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光舞う地の聖夜に駆けて 第4章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

 逃亡犯イーライを追っていたタイロンはフェアバンクスでイーライの配下らしき男たちに襲撃され、撃退したもののさらに現れた連邦フィディラーツィアの生体兵器、ニェジットに襲われたことで彼と連邦フィディラーツィアのつながりを確信していた。
 情報収集のため、とある廃墟に訪れたタイロン。そこで怪しげな二人組と遭遇、交戦状態となる。
 二人を無力化し、話を聞いたところ二人はテロを察知し、それを阻止するために動いているという。
 そして、タイロンは自身が追っていたイーライこそがそのテロの首謀者であるということを知る。
 より脅威度が高そうだった男――匠海の要望により、テロの阻止に手を貸すことにしたタイロン。
 匠海とピーターは協力してオーグギアのキャリブレーションデータを保管しているサーバに侵入、イーライと、その所在地を突き止める。

 

イーライの居場所を突き止め、現地へと向かう三人。
そこで三人はテロリストのものと思しき車の集団に襲われる。

 

タイロンが持つ、ヴァリアブルハンドガンのレールガンモードで三人は車の集団を一掃する。

 

現地に到着し、匠海がオーグギアの短波通信を利用し、索敵を行う。

 

テロの阻止のため、テロリストの無力化を開始する三人。
匠海とピーターは現地の人間のオーグギアのハッキングを開始する。

 

 
 

 

 これくらい間に合わせる、イルミンスールで「アーサー」と呼ばれている自分がこんなことをクリアできなくては、仲間に合わせる顔がない。
 必ず、間に合わせる、集中力を途切れさせることなく、ピーターの指の動きが早まる。
 流石にほぼ同じ防壁を何人も突破していれば一人当たりの時間は短縮されていく。
 一人、また一人。
 残り九十秒を残して、最後の一人になる。
 それに対し、匠海は「間に合うか?」とは聞いてこなかった。
 それどころか、「余裕をもっておきたい」とピーターを手伝うこともなかった。
 それが匠海からの信頼の証なのだと、ピーターは痛感した。
 「お前ならできる」という無言の信頼。
 その信頼に応える、と、ピーターが指を走らせる。
 魔術師によって強化された防壁のわずかな隙間を潜り、ピーターのツールが電子の迷路を駆け抜ける。
 残り四十秒、最後のターゲットのオーグギアのコアに、ピーターが取り付いた。
「アーサー、捕まえた!」
「よくやった!」
 匠海が宙に指を走らせ、全体のハッキング状態を確認する。
「SPAMスタンバイしろ!」
 二人が既にいつでも送信可能状態となっているSPAMを確認する。
 指定したタイマーが〇に近づく。
 ピーターが余裕を持ってスタンバイしたことが、匠海は嬉しかった。
 ――さすが、俺に一泡吹かせた奴だ。
 これほどのレベルの魔術師がいるのだ、イルミンスールも安泰だろう。
 そんなことを考えているうちに、タイマーのカウントが一桁になり、そして〇を刻む。
 その瞬間、現場にいるテロリストに向けてSPAMが解き放たれた。
 二人が展開した枝を駆け巡り、強烈な攻撃信号がテロリストのオーグギアに届けられる。
 悲鳴を上げたテロリスト達がバタバタと倒れていく。
 テントの隙間からそれを見届けたタイロンが飛び出し、銃のモードを火薬実弾ガンパウダーに切り替える。
 まず、目についたニェジットの頭を撃ち抜く。
 チラ、とタイロンが振り返ると、匠海とピーターがテロリストから回線を切断して銃を構える。
「おっさん、行け!」
 三人の姿を認め、こちらに向かってくるニェジットにスマートガンを向け、ピーターが叫ぶ。
 匠海もニェジットに向けスマートガンを撃ちながらタイロンに向かって頷く。
 分かった、とタイロンが地を蹴った。
 そんなに広い現場ではなく、テントなどの配置を考えるとイーライの居場所は大体予想がつく。
「イーライ!」
 四台並んだTELARに銃を向け、タイロンが叫ぶ。
 その影からゆらり、と姿を現したのは紛れもなくイーライ・ティンバーレイクだった。
 一見、善良な市民に見えるがその内にとてつもない悪意の炎を秘めた悪魔のような男。
 まるで近所の子供を諭すかのような顔で、イーライはタイロンを見ていた。
「おたくさんの仲間はもういない、抵抗するな」
 真っ直ぐイーライに銃を向け、タイロンが警告する。
 だが、銃を向けられているにもかかわらずイーライは怯えるそぶりも見せず、佇んでいる。
「タイロン。やはり君か」
 ふん、とイーライが鼻で笑う。
「君が来ることは分かっていたよ。一度は俺を逮捕した男だもんなあ、そりゃ君を送り込むことくらい予想できるよ」
「だったら大人しくお縄に付け」
 銃を向けたまま、タイロン。
 それでも、イーライは怯まない。
「撃てよ、臆病者。俺を殺してみろ」
「くっ……」
 タイロンが呻く。
 撃てない。撃ってはいけない。
 バウンティハンターは逃亡者の殺害を固く禁じられている。その禁を破れば資格はく奪、そしてこちらが逮捕されてしまう。
 だが。
 一瞬は躊躇したものの、タイロンは容赦なく引鉄を引いた。
 銃弾が、イーライを襲う。
 しかしそれはイーライの横を通り過ぎ、TELARに当たる。
「……」
 タイロンが眉を顰める。
 今、確かにタイロンはイーライの腕を狙った。
 腕や脚など命にかかわらない場所を撃ち抜けば無力化できる。
 イーライの捕縛条件に手足の有無は明言されていない。
 だから、言われた通り撃った。
 銃の腕には自信がある。
 それなのに、外れるとは。
 イーライが両手を広げる。
「相変わらず単調なんだよ、君は。君がどこを狙うかくらいすぐに分かる」
「何を!」
 再びタイロンが発砲、だがそれも簡単に躱される。
「そんな悠長なことをしていていいのか?」
 ちら、とイーライが視線を横に投げる。
 つられてタイロンもその方向に視線を投げると匠海とピーターが群がるニェジットと交戦している様子が見て取れた。
 二人とも、かなり疲労している上に身体の数カ所から血が滲んでいる。
「タクミ! ピーター!」
 思わずタイロンが叫ぶ。
 ――巻き込んでしまった。
 あの時、場所だけ聞いて自分一人がここに向かっていれば。
 匠海が、ちら、とタイロンに視線を投げる。
「こっちはいい、お前はイーライを止めろ!」
 そう言いながら、匠海はさらに発砲、ニェジットの頭を吹き飛ばす。
「イーライ!」
 イーライの方に向き直り、タイロンが怒鳴る。
「どうしてこんなことをする! 世界樹が崩壊すれば、世界は!」
「だからなのだよ!」
 まるで舞台上の俳優のように、イーライが声を上げる。
「この世界は一度リセットするべきなんだ、GLFNグリフィンは巨大になりすぎた、だから壊すのだよ!」
「ふざけるな! お前のその欲望だけで世界中の人間を苦しめるのか!」
 タイロンがそう怒鳴りながら、発砲。
 だがそれも、特に感情に流された一撃も難なく躱される。
「無駄だタイロン! 君は、君たちはこの世界がリセットされるのを見届けるんだ!」
 そう、高らかに叫びながら、イーライが指を鳴らす。
 その瞬間、TELARの側にあったテントの一つが爆発、いや、破裂した。
 その中から大型の戦闘車両程もある巨大なヤドカリ――ヤドカリのような姿をしたニェジットが姿を現す。
「「「はぁ!?!?」」」
 イーライを除く三人が思わず声を上げる。
 ヤドカリのヤドに付いていたハッチらしきものが開き、そこからぞろぞろと通常タイプのニェジットが湧き出てくる。
「あいつ、生産、輸送タイプか!?!?
 どうしてそんなものまで!?!? とタイロンがイーライを見る。
 イーライと連邦フィディラーツィアのつながりはそんなにも強いものだというのか。だが同時に納得もできた。この基地にいるニェジットの数は二人の人間がスマートガンを駆使しても捌ききれないほど多い。これほどの数を連邦フィディラーツィアが秘密裏に密輸出来るほど、合衆国ステイツの監視は甘くない。だが密輸したのがこのヤドカリニェジットだけで、後はこのニェジットが生産したものだとしたら、全て説明がつく。
 湧き出たニェジットは匠海とピーターに向かって歩みを進めていく。
「さあどうする。こいつを倒さなければあの二人は助からないだろう」
 そう言いながらイーライはTELARの隣に据えられたテント、その中に集約させた機材に歩み寄る。
「発射は十六時の予定だったが君たちの乱入があったからね、前倒しさせてもらう」
「やめろ!」
「だったら殺せよ、臆病者!」
 イーライがタイロンを挑発する。
 もう一発、撃とうとして踏みとどまる。
 イーライはタイロンが罪を犯すことを望んでいる。
 自分が殺されることでタイロンに復讐しようとしている。
 咄嗟に、タイロンは音声認識ではなく銃の切り替えスイッチでモードを非殺傷に切り替えた。
 キャパシタに電流がチャージされ、発砲。
 だが、レーザーがイーライに届く前に躱され、不発。
 足止めしたい。
 だが、それにはイーライにSPAMを送り付けるのが確実だろう。
 タイロンが匠海とピーターを見る。
 二人はニェジットに包囲されつつあった。

 

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