正面突破しかないか……」
 そう呟いて、考える。
 多少リスクはあるが、辰弥一人でなら昴の取り巻きを殲滅することはできるだろう。鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュを使えば一撃だろうが、現時点での自分の体調を鑑みるに、それはできれば温存しておきたい。
 ちら、と辰弥が鏡介を見る。
 できるか、と心の中で鏡介に問いかける。
 作戦というほどのものではなかったが、昴を排除するには自分より鏡介の方がいい、と辰弥は判断していた。
 ああ、と鏡介が頷く。
「お前が取り巻きを排除してくれるなら、俺は宇都宮を狙う」
 そう言ってから、鏡介は言葉を続けた。
「しかしいいのか? お前は、宇都宮を殺したいんじゃ――」
「俺にそんなこだわりはない。宇都宮を殺せるなら、それは誰でもいい」
 辰弥がそう言い、M4を生成、鏡介に手渡す。
 それを受け取り、鏡介は分かった、と頷いた。
「宇都宮は任せろ。辰弥――無理するなよ」
 鏡介がそう言い、二人は互いに頷き合った。

 

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