光舞う地の聖夜に駆けて 第4章
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逃亡犯イーライを追っていたタイロンはフェアバンクスでイーライの配下らしき男たちに襲撃され、撃退したもののさらに現れた
情報収集のため、とある廃墟に訪れたタイロン。そこで怪しげな二人組と遭遇、交戦状態となる。
二人を無力化し、話を聞いたところ二人はテロを察知し、それを阻止するために動いているという。
そして、タイロンは自身が追っていたイーライこそがそのテロの首謀者であるということを知る。
より脅威度が高そうだった男――匠海の要望により、テロの阻止に手を貸すことにしたタイロン。
匠海とピーターは協力してオーグギアのキャリブレーションデータを保管しているサーバに侵入、イーライと、その所在地を突き止める。
イーライの居場所を突き止め、現地へと向かう三人。
そこで三人はテロリストのものと思しき車の集団に襲われる。
『いっくよー! 舌噛まないでね!』
次の瞬間、エンジンが唸りを上げ、車が急加速する。
飛来する無数の銃弾を車が走行不能にならない程度のダメージになるように蛇行して回避、目的地に向かって突き進む。
その蛇行もAI運転特有の規則的なものではなく、まるで人間が運転しているかのような臨機応変なもので、中の三人が激しく揺さぶられる。
『ヒャッハー!』
「ちょ、ようせ、ノリが、やば……!」
シートにしがみつきながら匠海が声を上げる。
『何言ってんの、最低限の被害かつ最速で向かってるじゃない!』
確かに、被害は最低限かもしれない。だが運転があまりにも荒すぎる。
そういえば和美もハンドルを握ると性格変わったような……などと思いつつ、匠海は「すまん、二人とも」と心の中でピーターとタイロンに謝った。
ピーターはというと妖精の運転に若干目を回しつつもミシェルの制御とは全く違う、と実感していた。
匠海が並みの
そんな魔術師がサポートAIを手に入れると、ここまでカスタマイズできるのか、というよりもサポートAI自体に手を加えてより人間に近くしているのか、などと思ってしまう。
噂で聞く
よくは分からないが、開発者ならそれくらい朝飯前にできそうなイメージがある。
実際のところ、匠海が使っている独自ツールの数々は一般的な魔術師のツール合成とは違い、開発者が行うような
とにかく、天才魔術師というものはここまでできるものなのか、オレもミシェルを改造してみようかな、できるかなとピーターはふと思った。
雪煙を上げながらタイロンの車が爆走、それを追いかけ数台の車がアクセルを全開にする。
「どうすんだよ、このままじゃジリ貧だぞ!」
カーチェイスに少し慣れてきたのか、ピーターが時々応戦しながら叫ぶ。
「妙だな、マシンガン以外を使ってくる気配がない。助手席からも応射があってもおかしくないはずだが……」
その言葉を聞き、閃いた匠海がオーグギアを操作して周囲を飛ぶ電波を拾い始める。
「やっぱりか、電波でローカルネットワークが形成されてる。量子ネットワークに接続してないはずだ……」
そう言いながら、匠海は電波で形成されたローカルネットワークにPINGを飛ばす。
「チッ、遠隔操作だ! あの車、誰も乗ってないぞ。くそ、複雑に暗号化されてる、時間をかければ
「いや、充分だ。誰も乗っていない……。つまり、あのテクニカルを壊しても誰にも被害はないわけだな」
助手席の窓から身を乗り出して応戦していたタイロンがニヤリと笑って、シートに戻りリロードを行う。
それから、シートの間を強引に乗り越え、ピーターの隣に移動した。
「おっさん?」
タイロンの行動にピーターが首を傾げる。
それには構わず、タイロンは左手の銃をホルスターに戻した。
右手の銃を両手で構え、モードチェンジする。
「モードチェンジ。
「れっ……!」
レールガン!?!? とピーターが声を上げる。レールガンはその危険性から一般に流通しておらず、当然、レールガンモードを持つヴァリアブルハンドガンなど、ピーターは聞いたことがない。
タイロンの音声認識でモードチェンジした銃の
タイロンがその銃口を先頭の車に向ける。
「二人とも、耳を塞げ」
「え? あ、ああ」
「ええい、分かったよ、おっさん!」
咄嗟に匠海とピーターが耳を塞ぎ、直後、
『ちょ、タクミ、オーグギアもミュート……うにゃあああああああああああ!!!!』
妖精の絶叫がその音をかき消すかと思ったが聴覚情報にのみ反映される妖精の声は耳をふさいだ手を通り抜け鼓膜を震わせる轟音をかき消すことができない。
弾丸の運動エネルギーがダイレクトにエンジンに伝わり、相殺しきれなかった分のエネルギーが車を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた車が空中で一回転し、後続の車両に落下する。
そのタイミングでエンジンが爆発、その爆発に巻き込まれて落下してきた車の直撃を受けた車も爆発、それに巻き込まれて他の車も次々に横転、爆発していく。
「「……」」
ほんの数秒の出来事のはずだが、
まさかこんな隠し球があったとは。
これは、タイロンが発射台を撃ち抜けば終わるんじゃないか、などと思いつつ匠海はこれで安心と銃を火薬実弾モードに切り替えるタイロンを見た。
「で、タクミ、本当に無人だったんだろうな」
いくら正当防衛とはいえこの状況で人がいた場合生きてはいまい。
「多分な。少なくとも、オーグギアの反応はなかった」
戻ってきたタイロンに運転席を譲り、匠海は妖精に声をかけた。
「もういいぞ。運転を戻せ」
『えー、今一番いいとこなのに! どうせ疲れてるでしょ、到着まで任せてよ!』
ノリノリでアクセルを全開にする妖精に拒絶された。
「え、こいつ
妖精の返答にピーターが目を丸くする。
「……すまん、こいつはこんな奴だ……」
再びヒャッハー! と叫びだす妖精に、匠海は「もう妖精に運転を任せるのはやめよう」と固く心に誓うのだった。
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