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Vanishing Point Re: Birth 第11

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

筋萎縮性側索硬化症ALSが進行してしまった日翔。
そんな「グリム・リーパー」に武陽都のアライアンスは補充要員を送ると言う。
補充要員として寄こされたのは秋葉原あきはばら 千歳ちとせ
そんな折、ALS治療薬開発成功のニュースが飛び込み、治験が開始されるという話に日翔を潜り込ませたく、辰弥と鏡介は奔走する。
その結果、どこかの巨大複合企業メガコープに治療薬の独占販売権を入手させ、その見返りで治験の席を得ることが最短だと判断する。
どのメガコープに取り入るかを考え、以前仕事をした実績もある「サイバボーン・テクノロジー」を選択する辰弥と鏡介。いくつかの依頼を受け、苦戦するものの辰弥のLEBとしての能力で切り抜ける四人。
不調の兆しを見せ、さらに千歳に「人間ではない」と知られてしまう辰弥。
それでも千歳はそんな辰弥を受け入れ、「カタストロフ」ならより詳しく検査できるかもしれないと誘う。
同時期、ALSが進行した日翔も限界を迎え、これ以上戦わせるわけにはいかないとインナースケルトンの出力を強制的に落とす。
そんなある日、辰弥の前に死んだと思われていたもう一体のLEB、「ノイン」が姿を現す。
取引を持ち掛けるノインに、辰弥は答えを出すことができないでいたが、そんな邂逅から暫く、「グリム・リーパー」の拠点が何者かに襲撃される。
撃退するものの、報復の危険性を鑑み、千歳に泊まっていけと指示した鏡介だが、辰弥が買い出しに行っている間に襲撃者を調査していると「エルステ観察レポート」なるものを発見。こんなものを書けるのは千歳しかいないと彼女を詰める。
帰宅し、二人の口論を目撃し狼狽える辰弥に、鏡介は辰弥の逆鱗に触れる言葉を吐いてしまい、辰弥は千歳を連れて家を飛び出してしまう。
行く当てもない辰弥に、千歳は「カタストロフに行こう」と誘い、辰弥はそれに応じる。
「カタストロフ」に加入し、検査を受ける辰弥。
その結果、テロメアが異常消耗していることが判明、寿命の限界に来ていると言われる。
自分に残された時間は僅か、せめて日翔が快復した姿は見たいと辰弥は願う。
そのタイミングで、「カタストロフ」は第二世代LEBを開発した永江ながえ あきらの拉致を計画、辰弥がそれを実行するが、その後のノイン捕獲作戦を実行した結果、ノインに晃が拉致されてしまう。
失意の中、「カタストロフ」は「榎田製薬」の防衛任務を受ける。
「サイバボーン・テクノロジー」の攻撃から守るため現地に赴く辰弥だったが、そこで「サイバボーン・テクノロジー」から依頼を受けた鏡介と遭遇する。
鏡介とぶつかり合う辰弥。だが、互いに互いを殺せなかった二人はそれぞれの思いをぶつけ、最終的に和解する。
「グリム・リーパー」に戻る辰弥、しかし千歳はそこについてこなかった。
帰宅後、鏡介と情報共有を行う辰弥。
現在の日翔の容態や辰弥の不調の原因などを話し合った二人は、
・「サイバボーン・テクノロジー」が治療薬の専売権を得たことで日翔は治験を受けられる
・晃は失踪しているが、辰弥もフリーになった今、見つけられれば治療が可能である
という点に気付き、「カタストロフ」よりも前に晃を確保することを決意する。
晃の隠れ家を見つけた辰弥たちだったが、仲間を引き連れた昴とも鉢合わせ、交戦する。
しかし昴が「プレアデス」と呼ぶ何かの攻撃を受け、辰弥が重傷を負ってしまう。
それでもチャンスを見つけて昴を攻撃した辰弥だったが、千歳が昴を庇って刺され、命を落としてしまう。
呆然自失となる辰弥。それを鏡介が叱咤し、戦意を取り戻させる。
「カタストロフ」を蹴散らした辰弥に鏡介が「サイバボーン・テクノロジー」から治験の手続きについて連絡を受けたと告げる。
「サイバボーン・テクノロジー」に連れられ、治験の説明を受ける二人。
しかし、治験薬はあくまでも「初期状態にしか効かない」と告げられる。

 

 
 

 

  第11章 「Re: Lease -解放-」

 

 自宅までの道中も、二人は無言だった。
 それでも、考えていることは同じだと、何故か互いがそう思う。
 どう日翔を見送るか、どう辰弥のその時を迎えるか、どう心に整理を付けるべきなのか。
 今更確定した事象を覆すような出来事が起こるはずがない。
 辰弥は日翔を見送った後の時間をどう生きるかを、鏡介は二人を見送った後のその後の自分の在り方を、考えるしかできなかった。
 いくら後方支援がメインだったとはいえ、真っ先に死ぬのは自分だろうと思っていた鏡介は、想定すらしていなかったこの展開に戸惑うばかりだった。
 ――何故、俺だけが。
 これは何かの罰なのか、と思う。
 親友とも呼べる仲間二人を助けられず、自分一人生きることになるのは罰以外の何物でもない、と考えてしまう。
 それとも、日翔が動けないことをいいことに無理やり義体化してしまおうか。
 そうすれば、少なくとも日翔だけは助けられる。
 そうなれば、もう日翔と共には過ごせなくなるのは分かっているが、それでも生きていると分かっている状態で生きられるから楽かもしれない。
 生きている相手に許されず、恨まれたまま生きる方がどれほど楽か、と鏡介は考えた。
 辰弥にそれを言うか。辰弥も助けられないなら、せめて日翔を。
 そう思った時、突然辰弥が鏡介を突き飛ばし、壁に叩きつけた。
「――ぐっ!」
 近道のために歩いていた路地裏の、建物の外壁に叩きつけられ、鏡介の息が詰まる。
「辰――」
「ノイン!」
 辰弥が銃を抜き、とある方向に向けていた。
 ノイン? と鏡介が辰弥の銃口の先を見る。
 そこに白い少女がいた。
 着ていた服は以前にもましてボロボロになっており、ところどころから覗く素肌もかすり傷程度ではあるが傷だらけの少女――ノインに、鏡介も驚きの声を上げる。
「何しに来た!」
 辰弥の捕食はまだ諦めていなかったのか。
 そうだ、辰弥には大きな問題があった。
 ノインが辰弥を捕食して「完璧になりたい」と言っている以上、辰弥が静かに最期の時を迎えられるはずがない。
 しかし、それでもこのタイミングで現れるとは間が悪すぎる。
 だが、ノインは辰弥を見るとよかった、と言わんばかりの顔で駆け寄り、辰弥に向けて抱えていた晃を押し付けた。
「おおエルステ、こんなところで奇遇だな。ずっと追いかけまわされて大変だったんだよう」
 辰弥に抱き着き、晃が泣きごとを漏らす。
「エルステ、手伝って!」
「手伝う? 何を」
 手伝うことなんて何もないはず、と言いかけた辰弥の横を銃弾が掠めて飛んでいく。
「ヤバいぞ辰弥! 『カタストロフ』だ! 恐らくノインを追ってここまで――」
 鏡介も銃を抜き、辰弥に声をかける。
 通路の奥から、何人もの「カタストロフ」のメンバーが押し寄せるように走ってくるのが見えた。
「っそ、なんて時に!」
 鏡介が右手を構える。義体のギミックが展開し、反作用式擬似防御障壁ホログラフィックバリアが展開する。
「エルステときょうすけは主任を守って! ノインはぷれあですって奴を何とかする!」
 どうやら、ノインは足手纏いの晃さえいなければプレアデス単体となら戦えると踏んでいるらしい。だが、「カタストロフ」の増援に邪魔をされ、苦戦を強いられているようだ。
「もしかして、俺たちに対応させるためにここに来た?」
 鏡介のホログラフィックバリアはエネルギーカートリッジの都合上、常時展開をすることができない。
 そのため、携帯遮蔽物ポータブルカバーを生成してその裏側に鏡介と共に飛び込み、辰弥がノインに確認した。
「決まってるでしょ、エルステだって必要なら仲間と戦う、ノインだって使えるならエルステだって使う」
「そのおかげで厄介事が舞い込んできたんだけど!?!?
 「カタストロフ」の攻撃に対処しながら辰弥が怒鳴る。
 ノインはと言うと壁を蹴り、空中に浮かび上がって刃にトランスした腕を虚空に叩きつけていた。
 ノインの腕とプレアデスの不可視の刃がぶつかり、火花を散らす。
「それはそうと、あの猪……大きな豚はどうした!?!?
 辰弥の隣で応戦しながら、鏡介が空中のノインに声をかけた。
「安全なところに隠した! 早く食べたいからこれが終わったらエルステ、調理して」
「いや腐ってない? それ……」
 そんな会話が繰り広げられるが、三人とも戦闘の真っただ中である。
 特に「カタストロフ」の弾幕は激しく、晃を庇うように立ち回ることを強いられる上に、護身用にハンドガンしか持ってきていなかった辰弥と鏡介は当然のように苦戦を強いられる。
 トランスするか? と辰弥が一瞬考える。戦術高エネルギーレーザー砲MTHELを対人で使えばここは狭い通路、上手く薙ぎ払えばほぼ確実に全員灼くことができる。
 しかし、本当にその手を使っていいのか、という疑問が辰弥に浮かび上がり、トランスしようとする考えを停止させる。
 日翔が助けられないからとやぶれかぶれになっていないか? という声が聞こえたような気がした。
 だめだ、ここでトランスするわけにはいかない。自分は日翔を見送ると決めた、ここでトランスしてそれが叶わなくなるのは嫌だ、と辰弥が自分に言い聞かせる。
 そんな思考が、一つの声に中断される。
「報告は受けていましたが、まさか逃げ切っていたとは」
 「カタストロフ」の面々を掻き分け、昴が辰弥の前に姿を現す。
「宇都宮!」
 辰弥が叫び、銃口を昴に向けて引鉄を引く――が、それは不可視の刃に阻まれ、昴には届かない。
「この際死体でも構わん。プレアデス、やれ」
 昴がプレアデスに指示を出す。しかし、プレアデスが辰弥に斬りかかる前に、
「よそ見しないで!」
 ノインが、見えないはずのプレアデスに斬りかかった。
 ノインと、不可視のプレアデスが激しく斬り合う。
 昴はというと「カタストロフ」のメンバーに攻撃中断の指示を出し、辰弥を見る。
「鎖神、ちょうどいい、ノインを捕獲し、永江博士を差し出しなさい。そうすれば今までのことは全て不問にするし、天辻の生体義体を作ってもらう。もちろん、君の調整槽も作ってもらいましょう」
 昴が取引を持ち掛ける。
「時期的にもう聞いたのでしょう? 治療薬は初期症状にしか効かない、と」
「なっ」
 知っていて黙っていたのか、と辰弥が目を見開く。
 だが一方で、辰弥が自力で全てを解決する可能性が潰えた今、昴の取引は一発逆転の切り札だった。
 辰弥がノインを捕獲し、「カタストロフ」に戻れば潰えた希望は再び希望としての機能を取り戻す。
 鏡介が隣の辰弥を見る。
 だが、辰弥は、昴に銃口を向けたままゆっくりと首を振った。
「俺は『カタストロフ』には戻らない。あんたを殺し、永江 晃はこのまま俺たちで確保する」
 そうだ。希望はまだ完全に潰えていない。
 ノインが協力し、プレアデスに対処するというのであれば辰弥にとっての敵は全て人間。人間なら、殺せない人物はいない。
「辰弥……」
 鏡介が声を上げた。
 「カタストロフ」を味方につけるより、ノインを味方につけることを、辰弥は選択した。
 「カタストロフ」を蹴散らし、昴を殺した暁には辰弥とノインは殺し合うことになるだろう。だが、それこそが辰弥の計算なのだと、鏡介は気が付いた。
 「カタストロフ」を味方につけ、ノインを捕獲するにしても激しい戦闘は避けられない。それがうまく行ったとしても辰弥の行く末、いや、「グリム・リーパー」の行く末は「カタストロフ」の狗。
 しかし、ノインを味方につけて「カタストロフ」を殲滅した場合、戦闘は避けられないもののそのノインを無力化できれば「グリム・リーパー」は自由なままで生きていくことができる。
 「カタストロフ」とノインを天秤に掛ければ、恐らくはノインを味方につけた方が「カタストロフ」との戦闘が多い分、辰弥にとって分の悪い選択肢となるだろう。
 それでも、辰弥は賭けたベットしたのだ。「自由に生きる」可能性に。
 最期のその瞬間まで、誰かの飼い犬として生きるのではなく、自由気ままな野良犬であることを選んだ。その先が茨の道であったとしても、日翔と鏡介と一緒なら怖くない、と。
 そうですか、と昴が呟く。
「もっと聞き分けのいい狗だと思っていたのですがね――やれ」
 昴が手を振り、攻撃の手を止めていた「カタストロフ」のメンバーに指示を出す。
 一斉に放たれる弾丸。それはポータブルカバーと鏡介のホログラフィックバリアで阻まれる。
「どうする辰弥、プレアデスとやらはノインが対応してくれているが、流石に今の俺たちでは手も足も出ないぞ」
 トランスはもってのほかだが、できれば生成もあまり辰弥にさせたくない。
 特に、この後ノインとの戦闘が控えているなら辰弥の能力は温存しておいた方がいい。
 とはいえ、そんな贅沢が言っていられる状況でないことは二人とも分かっていた。
 少なくとも、アサルトライフルを二丁、そしてマガジンをいくつか生成しなければ「カタストロフ」のメンバーを殲滅することはできない。
 さもなければ辰弥が敵の真っただ中に飛び込んで鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュを使えば血液量コストはもう少し少なくて済むか。ただ、その場合は約十メートル離れた距離をどうやって詰めるかが課題となる。
 どうする、生成だけで切り抜けられるか、と鏡介が辰弥を見た。
「いつもの手になるけど、HASH使える?」
「とは言うが、俺は『カタストロフ』のサーバを特定できていない」
 辰弥の言葉に、鏡介が首を振って否定する。
 鏡介がHASHを送って足止めし、辰弥がその隙を突いて鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュを放って殲滅する、というのはよく使う手である。
 だが、前回は「カタストロフ」相手に有効だったのは向こうがGNSハッキングガイストハックに対する対策が甘く、ローカルネットワークを構築していなかっただけで、今回は既に対策されている。
 鏡介が「カタストロフ」の基幹サーバを特定できていればそこからローカルネットワーク経由でHASHを送れたかもしれないが、特定できていないためそれは不可能。
 しかし、辰弥はトントンと自分の頭を指で叩いた。
「俺は以前『カタストロフ』のデータリンクを使ってたから、パスはある。それ使って」
「なるほど」
 辰弥の言う通りだ。パスさえあれば、そこから基幹サーバに侵入することができる。
 分かった、と鏡介がホロスクリーンを展開、指を走らせ、辰弥のGNSに侵入、そこから「カタストロフ」の基幹サーバに侵入しようとした。
 しかし。
「駄目だ、この作戦、見破られてるな」
 すぐに鏡介が手を止めて首を振った。
「お前のパスは完全に切断されている。侵入は不可能だ」
 鏡介の言葉に、辰弥が思わず舌打ちをした。
 もしかしたら、という淡い希望はあったが昴がその辺りを想定しないはずがない、ということか。
「と、なると正面突破しかないか……」
 そう呟いて、考える。
 多少リスクはあるが、辰弥一人でなら昴の取り巻きを殲滅することはできるだろう。鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュを使えば一撃だろうが、現時点での自分の体調を鑑みるに、それはできれば温存しておきたい。
 ちら、と辰弥が鏡介を見る。
 できるか、と心の中で鏡介に問いかける。
 作戦というほどのものではなかったが、昴を排除するには自分より鏡介の方がいい、と辰弥は判断していた。
 ああ、と鏡介が頷く。
「お前が取り巻きを排除してくれるなら、俺は宇都宮を狙う」
 そう言ってから、鏡介は言葉を続けた。
「しかしいいのか? お前は、宇都宮を殺したいんじゃ――」
「俺にそんなこだわりはない。宇都宮を殺せるなら、それは誰でもいい」
 辰弥がそう言い、M4を生成、鏡介に手渡す。
 それを受け取り、鏡介は分かった、と頷いた。
「宇都宮は任せろ。辰弥――無理するなよ」
 鏡介がそう言い、二人は互いに頷き合った。

 

「永江 晃、あんたはここにいて」
 辰弥が晃に指示を出し、ポータブルカバーの裏から飛び出す。
「え、ちょっ、エルステ!?!?
 今トランスするとやばいんじゃないのか、と止めようとする晃を鏡介が制止する。
「大丈夫だ、生成しかしないように指示している」
「でも」
 そう言う晃の視界の先で、辰弥が路地裏の外壁を三角跳びして銃弾を躱し、「カタストロフ」のメンバーに迫るのを見る。
 三角跳びしている間にも辰弥はP87を生成、上空から射撃を開始する。
「プレアデス!」
 昴がさせるかとばかりに指示を出すが、それに対してはノインが「よそ見しないで!」と攻撃し、プレアデスもそれに釘付けになっている。
 それを見て、鏡介もポータブルカバーの裏から飛び出した。
 「カタストロフ」のメンバーが鏡介に銃口を向けようとするが、それを辰弥が素早く対処して一発も撃たせない。
 「カタストロフ」のメンバーの横を通り過ぎ、鏡介は昴の前に躍り出た。
「宇都宮!」
 鏡介が叫ぶ。
「まさか君も前線に出るとはね」
 薄ら笑いを浮かべ、昴がMark32を構える。
「永江博士を差し出せば天辻も鎖神も助けてやると言っているのに、なぜそれを拒む」
「お前がLEBの量産を計画していることは分かっている、辰弥がそれを望むと思っているのか!」
 真っ直ぐM4を昴に向け、鏡介が問う。
「辰弥は自由に生きることを望んだ。それに自分と同じ境遇の人間を増やしたいと思うものか」
人間、ね」
 昴が鼻先で嗤う。
「君はエルステを人間だと主張するのですか」
「宇都宮……!」
 昴の言葉に鏡介が歯軋りする。
「辰弥はお前を殺すなら誰でもいいと言ったが、やはりお前を殺すのは辰弥だ」
「確かに、君に私は殺せないでしょうからね――汚れ役を押し付けるのに鎖神は適任だ」
 昴の言い方の一つ一つが鏡介の癇に触る。
 だが、それが挑発だということは鏡介も分かっていた。
 伊達に昴と組んでいたわけではない。日翔が「ラファエル・ウィンド」に加入する前からの付き合いだけに、鏡介が一番昴との付き合い方を理解している。
 その上で、鏡介は昴に訊いておきたいことを訊くことにした。
「お前はLEBの量産を計画している。その過程で辰弥を引き込むことも考えたはずだ。そこで確認するが――秋葉原を『カタストロフ』から除名したのは辰弥に接近させるためか」
 昴にM4を向けたまま、鏡介が尋ねる。
 ふん、と昴が再び鼻で嗤う。
「今頃気づいたのですか。ウィザード級ハッカーの称号返納した方がいいのでは?」
「黙れ!」
 鏡介が怒鳴る。
「そこまでして辰弥を利用したいのか! 生物兵器だから何してもいいと言うのか!」
「ええ、私があの国に復讐する格好の駒ですから」
 そう言い、昴が両手を広げる。
「一つ、当ててみせましょうか。君が秋葉原を疑ったのは、秋葉原がこの世界に存在しない名前だからでしょう?」
「……何が言いたい」
 鏡介の眉が寄る。
 確かに、鏡介が千歳を疑った、いや、昴との関係性を予感したのは昴も千歳もこの世界のデータベースには存在しない苗字だったからだ。そこから、もしかしてこの二人は繋がっているかもしれない、という予感めいたものを感じていた。
 しかし、それがどうしたと言うのだ。
 昴は排除すべき対象、話すことなど何もない。
 だが、そう思っているにもかかわらず、鏡介は自分の中にある疑問を解決せずにはいられなかった。
 宇都宮と秋葉原という苗字の謎。この二つの名前が「この世界にはない」という言葉の意味。
 昴が相変わらず冷たい笑みを浮かべたまま口を開く。
「君は『宇都宮』と『秋葉原』を桜花のデータベースで調べて、この世界に存在しない名前だと知ったのでしょう。ですが、この二つは私には馴染みが深くてね――。桜花のデータベースでは見つかるわけはないですよ。それこそ、日本のデータベースならありきたりの名称として見つかるでしょうが」
「……ニホン?」
 聞きなれない名称に鏡介が首をかしげる。
 何だそれは、桜花と比較するということはどこかの地域の名前なのか、と鏡介が考えを巡らせていたところで、a.n.g.e.l.が反応した。
『「日本」のデータベースをお探しですか? 当AIは日本のデータベースを所有しております』
「な――」
 脳内に響くa.n.g.e.l.の言葉に、鏡介が声を上げる。
「なら検索してくれ。『秋葉原』とは何なんだ」
 鏡介がそう問いかけると、a.n.g.e.l.はすぐに返答する。
『秋葉原は日本の東京都千代田区にある駅名およびその周辺の地名です。この地名を由来にした苗字の家系もあるようです』
 なんだと、と鏡介が唸った。
 a.n.g.e.l.の返答から推測するに、日本とはどこかの国名ではあるようだ。しかし、アカシアにそんな名前の国は存在しない。しかも、トーキョーやチヨダクと言われても全くピンとこない。
「トーキョー? どこだそこは」
 鏡介がさらに質問を追加する。その質問に、a.n.g.e.l.が即座に返答する。
『日本の首都機能が存在する都名及び都市名です。アカシアで言うところの桜花国武陽都です』
 ――アカシアで言うところの?
 まるでこの世界ではないというかのようなa.n.g.e.l.の返答。
 いや、この世界ではないというのか、ではない。明らかに、この世界ではない
 それなら、宇都宮という名称もその日本とやらの地名なのか。
「それなら宇都宮もそのトーキョーとやらにある地名なのか?」
 追加で確認する。鏡介の推測が正しければ、宇都宮も同じはずだ。
『宇都宮は栃木県の県庁所在地です』
 予測は少し外れたが、概ね鏡介の想定通りの回答が返ってきた。
 アカシアにはない国名、そして二つの地名。いや、千歳という名前にも心当たりはなかったがこうなってくると聞くまでもないだろう。
 以前、千歳について調べた時のことを鏡介は思い出した。
 桜花のデータベースにあった、名もなき孤児のデータに一致した千歳。
 恐らくは昴に拾われ、秋葉原 千歳という名前を与えられ、ずっと付き従っていたのだろう。
 そんな、アカシアこの世界には存在しない地名を名前として使っていた二人。
 少なくとも千歳は桜花の生まれだろうが、昴は恐らく。
「……宇都宮は、この世界の人間では、ない……」
 浮かび上がった確信めいた考えに、鏡介がもう一つ思い出す。
 自分たち「グリム・リーパー」の前身、「ラファエル・ウィンド」。
 ラファエルという名前もアカシアでは聞かない名前だったし、a.n.g.e.l.を自分のGNSに入れて間もないころに聞いたa.n.g.e.l.の開発者の一人に「ラファエル」という名前があった。
 つまり、ラファエルもこの世界の存在ではない。
 そう思った鏡介は思わずa.n.g.e.l.に確認していた。
「もう一つ訊くが、ラファエルもこの世界の存在ではない、ということか」
『はい。地球に存在する一神教に名を連ねる天使の名前です』
 ――つながった。
 昴はこの世界の人間ではない。a.n.g.e.l.の回答から推測するに、地球という世界からの来訪者。
 異世界の存在自体がにわかには信じられないが、存在しないと証明できない以上存在しうるものだろう。実際、昴はこの世界に存在しない知識を持っている。
「宇都宮……お前は、この世界の人間ではない……。地球から、来たというのか」
 鏡介が昴に視線を投げ、言う。
 ほう、と昴が面白そうに声を上げた。
「驚きました。どこで『地球』関係のデータなど見つけてきたのやら。ええそうですとも。私は地球人ですから」
 面白い。まさかこの世界に地球に関するデータが存在するのか、と昴が鏡介を見る。
 鏡介はと言うと苦い顔で昴にM4を突き付けている。
「どうやって来たのかはこの際どうでもいい。何のためにアカシアにいる?」
 娯楽小説のような、「車に轢かれたらこの世界に転生しました」というような単純な話ではないだろう。むしろ、そんなことがあってたまるか、とさえ思う。
 事実は小説よりも奇なり、何かしら事情があって昴はアカシアに来たはずだ。そうでなければLEBの量産など計画するとは思えない。
 その鏡介の考え通り、昴はにやりと笑って返答する。
「答える義理もありませんが、殺す前に教えておきましょうか。私は日本に復讐したいのですよ。そのための手駒が欲しくて『カタストロフ』に入った」
「『ラファエル・ウィンド』を抜けたのは『カタストロフ』に入るためか。いや――あの時から辰弥に目を付け、手駒となるLEBの量産を考えていた、ということか」
 辰弥が人間ではないことを初めから知っていたのだろう、と鏡介が確認する。
 ええ、と昴が頷いた。
「一目見て『人間ではない』と気付いていましたよ。だから、問いただしましたし『他の人間には言うな』と口止めしました」
「そう言ったのはいずれ辰弥を手駒にするため、『カタストロフ』に入ったのもLEBを量産するための設備を整えられるから、ということか」
 忌々し気に鏡介が呟く。
 昴の計画の悍ましさに反吐が出そうになる。
 はじめから、昴は辰弥を利用する気だったのだ、と。
 ちら、と鏡介が辰弥の様子を窺う。
 辰弥は一人ずつ確実に仕留めているようで、これならこちらに合流するのも遠くない。
 明らかに昴には不利な状況。しかし、昴はそれを悲観することもなく、相変わらず感情を読ませない顔で言葉を紡ぐ。
「しかし、LEBという人間そっくりの生物兵器がこの世界で開発されていたとは驚きですよ。それを量産すれば、私は確実にあの国に復讐できる」
 あの国、日本への復讐とは一体どういうことだろうか。
 しかし、そんなくだらない計画のために辰弥を利用することも、LEBを量産することも許してはいけない。復讐なら自分一人で果たせ、他人を巻き込むな、と鏡介が憤る。
「そのために辰弥を利用するのか?」
「私は目的のためならなんだって利用しますよ。そもそもエルステは永江博士がいなければ生き永らえることはできない。この際死体でもいいんですよ、サンプルとして持ち帰ります」
 相変わらずの昴の声。
 鏡介がM4を構え直し、銃口を昴の頭に向けた。
「そんなことはさせない! お前を殺して辰弥も日翔も救う!」
 そう言いながら、発砲。
 しかし、GNSと火器管制システムFCSの補正を受けた鏡介のその一撃を、昴は軽く首を傾けるだけで回避した。
「無理ですよ。そんな機械頼りの攻撃が私に当たるわけがない」
「く――っ!」
 薄ら笑いすら浮かべる昴の言葉に怒りが沸き起こる。
 しかし、それこそが昴の狙いなのだ、と鏡介は自分を抑えながら昴を睨みつけた。
「天辻にはもう薬も効かない。エルステはトランスを多用しすぎてもう生きていけない。だとすれば何の希望もないじゃないですか。それなのにどうして抗うのです? 二人が助かるたった一つの方法が永江博士を『カタストロフ』に引き渡すことなんですよ?」
「違う! 永江 晃を『カタストロフ』に引き渡さずとも、生体義体も調整槽も作れる! 辰弥はそれに賭けた、それなら俺も賭ける!」
 再び鏡介が発砲する。それも難なく躱し、昴は鏡介の後ろを指さした。
「それなら、そんなことしていていいんですかね。少なくともエルステはもう限界なのでは?」
「っ!」
 昴に言われ、鏡介が振り返る。
 鏡介の視界の先で、辰弥が膝を付くのが見えた。
 トランスを使用せず、生成のみで戦い続けたため、貧血を起こし始めている。
「辰弥!」
 思わず鏡介が辰弥に駆け寄ろうとする。
 しかし、
「来ないで!」
 辰弥の言葉に、その場に踏みとどまる。
「鏡介は、宇都宮を!」
 そう言う辰弥の周りにはまだ「カタストロフ」のメンバーがいる。
 少しずつ包囲の輪と狭めていく「カタストロフ」に、鏡介がどうする、と自問する。
 辰弥は貧血を起こしている。ノインはプレアデスにかかりきりになっている。今、昴を殺せるとすれば自分だけ。
 そう状況を判断し、鏡介は昴に向き直った。
 辰弥には無理をさせるが、自分であの場は切り抜けてもらう。
 再び銃口を昴に向け、鏡介はa.n.g.e.l.に宣言した。
「FCSとGNS補正をオフにしろ」
『しかし、黒騎士シュバルツ・リッター――いえ、Rainの腕では補正がないと着弾が難しいかと』
 a.n.g.e.l.が反論するが、それでも鏡介は宣言を撤回しない。
「いいからやれ!」
『承知しました。GNSとFCSのリンクを切断、GNSの手振れ補正をオフにします』
 a.n.g.e.l.の言葉と共に、鏡介の視界にそれぞれのリンクがオフになったアラートが表示される。
 その上で、鏡介は改めて銃を昴に向けた。
「何回やっても無駄ですよ」
 そう言う昴に構わず、鏡介がM4の引鉄を引く。
 頭は狙わない。全ての補正をオフにした状態で正確に頭を撃ち抜けるほど鏡介の射撃の腕は高くない。
 その腕の動きから、昴が最低限の身のこなしで銃弾を回避しようとする――が。
 まるでその回避を見越していたかのように、銃弾は昴の腕を掠めていった。
「な――」
 かすり傷とはいえ、まさか当たるとは思っていなかった昴が驚愕の声を上げる。
「どうして私の回避を読んで――」
「読めるわけないだろう」
 ナイフを抜き、鏡介が昴に突撃する。
 昴もナイフを抜き、鏡介が振り下ろしたナイフを受け止める。
「俺の射撃の腕舐めるな」
 義体の出力にものを言わせ、鏡介が昴を突き飛ばす。
「俺が補正なしに当てられるわけがないだろう。たまたまお前が逃げた先に弾が飛んだだけだ」
「は――?」
 鏡介の追撃をいなしながら昴が声を上げる。
「どうせこの手が使えるのは一度だけだ、だからネタバラシしたところで痛くもかゆくもない!」
 むしろこうやって接近するのが俺の狙いだった、と鏡介は手の内を明かした。
「くそっ――プレアデス!」
 昴が叫ぶ。
 その昴の視線の先で、プレアデスがノインの刃を振り払い、こちらに向かおうとする。
「――させるか!」
 それを、包囲されつつあった辰弥が吼えた。
 貧血でともすれば力が抜けそうになる全身に命令を飛ばす。
「切り裂け!」
 鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュに発動のための発声は不要だが、自分の意識を引き戻そうとするかのように辰弥が叫ぶ。
 直後、無数のピアノ線が、辰弥の包囲網を粉砕する。
「――っそ!」
 血液の消耗に頽れそうになる身体を、血の海となった地面に手を付くことで支え、辰弥はすぐそばに落ちた誰かの腕を拾った。
 その切断面に口を付け、腕に残された血液を啜る。
 全然足りないが、それでも全く補給しないよりはマシ、と辰弥が昴に向かって駆ける。
 プレアデスが今どの位置でどのような状態になっているかは分からない。
 だが、ノインならそれを感知できる。
 ノインもプレアデスを追い、昴に向かって突撃していた。
 辰弥の隣にノインが並ぶ。
「エルステ!」
 ノインが辰弥を呼ぶ。
 それを合図に、辰弥はノインの身体を掴んだ。
「いっけえええええええ!!!!
 全身の筋肉をばねに、全力でノインを昴に向かって投げる。
 辰弥に投げ飛ばされたノインが弾丸のような勢いで昴に――昴を援護しようとしたプレアデスに襲い掛かった。
「なんだと!?!?
 全く想定していなかった辰弥エルステとノインの連携攻撃。
 辰弥もすぐに追い付き、昴の前に立つ。
「鏡介は永江 晃を!」
 この時点で鏡介が昴を排除できていればよかったが、やはり荷が重かったかと思いつつ辰弥が鏡介に指示を出す。
「分かった!」
 鏡介が後退、ポータブルカバー裏の晃に駆け寄る。
 昴の前に立った辰弥が、早く休ませろと叫ぶ自分の肉体を叱咤しながら銃を向けた。
「撃てませんよ、君には」
「何を」
 辰弥と昴の間は数メートル程度しか離れていない。
 ここで辰弥が引鉄を引けば、確実に昴を仕留めることはできるだろう。
 それなのに、昴は「撃てない」と言う。
 何を考えている、と辰弥が昴の意図を考える。
「秋葉原を殺した君に、私が撃てるわけがない」
「――ッ!」
 秋葉原という名を聞いた瞬間、辰弥の手が震える。
 そうだ、俺は千歳を殺した。そんな思考が辰弥の脳裏を埋め尽くす。
「ああ、私はちゃんと秋葉原を荼毘に付しましたよ。メンバーが死んだら弔うくらいは私だってしますよ」
「何、を……」
 辰弥の声がかすれる。
 荼毘に付したというのなら、一体どこに遺骨を埋葬した。千歳の墓はどこにある。
 それを問いただそうにも、声が出ない。
 引鉄を引けば、確実に昴を葬ることができるのに、引鉄が引けない。
 昴がポケットから小さな金属製のカプセルが付いたチェーンを取り出し、カプセル部分をぶら下げるように持つ。
「これが何か分かりますか、鎖神」
「あ――」
 辰弥が声にならない声を上げる。冷汗が顎を伝い、地面に落ちる。
 それは、そのカプセルはまさか。
「察しのいい君なら分かっているんじゃありませんか?」
「それは、千歳の――」
 震える辰弥の声に、昴がええ、と頷く。
「君の大好きな秋葉原の遺骨と遺灰を詰めたカプセルです。喉から手が出るほど欲しいのでは?」
 昴の手の下でカプセルがゆらり、と揺れる。
「それを――」
 辰弥が銃を持っていない方の手を昴に伸ばす。
「それを、寄越せ」
「君がノイン捕獲に協力し、永江博士をこちらに引き渡してくれればあげますよ」
 そう言った昴の口元が弧を描く。
「どうです? 悪い取引じゃないでしょう?」
 知将は常に次善の策を用意する、まさにその通りだ。
 千歳の遺品となるものであれば、辰弥が欲しがるのは自明の理である。
 辰弥が再び「グリム・リーパー」を裏切るに値するものを、昴は用意した。
 辰弥の喉がごくりと鳴る。
 欲しい、と辰弥の心が叫ぶ。
 ノインと晃を引き渡せば何もかもが手に入る。
 日翔の生体義体も、調整槽も、何もかも。
「俺、は――」
 辰弥が一歩、足を踏み出す。
「辰弥!」
 背後で鏡介が叫ぶが、その声は辰弥の耳に届かない。
 ――欲しい。
「千歳を――」
 辰弥が左手を目いっぱい伸ばす。
 辰弥と昴の距離が少しずつ縮まる。
 昴が勝利を確信したような笑みを浮かべる。
「それを、寄越せ!」
「こちらに何のメリットもなく渡せるわけがないでしょう」
 平然と昴が答える。
「こちらの要求に応えれば穏便に渡す、と言っているのです」
「その取引ができるほどあんたに有利な状況じゃないと思うけど」
 プレアデスはノインと交戦中、こちらに戦力を割けるほどの余裕はないはず。
 それに対し、こちらも消耗は激しいものの、まだ動けないわけではない。
 それとも、昴はまだ何か隠し玉があるというのか。
 警戒しろ、と辰弥の本能が囁く。
 追い詰められているはずなのに、昴の口が弧を描く。
「何が可笑しい」
 この笑みはまずい。何か特大の刃を隠し持っている。
 本能が辰弥に訴えかける。何も聞かずに今すぐ殺せと。
 しかし、辰弥もまた昴の口から真意を問いただしたかった。
 なぜあの時千歳を助けてくれなかった、あの時すぐに対処すれば死なせずに済んだかもしれないのに、と。
 昴の口がゆっくりと動く。
「そんなにも、秋葉原の感触が忘れられないのですか」
「っ!」
 昴の言葉に辰弥が硬直する。
 銃を握る手が震え、狙いが定まらない。
「何、を」
 やっとのことで出せた言葉がそれだった。
 にやり、と昴が嗤う。
「確かに、死んでしまえばもう抱けませんからね」
 惜しいオモチャを失くしましたよ、と嗤う昴に、悪意すら感じる。
「捌け口として申し分なかったのに、君が殺してしまったから」
「あ――」
 全身から力が抜けるかのような錯覚を辰弥は覚えた。
 そうだ、千歳は俺が殺した、俺が、この手で、という考えに支配されかけ、激しく首を振る。
 だめだ、今はそんなことを考えてはいけない。
 惑わされるな、と自分に言い聞かせ、辰弥は銃を握り直した。
 震える右手を左手で押さえる。
「そう言うなら、あんたが助ければよかった!」
 やっとのことでそう言うが、それが何の意味もないことは辰弥が一番よく分かっている。
 辰弥が刺しさえしなければよかったのだ。千歳が昴を庇わなければよかった。
 何故、あの時千歳は昴を庇った。昴は辰弥より優先すべき人間だったのか。
 分かり切ったことを、と昴が嗤う。
「秋葉原は都合のいい駒でしたからね。君に情を持っている気はしましたが、結局は君より私を選んだ」
「それは――」
「君がもう少しうまく丸め込んでいたら、あの時死んでいたのは私だったかもしれませんのにね」
 千歳が自分より昴を選んだ、という事実を改めて突き付けられ、辰弥が言葉に詰まる。
 それは実体あるナイフより鋭く辰弥の心を抉った。
 「好きでしたよ」という最期の言葉がただ自分を釘付けにして動きを止めるためだけに言われた言葉だったのかもしれない、という考えが辰弥に浮かぶ。
 そうだ、本当に好きであるならば昴を庇ったりなんかしない。元々人を殺すために生きている自分にこれ以上罪を重ねるなと言うほど愚かなことはない。
 結局、千歳は辰弥より昴の方が大切だと思っていたのだと。
 どうして、どうして、どうして――。
「いいことを教えてあげましょうか」
 絶望に沈みかける辰弥に、昴が愉しそうに声をかける。
 聞いてはいけない、今すぐ殺せと本能が訴えかけるが、辰弥の指は引鉄を引けなかった。
 絶対に、辰弥にとっていい話ではないはずなのに、昴に期待を寄せてしまう。
 実は全て嘘だったのではないか、という自分に都合の良すぎる期待を。
 目の前の昴が勝利を確信した笑みを浮かべているのは分かっていた。
 それでも、救われたくて、赦されたくて辰弥は言葉の続きを待った。
「秋葉原は、君より私の方が気持ちいいと言っていましたよ」
「――ッ!」
 昴に縋る千歳の姿を空目する。
 千歳との甘い日々を思い出す。
 あれは、全て、嘘だったのか。
 千歳はただ昴の期待に応えるためだけに、自分と肌を重ねたのか。
「嘘だ――」
 視界が赤く染まるような錯覚。
 昴に対しての明確な殺意が沸き起こる。
 ――殺す。
 いや、先程から昴は殺すと決めていた。
 だが、それは昴を排除できるなら誰でもいいと思っていた。
 しかし、今は違う。
 宇都宮だけは俺が殺す、俺が殺さなければいけない、そう、はっきりと意識する。
 千歳が昴に忠誠を誓っていた、いや、それ以上の感情を持っていたというのなら、その感情を踏みにじった昴が許せない。
 たとえ法が許したとしても、俺だけは絶対に許さない、という思いが辰弥を支配する。
 今まで、誰に対しても感じなかった感情。どす黒い感情に心が呑まれ、黒く染まる。
「辰弥……?」
 後方で晃を守りながら様子を窺っていた鏡介が思わず声を上げる。
 辰弥の様子がおかしい。
 二人の会話は辰弥からGNS共有を受けているから分かっている。
 昴の言葉の一つ一つに醜悪さがあるのは鏡介も感じ取っていた。
 昴は分かっていて辰弥を煽っている。この言葉を使えば辰弥を傷つけることができると分かった上で挑発している。
 恐らくは、辰弥が怒りのあまりに自分を見失い、攻撃してくることを期待している。
 そこに昴の勝ち目があるとばかりに。
 いくらプレアデスがノインに釘付けにされているとはいえ、昴本人もプレアデスなしで何もできないほど無能な人間ではない。
 昴は人の心に土足で踏み込んでくる。踏み込んだ上でその心を踏みにじる。
 やめろ、と鏡介が声を上げる。
 これ以上辰弥を傷つけるな、と。
 それでも、昴は話すのをやめない。
 鏡介でさえも聞きたくなかった言葉が次々と並べられる。
 ――まずい。
 鏡介の、ハッカーとしての勘が囁く。
 辰弥の心がこの言葉の数々に耐えられるはずがない。
 落ち着け、と鏡介がGNSを介して叫ぶ。
 宇都宮の言葉に耳を貸すな、と。
 その言葉は、辰弥には届かなかった。
「……千歳を、汚すなんて……」
 辰弥の唇が震える。
「汚す? 元から秋葉原は汚れていましたよ。初めて行為に及んだ時、秋葉原が処女だと思っていたのですか?」
 うるさい、と辰弥が叫んだ。
「あんたには――あんたにだけは、汚されたくなかった!」
 同時に、地を蹴って昴に迫る。
 その手にナイフが生成され、昴の首を狙う。
 それを易々と手にした銃で受け止め、昴が嗤う。
「秋葉原は四肢を外した状態でことに及ぶのが好きだったのは知らないでしょう?」
 銃で辰弥のナイフを弾き、昴が一歩後ろに跳ぶ。
 それに追いすがるように辰弥が再び地を蹴る。
「黙れ! そうすれば抵抗されないから、あんたが勝手に外したんだろ!」
「いいや、彼女は自分の意志で、自分の手で外していましたが?」
 昴の言葉の一つ一つが醜悪で、辰弥の中で「殺す」という感情が膨れ上がっていく。
「宇都宮ァ!」
 突き出されたナイフを、昴は素早く叩き落した。
「まだまだ!」
 辰弥が追加でナイフを生成する。
 しかし、そのナイフが届くよりも早く、昴の拳が辰弥の鳩尾に叩き込まれた。
「がはっ!」
 膝を折り、崩れ落ちる辰弥。
 その頭に昴が銃を突き付ける。
「怒りに我を忘れては、殺せるものも殺せませんよ」
 見え見えの挑発に乗るとは、君はやっぱりガキですね、と昴が勝ち誇った笑みを浮かべる。
 そして、銃口を辰弥の頭から外し、腕に向けて発砲する。
「辰弥!」
 ポータブルカバーの裏から鏡介が叫ぶ。
 左腕を撃ち抜かれた辰弥がくぐもった声を上げ、即座にトランスを利用して傷を塞ぐ。
「その程度のトランスならまだできる、ということですか。ならば――」
 昴がノインと斬り合うプレアデスを見る。
「プレアデス!」
 昴がそう声を掛けると、プレアデスはノインを突き飛ばし、辰弥へとターゲットを変えた。
「させるか!」
 鏡介が昴に向けて発砲するが、それは不可視の刃に阻まれる。
「しつこい!」
 ノインが、鏡介の弾を弾いたプレアデスに斬りかかるが、プレアデスの動きは迅かった。
 今までのノインとの戦闘から動きのパターンを学習していたかのように振り下ろされる刃を弾き、ノインの腕を切断する。
 赤い血を撒き散らしながら、切断された腕が宙を舞い、地面に落ちる。
「ノイン!」
 ポータブルカバーの裏から様子を窺っていた晃が叫ぶ。
「――っ!」
 咄嗟に後ろに跳ぶノイン。
 即座に腕を再生しようとするが、プレアデスとの戦闘で大小さまざまな傷を負い、出血していたことや、それ以前からの逃亡で血液が不足していたことも相まって貧血を起こし、膝をつく。
 その隙に、プレアデスは辰弥に襲い掛かった。
 少なくとも、ノインの感覚ではそう認識した。
「エルステ!」
 ノインが叫ぶ。
 辰弥では無理だ。プレアデスは感知できない。
 ノインの鋭い感覚が、プレアデスが辰弥を攻撃したと認識する。
 辰弥は運に任せて後方に飛び下がる。しかし、辰弥に襲いかかった攻撃は、辰弥が想定した斬撃ではなかった。
 いくつかの青白い炎の玉が辰弥に襲い掛かる。
 流石に視認できる攻撃は回避できないこともないが、目の前で唐突に現れた青白い炎の玉のいくつかは辰弥に直撃する。
「く――!」
 全身への延焼を防ぐため、咄嗟に炎が着弾した部分をトランスで不燃素材に変質させ、体から引き剥がす。傷の修復よりもトランスの規模が大きく、確実にテロメアに影響が出るだろうが何もしなければ火だるまになるだけだ。同じ死への道であったとしても、少しでも昴に一矢報いる可能性があるのなら何度だってトランスする、と辰弥は歯を食いしばった。
 プレアデスは不可視の刃以外に攻撃方法があるのか、それならもう攻撃の予測すら行うことができない、と、辰弥のダメージを見た鏡介が唸る。
 ――ここまでか。
 ノインも辰弥ももう限界で、次の一手を出すことができない。
 対する昴はプレアデス共に健在、その気になれば捕獲も殺害も意のままだろう。
「やれ」
 昴の声が死刑宣告に聞こえる。
 動けない辰弥に次の一撃が迫る。
 だが、
「させません!」
 路地の奥から何かが飛び出し、手にした刃でプレアデスの刃を受け止めた。
「――っ!?!?
 自分の横をすり抜け、背後で不可視の刃を受け止めた何かを視認しようと辰弥が振り返る。
 不可視の刃を受け止めていたのは長い黒髪の少女だった。
 手にした刃は桜花刀か? 独特の曲線を持つ刀身はかすかな光を受けて鋭く輝き、辰弥に向けられた不可視の刃を受け止めている。
 いや、それよりも、この少女は――。
「プレアデスが視えてる?」
 辰弥が思わず声を上げたその刹那にも少女は刀を操り、プレアデスの刃を弾き、それどころか銃弾ですら刀で弾いて踏み込み、斬りかかる。
 それはまぐれでも何でもない。明らかに、視えている動きだった。
 少女の刀捌きは正確で、プレアデスはじりじりと後退を強いられている。
 思わぬ加勢に、辰弥が振り返って昴を見た。
「あんたは確かに二手三手先を読むけど――流石にこれは想定外のようだね」
 少女が何者かは辰弥には知る由もない。だが、少なくとも今は敵ではない。
 昴は明らかに動揺していた。
「私は日本国宮内庁霊害対策課の認可を受けた討魔師、如月きさらぎ アンジェ! 五月女さおとめ スバル、神妙にお縄につきなさい!」
 馬鹿な、という呟きが昴の口から洩れる。
「馬鹿な――討魔師がアカシアまで追いかけてくるだと!?!?
 トウマシ? と聞きなれない言葉に辰弥が首をかしげる。
 先ほど、鏡介と昴が交わしていた言葉はGNSによる音声共有で把握している。
 それで昴がこの世界の人間ではないということは理解していたし、宇都宮という苗字も、秋葉原 千歳という名前も昴が元いた世界の地名であることも知った。
 そして、アンジェを名乗った少女もまた、日本国、と言った。つまり、彼女もまた、昴と同じ世界からやってきたということだ。
 いずれにせよ、アンジェはプレアデスが視えている。それまで唯一知覚できたノインが大ダメージを負った今、アンジェの加勢はありがたい。
 一人離れているわけにはいかない、と辰弥が重い体を引きずり後方に下がる。
 とにかく、受けた傷を修復して戦線に戻らないと、と思うが、今受けた傷を修復するにはトランスの反動が怖い。少しくらいならまだテロメアに大きな影響を与えることはないが、ここまで傷を負ってはノーリスクで修復することは無理だろう。また、出血や生成による血の消費も激しく、かなり重度の貧血が辰弥を襲っていた。
 ――だが、今のままでは一手足りない。
 昴がアサルトライフルMX8を構え、アンジェに発砲する。
 アンジェの武器は近接武器。アサルトライフルの掃射には弱いのか、回避を強いられる。
 このままでは遠からず、アンジェは昴が放った弾丸の前に倒れる事になるだろう。
 だからこそ、今ここで昴を仕留めなければいけない。
 鏡介は駄目だ。ここぞという時に引鉄が引けないか、GNSの補正を計算しつくした動きで回避される。GNSの補正をオフにすればそもそも当てることすらできない。
 力が欲しいと辰弥は呟いた。
 LEBとして、人間にはない力を持っているのに、今それを役立てることができない。
 もっと力が欲しい、と強く望む。
 プレアデスを退け、昴を確実に殺せる力を。
 昴が殺せるなら自分が自分でなくなってもいい、そこで力尽きてもいい。
 今はただ、昴を殺したい。
 LEBの量産計画も「カタストロフ」も今はどうでもいい。ただ、昴だけをこの手で殺したい。
 動け、と辰弥が自分の身体を叱咤する。
 昴を殺せるのは今しかない、だから動け、さもなくば誰か俺に力を寄越せ、と。
「――エルステ、」
 無意識のうちに昴に伸ばそうとしていた辰弥の手に、小さな手が触れた。
 辰弥が思わず昴から視線を外し、その手を見、そしてその手の持ち主を見る。
「……ノイン」
 何、俺を止めるつもり? と辰弥がノインを睨む。
「止めないでよ。俺は、あいつを殺さなきゃいけない」
「分かってる」
 ノインが頷く。
「でも、ノインもエルステも、もう動けない」
「分かってる」
 今度は辰弥が頷く。
「もし、動けたらエルステはあいつとぷれあです、殺せる?」
 ノインの問いかけに、辰弥はうん、と頷いた。
「力があれば、俺は絶対にあいつを殺す」
 辰弥の決意に満ちた声に、ノインが再び頷く。
「それなら――一つになろ」
 ――エルステが力を望むなら。
 ノインの言葉に、一瞬呆気にとられた辰弥だったが、すぐに言葉の意味を理解する。
 LEB同種であるなら。
 第一世代と第二世代という隔たりはあれども、第二世代と同じトランス能力を持っている辰弥なら。
 分かった、と辰弥が目を閉じる。
 ノインの手の温もりに全てを委ねる。
 どろり、と自分の身体が溶けていくような感覚。そこに溶け込み、混ざるノインの熱に昂ぶりすら覚える。
 あの時、千歳と感じた一体感に似た熱に、辰弥は自分の意識が白く灼けるような錯覚を覚えた。
 ――千歳、
 意識が途切れる直前に脳裏をよぎったのは千歳の笑顔。
 ――君は俺をどう思っていたか分からないけど、少なくとも俺は、君が好きだった――。
 心地よい闇が全身を包み込む。
 そこで辰弥の意識がぷつりと途絶えた。

 

 ほとんど動くこともできなかった辰弥にノインが近寄ったことで、鏡介はこれはまずい、と呟いた。
 ノインは辰弥を捕食する気だ。辰弥が動けない今、ノインにとっては最大のチャンスである。
 させるか、と鏡介がノインに銃を向ける。
 自分が撃ったところでノインには再生能力がある、頭を撃ち抜けば殺せるかもしれないが、鏡介は自分が肝心なところで決められないことを理解している。
 それでも、鏡介はGNS補正とFCSのリンクを再度接続し、ノインの頭に狙いを定めた。
「やめろ!」
 ノインに銃を向けたことで、晃が鏡介の腕を掴み、ノインから銃口を外す。
「放せ!」
「ノインは殺さないでくれ! 私の最高傑作なんだ!」
 ノインは殺すなと懇願する晃。
「そのノインにこっちはどれだけ迷惑被ったと思ってるんだ!」
 義体の出力であれば晃の手を振りほどくことは容易い。
 晃の手を振りほどき、鏡介は再びノインに銃を向ける。
 しかし、
「……辰弥?」
 呆然と、鏡介が声を上げる。
 目の前の光景に言葉が出ない。
「……ノイン……?」
 鏡介と同じく、ノインを見た晃も声を上げる。
 何が起こっているんだ、と鏡介が晃に視線を投げる。
「分からない、何が起こっているんだ……?」
 晃にも理解できないことが起こっている。
 辰弥とノインが溶け、混ざりあっている。
 まるで二色の粘土を捏ねて混ぜるかのように、二人は人の形を失い、混ざりあっていた。
「……融合……しているのか……?」
 何が起こっているのか分からない、と言いつつも晃は晃なりに分析したいのだろう。
「融合、って……」
 人間ならあり得ない現象。だが、あの二人は人間ではない。そういうことも可能なのだろう。
 まるで芋虫が羽化のために変態するかのように混ざりあった二人が繭を形作る。
「……何が起こっているのです……?」
 アンジェとプレアデスの戦いを見て、状況に応じて指示を出していた昴も二人の様子に気付き、声を上げる。
 全く想定していなかった出来事に、思考が追い付かない。
 所沢博士から受け取ったLEBの研究資料にこんな物はなかった。いや、奥で鏡介と並んでいる晃の様子を見る限り、第二世代LEBの知識を以てしてもこの状況についていけていないのだと判断する。
 まずい、これは危険だ、と昴の本能が警鐘を鳴らす。
「プレアデス!」
 昴がプレアデスを呼び、アンジェに向かって発砲する。
 その銃弾を回避するためにアンジェがプレアデスから離れる。
「あの繭を破壊しなさい! 今すぐに!」
 LEBの回収なんて生ぬるいことは言っていられない。二人のLEBが作り出したこの繭は危険なものだ、破壊しなければ状況は一気に悪化する。
 プレアデスが繭に向かって突進する。
「させません!」
 アンジェがプレアデスの進行方向――繭の手前に向けて刀を投げる。
刀に転移せよテレポート・マイ・ソード!」
 その瞬間、アンジェの姿がその場から掻き消え、次の瞬間に投げた刀を握り締めた状態でプレアデスの攻撃を受け止めていた。
「五月女 スバル! 無駄な抵抗はやめなさい!」
 プレアデスの剣を受けながらアンジェが叫ぶ。
 だが、昴がそれに従うはずもなく、プレアデスに指示を出す。
「そのまま繭ごと叩き斬ってしまいなさい! 誰であろうと、生かしてはおけない!」
 昴の指示に従い、プレアデスが力を籠め、押し切られたアンジェが堪らず横へ跳んだ。
 その勢いのまま、プレアデスが繭に剣を振り下ろす。
 猛烈な勢いで振り下ろされた剣が地面を砕く。
 立ち込める土煙に、プレアデスの視界が塞がれ、そしてそれを見守る人間たちの状況把握を困難にさせる。
「……ノイン……?」
「……辰弥……?」
 晃と鏡介が同時に、それぞれが大切に思う存在の名前を口にする。
「――好き勝手やってくれて」
 低い声が辺りに響いた。
 聞き覚えのあるようで、だが聞いたことのないその声に、その場の誰もがその声が響いた方向を見る。
 ビル風に土煙が晴れていく。
 そこに、一人のが立っていた。
 すらりとした長身、ところどころ白い房が混ざった黒髪は腰まである長髪。
 伏せ気味だった顔が上げられその双眸が鋭く昴を見据える。
 昴を見据える瞳は右目が黄金きん、左目が深紅のオッドアイ。
「お前は――」
 昴が呆然としたように口を開く。
 まさか。これは、こいつは――。
「宇都宮 昴――いや、五月女 昴が本名か。あんたは――俺が、殺す」
 突如現れた長身の男は、昴にそう、宣言した。

 

to be continued……

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おまけ
ばにしんぐ☆ぽいんと り:ばーす 第11
「ろけぱん☆り:ばーす」

 

突如現れた謎の男

 


 

この作品を読んだみなさんにお勧めの作品

 AWsの世界の物語は全て様々な分岐によって分かれた別世界か、全く同じ世界、つまり薄く繋がっています。
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 ここではこの作品を読んだあなたにお勧めの作品を紹介しておきます。
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  Vanishing Point
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 『Vanishing Point Re: Birth』から読み始めた方は是非ともこちらもお読みください。
 「グリム・リーパー」が白い少女を拾い、事件に巻き込まれていくサイバーパンク・サスペンスです。

 

  虹の境界線を越えて
 本作と同じく惑星「アカシア」を舞台とする作品です。
地球からアカシアに迷い込んだ特殊な能力を持つ女性の物語です。

 

  No name lie -名前のない亡霊-
 本作と同じく惑星「アカシア」を舞台とする作品です。
反御神楽のテロの生き残りの少年と幼馴染の少女。この二人が紡ぎ出す物語とは。

 

 そして、これ以外にもこの作品と繋がりを持つ作品はあります。
 是非あなたの手で、AWsの世界を旅してみてください。

 


 

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